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 …………なんだけど、何か三人とも顔が怖いんだよね。

 ミルくんは明らかに不貞腐れているし、イグニスさんは食べる速度が遅くなって不機嫌そう。隊長も眉間にしわを寄せたままだ。

 おかげで沈黙が続いて気まずい。
 おかしいな。こんなはずじゃなかったんだけど。

 みんなでワイワイ騒ぎながら『一年間お疲れー!』って乾杯でもして、思い出話に花を咲かせて残りの十日は楽しく過ごそうねーって言い合って終わるつもりだったのに、どうやら和やかな雰囲気すらならない。ギスギスしている。

「あのさー、カレンちゃん。俺、ずっとカレンちゃんはあの家にいてくれるもんだと思ってたよ」

 下唇を出して俯いているミルくんが沈黙を破った。
 私がいなくなる事を惜しむ言葉を言ってくれる彼に申し訳なさを感じながらも、すかさずフォローを入れる。

「ごめんね、ミルくん。私もあの家が好きだったけど、やっぱり夢は諦めきれないから……」
「だったら王都で開いてもいいだろ、定食屋。そうしたらお前もこのままあの家にいられる」

 今度は隊長が引き留めようとしてくれている。
 これもちょっと驚きだ。
 この人こそ、笑って『しょうがねぇな。頑張れよ』って送り出してくれる人だと思っていたから。

「ここは場所代が高いですから、今の貯金ではさすがに無理ですね。それに定食屋をしながら屋敷で家政婦は無理ですよ。どちらかが疎かになって回らなくなっちゃいますし」
「それはちゃんと俺らもやるよ。ここに残ってくれたらカレンに任せっきりにはしない。自分の事は自分でする」

 あぁ……隊長。そういう事はぜひとももっと前に言ってほしかったですけど、でもその気持ちだけで今は嬉しい。そこまでして私を必要としてくれていることだから。今までがむしゃらにやって来ただけあったなって思えるし。

「ありがとうございます、隊長。でももう決めたことですから」

 私が強い意志を持って言うと、隊長は押し黙ってしまった。
 そして、三人は何かを示し合わせるように視線を合わせている。何かしらの意思疎通をしているんだろうけれど、私にはそれが何なのかは分からない。
 けれども三人の中で何かが決定したのだろう。隊長が大きく頷くと、三人は視線を合わせ合うのを止めてまた食事をし始めた。

「まぁ、とりあえずこの話はまた後で。な? 今は酒と食事を楽しもうぜ」

 怪訝に思いながら三人を見ていた私に、隊長は気を取り直すように言って食事を促す。

 その歯をむき出しにして笑う顔を見ながらも、私はゆっくり頷いてグラスにあったビールを一気に飲み干した。
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