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序章

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 この世に無上の幸福というものがあるのなら、はたしてそれは目に見えるものなのだろうか。
 これ以上の幸せはないと人々はいつどうやって判断するのか。
 上を見ればキリがなく、堕ちようと思えばとことん堕ちるのが人間というものだ。

 それでもメレディス・クラントリアは恵まれていると自負している。
 過ぎた幸せをこの身に受けているのだと常日頃から感じ、そして感謝していた。

 慈しんで育ててくれた母に。
 厳しくも優しい手で抱き締めてくれる父に。
 そして、この良縁に。

 オーランド・ギャスゲーティアとこうやって顔を突き合わせて会い、言葉を交わして微笑み合うことのできる人生に、何とも言えないほどの多幸感を持たずにはいられなかった。

 オーランドはギャスゲーティア伯爵の次男で、同じ伯爵家の令嬢であるメレディスの婚約者候補だ。
 両家の父は旧知の仲で、その昔互いの子供を結婚させようと約束を固く交わし合った。運よくクラントリア家には女児のメレディスが、ギャスゲーティア家には男児のオーランドとその兄のバラットが産まれ、親たちは喜んで両家で婚約を交わしたのだ。

 だが、今はまだ婚約者『候補』だ。
 オーランドかバラットか。どちらに嫁ぐかを見定めているうちは正式なものではない。
 メレディスの十三歳の誕生日を迎えたその日にギャスゲーティア家にどちらを夫にするかを伝え、そうしてようやく婚約者となる。
 
 メレディスが十三歳になるまで約ひと月半と差し迫った今日。
 父と一緒にギャスゲーティア邸に赴き、婚約者候補二人と一緒にお茶をしていた。定期的に設けられた両家の交流会である。

 今日はオーランドの話題でいつもより盛り上がっていた。
 彼が歴代最年少で騎士団入団が認められたのだ。


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