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第八話 マンティス退治 後編
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俺たちは、その様子を岩の陰に隠れながら観察する。
(さて、どうしたものか?)
部屋の反対側に新しい通路があるのが見える。
つまり、大蟷螂の横を通らなければ進めない。
走って逃げ込むという手もあるが、背中からバッサリという感じがする。
進むには倒す必要がありそうだ。
また、この道を避けるために前の分岐点まで戻るとなると、少なくとも半日はかかる。
戻ったところで、同じ問題がないとは限らない。
(……やるしかないか)
俺はしばらく悩んだ後、大蟷螂と戦うことを決めた。
とはいっても、闇雲に戦っても勝てる保障は無い。
そこで、簡単だが作戦を立てる。
1.ファイアで先制攻撃をかける
2.リーンの弓矢で大蟷螂の複眼を狙う
3.フラッシュライトを使う
今ある手持ちの能力では、こんな感じだ。
とりあえず、リーンの複眼攻撃を牽制として使い注意を反らしつつ、俺が接近戦をするしかない。
俺はリーンにその作戦を伝えると、軽くうなづく。
そうと決まれば話は早い。
俺たちは、岩と岩の間をちょこちょこと小走りに移動して、徐々に近づく。
3メートルくらいの距離となり、少し離れたところにいるリーンに目配せして合図を送る。
大蟷螂はこちらにまったく気づいていない様子だ。
意を決して、岩陰から飛び出しす。
「ファイア」
ぼぉおおぉぉぉおぉぉぉおぉ
俺は大蟷螂の胴にめがけて炎攻撃を行う。
大蟷螂は炎をみて一瞬びくっとなり、その間に体全体を炎が包む。
1分程度、炎攻撃を続けて、大蟷螂は体中のあちこちが黒ずむ。
しかし、そんなにダメージをうけているように見えない。
俺は、盾を前方に構えながら、徐々に前に進む。
後ろではかなり距離を取った状態で、リーンが矢を放つ。
大蟷螂は大きな鎌を顔付近において、リーンの矢をガードしている。
すかさず、俺は距離をちじめて、前足に対して思いっきり剣を叩きつける。
キィーン
硬いもの同士がぶつかるような音が通路にこだます。
大蟷螂の体は結構硬いことがわかった。
大蟷螂は足元をうろうろしている俺めがけて、2本の鎌を構えてビュッビュッと突き出す。
俺は目が良い方だが、鎌の動きは目で捉えられないくらい早い。
ただ、鎌の軌道はボクシングのジャブのように完全に一直線なため、盾で防ぐのはたやすい。
そのまま鎌の攻撃を盾で受けると衝撃が大きいので、当たる瞬間斜めにズラして鎌の方向を少し変えて力を逃がす。
しかし、1撃1撃はものすごい重いため、盾で受け流す度に、衝撃でズリッ、ズリッと体が後ろに押し戻される。
俺と大蟷螂は一進一退の状況で、近づいたり離れたりを繰り返している。
そんななか、リーンの矢が大蟷螂の鎌をすり抜けて、やっと複眼に突き刺さる。
ギィィィィィィ
昆虫特有の甲高い音が聞こえた瞬間、俺はフラッシュライトを反対の目に当てる。
ギィィィィィィィィィィイ
大蟷螂は左鎌でライトの光をさえぎるようにして嫌がり、一瞬動きが止まる。
俺はすかさず、大蟷螂の横に移動し、盾を投げ捨て、両手で剣を持ち、腹と背の間の節目めがけて狂ったように何度も上下に剣を叩きつける。
ギィイィィィィィィ
更に大蟷螂は叫び声をあげるが、どうやら俺の位置がわからない様子だ。
俺は何度も間接あたりに剣を叩きつける。
スパッ
その中のある一刀が、きれいに上下に通った。
その瞬間、大蟷螂は腹部の間接で前後に真っ二つになり、ひっくり返る。
切り口からは緑色の液体が噴出し、細い足をばたばたしていたが、しばらくするとすぐに動かなくなった。
(ふぃぃぃ、何とかなった)
俺は、緊張が解けてその場にドカッと座り込む。
後ろで矢を放っていたリーンが、走って近づいてきた。
「あきら、怪我はない?」
心配そうな顔をしながらリーンは俺を見てくる。
「ああ、あちこち擦り傷程度はあるけど大丈夫みたいだ。手持ちの傷薬を塗れば大丈夫そうだ。リーンもごくろうさん。作戦通りになったよ」
「あきらこそ、ご苦労様」
ねぎらいの言葉を掛け合っているところ、俺の頭上でまたあの音が鳴った。
テレッテッテッテー
『あなたはレベルが1つ上がりました』
『HP 16→26
MP 18→21
スキル 3→10
筋力値 5→12
体力値 6→10
素早値 3→5
器用値 7→8
魔力値 8→13』
『あなたは、ラッシュアタックを覚えました』
俺は新しいスキルを覚えた。
名前からすると、連続攻撃のような名前である。
先ほどの戦いを参考にすると、最後の連続斬りが近いように思えた。
そこで、死んだ大蟷螂の胴を使って試すことにした。
発動条件を探るため、いろいろやって見る。
しばらくあれこれ思いついた方法をやっていると、偶然発動方法を見つけた。
それは、バンバンバンと同じ部位に攻撃を当てると、3回目にその周囲が急にオレンジ色に点滅し始めた。
「やった!!」と思い、その光っている部分を更に攻撃すると、アラ不思議、体全体がアシストされたようになり、高速でかつ力強い攻撃をバンバンと繰り出せるようになった。
自分の力で斬りつける場合の、2倍以上の速さと力強さを感じる。
あっという間に斬りつけた部分がズタズタになった。
そして、場所を移動しようと動いた瞬間、アシスト効果が消えた。
(これがラッシュアタックか!)
俺は新しい技を習得できてホクホク顔だ。
余韻に浸っている時に、ふとあることを閃いた。
再度、大蟷螂の腹の前に立つ。
そこで、剣を突き出し、三段突きを繰り出す。
ただし、ポイントは突く場所を同じ場所に限定する。
つまり、点滅するオレンジの点を3つとも同じ場所に指定する。
そうすると、3つ目を突いた後、その付近全体がオレンジ色に点滅し、更に突き続けると、自動的にラッシュアタックに移行した。
その後、何度か試すとスキルポイントを2消費するが、三段突きとラッシュアタックを連続して発動させることができるので、一瞬でついた部分はえぐれて大ダメージになることがわかった。
(こういうスキルの使い道もあるんだ)
俺はスキルの連続発動という、新しいスキルの使い道を発見した。
これまでは、三段突きを連続して発動しようとすると、どうしても1呼吸強制的に間が開いて硬直する瞬間があり、危なくて使えなかった。
しかし、三段突きからラッシュアタックに移行するとその間がまったく無い。
更に、ラッシュアタックは攻撃をやめない限り、永遠に続けることが出来る技なので非常に有用である。
俺はスキルの考察をした後、大蟷螂が食べていたものを見て回る。
やはり、それは人であった。
それも、見た感じ死んでからそんなに経過していない。
周囲を見回すと、荷物もあった。
装備品等を見る限りでは、ゲームでよく見る感じの男女の冒険者のようだ。
全員で3人いた。
1人は大蟷螂に食い散らかされていて原型をとどめていないが、残りの二人は死因となった傷以外はきれいな感じだ。
ただ、その死因は大蟷螂ではないことは素人の俺が見てもはっきりわかった。
なぜなら、体中のあちこちにうっすら4本のひっかき傷があり、直接の死因は喉を食いちぎられたことによる出血死だからだ。
どう考えてもネコ科の猛獣にやられたと考えるのが普通である。
俺も実家で猫を飼っていたのでわかるが、この爪あとのサイズから馬鹿でかいことが分かる。
この爪後から足のサイズを想像して、それから全体を想像すると、そいつは4~5メートル近くある事になる。
そんなのが、襲いかかってきたら今の俺達では瞬殺に違いない。
かなりヤバイやつがいることがわかった。
俺がそのことについて考えていると、リーンが3人のカバンを集めてきた。
中には食料と水と銀貨がそれぞれ入っていた。
また、黒い石が13個と書籍が3冊あった。
更に、両刃の両手持ち斧と、細いフェンシングの剣のようなものに、硬い木で出来た魔法の杖っぽいものを回収した。
戦士風の男からは、胸部のみのプレートメールを回収しそのまま俺が着込む。
魔法使い風の女性からは、ローブを回収しリーンに着せた。
サイズが大きいので部分的にたくし上げている状態だが、以前より格段に防御力は優れているだろう。
俺達は、使えそうなものはすべて回収し、野ざらしはかわいそうだと思って穴を掘って3人を埋めてやった。
作業が終わって二人で休憩しているところで、俺は回収した1つの紙を取り出す。
それには手描きの地図のようなものが描かれてあった。
どうやらこの三人が通った道筋を描いているみたいだ。
最終地点はこの空間を示していた。
そしてその道を逆に辿るとある地点を赤く記されていて、横になにやら文字らしきものが書かれていた。
俺はニヤリと笑う。
「リーン、やったよ。これ地図だ。もしかしたら、ここに行けば外に出られるかもしれない!」
地図の赤い印の部分と今いる場所をリーンに教えてやる。
「ほんとう?」
「ああ、少なくともこの三人はこの赤い印のところから来たのはたしかだ! そこに何かあるのは確実だよ」
書いている文字が何なのかよくわからないが、闇雲にこの場所を進むよりよっぽどいいのではないかと思った。
俺は手描きの地図を携帯で写真を撮り、ノートパソコンに取り込む。
そして、これまで自分が描いて来た自作の地図に写真を見ながら書き込んでいく。
すべて描き終えて、現在位置から赤い印の位置までの道順の距離を測る。
そして、これまでの時間経過から概算すると、目的場所までは2日程度の距離だとわかる。
「よーし、2日程度の距離みたいだ。リーン、希望が見えてきたぞ!」
「うん!」
リーンもうれしそうに大きくうなづく。
俺はノートパソコンの自作の地図を画像に変換して携帯に送り、それを見ながら先に進むことにした。
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