可愛い彼は嫉妬深い~獣人彼氏と仲直りえっち~

山吹花月

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可愛い彼は嫉妬深い~獣人彼氏と仲直りえっち~

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「浮気だ」
 帰宅早々、ニケラはヒオから冷たい視線を向けられる。
 なにも心当たりがない。
 意味が分からず、自身より頭ひとつ分背の高い彼を見上げ様子を窺う。
 獣人族の特徴のひとつである、頭上の被毛に覆われた耳は後ろに伏せられ、背後のふさふさの尻尾は苛立たしげに左右に振られている。
「他のオスの匂いがする」
「へ?」
 ますます覚えのない言葉に思わず間抜けな返事が洩れる。
「他のオスって……」
「お風呂で匂い落としてきて」
 問おうと彼に近付くと素早く距離を取られた。
 ニケラを一瞥し、耳と尻尾と同じく艶やかな赤茶色の髪を翻しながら、ヒオは足早に寝室へと入っていった。
 完全に拗ねてしまっている。
 こうなるとヒオの機嫌はしばらく治らない。
 少々嫉妬深い性格に分類されるであろうヒオ。
 ニケラは恋人である彼以外の異性と積極的に交流を持ちたいタイプではないので、特になんの不自由も感じていない。
 むしろ、自分を独占したくて可愛らしいやきもちを焼く彼の姿に、愛おしさを感じることも多々。
 かといってヒオを不安にさせたいわけではない。
 不貞を疑われる理由は全く思い当たらないが、ひとまず彼の言う“他のオスの匂い”とやらを落とすために浴室へ向かった。

「浮気ってなんのことよ」
 ニケラはぶつぶつと独り言を言いながら髪を洗う。
「…………あ」
 そこでふと帰り道の出来事を思い出す。
 買い物からの帰り道、仲の良い花屋の奥さんが犬を飼い始めたというので会わせてもらった。
 成犬というにはまだあどけなさの残る顔をした人懐っこい犬だった。
 動物が好きなニケラは思う存分撫でさせてもらい、そのまま帰宅したのだ。
「え、もしかしてあれのこと?」
 ヒオは狼を祖先に持つ種族の獣人ではあるが、まさか犬にまで嫉妬をするとは思わなかった。
「大人げないってば、ヒオ……」
 本人に聞こえないのをいいことに、盛大にため息をつく。
 呆れた声色に反して、口元はだらしなくゆるみ笑みが隠し切れない。
「嫉妬深いんだから」
 やきもちを焼かれるのは嫌いではない。
 ヒオは感情表現が素直でとてもわかりやすい。
 風呂から出たら謝らないと、と思いながらも彼の微笑ましい嫉妬が嬉しくて、ニケラは終始にやにやした表情を戻すことが出来なかった。

「ヒオ?」
 控えめに呼びながら寝室の扉を開く。
「…………」
 彼から返事はない。
 ヒオは入り口に背を向け、ベッドに腰掛けている。
 わずかに耳がニケラの方に向けられ様子を窺っていたが、すぐにそっぽを向いてしまう。
 尻尾の先がシーツに強く打ち付けられ、まだ不機嫌であることを伝えてくる。
「花屋の奥さんが犬を飼い始めたって聞いてね。すごく人懐っこくて、撫でさせてもらっただけなの」
「なんでよその犬なんて撫でる必要があるの。僕を撫でればいいじゃん」
 ヒオはまだ背を向けている。
 日頃から無邪気な部分はあるが、ここまであからさまに駄々っ子になることは珍しい。
 随分と子どもっぽい言い分に思わずゆるみかける頬を引き締め、ヒオがわかるようわざと足音を立てて背に近付く。
 彼は耳だけでニケラの気配を探っている。
「ごめんね?」
 ヒオからの返事はなく、真後ろまで近付いてもそっぽを向いたままだ。
 ゆっくりと手を近付ける。
 両耳の間、頭頂部に優しく触れ、そのまま何度か頭を撫でる。
 耳の付け根を掻いてやると、辛抱しきれなかった尻尾が徐々に大きく振れ始める。
 ニケラは機嫌が直ってきたことを悟り、ヒオの隣へ腰掛ける。
 大袈裟にもたれかかり、彼の鼻先へ自身の頭を持っていく。
「丁寧に洗ってきたけど、どう? 匂い、まだ残ってる?」
 少しの沈黙の後、ヒオが顔を寄せニケラの香りを確かめた。
「……消えてる」
「よかった」
 見上げて笑って見せれば、彼もつられるように微笑んだ。
 両手でヒオの頭を包みわしゃわしゃと掻き混ぜる。
 くすぐったそうに耳を震わせながらも、ヒオはニケラにされるがまま。
 いつの間にか、口元から犬歯が覗くほど彼は笑っていた。
 拗ねた表情もたまには可愛らしいが、ニケラはやっぱりこの顔が好きだ。
 両手で彼を引き寄せ唇を奪う。
 少し冷えた彼の唇が心地いい。
 ちゅっと軽い音を立てて離れ、視界いっぱいのヒオを見つめる。
 金色の瞳が怪しく揺れた。
 わずかに目が細められる。
 奥に情欲が灯るのを見た気がした。
 今度はヒオから距離を詰める。
 再び唇が重なった。
 のしかかる彼の重さに身を任せ、唇を重ねながらベッドへ背を預ける。
 キスが気持ち良くて、彼が離れてしまわないよう両腕を首に回す。
 それに答えてヒオの手がベッドと体の間に滑り込んだ。
 触れる掌は熱くて少しごつごつしている。
 背骨に添って指が滑っていく。
 感触が心地よくも官能を追い立て、わずかに腰が揺れた。
 その反応を見逃してはもらえず、ニケラがい場所を何度も指先がなぞる。
 布の擦れる刺激さえも愉悦に変わり、背筋を甘く疼かせる。
 キスが止み、ヒオの唇が頬を滑っていき耳孔へ寄せられた。
 耳の輪郭に添って丁寧に口付けられていく。
 しっとりとした感触に、体がその先の快楽を期待する。
「っん……」
 耳裏に熱い舌が這う。
 丹念に舐め上げられた後、音を立てて吸い付かれる。
 柔らかな舌の感触といくつものリップ音。
 聴覚からも悦を煽られ、ニケラは吐息が洩れ出るのを堪えきれなかった。
 濡れた愛撫の合間、すんと音を立てて匂いを嗅がれる。
 羞恥とかすめる鼻先の刺激にますます快感が呼び起されていく。
「ニケラの匂い、好き」
 頬に垂れてくる彼の髪が肌をくすぐる。
「もう他の匂い付けないで」
 切実な声で囁かれる。
 時折甘く歯を立てられ、緩急にぴくりと肩が跳ねた。
 犬歯だろうか。
 歯の先が肌の薄い部分をかすめたかと思うと、濡れた舌や唇がやわく吸い付く。
 相反あいはんする刺激に情欲がたかぶらされる。
 耳や首筋に気を取られていると、背から移動したヒオの手がふくらみの先端を捕らえていた。
 指の腹でゆったりと撫でられる。
 円を描くように、まだ柔らかなそこがなぞられていく。
 じわりと悦が滲んだ。
 次第に硬さを持ち、布を隔てていてもくっきり先の形がわかるほど主張し始める。
 じわじわ広がる甘い快感に、ニケラは目を閉じ浸る。
 時折爪の先で軽く掻かれ、その度に腰が跳ねた。
 ふと肌が冷える気配に瞼を上げる。
 夜着のワンピースの前がはだけられ、素肌を彼の眼前に晒していた。
 ヒオはじっとり熱っぽくニケラの肌を見ている。
 視線に表皮を撫でられていく錯覚に陥り、触れられていないのに己の中心が熱くなるのを感じた。
 彼と視線が絡む。
 急に羞恥に駆られ、かっと頬に熱が集まる。
 堪らず顔を背ければ、こめかみに優しくキスが落とされた。
「っぁ」
 露わになっている双丘がヒオの掌に包まれた。
 少し汗ばんでしっとり吸い付く感触。
 ゆったりと揉みしだかれ、期待と恥じらいでさらにニケラの体温が上がっていく。
「ニケラ」
 名を呼ばれ反射的にヒオを見る。
 彼はにっと口角を上げ、いたずらっぽく、かつ扇情的な笑みを浮かべた。
「見てて」
 ニケラの返事を待たず、彼の赤い舌が胸の先端に触れた。
 硬く尖ったそこが、脱力した柔らかい肉厚にじっとり舐め上げられていく。
 ヒオが愛撫しているところを直視したことはなかった。
 恥ずかしい。
 だが、一度捕まってしまった視線は固まり逸らすことができない。
 先端には唾液が舐めつけられ、ぬるぬると擦られていく。
 彼の体温も濡れた肌触りも、すべてがニケラの性感を焚きつける。
「ッ……!」
 鋭い快感が下腹部を貫く。
 ヒオの指が秘められた核を捕らえていた。
 赤く膨れたそこはほんのりと濡れ、触れる彼の指にしっとりと馴染んだ。
 そのままとんとんとノックをするように愛撫が続く。
 離れそうで離れない指は常に蕾を刺激し続け、蜜壺の奥へ悦を送り続ける。
 指が前後するたびに敏感な粒が擦れて疼く。
 小刻みに中が収縮し、どんどん潤いが増していくのが自身でもわかった。
 下腹の奥からせり上がる悦に抵抗することも許されず、ニケラは瞬く間に果てへと追いやられた。
 緊張していた全身から一気に力が抜けていく。
 快楽の余韻が全身に散らばった。
 まだ脈打っている蜜壺は愛液を滴らせ、絶頂の熱も冷めていないのに次を期待している。
 それを見越したかのようなヒオの指が秘裂を撫で上げた。
 潤みきったそこはなんの抵抗もなく愛撫を受け入れる。
 入り口が解され柔らかくなったところで指先が押し入ってきた。
 待ち望んでいた中がきゅっと締まり悦び震える。
 腹側の浅い部分。
 ニケラが好む場所に迷いなく指が添う。
 ぐっと押し上げ左右に揺すられる。
 これまでとは違う内からの振動は、直接奥へ伝わってじんわりと悦を湧き上がらせていく。
 蕾への鋭い刺激とは違い、なかなかのぼらせてもらえないもどかしさにニケラは無意識に体をくねらせた。
 追い打ちをかけるように胸の先端を愛される。
 舌先で押し潰され吸われれば、敏感になった肌がすべてを快感に変えていく。
 中の襞と胸の飾り。
 どちらからもいやらしく水音が響き、鼓膜からも犯されていく。
 確実に高められていく官能に、再び絶頂の気配が見え始める。
「ま、って……」
 快楽で言うことを聞かなくなった腕で精一杯ヒオの手を掴む。
「嫌だった?」
 不安げに彼の瞳が揺れる。
 首を振り、甘く震えてしまいそうな声を堪え伝える。
「っ……ヒオと一緒が、いい」
 またひとりで高めるのはなんだか寂しかった。
 彼と一緒に気持ちよくなりたい。
 一瞬驚いたように目を見開いたヒオだったが、すぐに表情を微笑みへと変えた。
 額へと口付けが落とされる。
「ん、待ってて」
 ゆっくりと引き抜かれていった指に寂しさを覚え、わずかに内側がひくつく。
 チェストから避妊具を取り出したヒオは、手早く自身の杭へ装着した。
 ふとももの間に彼が割り入る。
 濡れそぼった入り口に彼の熱が押し当てられた。
 目が合う。
 先を促すよう小さく頷くと、じりじりと彼が入ってくる。
 指よりも遙かに大きな質量。
 待ち望んだ圧迫感に、体の奥が歓喜で疼く。
 ふと、途中で彼の動きが止まった。
 まだ彼自身は収まりきっていない。
「ここ、好きだよね?」
 さっきまで指で刺激されていた弱い場所に、ヒオの張り出した先がぐりぐりと押し当てられた。
「んッ……ぁ、っ」
 的確に突かれ、吐息交じりの嬌声がニケラの意思に関係なく押し出されていく。
 またひとりだけ果ててしまいそうで、視線で抗議する。
 気付いた彼の顔が寄り唇が重なる。
 キスをねだったと思われたようだ。
 触れるだけの口付けをしながら徐々に彼が奥へと押し入る。
 中が彼で満たされている感覚に快感と安心感を覚えた。
 触れ合うすべてが気持ち良くて、溶け合ってしまうような錯覚に陥る。
 くっと彼の腰がさらに押し付けられた。
 最奥へヒオの先端が密着する。
 中が勝手に悦び杭を締め上げた。
 それを合図に、ゆっくりと律動が始まる。
 擦られるたびに気持ち良くて、さらに彼を締め上げてしまう。
 彼の表情が扇情的に歪められた。
「我慢、できないかも」
 上擦る吐息と共に零されたヒオの声は、激しくぶつかり合う肌の音に掻き消された。
 急に早まった抽挿ちゅうそうに一気に快楽が溢れてくる。
 愛液が撹拌かくはんされ、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てている。
 自身では抑えられない嬌声と、彼の切羽詰まった吐息が聴覚からもニケラを快楽で支配していく。
「っニケラ、キス、しよ……」
 荒々しく唇が重ねられ貪られる。
 揺れる彼の髪から、自分と同じ石鹸の香りとヒオの匂いが降り鼻腔に広がる。
 甘い香りにくらくらした。
 何度も最奥に欲を打ち付けられニケラは追い立てられていく。
 高められた快感が満ちて、受け止めきれなくなった体は中で熱を弾けさせた。
 浮遊感とも似た感覚と共に体が勝手にびくびくと震えるが、止まらない律動と彼の腕に阻まれ思うように身動きが取れない。
 解放しきれなかった愉悦が体内にとどまりのたうち回る。
 いまだ続く最奥への刺激に再び情欲がたかぶり始める。
 気持ち良さで力の入らない腕で必死にヒオにすがる。
 より強く奥を抉られ、動きを止めた彼が背を震わせた。
 同じくニケラの奥が再び果てを迎え、弾けた快感が体を甘く痺れさせる。
 悦の余韻に声も出ず、乱れたふたり分の呼吸だけが部屋に響く。
 ずるりと彼が引き抜かれる感覚にわずかに反応してしまいながらも、落ち着き始めた体でヒオにくっつく。
 彼の腕が背に回って抱きすくめられた。
 ヒオの体温と匂い、少し早い心音がニケラをまどろみへといざなう。
「眠っていいよ」
 優しい声色を最後に、ニケラは意識を手放した。



 翌朝、ニケラの衣服と寝具は乱れることなく整っていた。
 心なしか体もすっきりしている。
 ヒオが拭いて整えてくれたのだろう。
 彼の姿が見当たらず、キッチンかと思い当たり移動を試みる。
 が、腰に鋭い痛みが走り、立ち上がることができない。
 ぼすん、と鈍い音を立てて再びベッドへ身を預けるほかなかった。
「ニケラ起き……えっ!? 大丈夫?」
 痛みに歪んだニケラの表情に、慌ててヒオが駆け寄る。
「腰、痛い……」
 かすれた声がより頼りない印象になってしまう。
「あ……、えっと、ごめん」
 気まずそうに彼は視線を泳がせた。
 この痛みの原因は、昨晩何度も果てを迎えた結果だと予想がつく。
 引かない痛みに顔をしかめていると、返事がないことにより不安が増したのかヒオはあからさまに慌て始めた。
「ほんとごめん! 今日はゆっくり寝てて、ね? 掃除も洗濯も料理も、全部僕がやるから!」
 暴走した罪悪感からか、ニケラはなにも言っていないのに次々と仕事を請け負っていく。
「ん」
 まだ起き上がるのはつらいので、片手で彼の顔を引き寄せる。
 軽く唇を寄せて感謝の意を伝える。
 目が合った彼は状況が飲み込めないのか、少し驚いた表情だ。
 にっと笑って見せ、彼の頬を軽くつねる。
 痛みで意識が戻ったのか、ヒオの見開かれた瞳は輝き尻尾が激しく振り回された。
 昨日の不機嫌が嘘のように浮かれている。
「ゆっくり休んでて!」
 満面の笑み。
 耳が嬉しそうにぴこぴこと動いている。
 額に軽くキスが落とされた。
「好き、ニケラ」
 笑って犬歯を覗かせたヒオは、尻尾を盛大に振りながら寝室を出る。
 今日は思いきり甘えることにして、張り切る彼の後姿を見送った。
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