奥手淫魔と世話好き魔法使いが両想いになるまでの話

山吹花月

文字の大きさ
上 下
1 / 14

1 焦がしたハンバーグ、降ってきた淫魔

しおりを挟む
    課長のもと、5日間指導を受けただけだったが、元々課長は管理職でありながら成績トップの営業マンでもあった為、そろそろ本来の職に戻したいと、今日の朝礼で部長からお達しがあった。

「私は今日から外回りだ。鈴原、分からない事があったら小川さんに聞いて。それでも解決しない時は私に電話して。」

「…はい。承知しました。」

「…どうした?不安か。」

「…はい、正直言って不安です…。」

「鈴原、5日間しかお前を見ていないが、大丈夫だと思うぞ。自信を持てよ。」

「…え?」

「何回も言わすなよ。鈴原、分からないければ聞けばいいんだ。自信を持ってやれ。」

「課長…。はい!」

    優しく微笑んで…はくれなかったが、自信を持てと励ましてくれた。課長の貴重な時間を5日間も貰って勉強したのだ。期待に応える為にやってみよう、と頷いた。

・・・

    課長は、外回りに出るともう、その日に成果を持ってきた。大口の運送業者の新規契約だ。

(すごい…。前から追っていたにしても。)

    私は、というと、電話応対や見積書の作成、会議の資料作りに、一日奮闘する事になった。
    これはどうだったっけ、と思い、ノートを見ると、的確な回答が自分の字で書き込んであった。そういう事が何度かあり、実践に役立つ事を教えてくれていたのだな…と感嘆した。

(スーパーマンみたいな人だな…。面接の時みたいにまた笑いかけて欲しいよ。)

    ふぅ。と伸びをしてデスクを片付けた。

・・・
    
   独り立ちして数日たち、いつもの業務をこなしていると、電話が鳴った。

「お電話ありがとうございます。岡崎コーポレーションの鈴原でございます。」

「もしもし?今アウディで事故っちゃってさ、うちの担当、誰だっけ?電話するように言って?」

「かしこまりました。大変でございましたね。それではお電話番号を…」「頼むね。」
ガチャ。ツーツーツー…

「お客様?…お客様?」

    自分の顔色がサーっと青くなるのを感じた。ナンバーディスプレイには電話番号の表示はない。

(どうしようー?お客様の名前も担当者の名前も何も分からない…。)

    小川さんに事情を話してはみたが、何も分からないのではお手上げだと言う。お客様は待っているというのに。

    怒られそうだが、課長に指示を仰ぐ事にした。

「お疲れ様です、課長、今お電話大丈夫ですか?」

「ああ、平気だが?」

「実はアウディで事故を起こしたと電話が入ったのですが、担当者の名前もお客様の名前も仰らず切ってしまわれて…。どうしたらいいでしょう?」

「…。鈴原?アウディでって言ったのか?」

「はい。それだけしか…。」

「もしかしたら、向田運送の向田社長かもしれない。1年前に私から神谷に担当をかえたから神谷に連絡するように伝えてみる。少しそのまま待っていてくれ。」

「課長…、ありがとうございます。」

「いや、切るぞ。」

    待っている時間は1時間にも2時間にも感じたが、実際は25分程で、神谷さんから電話が入った。

「鈴原さん、さっきの電話、向田社長で間違いなかった。近くにいたから顔を出したら、すぐ来てくれたって感謝されたよ。」

「本当ですかっ?〰️〰️、良かったですぅ。」

    へにゃっと力が抜けてホッとした。地獄で仏、課長さま様、本当に助かりました。
    以前の担当の顧客とはいえ、アウディだけでピンとくるなんて、どれだけ頭に入ってるんですか…!
…だけど、これ以上素敵な所を見せないで欲しいです…本当に。私に恋愛脳は、禁止なんですから。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...