君が甘いのはスイーツのせい?

山吹花月

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君が甘いのはスイーツのせい?

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 やりたい。唐突にやりたくなった。
 ふわふわホイップクリームを溢れんばかりに挟んだスイーツを人目もはばからず大きな口を開けて貪りたい。
 近所のコンビニで紗智さちはふとそんなことを思い付いた。なぜなら目の前に以前から話題のマリトッツォと呼ばれるお菓子が陳列されているからだ。
 正直なところ紗智は今まで流行りもののスイーツなどにはあまり興味を示さないタイプだった。しかし、眼前に並ぶそれはよく目にしていた風貌よりも中身が多い。溢れんばかりの、どころかクリームが溢れて挟みきれていない。零れている。純白のホイップクリームの海にブリオッシュが溺れている。コンビニスイーツがこんなに攻めていいのだろうかと若干心配になるほどのクリームの量だ。
 これはどうやって食べればいいのだろう。ふと疑問が湧く。スプーンやフォークがあれば手も汚さず比較的綺麗に食べられるだろう。だがそれでいいのだろうか。こんなにも攻撃的に盛られたクリームをそんなお上品に食していいのか。いいや、これは素手で掴みクリームまみれになろうとも正々堂々コイツと相対あいたいするべきだ。
「その勝負、受けて立とう」
 紗智は小さく呟きレジへと向かった。

「で、買ってきたの?」
 部屋に入って早々に決闘を聞かされたれいは呆れと少しの嫌な予感に顔をしかめた。
「そう! だから、一緒にやろ?」
 紗智は小さな日常でも全力で楽しめる愉快な人柄ではあるが、お祭り騒ぎ好きで誰かを巻き込み遊びを共有したい性分だ。大体いつも被害者もとい相棒に選ばれるのは恋人である怜だった。少し素っ気ない態度だがなんやかんや紗智を構ってくれる。
「……ひとりでやってよ」
 基本的には紗智のお遊びに付き合ってあげる怜だが、溢れるクリームの量に圧倒され今回はすでに胸やけを起こしている。甘いものが苦手ではないが、さすがにこの分量は怜の許容量を超えていた。
「えええさびしいのお! お願い! 一緒にやろっ?」
 怜の肩にしなだれかかり、ぐりぐりと頬を擦りつけながら紗智が大げさに懇願する。
「ね? 楽しいって! 絶対!」
 上目遣いでお願いするこの顔に怜が弱いことを知ってか知らずか、紗智は猛攻を仕掛けている。
「……っ、わかったよ」
 結局おねだり顔に負けた怜が折れた。
「やった! ありがと!」
 ちゅっと小気味よい音を立てて怜の頬に紗智の唇が触れる。
 むず痒くにやつく口元を必死に引き延ばす鍛錬をする怜をよそに、紗智はてきぱきと試食の準備を始める。零れてもいいようにテーブルには敷物もしっかり備える。
 あっという間に場が整えられ、各々の前にくだんのスイーツが並べられる。
「よし、いくよ。……せーの!」
 紗智の掛け声で同時にかぶりつく。
 案の定右から左から上から下から全方向からクリームが溢れふたりの顔やら手やらを汚していく。溢れる、というかすでに溢れているそこへ顔を突っ込んだのだから付かないわけがない。
「だよねーあははっ!」
 予想通りの結果に、紗智はクリームにまみれた手を舐めながら大笑いしている。
「……拭けよ、舐めるんじゃなくて」
 控えめにかじった怜はさっさと拭いて綺麗になっていた。楽しそうにクリームを舐める彼女を見て、冷たく注意すると彼はふいと視線を逸らした。
「だって勿体ないし」
 怜の態度を気にも留めず、紗智は指に残っているクリームをぺろぺろと舐めた。
 口の端についたクリームがうまくとれず必死で舌を伸ばす。指で取ればいいのだろうが、まだクリームが付いたままの手ではただ上塗るだけになってしまいそうだ。
 自分の口元が見えるわけもなく勘だけでクリームを探る。舐め取ることに夢中で、紗智は迫る影に気付かなかった。
 怜の顔が近付き、彼の熱い舌が頬のクリームを舐める。
 突然の出来事に紗智が呆気に取られていると、半開きのままの彼女の唇に怜の舌が割り入ってきた。
 彼の舌からクリームの味がする。とても甘い。
 ねとりとクリームを掻き混ぜ唾液と一緒に舌に塗り込まれる。いつもと違う舌触りに急激に官能が刺激されていく。
 うっとりと悦にそのまま身を任せてしまいそうになったところで紗智ははっとする。手についたクリームはまだ完全には取れていない。このままだと怜や互いの服に付いてしまう。
「んっ、……れ、い、んぁッ」
 静止しようと口を開く度に彼の舌が深く差し込まれまともに喋れない。べたつく手では彼を押し返すこともできない。手は宙に浮かせたまま、ただただ彼のキスを受けるしかなかった。
 口内を舐めまわされながら薄目を開け怜を窺うと彼も紗智を見ていた。ふっとわずかに目を細め、彼女の身動きが取れないのをいいことに、腰を抱き後頭部に手を添え、いよいよ逃げ道をなくし紗智を追い詰める。
「……ん、っふ」
 どちらのものともつかないくぐもった吐息が洩れる。
 荒ぶる彼の舌は頬の裏を舐め彼女の舌を吸い、クリームなどすでに残っていないのに紗智の口腔を味わい続けた。
「……甘」
「そりゃ、ね」
 やっと解放された紗智の口端から飲み込みきれなかった唾液が滴る。
 情欲に揺れる怜の瞳に射抜かれた。どくりと心臓が高鳴りすぐに身動きが取れない。その隙に体重をかけられすとんとラグの上へ押し倒された。
「あっ待って、クリームが……」
「付かないように頑張れよ」
 紗智の言葉を構いもせず、彼は柔らかな体の感触を楽しみ始めた。
 このまま怜を掴めば彼の服を汚してしまう。かといって手近に拭き取れそうなものもない。
 しばらく考えた末、紗智はクリームにまみれた手を怜に差し出した。
「……舐めてよ」
 にやりと笑い彼に要求する。
 さすがに手についたクリームを舐め取るのはためらうだろう、と好き勝手貪られた意趣返しのつもりで口にした。
「……」
 無言で手を見つめる怜は黙ったまま思案しているようにも見える。
 そろそろ勘弁してやるか、と手を引っ込めようとしたとき手首が掴まれた。
 指に濡れた肉の感触が這う。驚き見ると、怜が紗智の手に付くクリームへ舌を這わせていた。
 予想外の行動に紗智の頬が紅潮する。
「ぁっやめ……」
「自分で舐めろって言ったくせに」
 彼女を見下ろしながら怜は分厚い舌を這わせてくる。見せつけるようにゆっくりと舐めあげられた。白いクリームが乗る赤い舌が扇情的で腰が甘く疼く。
 吸いつく唇の柔らかさや彼の口から洩れる熱い吐息に瞬く間に紗智の情欲が煽られた。
 両手を綺麗に舐め終えたところで親指を咥えられた。熱い舌のぬるぬると、ぷっくりとした唇のやわさに悦が耐えかねびくりと体が震えた。仕上げと言わんばかりにちゅぽんと卑猥な音を立ててしゃぶられた。
「……ほら、舐めて」
 怜の親指が紗智の口元へ差し出される。クリームは付いていないのになぜか美味しそうに見えた。おずおずと口を開き、舌で彼の指の腹に触れる。
 視線が舐める舌へ集中している。怜の目元がほんのり色付き欲と色香を漂わせている。熱く濡れた瞳に自身の舌が映っていると思うと、羞恥と情欲が湧きあがって紗智の体を上気させた。
 ふと視線が絡まった。そのまま紗智の指に怜の舌が添う。彼から目が離せなくなって、じゅんと蜜口が潤む気配がした。見せつけながら互いの指を舐め合う異様な状況に、少なからず興奮している。
 ふやけるかと思うほど味わい合い指が解放された。
「綺麗になった」
 唇が重なる。味のせいか感触のせいか、ほんのりと甘い。
 怜の唇が首筋を愛撫していく。柔らかくしっとりした感触が心地よく、紗智の燻る熱を少しずつ高めていく。
 服の上からふくらみに手が添う。隔たりからわずかにしか伝わってこない刺激がもどかしい。お腹や脇腹もくまなく彼の手が這っていく。
「脱ぐ?」
 紗智が焦れているのをわかってて聞いている顔だ。
「う、ん」
 ためらいがちに頷くと怜はふわりと優しく目を細めた。どことなく嬉しそうな顔をしている。
 どうしても照れてしまうからなにも聞かずに脱がせてくれたらいいのに、と思う反面、紗智が頷いた後のこの柔らかい微笑みが好きで、恥ずかしいのについ素直に答えてしまう。
「体、起こそうか。紗智、手」
 腕を伸ばすと大きな手が彼女の二の腕を包み引っ張り起こされた。
「ばんざい」
 服の裾を持ちあげる彼がなんだか楽しげだ。小さな子供のように世話を焼かれている気分でむず痒い。衣服を取り払われ、上半身を隠すものは下着だけになった。
「下着、可愛い。この色似合うね」
 やわやわと下着越しに胸が揉み込まれる。露わになっている肌に怜の唇が触れくすぐったい。
 怜は服装や髪型にいつも気付いて褒めてくれる。この下着もおろしたてのお気に入りだ。そんな些細なことで心が温かくなる心地がする。込みあげる愛おしさで彼の頭を撫でた。後頭部の髪を梳くように指を差し込めば、怜が気持ちよさそうに目を細めた。
 そっと彼の手が背中にまわりホックが外される。支えを失ったふくらみが重力に従ってたゆんと揺れる。肩紐をゆっくりと下げられていく。怜の視線が胸へ集中している。何度も肌を晒しているのにこの瞬間はいつまで経っても慣れない。隠すものがなくなり、赤く色付いた飾りが露わになるが、思わず両手で覆い隠してしまった。
「……見せてくれないの?」
 ちゅっと音を立てて耳殻に口付けられる。ねえ、だめ? と囁かれて体の力が抜けていく。こんなときばかり甘い声を吹き込んでくるのはずるい。ゆっくりと腕を下げすべてを明け渡すと、褒めるようにキスが落とされた。
「綺麗。さっきのクリームみたいに白い」
 すでに立ちあがっていた先端を口に含まれた。ころころ転がし味わわれる。
「けど、クリームより甘い」
 硬くした舌先が押し込まれ先端が摩擦された。じんわり広がる快感が腰を揺らし秘裂を潤わせていく。
「こっちに背中向けて、もたれて」
 言われるがまま背を彼に晒す。紗智が姿勢を変えるあいだに怜は素早く衣服を脱ぎ捨てた。そのままもたれれば彼の素肌と背中がしっとり触れ合い体温が気持ちいい。
 彼の腕が下から伸びてきて胸を掬いあげる。柔らかさを確かめるように下から上へたゆたゆと揺すられる。
「柔らかい……逆にここは硬そうだ」
 しこり立っている両の飾りが指に挟まれる。ゆるく摘ままれくりくりと擦られた。
「ッん」
 両側を同時に弄られ先端に愉悦が滲む。すぐにお腹の奥がもどかしく疼き蜜が溢れる気配がした。じゅんと染み入るように、胸の先から腰の中へ快感が蓄積されていく。
 いつもより早い昂ぶりに助けを求めるように怜を振り返る。
「なん、か……今日、くるの、はやっ、んぁっ」
「ん? なにが来るの?」
 耳殻に唇を寄せわざとらしく吐息をかけてくる。そのわずかな刺激にすら追い立てられ腰が跳ねた。
「ぁっ、んんッ」
 止まらない指先に煽られじゅくじゅくと悦楽が熟れていく。秘裂の蕾が、まだ触れられてもいないのにひくりと疼いた。
「は、ぁ……した……」
 怜の腕を秘められた場所へ導く。布越しにつっと割れ目をなぞられ、期待で背がしなった。
 彼の両手が紗智の残りの衣服へかかる。腰を浮かせ脱がせやすいように協力する。
 暴かれた恥丘に怜の指が這う。充血し主張する粒へ辿り着き、表面を円を描くように撫でられた。
 待ち望んだ鋭い快感に紗智の中がきゅんと締めあがる。ゆるゆると愛撫され悦を溜め込んでいく。
 緩やかな指の動きが次第に押し込むように力強さを増す。こりこりと弾かれその度に腰が跳ねあがった。零れる愛液を掬い丁寧に花粒まで塗り込められるとまた感覚が変わり、秘口の奥へ愉悦が沸いた。
 陰核を撫でる指はそのままに、もう一方の指が蜜口をなぞった。早く早くと誘うように入り口がひくつくと、くっと指が差し入れられた。
 浅いところの襞を一枚ずつ解すように撫であげられていく。ゆるく抜き差しされると花弁が彼の指にまとわりさらに蜜を絡めていった。指を曲げられ一点を圧迫されて彼を締めつけてしまう。紗智の好きなところを熟知した指はそこから離れようとしない。
 嬌声が溢れ、内と外の両方の刺激が早められた。一気に追い立てられた快感が勢いよく飛んだ。お腹に力が入りびくびくと震える。
「上手にイけたね、可愛い」
 怜の柔らかい唇がなだめるようにこめかみに触れる。
 絶頂の余韻に身を任せているとビニールの音がした。怜が自身を取り出し準備をする。
「座って後ろからしようか」
 ベッドの端に座った彼の上へ腰掛ける。背中に感じる胸板がしっとり汗ばんでいて熱い。
「ちょっとだけ腰浮かせられる?」
 怜の手に支えられながら足に力を込める。浮いた隙間に彼の剛直が滑り込み蜜口と触れ合う。ゆっくり腰を下ろせば奥まで彼が入ってきた。
「痛くない?」
 後ろから覗き込んでくる彼に頷けば頬にキスが降ってきた。
「動くよ」
 怜の腰がゆっくりと紗智を突きあげる。自身の体重が繋がる場所へ集結して奥の奥まで彼で満たされる。軽く揺すられているだけなのにじんじん快感が響いてきて収縮が止まらない。
 愉悦にとろけ力が入らなくなった紗智の足が掬いあげられた。膝裏を持ちあげられ、支えを失い重力に逆らえなくなった蜜壺により深く屹立が埋まる。
「すごい蕩けてる……っいい、紗智……ッ」
 抽挿が力強いものへ変わりなす術なく穿たれていく。肌のぶつかる乾いた音の中に蜜が撹拌される卑猥な水音が混ざった。
 再びせりあがる悦に甘ったるい嬌声が洩れ、押し入ってくる度にぎゅっと雄芯を握り込む。怜の口から熱を帯びた呻きが零れさらに動きが早められた。
 最奥を激しく抉られ体を容赦なく揺さぶられる。腰の奥から熱が噴きあがり弾けた。
 紗智の収縮を追うように強く腰が打ちつけられ、怜がびくりと背を震わせて果てを迎えた。
 じんわりと広がる快感の余韻に体が震える。後ろから怜の腕に包まれ温かさにほっとする。首を捻り彼を見ると優しく唇が触れ合わされた。
 そのままベッドへ倒れ込み、互いの腕や足を絡めくっつく。
「なんか、今日の怜、いつもよりちょっと甘ったるかった」
「クリームじゃなくて?」
「言葉とか、雰囲気とか、色々」
「それは紗智の方だろ?」
 頬に指が添い触れるだけのキスをされる。
「とろとろに感じる顔とか快感に素直な体とか、すごい甘……いてっ」
 真顔で恥ずかしいことを口走る怜の胸を軽く小突く。
「なにっ今日恥ずかしっ」
 紅潮する頬を隠したくてそのまま怜の胸へ顔を埋める。
「はは、可愛い。クリームなんてなくても、紗智は甘くて美味しい」
 ちゅっと髪にキスが落とされる。紗智が顔を伏せているのをいいことに好き放題に口付けてくる。唇から怜の好きが沁み込んでくるみたいで照れてしまう。
 ホイップクリームみたいに甘ったるい空気が恥ずかしくて、まだしばらくは顔を上げられそうにない。

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