君も知らない君のこと

山吹花月

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君も知らない君のこと

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「ねえミリーサ、ここにほくろあるの、知ってる?」

 カイルが背中にキスをする感触がした。

 左側の肩甲骨の、ちょうど真ん中あたり。

「え、気付かなかった」

 全身鏡などで背中側を見ることはあるが見覚えはない。

「ちょっと小さいからかもね」

 もう一度キス。

 今度は少し吸い付く。

「ほくろ、好きだね」

「うん」

 熱く濡れた舌の感触がする。

「特に自分すら知らない場所に付いてるのがいい」

 軽く歯が立てられる。

「直視できるのは俺だけ」

 カイルの声が嬉しげに上擦る。

「俺だけ」

 熱っぽい声色に恍惚とした執着が混じる。

 暗に誰にも見せるなと釘を刺されているのは明白だ。

 もちろん彼以外誰にも晒すつもりはない。

 飽きもせずにカイルはほくろを愛でている。

「好きなのはほくろだけ?」

 いい加減つまらなくなってきたミリーサは大袈裟に不機嫌な溜息をつく。

 のしかかってきた彼の胸板が背中に密着した。

「そんなわけないでしょ」

 彼の節張った無骨な指が顎に触れた。

 優しく引き寄せられ唇が重ねられる。

「ミリーサの全部が好き。大好き」

 甘く吸い付くような口付け。

 舌が押し入ってきてだんだんと激しく貪られていく。

 くまなくねぶられ、閉じられない口端からどちらのものともつかない唾液が零れた。

「大好き。ずっと」

 間近で絡んだカイルの視線。

 彼の瞳の奥がどす黒く光る。

 どろどろの束縛。

 その固執が気持ち良くてぞくぞくする。

「ん、ありがと」

 カイルが不服そうな顔をする。

「なあに? どうしたの?」

 わかった上でミリーサは聞く。

「ミリーサはいつもそう」

 拗ねて頬を膨らませたカイルは少し幼く見えて可愛い。

 ここでカイルが求めているのは愛を示す言葉。

 だけどミリーサはあえて応えない。

 拗ねた顔が可愛いという理由のほかに、彼を翻弄しているちょっとした優越感が気持ちいいから。

 彼の髪を撫で優しく微笑みかければ、悔しそうに眉を寄せたカイルの顔が近付く。

 唇が重なり、触れるだけの口付けがだんだんと深いものに変わっていく。

 互いの舌を絡ませ口内を味わい尽くす。

 シーツとミリーサの体の間にカイルの手が潜り込んだ。

 ふくらみが包まれやわく揉み込まれる。

 与えられるであろう刺激を期待し、尖り始めた先端が彼の指に捕まった。

 こりこりと擦られ、直接的な快楽がミリーサの腰を震わせる。

 だんだんと悦に体が支配されて力が抜けていく。

 背後のカイルへ振り向く力も弱まってしまう。

 とうとうキスが離れ枕に沈み込む。

 追いかけてきたカイルの唇はミリーサの耳を狙う。

 食まれ舐められ甘く吸い付かれる。

 続く胸への愛撫で敏感になったミリーサの体は、耳を愛す濡れた彼の舌に反応し甘い声が零れる。

「言ってよ」

 掠れて甘えた低音が耳元で響く。

 普段は騎士として街の護衛を担うカイル。

 体つきも大きく屈強、勤務中は終始真顔で冷徹騎士と噂される堅物。

 そんな男が自身にだけはこんなにも甘えた声を出す。

 その優越感がミリーサの心を気持ち良くさせる。

「ん、好き」

 小さく呟く。

 快感に浸りきった体は動かすのが億劫になって、彼の顔を見るために上体を起こすことが出来ない。

 半分閉じかけた瞳のままカイルを視界に映さず告げる。

「ッ……ミリーサ」

 切実な声で名を呼ばれた。

 お尻の辺りになにかが押し付けられる。

 熱く滾った彼の怒張。

 ぐりぐりと擦り付けられたそれは、はち切れんばかりに硬い。

「待って」

 気怠い上半身を少し起こし、彼から体を離す。

 仰向けに体勢を変えればカイルがすぐに覆い被さってくる。

「ぅ、んっ……」

 胸の尖りが彼の口内に含まれた。

 急激に強く吸われ、鋭い刺激に嬌声が押し出される。

 分厚い舌が器用に先端をこねくり回す。

 濡れたざらつきに擦られ、そこはますます愉悦にそそり立っていく。

 舌で愛しながらも彼の両手は休むことなくミリーサを愛撫する。

 片方はもうひとつの尖りへ、もう一方はくびれをなぞって秘められた場所へ向かう。

 迷いなく進むカイルの指先は、いとも容易くミリーサの敏感な蕾を探り当てる。

 そっと指が宛がわれただけでじゅくりと腹の奥が疼く。

 触れたままわずかに揺らされた。

 決して激しくない愛撫なのに、拾う感覚は突き抜ける快楽。

 秘口がひくつき蜜が溢れてくるのが自分でもわかった。

 カイルの指が滑り蜜壺に添う。

 くちゅり、と響いた水音に羞恥を煽られる。

 愛液を掬い取った彼の指は、再び熟した核へと向かう。

 濡れて滑らかになった感触はより劣情を掻き立て、丁寧に塗り込まれるたびに気持ち良さが突き抜け背がしなる。

 腰の奥から込み上げる予感に、咄嗟に胸元のカイルの頭を抱き込んだ。

「ん、ぁ、……ぃ、くっ」

 細切れに声を絞り出した直後、強烈な絶頂の波に襲われる。

 息を詰め、びくびくと体を痙攣させながら快楽を受け止めた。

 心臓が速く強く脈打つ。

 徐々に痙攣が弱まり、止まっていた呼吸を少しずつ再開させる。

「ッんぁ!」

 いまだ咥えられたままだった先端がきゅっと吸われ、思わず甲高い声が洩れた。

 ミリーサは絶頂直後が弱いことをカイルは熟知している。

 確信犯だ。

 からかわれた気分になり悔しくなって、少々乱暴に彼の髪の毛を掻き乱してやる。

 反抗のつもりだったのに、カイルは嬉しそうに目を細め笑っている。

「弱いね、ミリーサ」

 ささやかな反撃など気にも留めず、カイルは唇で柔肌を愛撫していく。

 なぞられるたびに腰がくねってしまう。

 ふくらみから首筋を辿り、彼のキスがミリーサの唇へ到達する。

 触れるだけの口付けから徐々に深く濃く舌を絡ませていく。

 カイルの指が秘核をひと撫でし、割れ目に添ってゆるゆる動いた。

 充分に潤った入り口は難なく彼の指先を飲み込む。

 浅い部分の内壁を探られ満遍なく撫でられていく。

 蕾で受けた快楽とは違う、ゆるやかでじれったい悦が奥から湧き上がってくる。

 じっくりねっとり解していくその丁寧さが今はもどかしい。

 目を合わせ視線で懇願する。

「ミリーサ、すごく色っぽい顔してる」

 くっくと喉の奥で笑ったカイルが体を離す。

「なによ、変?」

 笑われたことが気に食わず、ぶっきらぼうに返事をする。

「逆」

 指は抜き去られ、手早く彼自身に避妊具が装着される。

「可愛くて困る」

 大きく広げられたふとももの間にカイルの体が割り込んでくる。

 潤んだ入り口に剛直があてがわれ、上下に擦り付けられた。

 濡れそぼった襞が、彼の腫れぼったい先端に絡み付く。

 わずかに彼が入ってくる。

 指とは比べ物にならない圧迫感に、みしみしと割り開かれていく。

 いっぱいに満たされていく中はどこもかしこも悦びわななく。

 浅いところで挿入が止まり、軽く出し入れされ内側を擦られた。

 的確にミリーサの弱い部分を狙って揺すられる。

 一度は収まった快楽の熱が再び勢いを増し、蜜壺の潤いを溢れさせた。

 浅瀬を刺激しながらも徐々に奥へと侵入されていく。

 抽挿ちゅうそうが激しくなるにつれ、掻き混ぜられる水音と肌のぶつかる音が大きくなる。

「痛くない?」

 優しい声色に反して穿つ動きは荒らくれていく。

 最奥に届いた怒張に何度も突かれ、じりじりと愉悦に追い立てられる。

 カイルの問いにまともな声で答えることなどできないほどに、甘ったるい嬌声がミリーサの口から零れ続けた。

「可愛い、俺のミリーサ」

 熱っぽい囁きが降った後、一層動きが速められた。

 部屋に響くのは激しい破裂音といやらしい水音、ふたりの荒れた呼吸と嬌声。

 抱き合い触れ合った互いの肌は、汗ばんでいてしっとり合わさり馴染む。

 鼻腔に広がる彼の香りが心地よくてくらくらした。

 これまでで一番強く穿たれ、ミリーサは二度目の絶頂を迎える。

 きつく中の彼を締め付け、それを合図にカイルが背を震わせ果てた気配がした。

 カイルの腕が背に回り強く抱きしめられる。

「ごめん、まだ出てるから……もう少し」

 耳にかかる熱い吐息にきゅんと心臓が甘く疼いた。




 互いの息が整い始めた頃、カイルは緩慢な動きで自身を抜き去った。

 避妊具の処理を終え、ミリーサの隣に倒れ込む。

 視線が絡み、なにか話しかけたいのに倦怠感と睡魔に襲われ瞼が重い。

「このまま寝る?」

 声を出すことも億劫でゆるく頷く。

「おやすみ」

 額に彼の柔らかな唇が触れた。

 ぼんやりとまどろむ意識の中、ふと愛おしさが込み上げて来てカイルの頬を両手で包んだ。

 そっと引き寄せればされるがまま彼が近付く。

「好き」

 掠れた声で呟き唇を合わせる。

 満足したミリーサは早々に彼を開放し、カイルの腕の中に収まり眠る体制を取る。

「え、ずるいんだけど……」

 呆れたようなにやついたような、満更でもないカイルの声を聞きながら、体と心の充足感と適度な睡魔に身を委ねた。
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