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しおりを挟む「……ったぁ」
頭に響く鈍い痛みでエリナは目を覚ました。
窓から陽が差し込みうっすらと鳥のさえずりが聞こえることから朝であることがわかる。
視線を巡らせまだぼんやりとする視界に映ったのは、空き缶や食べ散らかした残骸が放置されたテーブル。
エリナはソファーで眠っていたようだ。
昨夜、エリナの歓迎会と称した宴会で随分と盛り上がってしまったことを思い出す。
冷やしたエールで数回乾杯したところまでは覚えている。
その後は早々に酔いが回り始めたユミトが嬉々として魔法や渡り人について話す姿を眺めながら、なんだか楽しかったなと思った曖昧な記憶だけ。
「こんなになるまで飲んだの初めてかも」
これまで誰かと大騒ぎしながら酒を酌み交わすことなんてなかったので新鮮ではある。
「けど、これは……」
ずきずきと痛むこめかみを押さえた。
「二日酔いってつらい」
人生で初めての激しい二日酔いに、再びソファーへ倒れ込む。
うずくまってみたり仰向けになってみたりするが、どんな体勢になっても痛い。
おまけに胃の辺りがむかむかと気持ち悪いし、寝相がよくなかったのか背中も痛い。
「うう……」
低く呻きながらひたすら不快感に耐えていると、テーブルを挟んだ向かいからもエリナと似たような苦悶の声が聞こえた。
のっそりと起き上がったのはユミト。
顔面は青白く、眉間に皺をよせ苦しそうにしている。
おそらく彼も激しい二日酔いで頭が痛いのだろう。
エリナがしたのと同じように自身の眉間を押さえて歯を食いしばっている。
「……飲み過ぎた」
げっそりとした顔でユミトが言う。
「ひでえ顔だな」
目の前のエリナに気付いて開口一番ユミトは悪態をついた。
「どっちが」
エリナも負けじと反論する。
「…………そうだな」
頭が回らないのか、全く切れ味のない返答が返ってきた。
かと言ってこれ以上追い打ちをかける気力はエリナにもない。
しばしふたり向き合って唸りながらこめかみを押さえた。
「アンタ、手、出せ」
相変わらず苦しそうなユミトが言う。
端的な言葉の真意はわからなかったが、疲弊した身体は思考を拒否しており反射的に言われるがまま手を差し出した。
「…………」
エリナの手を取ったユミトはしょぼしょぼして開ききっていない目で観察している。
「大丈夫そうだな」
そうか、透けていないかの確認か。
ここにきてようやくユミトの意図に気付く。
「体は?」
手を握られたまま聞かれる。
「二日酔い」
「それ以外を聞いてるに決まってるだろ」
「たぶん平気」
「ん」
急に手を引き寄せられた。
咄嗟に反応が出来ずされるがままになる。
薬指の背に柔らかいものが触れる感触がしてはっと意識が引き戻された。
ユミトの唇がエリナの指に触れ、ちゅっと軽やかな音を立てて離れた。
「水……」
驚きで硬直するエリナを気に留めることなくユミトが立ち上がった。
と、同時に手も解放される。
「え、……なに、今の」
水場へ向かうユミトの背中に問うでもなく呟く。
「は?」
「だから、さっきの」
「なにがだよ」
ユミトは心底意味が分からないといった顔をしている。
「指に、ほら、唇……」
「はあ?」
怪訝な表情が返ってくる。
「寝ぼけたこと言ってないで水飲め」
まるでさっきの口付けがなかったことかのように振る舞うユミト。
おそらく寝起きのぼんやりした思考と二日酔いの倦怠感で無意識にした行動なのだろう。
大きなあくびをしながらとっとと歩いていってしまうユミトの背中を、自分だけが動揺させられた悔しさを込めて睨みつける。
「寝ぼけすぎでしょいくらなんでも!」
なにより悔しいのが、少しだけ胸が高鳴っている事実。
別の意味で痛くなってきた頭を抑えながら、エリナも重い足取りで水場へ向かった。
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