「俺とセックスしないと、アンタ、消えるよ?」

山吹花月

文字の大きさ
上 下
7 / 15

しおりを挟む
 
 耳元にかすれた低音が吹き込まれた。

 腰に回されたユミトの手が布越しに肌を撫でる。

 あきらかに官能を呼び起そうとする手付きに背筋が甘く震えた。

「ひとつ確認したいんだけど」

 エリナは先程考えていた懸念を伝える。

「避妊薬みたいなものってないの? 魔法かなにか、とか。無責任に子供を持ちたくないんだけど」

「ああ、それなら問題ない」

 どういうことか聞き返す前に、顎を捕らわれ唇を塞がれた。

 ちゅっと軽い音を立てて離れた彼の口が開かれる。

「俺、生殖能力ねえから」

「は?」

 咄嗟に浮かんだ感想は、そういう嘘を言って相手を騙すクズ男か? だった。

「嘘じゃねえよ」

 疑いの表情が顔に現れていたらしく、ユミトは呆れた声を出した。

「魔力が強い人間は子供作れねえんだよ。試したけど無理だった」

 試したのか、やはりクズ男か。

「合意の上だからな」

 またしても表情に出ていたらしい。

「……ん? 魔力?」

 クズ男に気を取られて耳慣れない言葉を聞き流してしまいそうになった。

「魔力」

「誰の魔力が強いの?」

「俺」

「え? じゃあユミトは魔法使いってこと?」

「今更なに言ってんだよ当たり前だろ」

 魔法石がどうのという熱弁は聞いたが、ユミト本人が魔法使いだという話は聞いていない。

 だがここで反論すると不毛な言い争いに発展しそうな予感がしたので、エリナは曖昧に頷いておいた。

「髪の色が黒に近くなるほど魔力が強い。反比例して生殖能力が弱まる」

 見上げたユミトの髪は夜空より暗い漆黒。

「まあ、避妊薬はあるから安心しろ」

「ぁ、うん……」

 なんでもないような顔をしてユミトが言った。

 子が成せない。

 デリケートな話題なのでエリナは返答に詰まる。

「今更気にすることでもない」

 窺い見たユミトは沈んでいるわけでも空元気でもなく、ただ当然のことを淡々と述べているだけ、といった表情だった。

「さっそくするか」

 ユミトの声と同時にエリナの足が床から浮いた。

「わっ」

 軽々と抱き上げられていた。

 焦るエリナを気にも留めず、ユミトは店を施錠しクローズの札を出す。

「お店、いいの?」

「店主の俺がいいって言うんだからいいんだよ」

 ユミトが片手で器用に扉を開けた先にはベッドがひとつ。

 意外にも綺麗に整えられているシーツの上に、エリナがゆったりと降ろされた。

「ほれ、あーん」

 反射的に口を開けると飴玉のようなものが放り込まれる。

 蜂蜜のようなコクとまろやかな甘味が広がり、それはすぐに溶けてなくなった。

「避妊薬」

 薬が消えた口内へユミトの舌が押し入ってくる。

「ん、我ながら美味い」

「これあなたが作ったの?」

「魔法使いなんだから当たり前だろ」

 こっちはこの世界の当たり前なんて知らないんですけど。

 そう思いながらも言葉にすることは控えた。

「ま、相性は悪くなさそうだし。楽しもうや」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...