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しおりを挟む「体液……」
その後に綴られていたのは、人体のありとあらゆる液体を当時の渡り人が摂取した記録だった。
あまりにも生々しく、文章を読んでいるだけで気分が悪くなる。
結論として、性交渉による体液摂取が一番効率がよい、と記されていた。
「人間の生き血なんてすすりたくねえだろ」
弁当の包装と格闘しながら男が平然と言う。
エリナは自分が食事をしているわけでもないのに胃の辺りが不快になってしまった。
「なにこれあり得ない。……ん?」
自身の言葉にはっとする。
「そうよね、あり得ない」
ひとり勝手に納得するエリナに男は怪訝そうな視線を送る。
「なんで気付かなかったんだろ。これ、たぶん夢ね」
「違うが?」
「私相当疲れてるな。こんな変な夢見ちゃうなんて」
男の言葉を無視してエリナは独り言を続ける。
「寝てたらそのうち目が覚めるはず。きっと」
エリナは腰掛けていたソファーへ体を寝かせた。
「前向きだな」
鼻で笑う男を気にも留めず、エリナは硬く目を閉じ眠る体制に入った。
「……あれ?」
視界に広がるのは昨日見た天井。
目覚めたエリナは昨晩と同じソファーの上にいた。
「起きたのかよ」
「っ!」
いきなり視界が男の顔でいっぱいになる。
驚きのあまりエリナは一瞬息が止まった。
「アンタがここで寝てると店開けられねえんだけど」
雑貨屋だと言っていたことをうっすらと思い出す。
「風呂でも入ってこい」
乱暴に投げられたタオルがエリナの顔面に直撃する。
痛くはないが、投げつけられたことに苛ついた。
「これ着ろ」
タオルから解放された顔に再び衣服が落とされた。
男に文句を言おうと飛び起きるが、すでに背を向け無言で風呂の場所を指し示すばかり。
彼の態度はいちいち癇に障った。
思わず嫌味が零れそうになるが、ぐっと飲み込み風呂場へ向かった。
浴槽にはご丁寧に湯が張られていた。
腹立たしい態度を取りながらも自分の為に準備してくれたのかと考えるとなんだかむず痒い。
手早く体を清めて湯に入った。
足先からじんわり温まっていく。
「はあ……」
湯の心地よさに思わず声が洩れた。
「夢、だよね?」
さっきぶつけられたタオルの感触もこの湯の心地よさも、どれも夢とは思えないほど生々しい。
昨日透けていた自身の手をかざす。
握ったり開いたりしてみるが、今はなんの異常も見られない。
夢なのか、働き過ぎで幻覚が見えているのか、もしくは本当に現実なのか。
どんなに考えを巡らせても答えが出ることはなかった。
「ほら」
風呂上がりに男からはたきを手渡される。
「なにこれ」
「はたき」
「見ればわかる」
「は?」
男は苛立つ表情を隠しもしない。
「これがなにかは知ってる。で、いきなりなんなの」
エリナも思わず強い口調になってしまう。
「はたきですることなんてひとつだろうが」
男が雑多に物が並べられた棚を指す。
掃除をしろということだろう。
「私お風呂入ってきたばっかりなんですけど」
「んなもんまた入ればいいだろうが」
一宿一飯の恩、と言うので掃除をすることくらい問題はない。
一飯は違うが。
「お湯抜いちゃったけど」
「問題ない」
なぜか男が嬉しそうに答えた。
「うちの風呂は自動で湯の準備が出来るんだ」
腕を組み鼻高々っといった風に男が言った。
「へ、へえ……」
日本ではあたりまえのことなのでエリナは反応に困った。
「俺が作った生活魔法のおかげでな」
「魔法……?」
またしても現実味のない単語が飛び出してきた。
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