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しおりを挟む一瞬放心しされるがままだったが、はっと我に返り抵抗する。
しかしソファーの背もたれにはばまれ視界をなにかで覆われて入る状況ではほとんど策はなく、じたばたと手足をばたつかせることしかできなかった。
相手の舌を噛みちぎってやろうかとも考えたが、男の親指が口内に押し込まれ下顎を掴んでいてびくともしない。
手探りで目隠しを掴む。
感触からしておそらく男の手。
「っ!」
目隠しに気を取られて防御がおろそかになったエリナの舌が男に絡め取られた。
熱いざらつきがねっとりとまとわりつく。
反射的に肩がびくりと跳ねた。
不快感からの反応ではないことに自身で驚く。
急に視界が明るくなり眼前に男の瞳。
赤味を帯びた男の目が愉快げに細められている。
自身のうろたえる反応を見て楽しんでいる、直感的にそう理解した。
悔しくて逃れてやろうともがくが、下顎に加えて後頭部まで拘束されてしまう。
エリナが抵抗できないのをいいことに、分厚い男の舌が容赦なく口内をねぶる。
ふと背筋に甘い痺れが走る。
それは男の舌に舐めあげられるたびにぞくりと腰へ落ちていく。
拒絶ではない感覚をこのいけすかない男に抱いてしまったことが腹立たしい。
続く口付けで体の力が抜け始めているが、せめてもの抵抗として視線だけは鋭く男を睨みつける。
ふっと鼻で笑われた気配がした。
男の目はますます楽しそうに細められる。
なにをやってもこの男を喜ばすだけだと悟り、エリナは身体を支配しつつある悦から目を背けることだけに全力を傾けた。
「悪くねえな」
散々もてあそんでおいてからの偉そうな口ぶりにかちんときたが、理性で必死に怒りを抑える。
「これでしばらくは大丈夫だろ」
男が指差す先に視線をやると、透けていたエリナの手が元に戻っていることに気付く。
「しばらくって、いつまでよ」
おそらく男のおかげで難を免れたのだろうとわかってはいるものの、悔しさが全面出て素直に礼を言えずぶっきらぼうな口調になる。
「さあ?」
「はあ!?」
男は悪びれる様子もなく平然と答えた。
「だって知らねえもん」
「けどじゃあなんで……」
キスで症状が落ち着くとわかったのか。
そのエリナの質問を先読みした男がいくつかの書物を机に置いた。
「お前の特徴が伝承の“渡り人”そのままなんだよ」
男が顎で本を指す。
エリナは一番上のものを手に取った。
馴染みのない文字が書かれているが、不思議と意味が理解できた。
不気味さを感じながらもページをめくっていく。
「……どういうこと」
渡り人は異世界人。
時折現れては知恵を授けていく。
などと、そこにはおとぎ話のような内容が羅列されている。
その中でひと際衝撃的な内容にぶち当たる。
「“渡り人は元の世界に戻ることはできず、この世界で生きながらえることができず消滅する”……消滅って、じゃあ私は死ぬしかないってこと?」
「続き読め」
エリナの焦りを無視して男は淡々と促す。
「“ただひとつ消滅を回避する方法がある。それは”……」
“この世界の人間の体液を摂取する”
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