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「いい天気でよかったね」

 バスケットを持ったロキが嬉しそうに笑う。

 おだやかな昼下がり、旅館の近くにある湖のまわりをクレオとロキは散歩していた。

「このあたりでいいかな」

 適当な木陰を見繕い敷物を広げる。

「ここで食べようか」

「うん、楽しみね」

 旅館から近辺の散策を勧められて軽食も準備してもらった。

「オニギリっていうお米を握ったものだって」

 ロキがバスケットから大きな葉で包まれたなにかを取り出す。

「葉っぱ?」

「不思議な包みだね」

 葉を縛っていた紐を解くと、中からまっしろな三角形が現れた。

 よく見ると小さな粒がみっちりと密集している。

 艶やかに輝く様が美しくて、思わず至近距離で観察してしまう。

「すごくつやつやだね」

 感嘆の声にロキを振り返ると、彼もクレオと同じように食い入るようにオニギリを見つめていた。

 視線に気付いたロキと目が合う。

「僕たち同じことしてる」

 どちらからともなく吹き出し笑い合った。

「いただきます」

 カトラリーを使わずそのままかぶりつくのが作法だと聞き、思い切って三角の頂点へ齧りつく。

 ほどよい塩味の後、噛みしめるごとに甘味が広がった。

 食べ進めていくと中から焼き魚の身が現れる。

 米との相性は抜群で、ふたりともあっという間に平らげてしまった。

 お腹も満ち、クレオとロキはなにをするでもなく並んで湖を眺めていた。

 そよ風が木々を揺らし穏やかな音色を立てている。

 湖の水面が陽を反射してきらきら輝く。

 景色を眺めていると、にゃあ、とかわいらしい鳴き声が聞こえた。

 いつの間にかクレオの隣に黒猫が座っている。

「あら、こんにちは」

 クレオは人差し指を伸ばして猫の鼻先に近付けた。

 猫はすんすんと匂いを嗅いだ後、クレオの手に額を擦りつけ親愛を示す。

 首元を撫でてやれば喉をごろごろ鳴らし始めた。

「人懐っこいね」

 すでにクレオの膝の上で丸くなり始めていた猫に、ロキも人差し指を伸ばす。

 シャア、と威嚇が返ってくる。

「ええ、なんで……」

 猫に拒絶されてロキが眉を下げた情けない顔をする。

「さては雄だろこいつ」

 子供のような拗ね方をするロキが微笑ましくて、クレオは思わず吹き出した。

「膝まで独占して……クレオちゃんは僕の奥さんなんですけど」

 まだ諦めていない様子のロキはちょいちょいと指を猫の前で振る。

 そのたびに鋭い猫パンチが飛ぶが、ぎりぎりのところでロキはかわす。

「なんだかんだ仲良いじゃな……」

 クレオが言い終わる前に再び猫は威嚇の声を上げ、ぴょんと飛びどこかへ走り去ってしまった。

「仲良くなれなかったね」

「僕、昔から動物にはあんまり好かれないんだよね」

 空いたクレオの膝にロキが頭を乗せる。

 さらりと流れた金髪に指を添わせ優しく撫でた。

「そのおかげでクレオちゃんの膝枕を奪還できたわけだけど」

 ロキが無邪気に笑う。

 幸福と愛しさが込み上げ、身を屈めて触れるだけのキスを送った。

「ずっとロキだけの膝枕だよ」

 クレオの不意打ちに一瞬放心していたロキだが、すぐに表情をゆるめて柔らかく微笑んだ。

「うん、ずっと僕だけのものでいてね」

 頬に触れるロキの指先が優しい。

「うん」

 頬を包む掌の温かさが沁み入るようで心地よかった。

 
 
 
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