22 / 26
22
しおりを挟む「いい天気でよかったね」
バスケットを持ったロキが嬉しそうに笑う。
おだやかな昼下がり、旅館の近くにある湖のまわりをクレオとロキは散歩していた。
「このあたりでいいかな」
適当な木陰を見繕い敷物を広げる。
「ここで食べようか」
「うん、楽しみね」
旅館から近辺の散策を勧められて軽食も準備してもらった。
「オニギリっていうお米を握ったものだって」
ロキがバスケットから大きな葉で包まれたなにかを取り出す。
「葉っぱ?」
「不思議な包みだね」
葉を縛っていた紐を解くと、中からまっしろな三角形が現れた。
よく見ると小さな粒がみっちりと密集している。
艶やかに輝く様が美しくて、思わず至近距離で観察してしまう。
「すごくつやつやだね」
感嘆の声にロキを振り返ると、彼もクレオと同じように食い入るようにオニギリを見つめていた。
視線に気付いたロキと目が合う。
「僕たち同じことしてる」
どちらからともなく吹き出し笑い合った。
「いただきます」
カトラリーを使わずそのままかぶりつくのが作法だと聞き、思い切って三角の頂点へ齧りつく。
ほどよい塩味の後、噛みしめるごとに甘味が広がった。
食べ進めていくと中から焼き魚の身が現れる。
米との相性は抜群で、ふたりともあっという間に平らげてしまった。
お腹も満ち、クレオとロキはなにをするでもなく並んで湖を眺めていた。
そよ風が木々を揺らし穏やかな音色を立てている。
湖の水面が陽を反射してきらきら輝く。
景色を眺めていると、にゃあ、とかわいらしい鳴き声が聞こえた。
いつの間にかクレオの隣に黒猫が座っている。
「あら、こんにちは」
クレオは人差し指を伸ばして猫の鼻先に近付けた。
猫はすんすんと匂いを嗅いだ後、クレオの手に額を擦りつけ親愛を示す。
首元を撫でてやれば喉をごろごろ鳴らし始めた。
「人懐っこいね」
すでにクレオの膝の上で丸くなり始めていた猫に、ロキも人差し指を伸ばす。
シャア、と威嚇が返ってくる。
「ええ、なんで……」
猫に拒絶されてロキが眉を下げた情けない顔をする。
「さては雄だろこいつ」
子供のような拗ね方をするロキが微笑ましくて、クレオは思わず吹き出した。
「膝まで独占して……クレオちゃんは僕の奥さんなんですけど」
まだ諦めていない様子のロキはちょいちょいと指を猫の前で振る。
そのたびに鋭い猫パンチが飛ぶが、ぎりぎりのところでロキはかわす。
「なんだかんだ仲良いじゃな……」
クレオが言い終わる前に再び猫は威嚇の声を上げ、ぴょんと飛びどこかへ走り去ってしまった。
「仲良くなれなかったね」
「僕、昔から動物にはあんまり好かれないんだよね」
空いたクレオの膝にロキが頭を乗せる。
さらりと流れた金髪に指を添わせ優しく撫でた。
「そのおかげでクレオちゃんの膝枕を奪還できたわけだけど」
ロキが無邪気に笑う。
幸福と愛しさが込み上げ、身を屈めて触れるだけのキスを送った。
「ずっとロキだけの膝枕だよ」
クレオの不意打ちに一瞬放心していたロキだが、すぐに表情をゆるめて柔らかく微笑んだ。
「うん、ずっと僕だけのものでいてね」
頬に触れるロキの指先が優しい。
「うん」
頬を包む掌の温かさが沁み入るようで心地よかった。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
329
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる