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 寝室の扉が開く気配に、クレオの意識はまどろみから浮上した。

 ベッドが沈み、隣に潜り込んでくる気配。

「ごめん。起こしちゃったね」

 そこには疲れた顔をしたロキの姿。

 彼は年に一度の繁忙期で毎日深夜の帰宅になっている。

「大丈夫だよ。今日もお疲れ様」

 ロキの頬を撫でながら声を掛ける。

「ありがとう」

 クレオの掌にロキが唇を押し付けた。

「最近一緒に帰れてないけど、なにか変わったことはない?」

 ロキの残業で恒例のお迎えは今はない。

 繁忙期が落ち着くまで、という期限付きでクレオはひとりで帰っている。

 朝は一緒に出勤しているものの、たまにロキだけ早く出なければいけない日があったり、とふたりで過ごす時間は確実に減っていた。

「いつも通り。平和だよ」

「よかった」

 ベッドに入ったばかりだというのに、すでにロキの瞼は閉じてしまいそうだった。

「ゆっくり眠って」

 彼の髪を優しく撫で促す。

「ん……」

 ロキの胸に抱きすくめられた。

 彼の甘い香りが鼻腔に広がる。

 随分と久し振りにロキの匂いを感じた気がした。

 毎年のこととはいえ、やはり寂しさが募る。

 夜の営みも繁忙期に入ってめっきりなくなった。

 残業続きのロキに無理をさせたくないので、クレオからねだることはしていない。

 頭上からすうすうと穏やかな寝息が聞こえる。

 ロキはすでに寝入っているようだ。

 抱き締められて眠る以上の触れ合いを求めてしまいそうな身体を抑え込み、彼の胸に顔を埋めてぎゅっと目を閉じた。




「ま、間に合った……」

 玄関からばたばたと慌ただしい音がした。

 何事かと見に行くとロキがうずくまり、髪は乱れ肩で息をしている。

「おかえりロキ。大丈夫? なにかあった?」

 荒ぶる彼の髪を手櫛で整える。

「今日は早く終われたからね。急いで帰ればクレオちゃんと夕飯一緒に食べられると思って」

 走ってきた、と破顔するロキは疲れは見えるものの心底嬉しそう。

 自身との食事のために頑張ってくれたことが嬉しくて、胸がきゅんとする。

「お疲れ様。もうすぐ準備できるよ。先にお風呂入ってきて」

 彼の背に腕を回しぎゅっと抱き締める。

「うん。ありがとう」

 ロキの大きな手がクレオの髪を撫でた。

 額にキスが降り、ほんのりと頬を染めた彼は幸せそうに表情を緩めた。




「いただきます」

「いただきます」

 ふたりで向かい合って食事をするのはいつ以来だろう。

 普段と変わらないメニュー、他愛もない会話。

 特別な内容などないが、ロキと一緒というだけで心が温かくなる。

「一緒に食事できてよかった」

 ベッドの中、すでにうつらうつらし始めているロキはもう目が半分しか開いていない。

「私も嬉しかった」

 顔を寄せ、唇に触れるだけのキスを送る。

「……っああもう」

 急に呻いたロキはクレオを力強く抱き寄せた。

「もっとクレオちゃんと居たいよ……」

 弱々しくロキが呟く。

「うん、私もだよ」

 彼の背中に腕を回し、慰めるようにゆっくりと撫でる。

 自身よりも大きな背中なのに、今は少し小さく感じられた。

 温もりに包まれて、いつの間にか眠りに落ちていった。




 ふと体になにかが触れている感覚に目を覚ます。

 胸のあたりがもぞもぞしている。

 横を向いて寝ているクレオをロキが背後から抱き締めていた。

 そっと振り向き彼を確認する。

 彼が起きている様子はない。

 クレオはもう一度目を閉じ寝入る体制になる。

「っ……」

 体に回されたロキの手が胸の先端をかすめた。

 覚束ない手つきだが、確実に尖りを探っている動き。

「ロキ、起きてる?」

「……」

「ロキ?」

「ん……」

 それ以上の返事はなく、次第に手の動きも止まった。

 寝ぼけていただけのようだ。

 気を取り直して再び寝ようとするが、ロキの手がそれを阻む。

 緩慢な動きでふくらみを撫で、時折尖りを擦っていく。

 いつもと違う粗雑な愛撫。

 痛みはないがじれったい彼の手に、クレオの体は熱を帯び始めてしまった。

 不安定に与えられる刺激に翻弄される。

「っふ、ぁ……」

 久々に触れられたということもあり、口元を手で塞いでも甘ったるい吐息が零れてしまう。

 愛撫は断続的でなので、本当に寝ぼけているだけだろう。

 ロキを起こしてしまうのは気が引けたので必死で声を押し殺す。

「ッ!」

 腰のあたりに硬い感触が当てられた。

 おそらく昂った彼の杭。

 ゆるく揺すりながら押しつけてくるそれは見なくてもわかるほど主張している。

 緩慢で不規則な動きは変わらない。

 ロキはクレオに声を掛けずに勝手にこんなことをする人ではない。

 夢でも見ているのか、そう思いクレオは声が洩れないよう細心の注意を払う。

 が、久々に感じた彼の熱に体はすぐに期待をしてしまう。

 秘処が物欲しげにひくついた。

 思い切って体を反転し彼に向き合う。

 瞼は閉じられたまま、若干眉が寄せられているが眠っている。

「これじゃ苦しいよね」

 夜着越しに彼の昂ぶりへ触れる。

 ぴくりとロキが肩を震わせた。

「楽にしてあげるから」

 添わせた指先をゆっくり上下に動かす。

「っ、……ん」

 ロキの唇から艶かしい吐息が零れ始めた。

 擦るたびに怒張が震え硬さを増していく。

 先端を抑えてきゅっと力を込めた。

「ぅ、ッ……ぇ、クレオちゃん?」

 びくりと彼の腰が跳ね、ゆっくりと瞼が開かれた。

 扇情的に歪んだ表情はそのままだが、状況がまだ飲み込めていないといった困惑した顔をしている。

「これ、つらそうだったから」

 軽く摩ると状況を理解した彼が慌て始める。

「っ、ぁ、離してクレオちゃん」

 構わず手を動かすとロキは甘い吐息を零した。

 制止する手には力が入っておらず、ますます気持ちよさそうな表情になる。

「自分、で……するから」

 ロキが弱々しい声で抵抗する。

「させて?」

 彼を押し切り夜着の中へ手を忍ばせる。

「ッ……」

 手が掴まれ引き剥がされた。

 やりすぎたかと彼を窺うが、嫌がるような表情ではなく瞳は興奮を宿していた。

「そのままだとクレオちゃんの手、汚しちゃうから」

 チェストを探ったロキは避妊具を出してくる。

「これで、触ってくれる?」

 興奮を隠し切れていないのに控えめにねだってくる彼が愛おしくて胸がときめく。

 頷き避妊具を施した杭に触れる。

 夜着越しとは比べ物にならないくらい熱い。

 ぱんぱんに膨れた先端を軽く握り親指で撫でた。

「っん、ふ……」

 ロキがくぐもった吐息を洩らす。

 自身の手に素直に反応し感じている彼が可愛くて夢中で手を動かした。

「ぁ、クレオ、ちゃん……っ、すぐ、出そ……」

 瞬く間に彼は果て、怒張から熱が出されていく。

 快感に浸り眉を寄せるロキの表情が色っぽくて目が離せない。

「っ……ありがとう、クレオちゃん」

 触れるだけのキス。

「クレオちゃんも……」

「今日はいいよ」

 手を伸ばしてきたロキを制止する。

「でも」

 そう言いつつも彼の目はとろんとして今にも眠ってしまいそうだった。

「今度、仕事が落ち着いたらいっぱいして? ね?」

「ん……」

 再び唇が触れ合う。

 ロキはなにか言いたげだったが睡魔に屈し、あっという間に寝息を立て始めた。

 身体の熱はくすぶったままだが、愛しい人を満足させられたという充実感でクレオの心は温かくなった。




 朝の準備を整え玄関に向かうと、先に居たロキがなにやら不機嫌そうな顔をしている。

「なにかあったの?」

 近付いて見ると、不機嫌というより落ち込んでいる様子。

「自分が情けなくて」

「なにが?」

「昨日……」

 ロキは自分だけ果てて眠ってしまったことを悔やんでいるようだった。

「あれは私から始めたわけだし」

「でも、悔しい」

 クレオの返事を待たずに抱き寄せられた。

 いつものハグとは違って力強い。

「繁忙期が終わったら絶対何倍も気持ちよくするから」

 耳元で甘く囁かれ、ちゅっと音を立ててキスをされる。

「いっぱいいっぱいイかせるから」

 濡れた舌で耳の輪郭を愛撫された。

 熱いざらつきに瞬く間に体が疼く。

「楽しみにしててね」

 先程までのしゅんとした子犬のような姿は消え失せ、艶かしくかすれた低音で囁かれる。

「ッ! ずるい」

 顔を赤くしたクレオの反応に満足したのか、ロキは楽しそうに笑った。


 
 
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