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しおりを挟む「それじゃあ出ようか、クレオちゃん」
休日はあっという間に過ぎ、また労働の一週間が始まる。
「お待たせ」
玄関で準備を整え終えていたロキに追いつく。
「はい、今日のハグ」
「うん」
いつもの日課、出勤前のハグを交わす。
「この週末、ちょっと無理させちゃったね」
ロキの手がクレオの肩から背骨をなぞって腰を撫でる。
「っ……」
クレオの体がぴくりと跳ねた。
「腰とか、体どこか痛くない?」
ロキは掌全体をクレオの腰に押し当てゆっくりとさする。
「ん、っ、大丈夫」
慈しむ行為のはずなのに、週末に愛され尽くしたクレオの体はただ撫でるだけの手にすら反応してしまう。
これから出勤という時に劣情を暴走させるわけにはいかない。
耐え忍ぶあまり眉間に深い皺を寄せ歯を食いしばっていた。
「険しい顔」
ロキの指先がクレオの眉間に押し当てられぐいぐい押す。
「ほら、リラックスして?」
頬に彼の両手が添えられ包まれる。
掌の温かさと柔らかなロキの微笑みでふっとこわばりが解けていった。
「うん、ありがとう」
彼の手に自身のそれを重ねた。
ロキの顔が寄る。
口付けの予感を感じクレオは目を伏せた。
間もなく柔らかな唇が触れる。
角度を変え何度も感触を味わう。
気の済むまで堪能したところでクレオから顔を離そうとした。
が、頬を包むロキの手がそれを許さず再び距離を縮められる。
先程までの穏やかなキスとは打って変わって荒々しく唇を貪られた。
強引に舌が割り入りクレオの口内がくまなく犯されていく。
絡み合う粘膜の感触が心地よくて足から力が抜けそうになる。
すかさずロキの腕が背に回り支えられた。
クレオがくたりと脱力した後も口付けは続いた。
くちゅくちゅと卑猥な水音を立てて口内が舐め上げられていく。
「……ごちそうさま」
解放された頃にはクレオの体は快楽に浸りきっていた。
「えっちな顔」
ぐずぐずになったクレオを見てロキが満足そうに微笑む。
「でも、そんな色っぽい顔は他の人に見せないでほしいな」
クレオ自身は無自覚なので戸惑う。
「ちょっと真剣な表情してみて」
「真剣な……」
唐突な彼のおねだりに困惑しながらも試みる。
「こ、こうかな……」
適当に眉間に皺を寄せてみた。
「だめ。かわいい」
寄った皺にキスが降る。
「口角下げてみて」
「口角……」
「ちょっと目を見開いて」
「こう?」
言われるがまま表情を動かしていく。
「うん、それならまあ許そうかな」
なかなかに顔面の筋肉を使う。
「間違ってもさっきみたいなえっちな顔しちゃだめだからね」
「え、う、うん……」
正直どの顔のことかわからないままだったがとりあえず話を合わせた。
「それじゃあ、また迎えに来るから」
「うん、いってらっしゃい」
クレオの職場の前に到着しロキを見送る。
「おはようございます、クレオさん。……あれ?」
同僚がクレオの顔を見るなりなにか思案する顔になる。
「クレオさん、なんだかいつもと雰囲気違いますね」
「え?」
「まとう雰囲気がふわふわというか、なんとなく色っぽいというか……」
家でのロキの言葉を思い出し、慌てて練習した険しい顔をする。
「あはっなんですか急に。おもしろい顔」
同僚は笑ってさっさと自身の持ち場に移動していった。
「そんなに顔に出てるんだ、私」
眉間の皺をより一層深く刻み、クレオは自身の持ち場へ向かった。
「あ、今日も旦那さんお迎え来てますね……ってなんであんなに笑ってるんだろ」
同僚の言葉にクレオは入り口を見る。
確かにそこには無邪気に笑うロキの姿があった。
「さあ……? それじゃあお疲れ様でした」
理由の見当はつかないが、笑い続ける彼を長時間そのままにしておくのはどうかと思い早々に退勤した。
「ロキ、どうしたの?」
クレオが出てきてもまだロキはおかしそうにしている。
「いやっ、なんでもないよ」
必死に堪えているようだが笑いが隠しきれていない。
どう考えてもなんでもない反応ではない。
「あらそう」
これ以上の詮索は無駄だと察し、クレオはさっさと歩き出した。
「ごめんってクレオちゃん」
慌てて追いかけてきたロキがクレオの手を握る。
「変な意味じゃなくて、嬉しかったんだ」
「なにが?」
彼を喜ばせた覚えは欠片もない。
「朝言った通り険しい顔してたから、今日一日気を付けてくれてたんだって思って」
「なにそれ」
確かに表情に緊張感を持たせた日だった。
「かわいくてえっちなクレオちゃんの表情、誰にも見せずに守ってくれたんだね」
「ッ!」
繋いだ手を引かれ、その勢いでロキにもたれかかる体勢になった。
「ありがとう」
ちゅっと軽い音を立ててこめかみにキスが降った。
「……っ!」
「あ、またかわいい顔になっちゃった。ほら、眉間に皺寄せて?」
「えっこ、こう?」
咄嗟に反応してしまう。
「うん。クレオちゃんのかわいい顔は僕だけが知ってればいいから」
正直表情管理は気を遣うが、ロキがあまりにも嬉しそうに笑うのでまあいいかと思えた。
「あ、こっちのりんごすごくいい色」
「っ、そうだね」
「葉物野菜も欲しいね。見に行こうか」
「う、ん……」
職場からの帰り道に市場に立ち寄り、ふたりで食材を選んでいた。
いつも通りの行動、いつも通りの会話。
ただひとつ違うのはロキの指先。
普段から手を繋いではいるが、今日はやたらと彼の指が肌を撫でる。
最初は気にならなかったのに、じっくりさすられるたびに全身を愛撫された記憶を思い出して身体が勝手に悦を生み始めた。
「あ、これ瑞々しいね」
ロキはいたって普通に喋る。
なのに彼の親指はクレオの指をじっくり撫で上げ煽ってくる。
これまでならくすぐったいと一喝できていただろうが、彼と交わり執拗に愛された体はロキに触れられただけであの快楽を思い出してしまう。
「これにしようか。ね? クレオちゃん」
「そう、だね」
ロキの瞳が楽しげに細められている。
一緒に買い物を楽しんでいるだけではない表情。
確信犯だ。
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