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しおりを挟むクレオは自身の思考に驚いた。
いつもより冷たい声色のロキを目の前にして、恐怖よりも喜びが勝っていることに少なからず動揺する。
「じゃあ、行こうか」
クレオが思考に囚われていると、おもむろに手を引かれた。
「行くって、どこに?」
「浴室だけど」
当然のようにロキが答える。
付着した匂いを落とすために湯を浴びる、ここまではわかる。
だが、目の前のロキはあきらかに一緒に入るつもりだ。
「えっ、でも……」
これまで一緒に風呂に入るどころか肌をさらしたこともない。
今の状態でいきなり一緒に入浴はハードルが高すぎる。
「そんな急に……」
「夫婦だし、だめ?」
小首を傾げてきらきらとうるむ瞳を向けられる。
ここまで食い下がるロキは珍しい。
「っ……こっちを見ないなら」
捨てられた子犬のような視線に、クレオは押し負けてしまう。
ロキが先に体を洗って湯舟に入り、その後クレオが入ることになった。
「絶対あっち向いててね」
何度も念を押しながら石鹸を泡立て手早く肌に乗せていく。
急いで体を洗いながらふと我に返った。
このままでは一緒に湯に浸かることになるのでは、と。
広い湯舟ではないので必然的に距離が近くなる。
急に羞恥が沸き上がった。
「じっじゃあロキはゆっくりしててね」
慌てて泡を流し脱出を試みる。
「なんで?」
いつの間にかクレオの手首はロキに捕まっていた。
振り返るとばっちり目が合う。
「あっち向いててって言ったのに」
「向いてたよ? でもクレオちゃんが出ていく気配がしたから」
悲しそうな顔をするロキに罪悪感が湧く。
「一緒に入ろう?」
「……う、うん」
彼を置いて出ようとしたことが後ろめたく感じられて、それ以上は反論できなかった。
「ここ、座って?」
彼の足の間を示される。
タオルで隠されているとはいえ、さらされるロキの素肌に目のやり場に困る。
「早くおいで? ね?」
自身に巻いたタオルを握り締め、クレオは意を決して湯に足を踏み入れた。
向かい合う勇気はなく、ロキに背を向けてゆっくりと浸かる。
「遠いよ」
湯の中で膝を抱えて縮こまっていると、背後から彼の両腕で包まれ引き寄せられた。
背中にロキの肌を感じる。
どくどくと強く打つ鼓動はクレオと同じくらい速かった。
ロキは鼻先をクレオの耳の裏に埋め匂いを嗅いでいる。
「……うん、いつもの匂い」
耳裏の皮膚が薄い部分に彼の唇が触れた。
思わずびくりと肩が跳ねる。
そのままロキの唇が下がっていき首筋をなぞっていく。
誰かに触れられたことのない場所への愛撫に、クレオは緊張を隠せなかった。
触れてもらえることは嬉しいが、すべてが初めてのことばかりで体が硬くこわばってしまう。
「いきなりごめんね」
ロキの悲しげな声がした。
「クレオちゃんが知らない臭い付けてるのが悔しくて、みっともなく嫉妬しちゃった。無理矢理お風呂とか、ごめんね」
表情は見えないが、声色からロキが落ち込んでいることが伝わる。
「そんなことない」
想像とは違ったが、初めて彼と触れ合えたことは素直に嬉しい。
「やきもちを焼いてもらえるの、ちょっと嬉しいかも」
クレオはロキを振り返り微笑むと、彼は目を見開いて驚いたがすぐに笑顔になった。
「ねえクレオちゃん。キスしていい?」
「うん」
ゆっくりと顔が近付き唇が重なる。
初めてのキスは想像よりも柔らかくて心地いい。
「キスより先に一緒にお風呂って、なんだか順番がおかしいね」
鼻先が触れ合いそうな距離でロキが笑う。
「そうだね」
つられてクレオの頬も緩んだ。
「キス、もっとしたいな」
ロキの手がクレオの頬を包む。
「ん、私もしたい」
再び唇が重なる。
触れ合う柔らかさが気持ちよくて、夢中で彼の唇を食んだ。
ふと唇に濡れたものが触れる。
ロキの舌が遠慮がちにクレオの唇へ割り入ってきた。
噛んでしまわないように口を開け受け入れる。
「っ……」
舌先に彼のざらつきが触れて反射的に吐息が洩れる。
熱く濡れた感触に擦られ背中が甘く痺れた。
気持ちよくてもっと欲しくて、夢中でロキの舌を追いかけ絡める。
ちゃぷり、と水面を揺らしてロキがクレオを強く抱き寄せた。
熱い肌がさらに密着する。
クレオは腰に当たるなにかに気が付いた。
硬く張り出した質量、触れる位置からそれがなにであるかはすぐにわかった。
彼の昂ぶりを肌身で感じるのは初めてで、こんなにも主張するものなのかと驚く。
同時にこれが自身を割り開いていくことを期待して下腹部がきゅんとひくついた。
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