犬系バーテンダーは薬師の彼女を溺愛する

山吹花月

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「エラさん、この二週間どうでしたか?」

 交わりの後、まだ力が入らないエラはくたりとベッドに沈み込んだまま。

 その腕をイリオが温かいタオルで拭きながら問う。

「どうって?」

 抽象的で質問の真意がわからなかった。

「えっと……」

 もじもじしてどうも煮え切らない。

 なにか言い出しにくいことでもあっただろうか。

「不便はありませんでしたか?」

「特にないよ」

「気になる事とか……」

「ないかな」

「ここ直してほしいなあとか、僕に対して」

「ないけど。どうしたの?」

「っ、あの」

 しばらく口ごもったイリオだが、意を決した表情で口を開いた。

「このまま一緒に暮らしませんか? この家で」

 エラにとって願ってもない申し出だ。

 現自宅の修繕がどのくらいかかるかわからないし、店もあるのでゆっくり新居を探す時間的余裕も少ない。

 なによりイリオと過ごす時間が増えるのは喜ばしいことだった。

 嬉しさが込み上げて顔がにやついてしまう。

 イリオは拭いている腕に視線を落としているのでエラの顔は見えていない。

 だらしない表情がばれていないようで内心ほっとする。

 緩んだ頬を必死に引き締めた。

「急な話ですよね。すいません」

 沈黙に耐えきれなかったのか、イリオが先に喋り始めた。

「でも、僕はエラさんとの生活が楽しいし、一緒に居られる時間が長くなるのも嬉しいです。一緒に住まなくても次の家が決まるまで好きなだけ居てもらっていいですし、それに」

「イリオ」

 言葉が止まらない彼の手を握り制止する。

 不安そうに眉をひそめたイリオと視線が合う。

「私も楽しいなって思ってた。これからも一緒に過ごせるならどんなにいいかって」

 息を飲んでエラの次の言葉を待つイリオ。

 触れた手にはきゅっと力が込められた。

「是非、お願いします」

 彼を安心させたくて、出来るだけ穏やかに笑って見せた。

 悲痛だった彼の顔がみるみる笑顔になる。

「はい! 幸せにします!」

「なんかそれだとプロポーズみたい」

「それはまた改めて」

 思わぬ返事にエラは放心する。

 言った本人は気付いていないのか確信犯なのか、鼻歌交じりにエラの体を拭いている。

 この浮かれよう、おそらく無自覚。

 いつかプロポーズをされるのか。

 意識させられてしまってなんだか緊張してしまう。

 正直嬉しい。

「早めにお願いね」

 この緊張が続くのは心臓に悪い。

「ん? なんですか?」

「なんでもないよ」

 イリオが嬉しそうなのでまあいいか、と笑いが込み上げた。

「今日はゆっくりするとして、今度の休みに買い物に行きませんか? エラさんの物を新調したいです」

「いいよ、そんなわざわざ。今の家にある物、持ってきてもいいかな?」

「もちろんです。でも折角の新生活なんで、なにか記念がほしいなあ」

「お揃いの食器とか揃えてみる?」

 柄でもないが、冗談で言ってみる。

「いいですね! 賛成です。食器の他にもいろいろ揃えたいなあ」

 予想に反して乗り気な答えが返ってくる。

 はしゃぐ子犬のようにぶんぶんと振り回す尻尾が見えた気がした。

「これからよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくね」

 触れるだけのキスを交わす。

「大好きです。エラさん」

 細められた青い瞳から慈愛が注がれているような気分になる。

 これから毎日、この愛しい瞳を見つめることが出来る。

 その未来を想うと、幸せで胸が高鳴った。

 

 
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