18 / 32
18
しおりを挟む夕食を終え、ふたり向かい合いハーブティーを楽しむ。
いちゃいちゃしたい、などと口走ってしまったが、実際なにをどうしたらいいのかレンリ自身さっぱりわかっていない。
当初の、ランジに頼ったり甘えたりするという目的とは若干ずれてしまっているが、彼とコミュニケーションを取るという意味ではほぼ同義だと自分に言い聞かせる。
とりあえず、テーブルに乗せられたランジの手を握ってみた。
「っ、なんだ」
瞬時に彼の体が大きく跳ねた。
想像以上の驚き方にレンリもびっくりする。
「あの……自分で言ったはいいものの、いちゃいちゃがわからなくて」
情けない声色になってしまった。
これまでいちゃいちゃすることを目的に行動を起こしたことはなかった。
ランジの反応の検証や体調不良の不可抗力ばかりだ。
自分から行動したとはいえ、気まずさと羞恥でカップから顔を上げることが出来ない。
「俺も……わからない」
ランジの声もレンリと同じく情けなくなっている。
沈黙がむずがゆい。
「指にキスとかしてたくせに」
静寂に耐えきれず、皮肉っぽく心の声が出てしまう。
「いや、あれはつい……勢いがついてしまったというか」
ランジの声は語尾にいくにつれどんどん声は小さく弱くなっていった。
ちらと盗み見ると、大きな背中を丸めて俯き視線を泳がせている。
微笑ましい彼の姿に、少しからかいたくなった。
「随分こなれているのね」
「そんなわけないだろう」
「慣れてない人が指にキスする?」
「っそれは……」
ランジが言葉を止め、ここで応酬は終わる。
レンリは、自身の中に好きな人にいじわるしたくなる感情があったことに驚いた。
「ランジはなにかしたいことある?」
さすがに申し訳ない気持ちが湧き、ランジに尋ねる。
「したいこと?」
「そう、わたしと」
「…………」
再びランジが押し黙る。
ふっと顔を上げた彼と視線が絡むが、不自然にそらされた。
なにかを誤魔化したい時の表情に近い。
「なにかあるのね?」
「いや、そういうわけでは」
ランジの視線がせわしなく泳ぐ。
触れていた手が逃げようとするので、逆に掴んで引き寄せた。
「なに考えてる?」
顔をぐっと寄せ真正面から彼を見据える。
黄金の瞳が動揺で揺れている。
「私としたいこと、あるんでしょ? しようよ」
ぐっと喉を鳴らしたランジ。
少しの沈黙の後、堪えかねたようにランジが深いため息をついた。
「……レンリは本当に。そういうところだからな」
「なにが?」
「なんでもない」
「なんでもなくないでしょ? ため息ついてたし」
「それより、今の、他の男に言ったりしてないよな?」
「は? 言うわけないわよ」
「ならいいが……」
「言ったらなにかあるの?」
「…………別になにも」
あきらかになにかある時の間だ。
「教えてよ」
「嫌だ」
「なんでよ」
「さあな」
さっきまでは焦るランジを言い負かしていたのに、今では形勢逆転。
勝てる糸口が見つからない。
「なんなのもお!」
ランジの言葉の意図がわからず頬を膨らませた。
ふっと笑ったランジの指先が頬をぷにぷにと押してくる。
誤魔化されてしまった気はするが、レンリの頬の感触を楽しむランジが嬉しそうなので、今回は見逃すことにした。
10
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説

皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。
[完結]想ってもいいでしょうか?
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
貴方に逢いたくて逢いたくて逢いたくて胸が張り裂けそう。
失ってしまった貴方は、どこへ行ってしまったのだろう。
暗闇の中、涙を流して、ただただ貴方の事を考え続ける。
後悔しているの。
何度も考えるの。
でもどうすればよかったのか、どうしても分からない。
桜が舞い散り、灼熱の太陽に耐え、紅葉が終わっても貴方は帰ってこない。
本当は分かっている。
もう二度と私の元へ貴方は帰ってこない事を。
雪の結晶がキラキラ輝きながら落ちてくる。
頬についた結晶はすぐに溶けて流れ落ちる。
私の涙と一緒に。
まだ、あと少し。
ううん、一生でも、私が朽ち果てるまで。
貴方の事を想ってもいいでしょうか?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人
通木遼平
恋愛
アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。
が、二人の心の内はそうでもなく……。
※他サイトでも掲載しています

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」
まほりろ
恋愛
聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。
だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗
り換えた。
「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」
聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。
そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。
「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿しています。
※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。
※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。
※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。
※二章はアルファポリス先行投稿です!
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます!
※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17
※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる