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しおりを挟む夕食を終え、ふたり向かい合いハーブティーを楽しむ。
いちゃいちゃしたい、などと口走ってしまったが、実際なにをどうしたらいいのかレンリ自身さっぱりわかっていない。
当初の、ランジに頼ったり甘えたりするという目的とは若干ずれてしまっているが、彼とコミュニケーションを取るという意味ではほぼ同義だと自分に言い聞かせる。
とりあえず、テーブルに乗せられたランジの手を握ってみた。
「っ、なんだ」
瞬時に彼の体が大きく跳ねた。
想像以上の驚き方にレンリもびっくりする。
「あの……自分で言ったはいいものの、いちゃいちゃがわからなくて」
情けない声色になってしまった。
これまでいちゃいちゃすることを目的に行動を起こしたことはなかった。
ランジの反応の検証や体調不良の不可抗力ばかりだ。
自分から行動したとはいえ、気まずさと羞恥でカップから顔を上げることが出来ない。
「俺も……わからない」
ランジの声もレンリと同じく情けなくなっている。
沈黙がむずがゆい。
「指にキスとかしてたくせに」
静寂に耐えきれず、皮肉っぽく心の声が出てしまう。
「いや、あれはつい……勢いがついてしまったというか」
ランジの声は語尾にいくにつれどんどん声は小さく弱くなっていった。
ちらと盗み見ると、大きな背中を丸めて俯き視線を泳がせている。
微笑ましい彼の姿に、少しからかいたくなった。
「随分こなれているのね」
「そんなわけないだろう」
「慣れてない人が指にキスする?」
「っそれは……」
ランジが言葉を止め、ここで応酬は終わる。
レンリは、自身の中に好きな人にいじわるしたくなる感情があったことに驚いた。
「ランジはなにかしたいことある?」
さすがに申し訳ない気持ちが湧き、ランジに尋ねる。
「したいこと?」
「そう、わたしと」
「…………」
再びランジが押し黙る。
ふっと顔を上げた彼と視線が絡むが、不自然にそらされた。
なにかを誤魔化したい時の表情に近い。
「なにかあるのね?」
「いや、そういうわけでは」
ランジの視線がせわしなく泳ぐ。
触れていた手が逃げようとするので、逆に掴んで引き寄せた。
「なに考えてる?」
顔をぐっと寄せ真正面から彼を見据える。
黄金の瞳が動揺で揺れている。
「私としたいこと、あるんでしょ? しようよ」
ぐっと喉を鳴らしたランジ。
少しの沈黙の後、堪えかねたようにランジが深いため息をついた。
「……レンリは本当に。そういうところだからな」
「なにが?」
「なんでもない」
「なんでもなくないでしょ? ため息ついてたし」
「それより、今の、他の男に言ったりしてないよな?」
「は? 言うわけないわよ」
「ならいいが……」
「言ったらなにかあるの?」
「…………別になにも」
あきらかになにかある時の間だ。
「教えてよ」
「嫌だ」
「なんでよ」
「さあな」
さっきまでは焦るランジを言い負かしていたのに、今では形勢逆転。
勝てる糸口が見つからない。
「なんなのもお!」
ランジの言葉の意図がわからず頬を膨らませた。
ふっと笑ったランジの指先が頬をぷにぷにと押してくる。
誤魔化されてしまった気はするが、レンリの頬の感触を楽しむランジが嬉しそうなので、今回は見逃すことにした。
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