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しおりを挟む「ランジ、これ終わった分ね? 運ぶわ」
いつもより家庭菜園の手入れが早く終わったので、レンリはランジの作業を手伝うべく彼の作業場に来た。
「待て」
散らばる薪に手をかけようとしたところを止められる。
「レンリの方は終わったのか?」
「ええ、早めに終わったわ」
「なら休んでろ」
「まだ元気だけど」
「明日に備えておけ」
「これを運ぶくらいなら疲れないよ」
「だめだ」
ここまでのやりとりでぴんとくる。
これはランジなりの優しさ。
どうやら彼はレンリを甘やかしたいと思っているらしい。
が、それをどう伝えていいかわからずに、結果強い言葉になってしまうようだ。
レンリがこれを察するまでに随分と時間がかかった。
思いを通じ合わせてから、やたらとランジが休むよう言ってくると感じていた。
最初はめまいを起こしたこともありそれを心配しているだけだと思っていたが、いつまでたっても休め休めと言い続けるので疑問だった。
わかりやすくレンリが元気でも、ことあるごとに先に家に入れだの早く寝ろだのと言う。
そんなに最近の自身の風貌は不健康なのかと落ち込んだが、鏡を見ても別段大きな変化はない。
ある日、頭痛でまっすぐ座っていることがつらく、ランジの肩に寄りかかったことがある。
頭痛はたまにあることなので、少し休めば治まることはわかっていたし彼にも伝えている。
その時、ランジは安堵したように頬をゆるめレンリの頭を撫で続けていた。
表情の意味はわからなかったが、穏やかだったのでひとまず気にせずに過ごした。
その後彼の様子を観察するに、レンリが寄りかかった時やなにかをお願いした時に表情が変わることに気付いた。
頼られるのが嬉しいのだろうか。
試しになにもない時に意味もなくもたれかかってみた。
「どうかしたか?」
「別になにも」
それ以上言葉は紡がず、ただ彼にもたれかかるだけ。
しばらくすると彼の手がレンリの頭を撫で始めた。
ちらりと表情を盗み見るとどこか嬉しそう。
もしかして、甘えられたのが嬉しかったのか。
ランジはただレンリに甘えてほしかっただけなのかもしれない、という結論に達した。
そう思うと彼の数々の発言も頷ける。
やたらと休めというのは、どう甘やかしていいのかわからずとにかく休めの言葉に集約されてしまっているのだろう。
手先は器用なのに意思表示がとてつもなく不器用。
それに気付いてからはわかりやすく甘えてみることにしている。
とはいえレンリも人間関係には不慣れ。
どう甘えたらいいのかもわからない。
「ふたりでやった方が早いし」
「俺ひとりでも急げば変わらない」
「急がなくていいよ」
「ならレンリが手伝う必要はない」
平行線に突入してしまった。
今回は会話のキャッチボールをしくじってしまった。
もう一歩踏み込んだ表現をしないと、このままでは一生伝わらない。
「ふたりでやって、早く終わらせたいんだけど……」
早く終わらせてふたりでのんびりする時間を作りたい、と言いたかったが、恥じらいが勝って随分と遠回しになってしまった。
「だから俺が急げば……」
やはりランジにはこれっぽっちも伝わっていない。
「だからあ!」
自身も口下手なので、レンリはもどかしさから思わず大きな声になってしまう。
「それだとランジが余計疲れるでしょう」
「問題ない」
「あるから言ってるの」
何度もシュミレーションしたはずなのに言葉がなめらかに出てこない。
「いちゃいちゃする元気、を……残しておいてって話で……」
甘えるうんぬんとは違う言い回しになってしまった。
自分で言ったとはいえ、いちゃいちゃという単語に照れてしまう。
「っ……」
目の前のランジも同じらしく、頬を赤くして目を見開いている。
「だっ、だから、ね? 一緒にさせて?」
試しに彼に甘えてみた時はなぜあんなにすんなりできたのか。
気持ちや希望を言葉にするのは難しく恥ずかしいなと改めて思う。
「あ、ああ……」
気まずくて照れくさくて落ち着かない、けれど悪い気分ではない沈黙の中作業を進めた。
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