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しおりを挟む夕食の準備をしながら、レンリはぼんやり考えた。
シーツに巻き込まれた日以来、なにかとランジに頭を撫でられている気がする。
朝、まだ寝ぼけている彼に声を掛けた時、眠そうに顔をしかめながらなにも言わずにぽんぽんと。
採取に向かうランジに水分と軽食を渡した時、髪を軽く撫でた後に感謝の言葉。
特に髪が乱れているわけでもないのに。
毎回意図が読めない。
嫌ではないのでなにも言わずに受け入れているが、気にはなる。
「ランジ、食事の準備出来たわよ」
キッチンのテーブルセットで向かい合って食事を摂ることが日課になっていた。
今日は腐りかけていた庭の柵を修繕してくれたランジ。
彼が入浴している間にレンリが夕食の準備をしていた。
一緒に準備をすることが増えていたが、こうして役割分担する日もある。
「ああ、ありがとう」
ほんのりと濡れた黒髪から雫を滴らせ、ランジがレンリに歩み寄る。
「今日も美味しそうだ」
夕飯の感想を言っているのに、肝心の料理の方は見ずレンリを見つめている。
まだ熱いままの彼の掌が頭に触れ、髪を撫でていく。
わずかに石鹸の匂いがした。
「まだ濡れてるわよ」
ランジの肩からタオルを奪い、彼の頭をわしゃわしゃ拭く。
レンリが拭きやすいように彼は腰をかがめた。
たまに自身に無頓着になる彼。
そのたびについつい世話を焼いてしまう。
おせっかいかとも思ったが、ランジがなにも言わずに受け止めてくれるので続けさせてもらっている。
「いただきます」
手をそろえて挨拶をし、食事を始める。
共に過ごす時間が長いので特に報告することもないが、日々の困りごとなどは夕飯の時間に共有している。
「ねえ」
業務連絡を終えたところでランジに声を掛ける。
「なんだ」
「もしかして、動物好きだったりする?」
なぜ頻繁に頭を撫でられるようになったのか。
彼が動物好きで、レンリをなにかしらの動物と重ねているのでは、という結論に達した。
「いや、特には」
見たところ彼の表情に目立った変化はない。
大きな体躯の男が、可愛らしい動物を愛でるということに恥じらいを持つタイプなのだろうか。
「そう」
レンリの返事の後も彼はなにも言わない。
これ以上詮索するのも気が引けたのでそっとしておいた。
◇
気温が上がり始め、屋外で体を動かすとうっすら汗ばむ季節になってきた。
「まあ!」
家庭菜園に手を入れていたレンリの目の前に珍しい客が来た。
「ランジ」
少し離れた場所で薪割りをするランジを小声で呼び寄せる。
「なんだ」
いつも通りざくざく土を踏みしめて迫る彼に、慌てて人差し指を唇に当てて制止する。
彼は状況を飲み込めていない顔をしながらも静かに近寄ってきた。
「ほら、見て」
レンリの指差した先にはキツネの子供たち。
もふもふとした尻尾を振り回しながら、無邪気にじゃれあっている。
庭の柵で区切られているが、相当至近距離。
野生動物がこの近さまで来るのは珍しい。
以前ランジは動物が好きか尋ねた際に認めなかったが、おそらく隠したいのだろうと予想しわざわざ仕事の手を止めさせ呼んだのだ。
「可愛いわね」
「ああ、そうだな」
気のない返事。
ちらりと彼を盗み見るが、表情は特に変わっていない。
強がっているのか、と微笑ましくなってしまう。
「ふわふわしてて触り心地が良さそうね」
「ああ、でもレンリの髪の方が柔らかいんじゃないか?」
「っ!?」
「薪割り、中断するか?」
「えっ!?」
「音が大きいだろ。あいつらが逃げてしまうかもしれない。好きなんだろ?」
「あっええ、そうね」
「ならここを手伝おう」
ランジはしゃがんで家庭菜園を整えていく。
思ったより動物への反応が薄かった。
しかもなぜ自身の髪の話が出たのか。
彼につられて作業に戻ったが、ランジの言葉に混乱は増すばかりだった。
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