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第四五話 まっすぐ伸びた道を
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「……ここは……」
「ここは夢現、お前の中にある夢幻と呼ばれる場所……まあ単純に説明するのであれば夢だ」
目の前にはあの時現れた少年が僕を覗き込んでいるのが見えている……そうかこの人は僕の中にいるはずの祖と名乗ったあの少年。
僕は慌てて起き上がるが、夢という割には恐ろしく現実的なその状況に頭が混乱するが、そんな僕の様子を見て楽しそうに笑う少年の目は相変わらず爬虫類のような光り輝く目をしておりほんの少しだけ恐怖感を感じてしまう。
「夢ならもう一回寝たら目覚めますかね?」
「まあそう言うなよ、お前に話があって態々このような形で会いにきているのだ、少しは年長者の話を聞けい」
パシッと頭を叩かれて思わず痛みに頭を両手で抑えるが、痛みがある?! 夢の中だと言うのになぜ僕は痛みを感じたのか、その事実に混乱してしまう。
そんな僕の様子を見てニヤニヤと笑う少年は僕の眼前でふわふわと浮いたような状態でじっとこちらの様子を眺めている。
「……どういう目的でしょうか?」
「まず、お前とその仲間に危険が迫っていることを伝えにきた。そしてもう一つお前のやらなければいけないことを教えにきている」
僕と仲間に危険が迫っている? それは勇武高等学園の仲間のことだろうか、それと僕がやらなければいけないこと? それは一体なんだろうか?
僕は彼の言葉をちゃんと聞かなければいけない気がして頭をガリガリと掻いた後に、黙って座り込む。
不満げな僕の顔を見て少しだけ歪んだ笑顔を見せる少年だが、こちらがちゃんと話を聞く気があると認識したのか、すぐに表情を変え、真顔になって話し始めた。
「まずヴィランがヒーローの牙城を崩しにかかってきている、これは理解しているな?」
「先日のポイズンクローとかの件ですよね」
「そうだ、組織化されたヴィランは一七年前の力を取り戻し新たな王を担ぎ上げ、この才能社会への挑戦を開始する、これは一七年前にヴィランの王が倒されてからの流れに沿っている」
少年は笑顔のまま状況を簡潔にまとめて話している……ヴィランとヒーローの争いは才能が見出される前よりずっと昔から、それこそ人類の歴史の中でずっと繰り返されてきた善と悪との戦いの一部でしかないことを。
「古くは王と反逆者の戦い、圧政者と民衆の諍い、独裁国家と民主主義陣営の戦い……才能の有無に関わらず人間はずっと争いを繰り返してきている」
人類の歴史はずっと争いの中にある……才能と言う能力が発見されてからも、その能力は悪用されてきたし、それを押し留めようとする人たちとの間で争いにもなってしまっている。
僕の持っているこの力もずっとそのために戦いに使われてきているのだから……それはライトニングレディ、千景さんも同じだしイグニスさんも同じように戦い続けてきている。
「……争いがなくなると言うことはないのでしょうか?」
「平等ではない世界なのだから、その能力の有用性、効果などで優劣をつけるものがいる限り争いは無くならんだろうな……」
「そうですよね……」
「だが、一つだけ方法があるぞ? お前が最強になれば良い」
少年はこともなげに涼しい顔でそう話すが……僕が最強になる? そんなことできるのだろうか? つい先日はポイズンクローに殺されかけて、彼に代わってもらったと言うのに。
だが少年は動揺する僕の顔を見てニヤッと笑うと指先でトンッ! と僕の額を軽く押す……そのほんの一瞬彼の指が触れた額からいきなり凄まじい量の情報が送り込まれてきたのを感じて僕は頭を押さえ込む。
「う、うあああああっ!」
「お前は普通の家庭に生まれて、何不自由しない生活を送ってきている。だがその才能が他と違うと言うだけで虐められて、心無い言葉を浴びせられ、そして……傷付いてきた」
彼の指先から送り込まれてきた情報は、名もなき虐げられてきた人たちの記憶? ある人は明日食べるものすら得られず、空腹の中世の中を恨み、そして絶望しながらその命を終わらせる。
ある人は理不尽にその生活を奪われ、そして永遠とも思える放浪の果てに死んでいく……別の人はそれでも諦めずに立ち上がり、そして仲間を集め最後には自らが集団を率いて圧政を終わらせていく。
「誰もがそうだとは言わない、恵まれた人生、恵まれた生活のなか生き続けられることもあるだろう。だがお前は違う一度強く絶望した記憶がある、そう言う人間は人の痛みにも敏感だ」
「だから僕だと?」
少年は頷くとその手のひらに強く輝く光を生み出す……それはほのかに暖かく、明滅する光の中に蠢く何かが存在している、そんな不思議な光だ。
僕はそっとその光に手を伸ばす……暖かい、そして力強い光だ。
「目覚める時は近い……お前が選ぶ選択肢は夢幻に広がっている。この力を持ってお前が何をするのか楽しみに見ておこう……秋楡 千裕お前の前にある道は無限に広がっているのだ」
——僕が目を覚ますと、そこはいつもの僕の私室の天井が見えている。
ふと僕の頬に流れる涙と、胸の奥にある暖かな炎のようなものを感じて僕はベッドから跳ね起きるが、周りは何も変わっていないのがわかる。
窓の外では小鳥の鳴き声が聞こえる……机の上にある時計は朝五時を指しており普段の起床時間よりもはるかに早く起きてしまったことがわかる。
「……ランニングをしようかな……」
ジャージに着替えてゆっくりと体の調子を確かめるように走り出す……千景さんと一緒にトレーニングをしたあの頃に走り続けたコース、アスファルトを蹴りながら僕は無心になって走り続ける。
心臓の鼓動は高まり、荒い息を吐きながら僕は夢の中で伝えられたあの言葉、僕の前にある道は無限に広がっているという意味をずっと考えている。
「おろ? なんだよ千裕朝はえ~じゃねえか」
「千景さん?」
トントンと肩を叩かれた僕は慌てて振り返るが、そこには笑顔の千景さんがジャージ姿で走っているのが見える。
その笑顔と流れる汗が朝日に煌めいてとても眩しく見える……じっと彼女を見ていたことで、千景さんは急に訝しむような表情を浮かべるが、ああちょっとマジマジと見すぎたのか。
「なんだよ千景お姉さんに惚れちゃったか? でもダメだぞー、アタシは割と高嶺の花だからなー」
「なんですかそれ……」
流石にその答えは予想していなくて苦笑いを浮かべてしまうが、笑い出した僕に少しだけムッとしたような顔になって千景さんは僕の肩にその鍛えられた腕をぐいっと回してイタズラっぽく笑う。
汗の匂いと、清潔感のあるシャンプーの匂いに少しだけドキドキしてしまうが……そんな僕を見て千景さんは大輪の花のような眩しい笑顔を向けて笑う。
「……強くなれよ千裕、お師匠様もずっと言ってたけど……諦めずに努力をし続ける先に道が開けるってな……だからずっと努力は積み重ねていくしかねえんだ」
「はい……ッ!」
千景さんは僕の肩に回していた腕を離すと、笑顔のまま並んで走り出す……彼女が指さす先には真っ直ぐ道が伸びている。
僕はこの真っ直ぐ伸びた道をずっと走っていかなければいけない、それは龍使いとして生まれついた僕だからこそ、最強を目指して地道に一歩づつでも歩き続け、最後には僕が何者であるかを証明する必要がある。
ずっと伸びた真っ直ぐな道を見て思わず立ち止まってしまった僕は、慌てて前を走っていく千景さんに追いつくために再び走り出した、この道の先に何があるのか……その光景を見るために僕はずっと走り続けるだろう。
ふと僕の耳に誰からそっと囁いた気がしたけど、僕は前を向いて走っていく……。
「……まだ歩き始めたばかりだからね……ずっと先に伸びている真の最強への道を」
--------------------------------------
本作はここで完結とさせていただきます。
本来予定した部分まで書ききれなかったことは自分の未熟さ故かと思います。
大変申し訳ございません、今後作成していく新作などにも今回の経験を活かして執筆を行ってまいります。
今後とも私の小説をよろしくお願いいたします。
自転車和尚
「ここは夢現、お前の中にある夢幻と呼ばれる場所……まあ単純に説明するのであれば夢だ」
目の前にはあの時現れた少年が僕を覗き込んでいるのが見えている……そうかこの人は僕の中にいるはずの祖と名乗ったあの少年。
僕は慌てて起き上がるが、夢という割には恐ろしく現実的なその状況に頭が混乱するが、そんな僕の様子を見て楽しそうに笑う少年の目は相変わらず爬虫類のような光り輝く目をしておりほんの少しだけ恐怖感を感じてしまう。
「夢ならもう一回寝たら目覚めますかね?」
「まあそう言うなよ、お前に話があって態々このような形で会いにきているのだ、少しは年長者の話を聞けい」
パシッと頭を叩かれて思わず痛みに頭を両手で抑えるが、痛みがある?! 夢の中だと言うのになぜ僕は痛みを感じたのか、その事実に混乱してしまう。
そんな僕の様子を見てニヤニヤと笑う少年は僕の眼前でふわふわと浮いたような状態でじっとこちらの様子を眺めている。
「……どういう目的でしょうか?」
「まず、お前とその仲間に危険が迫っていることを伝えにきた。そしてもう一つお前のやらなければいけないことを教えにきている」
僕と仲間に危険が迫っている? それは勇武高等学園の仲間のことだろうか、それと僕がやらなければいけないこと? それは一体なんだろうか?
僕は彼の言葉をちゃんと聞かなければいけない気がして頭をガリガリと掻いた後に、黙って座り込む。
不満げな僕の顔を見て少しだけ歪んだ笑顔を見せる少年だが、こちらがちゃんと話を聞く気があると認識したのか、すぐに表情を変え、真顔になって話し始めた。
「まずヴィランがヒーローの牙城を崩しにかかってきている、これは理解しているな?」
「先日のポイズンクローとかの件ですよね」
「そうだ、組織化されたヴィランは一七年前の力を取り戻し新たな王を担ぎ上げ、この才能社会への挑戦を開始する、これは一七年前にヴィランの王が倒されてからの流れに沿っている」
少年は笑顔のまま状況を簡潔にまとめて話している……ヴィランとヒーローの争いは才能が見出される前よりずっと昔から、それこそ人類の歴史の中でずっと繰り返されてきた善と悪との戦いの一部でしかないことを。
「古くは王と反逆者の戦い、圧政者と民衆の諍い、独裁国家と民主主義陣営の戦い……才能の有無に関わらず人間はずっと争いを繰り返してきている」
人類の歴史はずっと争いの中にある……才能と言う能力が発見されてからも、その能力は悪用されてきたし、それを押し留めようとする人たちとの間で争いにもなってしまっている。
僕の持っているこの力もずっとそのために戦いに使われてきているのだから……それはライトニングレディ、千景さんも同じだしイグニスさんも同じように戦い続けてきている。
「……争いがなくなると言うことはないのでしょうか?」
「平等ではない世界なのだから、その能力の有用性、効果などで優劣をつけるものがいる限り争いは無くならんだろうな……」
「そうですよね……」
「だが、一つだけ方法があるぞ? お前が最強になれば良い」
少年はこともなげに涼しい顔でそう話すが……僕が最強になる? そんなことできるのだろうか? つい先日はポイズンクローに殺されかけて、彼に代わってもらったと言うのに。
だが少年は動揺する僕の顔を見てニヤッと笑うと指先でトンッ! と僕の額を軽く押す……そのほんの一瞬彼の指が触れた額からいきなり凄まじい量の情報が送り込まれてきたのを感じて僕は頭を押さえ込む。
「う、うあああああっ!」
「お前は普通の家庭に生まれて、何不自由しない生活を送ってきている。だがその才能が他と違うと言うだけで虐められて、心無い言葉を浴びせられ、そして……傷付いてきた」
彼の指先から送り込まれてきた情報は、名もなき虐げられてきた人たちの記憶? ある人は明日食べるものすら得られず、空腹の中世の中を恨み、そして絶望しながらその命を終わらせる。
ある人は理不尽にその生活を奪われ、そして永遠とも思える放浪の果てに死んでいく……別の人はそれでも諦めずに立ち上がり、そして仲間を集め最後には自らが集団を率いて圧政を終わらせていく。
「誰もがそうだとは言わない、恵まれた人生、恵まれた生活のなか生き続けられることもあるだろう。だがお前は違う一度強く絶望した記憶がある、そう言う人間は人の痛みにも敏感だ」
「だから僕だと?」
少年は頷くとその手のひらに強く輝く光を生み出す……それはほのかに暖かく、明滅する光の中に蠢く何かが存在している、そんな不思議な光だ。
僕はそっとその光に手を伸ばす……暖かい、そして力強い光だ。
「目覚める時は近い……お前が選ぶ選択肢は夢幻に広がっている。この力を持ってお前が何をするのか楽しみに見ておこう……秋楡 千裕お前の前にある道は無限に広がっているのだ」
——僕が目を覚ますと、そこはいつもの僕の私室の天井が見えている。
ふと僕の頬に流れる涙と、胸の奥にある暖かな炎のようなものを感じて僕はベッドから跳ね起きるが、周りは何も変わっていないのがわかる。
窓の外では小鳥の鳴き声が聞こえる……机の上にある時計は朝五時を指しており普段の起床時間よりもはるかに早く起きてしまったことがわかる。
「……ランニングをしようかな……」
ジャージに着替えてゆっくりと体の調子を確かめるように走り出す……千景さんと一緒にトレーニングをしたあの頃に走り続けたコース、アスファルトを蹴りながら僕は無心になって走り続ける。
心臓の鼓動は高まり、荒い息を吐きながら僕は夢の中で伝えられたあの言葉、僕の前にある道は無限に広がっているという意味をずっと考えている。
「おろ? なんだよ千裕朝はえ~じゃねえか」
「千景さん?」
トントンと肩を叩かれた僕は慌てて振り返るが、そこには笑顔の千景さんがジャージ姿で走っているのが見える。
その笑顔と流れる汗が朝日に煌めいてとても眩しく見える……じっと彼女を見ていたことで、千景さんは急に訝しむような表情を浮かべるが、ああちょっとマジマジと見すぎたのか。
「なんだよ千景お姉さんに惚れちゃったか? でもダメだぞー、アタシは割と高嶺の花だからなー」
「なんですかそれ……」
流石にその答えは予想していなくて苦笑いを浮かべてしまうが、笑い出した僕に少しだけムッとしたような顔になって千景さんは僕の肩にその鍛えられた腕をぐいっと回してイタズラっぽく笑う。
汗の匂いと、清潔感のあるシャンプーの匂いに少しだけドキドキしてしまうが……そんな僕を見て千景さんは大輪の花のような眩しい笑顔を向けて笑う。
「……強くなれよ千裕、お師匠様もずっと言ってたけど……諦めずに努力をし続ける先に道が開けるってな……だからずっと努力は積み重ねていくしかねえんだ」
「はい……ッ!」
千景さんは僕の肩に回していた腕を離すと、笑顔のまま並んで走り出す……彼女が指さす先には真っ直ぐ道が伸びている。
僕はこの真っ直ぐ伸びた道をずっと走っていかなければいけない、それは龍使いとして生まれついた僕だからこそ、最強を目指して地道に一歩づつでも歩き続け、最後には僕が何者であるかを証明する必要がある。
ずっと伸びた真っ直ぐな道を見て思わず立ち止まってしまった僕は、慌てて前を走っていく千景さんに追いつくために再び走り出した、この道の先に何があるのか……その光景を見るために僕はずっと走り続けるだろう。
ふと僕の耳に誰からそっと囁いた気がしたけど、僕は前を向いて走っていく……。
「……まだ歩き始めたばかりだからね……ずっと先に伸びている真の最強への道を」
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本作はここで完結とさせていただきます。
本来予定した部分まで書ききれなかったことは自分の未熟さ故かと思います。
大変申し訳ございません、今後作成していく新作などにも今回の経験を活かして執筆を行ってまいります。
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