【完結】僕の才能は龍使い 〜イジメられていた僕が、才能の意味を理解したら世界最強〜

自転車和尚

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第三〇話 ナイトマスター

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「なんか用か? ……ファンかと思ったけど、あんたちょっと違うね」

 超級ヒーローの一人、ライトニングレディ……千景が夜の街をパトロールしている中、街中の路地裏に足を踏み入れた際に、気配を感じて立ち止まり暗闇の中へと声をかける。
 彼女の鋭敏な感覚には暗闇……いや目の前にある影の中にいる人物、そして路地裏に隠れている複数の人間の殺気が察知されており、その不快感から顔を歪める。

 彼女の声に反応して誰もいないはずの影の中から、まるで染み出すかのように黒色の服を纏った人物が出現する……日本人、だろうが不気味な白色のペストマスクを被っており、服に合わせた幅広の帽子を被っており、中世のペスト医師そのものの格好をしている。
 彼の手には鳥を模した黒く細かく彫刻が彫られた年代物のステッキ、マスクの奥に光る目は不気味に赤く輝いているのが特徴だ。
「……なんだ、バレてるんですね……さすが超級ヒーロー。ああ、自分ファンでしてね……貴女のサインをいただけますか?」

「誰だよテメー……明らかに不審者じゃねえか、絶対違うだろ」
 千景は目の前の不審人物から発せられる実力者ならではの存在感のようなものを感じ取り、ほんの少し眉を顰める……出来るやつ、だと思うがあまりに自然体で底がしれない印象……はっきり言えば身のこなしが一般人のそれではない。
 目の前の不審人物がコツン、と軽く地面をステッキで叩くとその音に反応して、暗闇からニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた男達が一〇人ゆっくりと歩み出てくる。
「……まずは腕を見せてもらいましょう……やれ、倒せたら彼女を好きなようにして構わない」

「へへ……俺一度女のヒーローとヤってみたかっ……がふっ!」
 千景に手を伸ばそうとした下卑た笑顔を浮かべた一人の男の体が衝撃音と共に軽く宙に浮く……ライトニングレディはほんの一瞬の超高速移動が主武器、とされているが本質はその速度を生かす接近戦闘能力だ。
 抜く手も見せずに男の顎を掌底で撃ち抜き宙に浮かせた千景は回し蹴りを叩き込む……近くにあったゴミの山の中へと男が音を立てて飛び込む様をみて、他の男達が手に得物、ナイフや鉄パイプなどを持って一気に襲いかかってくる。
「……ゲスばかりだな……アタシはそんな安い女じゃねえんだよ……ッ!」

 視界に煌めく銀色の閃光……まるで雷が走り抜けたかのように路地裏に銀色の髪がたなびく……千景が雷光ライトニングを発動させ、一秒の間にそこへと立っていた男達の顔面を、顎を、腹部を撃ち抜くように掌底が叩き込まれる。
 その攻撃はほぼ同時に着弾し、あまりの衝撃に宙に浮いたように地面から離れた男達は意識を一瞬で刈り取られて、バタバタと倒れていく。
 複数の男達を一瞬で片付けた彼女の体に纏わりつくように銀色に光る電流が走る……ペストマスクの男は、マスクの下で不気味に引き攣るような笑い声をあげる。
「……さすが……超級ヒーローだけある……こんなチンピラ共では相手にはなりませんねえ……」

「次はテメエだろ? 名乗りな、運が良ければアタシの記憶に残してやってもいいぜ」
 千景はバキバキッと指を組んで骨を鳴らす……師匠である先代龍使いロンマスター竜胆からは「指の形が悪くなる」とよく止められていた仕草であるが、威嚇だけでなく彼女自身が戦闘モードに入るための儀式でもあるのだ。
 ペストマスクの男は、ゆっくりとおどけるような仕草で千景へ頭を下げる……こういった余裕を見せられるのも雷光ライトニングのインターバルのことをわかっているからだろう。
「マスク越しで申し訳ない、私はナイトマスターと呼ばれています。人類の敵、社会の屑であるヴィランの一人ですよ、お見知り置きを」

「ナイトマスター? 確かヴィランの王と一緒に動いてた古参ヴィランにそんな名前の奴がいたね?」

「……あの方に仕えた懐かしい日々をご存知だとは……年の功ですか? 龍使いロンマスター竜胆 刃、最後の弟子にして、師に置いて行かれた哀れな女ヒーロー」
 次の瞬間、千景は銀色の閃光を纏ってナイトマスターの眼前で拳を振りかざす……マスクの奥に光る赤い眼はまるで嘲笑のような侮蔑の笑みを湛えているように鈍く光る。
 拳を全力で振り抜くが、その攻撃はマスクの端をチリッ、と掠める程度で回避されてしまう……雷光ライトニングでの超高速移動からの拳を避ける?! 千景の表情に一瞬だけ驚きが浮かぶが、すぐに軽く息を吐くと目まぐるしいまでの拳の連打とそれに織り交ぜるような連続蹴りがナイトマスターへと襲いかかる。
「……図星ですか? あの頃の貴女を見たことがありますよ、まるで恋する乙女のような目でしたね」

「うるせえっ! 超級ヒーローに恋愛感情なんかいらねえんだよ!」

「あらあら、秘密の恋愛でした? そりゃ残念……コイバナって楽しいかと思ったんですけどねえ……」
 ナイトマスターは嵐のような攻撃を的確に、そして確実に防御していく……細身のようにも見えるが、拳や蹴りを防いだときに千景が感じる感触は、鉄板を殴っているかのように固く、有効な打撃になっていないと判断して彼女は少しだけ距離を取ろうと後ろへとステップした。
 その瞬間を狙ったのか、ヴィランはくるりとステッキを回転させると軽く地面を数回叩く……千景が地面へと着地をしたと思った瞬間、着地した足に地面がぐにゃり、と歪んだような感触を感じて尻餅をついてしまい思わず足元を見る。

「な、なんだこりゃ……!」
 彼女が転んで尻餅をついた場所、それまで硬いアスファルトだったはずの地面がまるで軟体動物のように凹んでいる……ナイトマスターはクスクス笑いながら再びステッキをコンコン、と足元で叩くと月明かりと、電灯の灯に照らされて千景の足元まで伸びている彼の影が、生き物のようにずるりと彼の元へと戻っていく。
 千景が軽く地面の手触りを確認すると、形は変形しているものの固くアスファルトに戻っている……さっきのはなんだ?
「私は闇使いナイトマスター……才能タレントは闇そのものを扱えます……今のは影を介して地面の形を変化させました」

「……タネをそんな簡単にバラしたら、商売あがったりじゃねえのか?」

「大丈夫ですよ、貴女みたいな格闘バカに、高尚な手品のタネが理解できるわけないじゃないですか」
 バカにしたように両手を軽く広げたナイトマスターに向かって、全力の上段蹴りが叩き込まれる……才能タレントを使用してない素の能力だが、千景が有するは人類でも最高到達点の一つだ。
 だがその上段蹴りをナイトマスターは難なく手に持ったステッキでいなすと、そこを支点に千景の蹴りの威力を回転方向へと変換し、彼女の肉体を宙に浮かび上がらせる。
「だから格闘バカって言ってるんですよ、聞いてます?」

「なっ……うがぁっ!」
 受け身を取れずにそのまま地面へと叩きつけられる千景……アスファルトの地面は先ほどのように柔らかくは無いため、彼女の体重とその叩きつけの威力そのままに砕けてしまう。
 なんだこいつ……千景は痛みと衝撃で意識が飛びそうになるのを堪えて、猫のように柔軟な動きで飛び退るようにナイトマスターから距離を取る。
 彼女のこめかみから軽く血がドロリと滴る……軽く頭がカチ割れた、出血はそれほどではないが、このナイトマスターというヴィラン……格闘戦巧者だ。
「お前……見た目以上に強えな……なんとかマスターさんよ」

「……このまま貴女が泣いて赦しを乞う姿も見たいのですけど、顔合わせだけと厳命されてるのでね……」
 あくまでも余裕の態度を崩さずナイトマスターはその場を一歩も動かずに、まるで地面に沈み込むようにその姿を沈めていく……逃げる気か?! 千景が雷光ライトニングを発動させて、ナイトマスターに向かって拳を振り下ろすが……トプン、と音を立てて彼が闇の中へと姿を消したとほぼ同時に、千景の拳が地面を叩き割る。

「……ちっ……間に合わねえッ!」
 あたりを震動させる凄まじい衝撃と濛々と巻き起こる土煙の中、千景が立ち上がる……ほんの一瞬だけ間に合わなかった。
 ズキズキと痛む頭に手をやると、ベッタリと血液が付着する……確かに才能タレントを使用していない攻撃だったが、それをいなされるとは思っても見なかった。
 だがそれ以上に、千景とお師匠様……竜胆 刃として龍使いロンマスターを知っているヴィラン……。

「……一七年も経って何がしたいんだ……ヴィランの王ですらもういないってのに……」
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