【完結】僕の才能は龍使い 〜イジメられていた僕が、才能の意味を理解したら世界最強〜

自転車和尚

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第二六話 救援

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「秘剣、岩砕き……秋楡さん、海棠さん。無事ですか? ……っ!」

 鬼灯さんが軽く竹刀を振るってリフレクターへと向けつつ、僕らへと声をかける……血を流している僕をみて、少しだけ表情が変わり、油断なく僕らと対峙している異様な風体のリフレクターとの距離を推し量るように目を配っている。
 コンクリートの壁を切り裂いて出現した鬼灯さんの手には、なんの変哲もないごく普通の竹刀が握られていたが、もしかしてあの竹刀を使って壁を切り裂いた……のか?
「朱里~、大丈夫か? 秋楡たちは……」

「木瓜さん! 緊急事態です! 先生を呼んで!」
 鬼灯さんの緊迫した声に、おそらくビルの外にいるであろう木瓜くんが大声で誰かに声をかけている……僕の頭に布のようなものが押し付けられたが、僕に寄り添っている海棠さんのハンカチか何かなのだろう。
 僕は息を整え直すと、ナイフを切り裂かれて驚きの表情を浮かべるリフレクターを見るが、彼は鬼灯さんと僕らを交互に見た後に、軽く苦笑したように息を漏らす。
「……学生が救援……ということはもうすぐ教師役のヒーローもやってくる、ということかしら……分が悪いわね」

「さて、どうでしょうね? あなた何者です? 私の学友を傷つけて許されるとお思いですか?」

「うふふ……もう少し秋楡くんと遊びたかったのに……でもまあ、貴女の怖すぎる才能タレントで斬り殺されるよりはマシね」
 鬼灯さんの言葉に手のひらで首を撫でるような仕草をしたリフレクターの背後の空間が、まるで無理やり引き裂かれるように不気味な亀裂を帯びていく……な、なんだ……? ビニール袋を破るような音を立てて、亀裂が広がっていき、人一人が入れるくらいの裂け目が出現すると、黒いマスク姿の人物が亀裂の中から姿を表す。
 黒いマスクには片目だけ涙を流したようなアイコン風の白いデザインとなっており、シンプルだが不気味な存在感のあるものだ。
「おい、何やってんだリフレクター……ってあれ? 修羅場か?」

「すまないわねクレバス、勇武の学生さんに絡まれているのよ」
 黒マスクの人物は裂け目から顔を出してこちらの状況に驚いたような表情を浮かべるが、そんな彼を見てリフレクターは苦笑いのような表情を浮かべて両手を軽く広げて戯けるような仕草をしている。
 階下の方から誰かが走ってくるような音が響いている……壁をぶち抜いたことで、ビル全体にも歪みが出ているのか、振動も凄まじい。
 リフレクターはその空間の亀裂に片足を放り込んだ後、何かに気がついたかのようにこちらへと振り返ると僕を見て笑う……。
「……また会いましょう? 私貴方のこと殺したいくらい気に入っちゃったの……」

「ったく……めんどくさい仕事を押し付けやがって……」
 その言葉と同時にリフレクターは空間の亀裂の中へと姿を消す……そして黒マスクの男は、シッパーでも占めるかのような仕草をしつつ亀裂を塞いでいくと、まるでその亀裂がなかったかのように綺麗に消え去っていった。
 完全に姿が見えなくなったのを見てから鬼灯さんは、大きくため息を吐いて……僕と海棠さんへと振り返ると、にっこりと笑う。
「よかった……私の才能タレントは一度使うと五分は再使用できないので、一気に襲い掛かられたら危なかったです」

「……じゃ、じゃあ壁を切り裂いたのは……」

「ええ、私の才能タレント剣客フェンサーを使いました、私の能力は振るうものさえあればなんでも切り裂けます」
 軽く舌を出してイタズラっぽく微笑むと、鬼灯さんは僕の元へと駆け寄り、体の怪我を確認していく……そして彼女は懐から手拭いのようなものを取り出すと、海棠さんのハンカチの上から手拭いを巻きつけて止血を行なっていく。
 とはいえ防御姿勢が取れずに柱へと叩きつけられた時にできた傷だから、そこまで深傷ではないため、僕はその場に腰をおろして大きくため息をつく。
「……ありがとう海棠さん、鬼灯さん……ヴィランがまさかいるなんて……」

「そうね……ごめんね千裕……私あんまり役に立てなくて……」
 僕の言葉に鬼灯さんの顔色が変わり、海棠さんを見るがその真剣な表情を見て、彼女も鬼灯さんへと軽く頷くと少し悲しそうな表情で僕の頭をそっと撫でる……あれ? 僕って名前で呼ばれてたっけ?
 だが、撫でられた場所が傷の真上だったので僕は痛みで顔を顰め、海棠さんは慌てて僕に小さな声でごめん、と伝えてくる。ふと見上げると鬼灯さんはヴィランたちが逃走した空間を一度見ると、何かを考えるような仕草をしている。

「候補生ッ! 無事か?! ……怪我をしたのか?! 誰にやられた?! 捩木候補生ッ! 保健の先生を呼んできてくれ、異常信号は出したのですぐに到着するはずだ」
 ほんの少しの間を置いて、二階からの階段を上がってマッチョ先生が現れると、僕の状態を見て驚愕の表情を浮かべているのが見えた。
 慌てて手元のトランシーバーを使って外で待機しているであろう捩木くんに指示を出すと、僕を抱き抱えるとマッチョ先生は皆をすぐにビルの外へと避難させるために合図を送る。
「先生、ヴィランが……ヴィランがいました……リフレクターって名乗ってて」

「リフレクター? ピンク色の髪をしたやつか? 確か指名手配されていたはずだが……何でここに……」
 ビルの外へと走りながら海棠さんがマッチョ先生に声をかけると、先生は訳がわからないと言わんばかりに困惑した表情を浮かべて抱き抱えている僕を見る。
 僕が頷くと、先生は唸り声をあげながら何かを考えるような表情を浮かべる……そんな先生に鬼灯さんが話しかける。
「先生、もう一名……空間を移動するヴィランがいました、クレバスと呼ばれていて……ヴィランが集団で行動していたようです、理由はわからないのですが……」

「く、クレバス……?! バカな、そいつはヴィランとしてはかなり前に引退したはずだぞ?」

「お使い、とか言ってたわよね、千裕……」
 海棠さんの言葉に僕も黙って頷く……お使い、すでにお使いは終わっている……ヴィランが自由に入り込んでいるのも大問題だが、そのお使いの内容がなんだったのか、完全に聴きそびれてしまっていたな。
 そして空間を切り裂くようにして現れたあのクレバスという黒いマスクのヴィラン……彼らは仲間同士なのだろう、連携して何かをしようと動いていた、と思える。
 あのヴィランが纏っている独特の不気味すぎる感覚……千景さんがいない場所で、ヴィランに出会って殺されなかっただけマシかとも思うが、あの時僕のロンは確実にリフレクターへとダメージを与えていた。

 あの一撃……僕の放った龍拳ドラゴンブローの感触はそれまでにないくらい、ロンを纏ったものになっていた。不思議なくらい、あの一撃を放つときは自然に呼吸と体を駆け巡るロン、そして全ての流れが綺麗に拳へと集約されたような気がしたのだ。
 これが息吹プラーナを使って全身へとロンが駆け巡る龍使いロンマスターの能力だとしたら、あの超加速、超パワー……自ら自由に使いこなすことができれば、僕は本当にヒーローへと……。

『……この世界には必要のない才能タレントなんてないんだよ……』

 千景さんの言葉を思い出す……本当だった、みんなにバカにされた僕の才能タレントで僕は変われる。
 僕は誰にも聞かれないように、本当に小さな声でポツリと呟く……それまでは実感がそれほどなかった、力強く僕の根底を流れる強い濁流の存在をほのかに感じる。

「……もしかして、本当に龍使いロンマスターの力が僕を変えてくれて……僕は強くなれるんだ……」
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