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第三六七話 シャルロッタ 一六歳 魔王 一七
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「怯むな、進めッ!」
「ぎぎねあさまのめいれい、すいこうする!」
蟻に似た外見を持つミュルミドン……中でも一際大きな体を持ち、短槍を奮って泥濘を叩き落とした戦士ギギネアの声に呼応するように、少し小さな体を持つワーカーが一糸乱れぬ動きで原始の海を構成している泥濘の海へと剣を叩きつける。
彼らの一撃はそれほど強くはないものの、波のように繰り出される剣が触手のように手を伸ばした手を切り裂いていくのを見て、ドワーフの戦士セオルデンはふん、と感心したように鼻息を荒くする。
ドワーフ達も活躍している……特にプリムローズの支援を受けた彼らの武器は赤い炎が纏わり付いており、その一撃で泥濘は瞬時に炭化し、崩壊していくのだ。
「嬢ちゃんが支援してくれるぞ! 恐れず前へ進めッ!」
「泥濘に触れるな! もし飲み込まれたら帰って来られないぞ!」
「うおおおおおっ!」
ドワーフ達は優秀な戦士である……地下深くに自らの王国を築くことで知られる彼らだが、人間と比べてもはるかに力強い肉体は頑強でタフな戦いを得意としている。
人間との交易をする部族も多く、彼らが地下で採掘した金属を使った装飾品などは高値で取引されており、クリストフェルもある部族のドワーフと話をしたことがあった。
だが……戦う彼らを見たのは初めてだったかもしれない、感心したように彼らの戦いぶりを見ていたクリストフェルの側にプリムローズが静かに歩み寄ると優しく微笑んだ。
「殿下、プリムが血路を開きますわ……原始の海の中心に強い混沌の力を感じます、おそらくそこが……」
「そ、そうか……顔色がそれほど良くないようだが大丈夫か?」
「……大丈夫です、強い力に当てられて心が乱れているだけですわ」
プリムローズの体内にはいまだに混沌の核が植え付けられており、その核が原始の海の魔力に呼応して彼女の全身に耐え難い痛みを与えている。
だが……その痛みは自らの罪の証でありプリムローズ自身はすでにそれを克服しており、彼女自身の強い精神力により影響を最小限に抑え込んでいた。
彼女はチラリと原始の海に視線を向けた後、その中心点にあるであろう地点を指差す……そしておそらくそこに、泥濘を発生させる巨大な魔法陣が存在しているのだろう。
クリストフェルはプリムローズを心配そうに見つめる……彼にとっても友人であり、婚約者候補であったことは間違いなく、一度は道を間違えたとしても大事な人であることには間違いないからだ。
「……無事に帰ってきたら、シャルを交えて話をしよう」
「ええ、彼女とのお茶会楽しみにしておりますわ」
「……行ってくる」
クリストフェルは優しく微笑んだ後、まっすぐに前を見据えて歩き出す……その背中は最後に見た時よりも大きく感じる。
様々な経験と戦いが彼を一回り大きく育ているのだ、と理解したプリムローズは軽く腹部を抑えながら優しく微笑むと、そっと頭を下げた。
再び頭を上げたプリムローズは泥濘に向かって凄まじい勢いの爆炎を撃ち放つ……驚くべきことにここにきて魔力はどこからか継ぎ足されているかのようにまるで消耗しない。
原始の海の影響を彼女自身も受けているのかもしれない……と軽く自重気味に笑みを浮かべたプリムローズは歩いていくクリストフェルの援護のために歩き出す。
「……あの方を無事に帰さなければね」
「良きこと……朕は英雄を好むでな」
「……ッ!!!」
音もなく彼女の隣に染み出していく恐るべき魔力……それはやがて人の形を取り古典的な衣装を纏う白骨が立っていた。
強力な魔法使いであるプリムローズが一瞬濃密な闇の魔力に息が出来なくなりそうな、そんな感覚に囚われるが眼窩の奥に光る黄金の瞳がきらりと輝くとそんな息苦しさが和らぐ。
不死の王……魔法に精通するプリムローズは不死者の最上位である恐るべき存在のことを知識として知っていた。
身構えようとしたプリムローズにカタカタ音を立てながら敵対するつもりはない、とばかりに指を立てて振って見せた不死の王は少しだけ瞳を輝かせるとまじまじと彼女の顔から、胸、腰へと視線を動かしていく。
じっとりとした視線に思わず赤面して身を隠すような仕草をしたプリムローズを見た不死の王はなぜだか頷くと彼女へと話しかけてきた。
「実に良き、合格である……朕はオズボーンて……あ、いやあの娘っ子は王と名乗れと言ってたな、ええと朕はオズボーン王である」
「お、オズボーン王? あの伝説の……?」
オズボーン王、と言えば不死の王の伝説の一つとしてイングウェイ王国では知らぬもののいない存在である。
宝物庫に閉じ籠り自ら不死者と化した強欲な王、過ぎたる欲望は身を滅ぼすという格言の元になった男である。
そう考えている間にもオズボーン王は黄金の瞳を興味深そうに輝かせながら、プリムローズの腹部をじっと見つめている……遠慮のない視線、貴族令嬢として躾けられてきた彼女からすると不快感しか感じない視線であり、思わず叱責しようと口を開いた瞬間、不死の王は指を立てて再度横に振った。
「話は後にせよ……朕はシャルロッタと誼を通じており、お主らに助力するためにここへ来た」
「……彼女も趣味の悪いことで」
「ウハハッ! 一度拳を交わしたものは友誼を結ぶもの……あやつに言わせるとそういうものだそうだ」
オズボーン王は楽しそうに声を上げて笑うと、自然な動作で泥濘に向かって巨大な炎を降らせる……今日では失伝していると言われる上級魔法の一つである「灼熱の沛雨」である。
目標地点に炎を降らせて焼き払う……他の炎魔法と違い目標地点を定めて放つ必要があり、使い所が難しいという難点があり、次第に使われなくなった太古の魔法。
火球は泥濘へと突き刺さると火柱をあげて瞬時に泥濘を炭化させ、ジュワアアッ! という凄まじい音をあげて地面すらも炭化させていく。
その凄まじい威力にプリムローズすらあんぐりと口を開けて驚いたが、それを見たオズボーン王は部屋に響く声で朗々と名乗りをあげる。
「ウハハッ! 者ども喜べい……朕はオズボーン王、シャルロッタとの盟約により貴殿らを支援する……安心して死地へ赴くが良いッ!」
「オ、オズボー……なんかよく分からんが、とにかく前に進めッ!」
「魔法使いが増えたぞ……いけえっ!」
オズボーン王の声に押されるように、ドワーフとミュルミドンは前に出る……プリムローズは目の前の不死の王が声に魔力を乗せ、その場にいる者たちへと強力な身体強化魔法を瞬時にかけたことに気がつくと、にっこりと笑って前を向いた。
敵じゃない……むしろこの勢いに乗じて原始の海を殲滅する……ッ! 彼女の持つ杖から火球が舞い、泥濘を吹き飛ばすとそこに空いたスペースを一人の若者が駆けていく。
勇者クリストフェル・マルムスティーン……虹色の剣を構えた彼は、それまで以上の速度で前へと走っていた……あの声、オズボーン王と名乗る何かが現れた瞬間、全身に力がみなぎるような気がした。
そしてそれは現実であり、今彼は恐ろしい速度で駆けている……彼を捕まえようと泥濘の手が伸びるが、それをギリギリで躱し、彼はプリムローズが指し示した地点へと一直線に進んでいた。
「あそこかッ!」
泥濘の中に光る黄金の瞳が、迫り来るクリストフェルを睨みつける……だがその瞳を吹き飛ばすように、炎が叩きつけられ、悲鳴のような音をあげて炭化していくのを見ながら、彼は剣を握り直した。
今こうしている間にもシャルロッタは魔王との死闘を繰り広げている……ここで混沌の仕掛けた原始の海を滅せれば、彼女を助けられる。
彼にとってシャルロッタは心の底から愛し、そして彼女は彼を愛していると言っていた……ずっと聴きたかった言葉、ずっと言って欲しかった言葉をあの時聞かされたことで、彼の心は羽が生えたように軽かった。
自らがこの世界の勇者であるという証明のために、そして自らが心より愛する者のために、彼は全てを投げ打ってでも原始の海を止める必要を感じていた。
「うおおおおおっ! 僕に力を!!」
「いけええっ! 勇者よ!」
「殿下ッ!」
「人の子よ、世界を救えッ!」
「王たる器よ、その力を見せてみよッ!!」
「婚約者どの……ッ! 我と仲間が守ります!」
彼が剣を振り翳して迫り来る泥濘を切り裂くが、その速度を持ってしても防げないほどの手が彼へと伸びる……だが、それらは空中で爆発し、炎によって次々と粉砕されていく。
ユルの炎が、プリムローズの火球が、ミュルミドンの槍が、ドワーフの斧が、エルフの弓矢が次々とクリストフェルへと迫ろうとする泥濘を打ち滅ぼしていく。
世界を滅ぼそうとする混沌に立ち向かう勇者、そしてその仲間の力が原始の海を構成する泥濘を次々と削り取っていった。
大きく跳躍したクリストフェルが虹色に輝く名剣蜻蛉を構えると、その肉体が黄金色の魔力に包まれる。
広葉樹の盾の聖なる力が勇者を守る盾となり、彼に触れようとした泥濘が瞬時に消滅していく。
必死に争おうと次々と彼へと手が伸びるが……クリストフェルは一筋の光の刃と化し、雄叫びをあげながら泥濘の中心……黄金に光る巨大な魔法陣の中心へと剣を突き立てた。
「これで終わりだッ!」
凄まじい音と共に辺りが金色の光に包まれていく……突き立てられた剣が、魔法陣の一角を破壊する……それだけで十分だった。
それまで混沌の泥濘を繋ぎ止めていた魔力が一瞬にして逆流し、自らを崩壊へと導いていく……王城の地下空間が光に飲み込まれ、天高く伸びる光の柱となって伸びていくのを、その場にいた全員が見守っていた。
全てが白く輝く中……パキイイッ! という軽い音を立てて、魔法陣が光のなかへと溶けていく……それまで空間を侵食していたはずの原始の海は姿を消し、次第に沈黙だけがその場を支配していった。
クリストフェルは大きく息を吐くと、周りを見渡して呆然とした表情で呟いた。
「……とまった? 原始の海が無くなって……そ、そうだシャルの元へ行かなければ……!」
「ぎぎねあさまのめいれい、すいこうする!」
蟻に似た外見を持つミュルミドン……中でも一際大きな体を持ち、短槍を奮って泥濘を叩き落とした戦士ギギネアの声に呼応するように、少し小さな体を持つワーカーが一糸乱れぬ動きで原始の海を構成している泥濘の海へと剣を叩きつける。
彼らの一撃はそれほど強くはないものの、波のように繰り出される剣が触手のように手を伸ばした手を切り裂いていくのを見て、ドワーフの戦士セオルデンはふん、と感心したように鼻息を荒くする。
ドワーフ達も活躍している……特にプリムローズの支援を受けた彼らの武器は赤い炎が纏わり付いており、その一撃で泥濘は瞬時に炭化し、崩壊していくのだ。
「嬢ちゃんが支援してくれるぞ! 恐れず前へ進めッ!」
「泥濘に触れるな! もし飲み込まれたら帰って来られないぞ!」
「うおおおおおっ!」
ドワーフ達は優秀な戦士である……地下深くに自らの王国を築くことで知られる彼らだが、人間と比べてもはるかに力強い肉体は頑強でタフな戦いを得意としている。
人間との交易をする部族も多く、彼らが地下で採掘した金属を使った装飾品などは高値で取引されており、クリストフェルもある部族のドワーフと話をしたことがあった。
だが……戦う彼らを見たのは初めてだったかもしれない、感心したように彼らの戦いぶりを見ていたクリストフェルの側にプリムローズが静かに歩み寄ると優しく微笑んだ。
「殿下、プリムが血路を開きますわ……原始の海の中心に強い混沌の力を感じます、おそらくそこが……」
「そ、そうか……顔色がそれほど良くないようだが大丈夫か?」
「……大丈夫です、強い力に当てられて心が乱れているだけですわ」
プリムローズの体内にはいまだに混沌の核が植え付けられており、その核が原始の海の魔力に呼応して彼女の全身に耐え難い痛みを与えている。
だが……その痛みは自らの罪の証でありプリムローズ自身はすでにそれを克服しており、彼女自身の強い精神力により影響を最小限に抑え込んでいた。
彼女はチラリと原始の海に視線を向けた後、その中心点にあるであろう地点を指差す……そしておそらくそこに、泥濘を発生させる巨大な魔法陣が存在しているのだろう。
クリストフェルはプリムローズを心配そうに見つめる……彼にとっても友人であり、婚約者候補であったことは間違いなく、一度は道を間違えたとしても大事な人であることには間違いないからだ。
「……無事に帰ってきたら、シャルを交えて話をしよう」
「ええ、彼女とのお茶会楽しみにしておりますわ」
「……行ってくる」
クリストフェルは優しく微笑んだ後、まっすぐに前を見据えて歩き出す……その背中は最後に見た時よりも大きく感じる。
様々な経験と戦いが彼を一回り大きく育ているのだ、と理解したプリムローズは軽く腹部を抑えながら優しく微笑むと、そっと頭を下げた。
再び頭を上げたプリムローズは泥濘に向かって凄まじい勢いの爆炎を撃ち放つ……驚くべきことにここにきて魔力はどこからか継ぎ足されているかのようにまるで消耗しない。
原始の海の影響を彼女自身も受けているのかもしれない……と軽く自重気味に笑みを浮かべたプリムローズは歩いていくクリストフェルの援護のために歩き出す。
「……あの方を無事に帰さなければね」
「良きこと……朕は英雄を好むでな」
「……ッ!!!」
音もなく彼女の隣に染み出していく恐るべき魔力……それはやがて人の形を取り古典的な衣装を纏う白骨が立っていた。
強力な魔法使いであるプリムローズが一瞬濃密な闇の魔力に息が出来なくなりそうな、そんな感覚に囚われるが眼窩の奥に光る黄金の瞳がきらりと輝くとそんな息苦しさが和らぐ。
不死の王……魔法に精通するプリムローズは不死者の最上位である恐るべき存在のことを知識として知っていた。
身構えようとしたプリムローズにカタカタ音を立てながら敵対するつもりはない、とばかりに指を立てて振って見せた不死の王は少しだけ瞳を輝かせるとまじまじと彼女の顔から、胸、腰へと視線を動かしていく。
じっとりとした視線に思わず赤面して身を隠すような仕草をしたプリムローズを見た不死の王はなぜだか頷くと彼女へと話しかけてきた。
「実に良き、合格である……朕はオズボーンて……あ、いやあの娘っ子は王と名乗れと言ってたな、ええと朕はオズボーン王である」
「お、オズボーン王? あの伝説の……?」
オズボーン王、と言えば不死の王の伝説の一つとしてイングウェイ王国では知らぬもののいない存在である。
宝物庫に閉じ籠り自ら不死者と化した強欲な王、過ぎたる欲望は身を滅ぼすという格言の元になった男である。
そう考えている間にもオズボーン王は黄金の瞳を興味深そうに輝かせながら、プリムローズの腹部をじっと見つめている……遠慮のない視線、貴族令嬢として躾けられてきた彼女からすると不快感しか感じない視線であり、思わず叱責しようと口を開いた瞬間、不死の王は指を立てて再度横に振った。
「話は後にせよ……朕はシャルロッタと誼を通じており、お主らに助力するためにここへ来た」
「……彼女も趣味の悪いことで」
「ウハハッ! 一度拳を交わしたものは友誼を結ぶもの……あやつに言わせるとそういうものだそうだ」
オズボーン王は楽しそうに声を上げて笑うと、自然な動作で泥濘に向かって巨大な炎を降らせる……今日では失伝していると言われる上級魔法の一つである「灼熱の沛雨」である。
目標地点に炎を降らせて焼き払う……他の炎魔法と違い目標地点を定めて放つ必要があり、使い所が難しいという難点があり、次第に使われなくなった太古の魔法。
火球は泥濘へと突き刺さると火柱をあげて瞬時に泥濘を炭化させ、ジュワアアッ! という凄まじい音をあげて地面すらも炭化させていく。
その凄まじい威力にプリムローズすらあんぐりと口を開けて驚いたが、それを見たオズボーン王は部屋に響く声で朗々と名乗りをあげる。
「ウハハッ! 者ども喜べい……朕はオズボーン王、シャルロッタとの盟約により貴殿らを支援する……安心して死地へ赴くが良いッ!」
「オ、オズボー……なんかよく分からんが、とにかく前に進めッ!」
「魔法使いが増えたぞ……いけえっ!」
オズボーン王の声に押されるように、ドワーフとミュルミドンは前に出る……プリムローズは目の前の不死の王が声に魔力を乗せ、その場にいる者たちへと強力な身体強化魔法を瞬時にかけたことに気がつくと、にっこりと笑って前を向いた。
敵じゃない……むしろこの勢いに乗じて原始の海を殲滅する……ッ! 彼女の持つ杖から火球が舞い、泥濘を吹き飛ばすとそこに空いたスペースを一人の若者が駆けていく。
勇者クリストフェル・マルムスティーン……虹色の剣を構えた彼は、それまで以上の速度で前へと走っていた……あの声、オズボーン王と名乗る何かが現れた瞬間、全身に力がみなぎるような気がした。
そしてそれは現実であり、今彼は恐ろしい速度で駆けている……彼を捕まえようと泥濘の手が伸びるが、それをギリギリで躱し、彼はプリムローズが指し示した地点へと一直線に進んでいた。
「あそこかッ!」
泥濘の中に光る黄金の瞳が、迫り来るクリストフェルを睨みつける……だがその瞳を吹き飛ばすように、炎が叩きつけられ、悲鳴のような音をあげて炭化していくのを見ながら、彼は剣を握り直した。
今こうしている間にもシャルロッタは魔王との死闘を繰り広げている……ここで混沌の仕掛けた原始の海を滅せれば、彼女を助けられる。
彼にとってシャルロッタは心の底から愛し、そして彼女は彼を愛していると言っていた……ずっと聴きたかった言葉、ずっと言って欲しかった言葉をあの時聞かされたことで、彼の心は羽が生えたように軽かった。
自らがこの世界の勇者であるという証明のために、そして自らが心より愛する者のために、彼は全てを投げ打ってでも原始の海を止める必要を感じていた。
「うおおおおおっ! 僕に力を!!」
「いけええっ! 勇者よ!」
「殿下ッ!」
「人の子よ、世界を救えッ!」
「王たる器よ、その力を見せてみよッ!!」
「婚約者どの……ッ! 我と仲間が守ります!」
彼が剣を振り翳して迫り来る泥濘を切り裂くが、その速度を持ってしても防げないほどの手が彼へと伸びる……だが、それらは空中で爆発し、炎によって次々と粉砕されていく。
ユルの炎が、プリムローズの火球が、ミュルミドンの槍が、ドワーフの斧が、エルフの弓矢が次々とクリストフェルへと迫ろうとする泥濘を打ち滅ぼしていく。
世界を滅ぼそうとする混沌に立ち向かう勇者、そしてその仲間の力が原始の海を構成する泥濘を次々と削り取っていった。
大きく跳躍したクリストフェルが虹色に輝く名剣蜻蛉を構えると、その肉体が黄金色の魔力に包まれる。
広葉樹の盾の聖なる力が勇者を守る盾となり、彼に触れようとした泥濘が瞬時に消滅していく。
必死に争おうと次々と彼へと手が伸びるが……クリストフェルは一筋の光の刃と化し、雄叫びをあげながら泥濘の中心……黄金に光る巨大な魔法陣の中心へと剣を突き立てた。
「これで終わりだッ!」
凄まじい音と共に辺りが金色の光に包まれていく……突き立てられた剣が、魔法陣の一角を破壊する……それだけで十分だった。
それまで混沌の泥濘を繋ぎ止めていた魔力が一瞬にして逆流し、自らを崩壊へと導いていく……王城の地下空間が光に飲み込まれ、天高く伸びる光の柱となって伸びていくのを、その場にいた全員が見守っていた。
全てが白く輝く中……パキイイッ! という軽い音を立てて、魔法陣が光のなかへと溶けていく……それまで空間を侵食していたはずの原始の海は姿を消し、次第に沈黙だけがその場を支配していった。
クリストフェルは大きく息を吐くと、周りを見渡して呆然とした表情で呟いた。
「……とまった? 原始の海が無くなって……そ、そうだシャルの元へ行かなければ……!」
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