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第三五五話 シャルロッタ 一六歳 魔王 〇五
しおりを挟む「うあああああああッ!!!」
「クハハハッ!! さあどこまで耐えられるッ!!」
魔王トライトーンの仕掛けた混沌魔法六合なる徴候による圧力にわたくしは必死に抵抗する。
生命力をブチ込み失っていく魔力へと転換して無理やり体の奥底から力の全てを絞りだしていくが、それでもどんどん自分の中にある大切な何かがゴッソリと失われていくような感覚に襲われる。
この感覚が次第に虚無へと移行し、最後には全てが消滅する時……『死』が訪れるのだ、という話を転生前の勇者時代に聞いた記憶がある。
だが、そもそも混沌魔法や神滅魔法もそうだけど、大規模な領域を構築する魔法というのは展開そのものに時間制限があり、長時間効果を継続することは難しい。
「ああああ……ッ! た、耐えろ……ッ! わたくし!」
「生命の炎が弱くなっているぞ……このまま押し切ってやるわ!!」
魔法の効果自体がどれだけ強力であっても、結界状に広げた領域というのは通常空間内に別の空間を構築するという実に高度な技術と理論に基づいており、非常に繊細な魔力操作を要求される。
さらに時間が経過すればするほど空間を維持する魔力は加速度的に増えていく……別空間がぽっかりとその場に生まれれば、通常空間はそれを飲み込もうとするためだ。
水圧に耐えるダムのように、水量が増えれば増えるほと凄まじい圧力がかかりそれに耐えるだけの強度が必要となる……物体ではないので、その堰き止めるダムの役割を担うのは魔力そのものだ。
そのため人間では結界魔法を維持できるのはせいぜい一分にも満たない……わたくしですら数分持たせれば疲労困憊でどうしようもないくらい消耗することもある。
「……くああああああッ!」
「フハハハハハッ!」
耐え続けるたった一秒が、まるで無限の長さのように思える……これほど長い一秒をわたくしは感じたことがない。
命を削って力を振り絞るわたくしの瞳からドロリとした真っ赤な血液が流れ出す……毛細血管が圧力に耐えきれず破裂したのだ。
次の瞬間鼻からつーっ、と血が滴る……脳のどこかの血管が破れたか? それとも脳そのものが壊れかかっているのか、頭の中が異常な激痛を発し始めている。
だが耐えきれなければ……わたくしは元勇者、魔王という巨悪に立ち向かい世界を救うもの……その使命感だけが今わたくしの足を支えている。
「ま、負けるか……ッ!!」
「……シャル……!!」
わたくしが必死に耐え凌いでいるその時、幻聴のように名前を呼ぶ声が聞こえた。
ああ、もうすぐ生命力が尽きるのか……と口元に自重気味の笑みが浮かぶが、その声の主のことをすぐに思い返しわたくしは思わず目を見開いてその声の方向へと視線を向ける。
そこには混沌の大海原、その中を黄金の軌跡を残しながら走り抜ける一人の男性の姿が見えた……黄金に輝く髪、青い瞳、そして整った顔立ち。
手には虹色に光る剣を握り、彼に向かって迫る黒い手を切り裂き振り払いながら必死にわたくしへと手を伸ばすとても大切な人物。
クリストフェル・マルムスティーン……マルヴァースの勇者にしてイングウェイ王国の第二王子が、まるで水面を飛ぶかのように走りながらこちらへ向かってくるのが見えた。
「……クリ……ス……? クリス?!」
「シャル……! 待ってろ……!」
「……だ、だめ……! そこは人間では……!」
わたくしは思わず手を伸ばそうとするが、全身を包み込む凄まじい激痛に思わず膝をついてしまう……混沌の大海原、つまり宇宙のことだが人間はその中へと足を踏み入れることは許されない。
魔王トライトーンは擬似的に結界内にその宇宙を構築したわけだが、その中に人が足を踏み入れれば待っているのは惨たらしく膨れ上がって破裂する確実な死だけが待っているのだ。
しかし……クリスは恐ろしく神聖な黄金に輝く光を纏い、わたくしだけを見つめて跳んでいる……魔王トライトーンもクリスに気がついたのだろう、目を見開いて驚いていた。
「ば、バカな……! 防御結界から抜ければ定命のものは確実に死ぬ空間だぞ……!?」
「うおおおおおおッ!」
クリスは名剣蜻蛉を振り翳し、迫り来る黒い手を次々と切り裂いていく……驚くべきことにその剣筋はまさに「始まりの勇者」スコット・アンスラックスそのものと言える凄まじい鋭さを持っており、わたくしですら全ての軌跡が見えないような驚くべき速度で放たれていた。
切り裂かれるたびに黒い手は黒い煙と塵となって消滅を繰り返し、次第に六合なる徴候が構築した空間の外殻へと亀裂が走る。
神聖なる魔力、いや神力か? クリスの纏う神々しい光が魔王トライトーンの邪悪なる魔力へと干渉し、空間そのものにダメージを与え始めているのだ。
だがそれをさせじと魔王トライトーンの構築した空間から無数の黒い手が彼に向かって伸びるが、それを難なくクリスは切り裂いて見せた。
「ば、バカな……! クリストフェルは未熟な勇者だったはず……!」
「僕は……マルヴァースの勇者、そして僕が愛する全てを……シャルを守るためにどこまでも強くなるんだッ!!」
クリスは大きく叫ぶと大きく跳躍してわたくしへ手を伸ばす……触手に囲まれながらも必死に伸ばされるその手を取るために、わたくしも震える手を必死に伸ばす……魔力の限界が訪れた防御結界はすでに崩壊を始めておりわたくしを引き裂こうと黒い手はその勢いを強く、そしてさらに膨れ上がっていく。
指先が触れると同時に空間内に凄まじい黄金の閃光が爆発する……そしてその光は混沌魔法による結界を一気に崩壊させ、空間の外殻が破片となって砕け散っていく。
クリスの手とわたくしの手はしっかりと握られ、気がつけば彼の胸の中に抱きしめられるような格好となった……暖かく優しい光がわたくしの疲弊し切った身体に暖かさをもたらしている。
その心地よい暖かさに包まれたわたくしはそっと彼へと体を預ける……お互いの心臓の音が伝わってくる、その鼓動すらもまるで心が癒されるような優しい気持ちを思い起こさせるのだ。
「バカな……これは、女神の力か……!」
「……女神が僕に力をくれた、そして僕とシャルが魔王トライトーン……お前を倒す」
「……クリス……」
彼の腕の中からそっと見上げると、クリスはそれに気がついたのか優しく微笑む……ああ、この人は本当にマルヴァースの勇者なのだ、とそこで改めて思った。
転生前にわたくしが救ったレーヴェンティオラの人も、必死に争い敵を倒して優しく手を差し伸べる勇者ラインに同じような眼差しを向けたのではないだろうか?
勇者は人を救い、そして人を鼓舞し、導く……勇気あるものだけが勇者ではない、強ければ勇者でもないのだ……クリスの凛とした表情にわたくしは本物の勇者だけが持つ素質のようなものを感じる。
ひどく疲弊したわたくしが堪えきれずに咳き込み、思わず口を押さえたその指の間から真っ赤な血が漏れ出すのを見て、クリスは目を見開き、そして魔王トライトーンはほくそ笑む。
「……だが片割れは完全に削り切った……もはや死を待つ以外に方法はあるまい」
「シャル……! 大丈夫かい?」
「しゃ、シャル……! 死なないでください……私の契約者がこんなところで……!」
「ちょっと無理しすぎました……わたくしもう魔力が残ってません……命も削ったんですけどね……」
苦笑気味に笑うとわたくしはそっと彼の頬に手を添える……ああ、死が近づいている……体がひどく冷え始め、足に力が入らなくなっていく。
目が霞む、ぼんやりとした視界の中最後に見るのがクリスの顔でよかったかもな、とさえ思っている自分がいる……慌てて側に駆け寄ってきたユルが鼻を必死に鳴らしている。
わたくしはユルの頭にそっと手のひらを乗せると、ほんの少し残された魔力を使って彼との契約を解除すると、ほんの少しだが手のひらに光が灯る。
「……契約解除」
「……シャル?! なんで契約を解除して……我はそれを望んでいない……!」
「……わたくしが死んだらあなたも死ぬでしょ……それはダメよ……」
どんどん体が寒くなっていく……ああ三回目の死か、最後まで戦えないのは残念だけど、頑張ったと思う。
体から力が次第に抜け始め、わたくしは手に持っていた魔剣不滅を手放した。
カシャーン! という甲高い音を立てて魔剣が城の床へと転がる……確実にわたくしが死んだ、と思ったのだろう魔王トライトーンは勇者の死を見届けるべく邪悪な笑みを浮かべたままこちらの様子を見つめていた。
だが必死にわたくしの手を舐め続けるユルと違って、クリスはじっとわたくしの目を見て何かを決意したかのように黙ったまま頷く。
「……君を死なせはしない……僕にとって心より大事で、愛する人を死なせるなど勇者ではない」
「……クリス……」
「シャル……僕は君を心から愛している」
「……嬉しいです……わたくしも貴方のことを愛してます……」
次の瞬間、そっと目を瞑ったクリスの顔が近づくと、彼の唇がわたくしの唇へとそっと重ねられる……柔らかい感触と、仄かな暖かさが死を目前にした自分の心に広がっていく。
この身体に転生して彼に求婚されて、愛されているという実感を得ている時に感じていた、彼への強い愛情をここで気が付かされるとは。
わたくしシャルロッタ・インテリペリはクリストフェル・マルムスティーンを愛している……それが偽りのないわたくしの気持ちだ。
ああ、そうだ前世までは男性だったが、肉体が女性である以上精神が肉体に引っ張られていたのは理解しているんだ……だからもうそれは認めよう。
だが、不思議なことに重ねられた唇を通じて突然わたくしの中に凄まじいまでの力が流れ込んでいく……それは神聖なる神力となりわたくしの肉体をまるで元に戻すように修復し、そして失われたはずの魔力が一気に蘇っていく。
重ねられていた唇が離れ、そして彼に抱き抱えられたままのわたくしはなぜ復活したのかまるで理解できないまま呆然としていた。
「……あれ? なんで魔力が……身体も修復されて……あるぇ?」
「クハハハッ!! さあどこまで耐えられるッ!!」
魔王トライトーンの仕掛けた混沌魔法六合なる徴候による圧力にわたくしは必死に抵抗する。
生命力をブチ込み失っていく魔力へと転換して無理やり体の奥底から力の全てを絞りだしていくが、それでもどんどん自分の中にある大切な何かがゴッソリと失われていくような感覚に襲われる。
この感覚が次第に虚無へと移行し、最後には全てが消滅する時……『死』が訪れるのだ、という話を転生前の勇者時代に聞いた記憶がある。
だが、そもそも混沌魔法や神滅魔法もそうだけど、大規模な領域を構築する魔法というのは展開そのものに時間制限があり、長時間効果を継続することは難しい。
「ああああ……ッ! た、耐えろ……ッ! わたくし!」
「生命の炎が弱くなっているぞ……このまま押し切ってやるわ!!」
魔法の効果自体がどれだけ強力であっても、結界状に広げた領域というのは通常空間内に別の空間を構築するという実に高度な技術と理論に基づいており、非常に繊細な魔力操作を要求される。
さらに時間が経過すればするほど空間を維持する魔力は加速度的に増えていく……別空間がぽっかりとその場に生まれれば、通常空間はそれを飲み込もうとするためだ。
水圧に耐えるダムのように、水量が増えれば増えるほと凄まじい圧力がかかりそれに耐えるだけの強度が必要となる……物体ではないので、その堰き止めるダムの役割を担うのは魔力そのものだ。
そのため人間では結界魔法を維持できるのはせいぜい一分にも満たない……わたくしですら数分持たせれば疲労困憊でどうしようもないくらい消耗することもある。
「……くああああああッ!」
「フハハハハハッ!」
耐え続けるたった一秒が、まるで無限の長さのように思える……これほど長い一秒をわたくしは感じたことがない。
命を削って力を振り絞るわたくしの瞳からドロリとした真っ赤な血液が流れ出す……毛細血管が圧力に耐えきれず破裂したのだ。
次の瞬間鼻からつーっ、と血が滴る……脳のどこかの血管が破れたか? それとも脳そのものが壊れかかっているのか、頭の中が異常な激痛を発し始めている。
だが耐えきれなければ……わたくしは元勇者、魔王という巨悪に立ち向かい世界を救うもの……その使命感だけが今わたくしの足を支えている。
「ま、負けるか……ッ!!」
「……シャル……!!」
わたくしが必死に耐え凌いでいるその時、幻聴のように名前を呼ぶ声が聞こえた。
ああ、もうすぐ生命力が尽きるのか……と口元に自重気味の笑みが浮かぶが、その声の主のことをすぐに思い返しわたくしは思わず目を見開いてその声の方向へと視線を向ける。
そこには混沌の大海原、その中を黄金の軌跡を残しながら走り抜ける一人の男性の姿が見えた……黄金に輝く髪、青い瞳、そして整った顔立ち。
手には虹色に光る剣を握り、彼に向かって迫る黒い手を切り裂き振り払いながら必死にわたくしへと手を伸ばすとても大切な人物。
クリストフェル・マルムスティーン……マルヴァースの勇者にしてイングウェイ王国の第二王子が、まるで水面を飛ぶかのように走りながらこちらへ向かってくるのが見えた。
「……クリ……ス……? クリス?!」
「シャル……! 待ってろ……!」
「……だ、だめ……! そこは人間では……!」
わたくしは思わず手を伸ばそうとするが、全身を包み込む凄まじい激痛に思わず膝をついてしまう……混沌の大海原、つまり宇宙のことだが人間はその中へと足を踏み入れることは許されない。
魔王トライトーンは擬似的に結界内にその宇宙を構築したわけだが、その中に人が足を踏み入れれば待っているのは惨たらしく膨れ上がって破裂する確実な死だけが待っているのだ。
しかし……クリスは恐ろしく神聖な黄金に輝く光を纏い、わたくしだけを見つめて跳んでいる……魔王トライトーンもクリスに気がついたのだろう、目を見開いて驚いていた。
「ば、バカな……! 防御結界から抜ければ定命のものは確実に死ぬ空間だぞ……!?」
「うおおおおおおッ!」
クリスは名剣蜻蛉を振り翳し、迫り来る黒い手を次々と切り裂いていく……驚くべきことにその剣筋はまさに「始まりの勇者」スコット・アンスラックスそのものと言える凄まじい鋭さを持っており、わたくしですら全ての軌跡が見えないような驚くべき速度で放たれていた。
切り裂かれるたびに黒い手は黒い煙と塵となって消滅を繰り返し、次第に六合なる徴候が構築した空間の外殻へと亀裂が走る。
神聖なる魔力、いや神力か? クリスの纏う神々しい光が魔王トライトーンの邪悪なる魔力へと干渉し、空間そのものにダメージを与え始めているのだ。
だがそれをさせじと魔王トライトーンの構築した空間から無数の黒い手が彼に向かって伸びるが、それを難なくクリスは切り裂いて見せた。
「ば、バカな……! クリストフェルは未熟な勇者だったはず……!」
「僕は……マルヴァースの勇者、そして僕が愛する全てを……シャルを守るためにどこまでも強くなるんだッ!!」
クリスは大きく叫ぶと大きく跳躍してわたくしへ手を伸ばす……触手に囲まれながらも必死に伸ばされるその手を取るために、わたくしも震える手を必死に伸ばす……魔力の限界が訪れた防御結界はすでに崩壊を始めておりわたくしを引き裂こうと黒い手はその勢いを強く、そしてさらに膨れ上がっていく。
指先が触れると同時に空間内に凄まじい黄金の閃光が爆発する……そしてその光は混沌魔法による結界を一気に崩壊させ、空間の外殻が破片となって砕け散っていく。
クリスの手とわたくしの手はしっかりと握られ、気がつけば彼の胸の中に抱きしめられるような格好となった……暖かく優しい光がわたくしの疲弊し切った身体に暖かさをもたらしている。
その心地よい暖かさに包まれたわたくしはそっと彼へと体を預ける……お互いの心臓の音が伝わってくる、その鼓動すらもまるで心が癒されるような優しい気持ちを思い起こさせるのだ。
「バカな……これは、女神の力か……!」
「……女神が僕に力をくれた、そして僕とシャルが魔王トライトーン……お前を倒す」
「……クリス……」
彼の腕の中からそっと見上げると、クリスはそれに気がついたのか優しく微笑む……ああ、この人は本当にマルヴァースの勇者なのだ、とそこで改めて思った。
転生前にわたくしが救ったレーヴェンティオラの人も、必死に争い敵を倒して優しく手を差し伸べる勇者ラインに同じような眼差しを向けたのではないだろうか?
勇者は人を救い、そして人を鼓舞し、導く……勇気あるものだけが勇者ではない、強ければ勇者でもないのだ……クリスの凛とした表情にわたくしは本物の勇者だけが持つ素質のようなものを感じる。
ひどく疲弊したわたくしが堪えきれずに咳き込み、思わず口を押さえたその指の間から真っ赤な血が漏れ出すのを見て、クリスは目を見開き、そして魔王トライトーンはほくそ笑む。
「……だが片割れは完全に削り切った……もはや死を待つ以外に方法はあるまい」
「シャル……! 大丈夫かい?」
「しゃ、シャル……! 死なないでください……私の契約者がこんなところで……!」
「ちょっと無理しすぎました……わたくしもう魔力が残ってません……命も削ったんですけどね……」
苦笑気味に笑うとわたくしはそっと彼の頬に手を添える……ああ、死が近づいている……体がひどく冷え始め、足に力が入らなくなっていく。
目が霞む、ぼんやりとした視界の中最後に見るのがクリスの顔でよかったかもな、とさえ思っている自分がいる……慌てて側に駆け寄ってきたユルが鼻を必死に鳴らしている。
わたくしはユルの頭にそっと手のひらを乗せると、ほんの少し残された魔力を使って彼との契約を解除すると、ほんの少しだが手のひらに光が灯る。
「……契約解除」
「……シャル?! なんで契約を解除して……我はそれを望んでいない……!」
「……わたくしが死んだらあなたも死ぬでしょ……それはダメよ……」
どんどん体が寒くなっていく……ああ三回目の死か、最後まで戦えないのは残念だけど、頑張ったと思う。
体から力が次第に抜け始め、わたくしは手に持っていた魔剣不滅を手放した。
カシャーン! という甲高い音を立てて魔剣が城の床へと転がる……確実にわたくしが死んだ、と思ったのだろう魔王トライトーンは勇者の死を見届けるべく邪悪な笑みを浮かべたままこちらの様子を見つめていた。
だが必死にわたくしの手を舐め続けるユルと違って、クリスはじっとわたくしの目を見て何かを決意したかのように黙ったまま頷く。
「……君を死なせはしない……僕にとって心より大事で、愛する人を死なせるなど勇者ではない」
「……クリス……」
「シャル……僕は君を心から愛している」
「……嬉しいです……わたくしも貴方のことを愛してます……」
次の瞬間、そっと目を瞑ったクリスの顔が近づくと、彼の唇がわたくしの唇へとそっと重ねられる……柔らかい感触と、仄かな暖かさが死を目前にした自分の心に広がっていく。
この身体に転生して彼に求婚されて、愛されているという実感を得ている時に感じていた、彼への強い愛情をここで気が付かされるとは。
わたくしシャルロッタ・インテリペリはクリストフェル・マルムスティーンを愛している……それが偽りのないわたくしの気持ちだ。
ああ、そうだ前世までは男性だったが、肉体が女性である以上精神が肉体に引っ張られていたのは理解しているんだ……だからもうそれは認めよう。
だが、不思議なことに重ねられた唇を通じて突然わたくしの中に凄まじいまでの力が流れ込んでいく……それは神聖なる神力となりわたくしの肉体をまるで元に戻すように修復し、そして失われたはずの魔力が一気に蘇っていく。
重ねられていた唇が離れ、そして彼に抱き抱えられたままのわたくしはなぜ復活したのかまるで理解できないまま呆然としていた。
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