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第三五三話 シャルロッタ 一六歳 魔王 〇三
しおりを挟む「ぬうううんッ!」
「……ぐううッ!」
魔王トライトーンの振るう戦斧……黄金の軌跡を宙に残しながら迫る一撃を、わたくしは手に持った魔剣不滅で受け止める。
思ったより軽い? そう思う間も無く魔王トライトーンはそのまま目も眩むような連続攻撃をわたくしへと叩きつけてきた。
戦斧は剣などに比べると非常に重量がある武器の一つだ……特に斧頭を大きく制作されているものはバランスが悪いものの、一級の戦士によって振るうと恐るべき威力を発揮する。
ギャガアアッ! という鈍い音を立てて双方の武器が衝突すると刃同士が擦れて火花を散らしていく……見たところ恐ろしくアンバランスな格好の武器にもかかわらず、魔王トライトーンは神剣を手にしていた時と変わらないほどの速度でそれを扱って見せている。
「クハハッ! 反撃しないのか!!」
「思ったより……ッ! 早いッ!」
「シャル!! 火炎炸裂ッ!」
わたくしが防戦一方になっているところへ、クリスを背に乗せたまま走るユルが援護のために火炎炸裂を撃ち放つ……だが魔王トライトーンはその魔法による一撃に注意を払うことなくわたくしへと武器を振い続ける。
炎が魔王トライトーンの上半身へと直撃し、ドガアアンッ! という轟音と共に爆発するが、その爆炎の中からまるで無傷の彼が体勢を整えようと後ろへステップしたわたくしとの距離を一気に詰めようと飛び出してきた。
ユルの魔法でも無傷なのか?! 魔法に対する耐性は訓戒者のレベルなど遥かに凌駕しているのだろう……だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
わたくしは思い切って前に出る……ここで下がったところで退路があるわけじゃない、むしろ攻めに転じなければ確実に押し切られる。
「クハハハッ! 前に出るか!」
「ぶった斬ってやるッ!」
神速で振り抜かれたわたくしの斬撃を魔王トライトーンは戦斧を使って受け止める……ギャイイインッ! という甲高い音が周囲に木霊する。
そのままわたくしは連続で斬撃を放っていく……隙を与えるわけにはいかない、わたくしの斬撃は上下左右、そして袈裟懸けと常人には判別できないほどの速度で放たれているにもかかわらず、魔王トライトーンはそのすべての斬撃を器用に、そして丁寧に防御していく。
この戦闘の達人っぷりはあの打ち砕く者を彷彿とさせる巧みさを感じる……アイツは不意打ちなども得意だったが、その戦闘術は洗練され超一流の戦士に匹敵する技術を持っていた。
「クハハハッ!」
「はあああッ!」
剣風とも表現すれば良いだろうか? わたくしと魔王トライトーンはお互い全力の斬撃を放っているが、双方が完璧に受け止めているが、それは恰も武器による結界がせめぎ合うかのような光景だったに違いない。
だが魔王トライトーンの無尽蔵とも言える生命力……混沌神の寵愛を受けた究極の存在としての恩寵のようなものだろうが、呼吸すら行わずに全力の斬撃が可能なそれと違い、一応わたくしは人間としての生命活動にかなり左右される。
肺は生命活動を維持するために呼吸が必要だし、全身を駆け巡る血流を司る心臓は破裂しそうなほどに脈打っている。
ほんの一瞬だけ息継ぎをした隙を魔王トライトーンの一撃は見逃さなかった……ザンッ! という嫌な音と共にわたくしの腹部が一気に引き裂かれる。
「な、あ……ッ!」
「シャルッ!」
「クハハッ! ほんの一瞬だが動きが鈍ったぞ?!」
わたくしの腹部からドパッ、という音を立てて真っ赤な血液が大量にこぼれ落ちる……腹膜を切り裂かれたことで、一部の内臓が外へとこぼれ落ち地面へと落下しようとしている。
形容しようのない激痛……わたくしは歯を食いしばると一気に修復をかけていくが、先ほどまでと違い恐ろしくその速度が鈍化している。
当たり前だ、魔力を使いまくっているのだから……人から見たら無尽蔵としか言いようのない莫大な魔力でも、休息し回復をするか外から取り入れなければ一時的に枯渇する。
だが今引き下がるわけにはいかない……わたくしは大きく息を吸い込むのと同時に、一気に致命傷クラスの傷を修復していく。
「……あああッ!」
「……ほお……魔力を振り絞る? いや違うな」
「……さすが魔王、こっちの手札を理解する速度が早いわね……」
わたくしが少し表情を歪め修復の終わった腹部を手で押さえていると、魔王が攻撃の手を休めて距離を取り先ほどまでの勝ち誇った顔から一転してかなり真剣な面持ちでこちらをじっと見つめた。
魔力……この不可思議な力はレーヴェンティオラ、マルヴァース共に人間や魔物がもともと体内に持っている力である。
腕力の増強や、防御結界などに展開するという行為……実はこの魔力を変換することで、代替させていることに他ならない。
この代替という行為は逆パターンも行える……今わたくしは不足する魔力を補うために、自らの生命力を変換したということに魔王トライトーンは気がついたのだ。
一瞬で気がつくもんかね……今までも結構足りなくなりそうなら少量だけ変換してたんだけど、その動きに気がついたのは彼が初めてだ。
普段はこんなことやらない……生命力を変換するということは自らの命を危険に晒す行為だからだ。
「……手札? ふむ……定命の者が命を燃やして魔力を生み出す……ということは寿命を削っているのと変わらないのではないか?」
「……な……シャル、そんな危険なことを……!」
「一時的よ? 生命力はイコール寿命じゃない」
「……詭弁だな、だがお前は本当に興味深い……」
魔王トライトーンの言葉にクリスが驚いているが、大丈夫生命力の変換は一時的なものであり、自らの命を危険に晒してまで代替するリスクは理解しているつもりだ。
だが……思ったよりも傷が深かったのと、魔力の減衰が激しかったのか、わたくしの膝がカクカクと笑うとがくりと膝が崩れる。
慌てて足に力を込めて倒れることだけは拒否するが、それを見た魔王トライトーンは口元を歪めて笑う……言葉以上にわたくしが肉体、生命力を酷使していることを悟ったのだ。
こんな時に……肉体はあまりいうことを聞きそうにないな、これは……わたくしがこの世界に来て何度か命に届きそうな危険はあったが、今回は連戦すぎて正直ギリギリまでいろいろなものを絞り出さないといけないかもしれない。
「だけどこの程度の危機……前にも超えてきている……」
「クハハッ! シャルロッタ・インテリペリ……レーヴェンティオラを救ったその力を見せてみろッ!」
「……?! ユル……クリスと一緒に防御結界を!」
魔王トライトーンの魔力が膨れ上がる……まずい、なんらかの大魔法を放つつもりだと察知したわたくしはユルへと指示を送る。
その言葉でユルは意図を察知したのかクリスを乗せたまま全力の魔法結界を構築していく……ユルはともかく、クリスは魔法の才能についてはまだ発展途上だ。
普通の人間から考えたらよほど器用に魔法を操って見せるが、それと命をかけた戦闘で有効な魔法を扱えるのかというのはまるで別の話だ。
わたくしも一気に魔力を集中させていく……おそらくこれほどの魔力を放っているということは混沌魔法、まだわたくしが見たことのない恐るべきものが放たれるだろう。
こちらも魔法の準備を始めたのを見て魔王トライトーンは凶暴な笑みを浮かべると、わたくしの魔法が放たれるよりも早く、魔王は魔法を完成させる。
「混沌魔法……六合なる徴候ッ!」
「しま……ッ!」
咄嗟に集中した魔力を一気に防御結界へと展開し直す……それと同時に魔王トライトーンを中心に、周囲の空間が漆黒の闇へと染め上げられる。
六合なる徴候の名にふさわしく、その漆黒の闇の中に美しく星や星雲が瞬く仮想の空間が生み出された。
これは……宇宙?! わたくしや防御結界を展開しているユル、そしてクリスはその美しさと、壮大さを見てあっけに取られ言葉を失う。
美しく輝く星たちの中心、そこにいる魔王トライトーンの足元から幾つもの黒く細い腕が伸びていく……それは有機的かつしなやかで扇情的とも言える動きを見せながらゆっくりとわたくしや、ユル達へと伸びていく。
取り囲むように数十本の黒い腕が結界の淵まで伸びると、まるで蛇が獲物を捕らえるかのような速度で一気に結界へと取り憑いた。
「ここは仮想の虚空……世界を隔てる星が浮かぶ漆黒の大海原を再現している」
「……宇宙……ッ!」
「博識だな? 世界によってはそう呼ぶものもいる……そしてその大海原は混沌の領域だ」
魔王トライトーンの言葉と同時に、その漆黒の腕はそれまでの太さよりも数倍に膨張し、まるで血が流れ出したかのように赤い血管の筋を浮かび上がらせて結界を締め上げていく。
だが、わたくしの知識にある宇宙にはこんな腕なんかいない……結界へと取り憑いた漆黒の腕はまるで溶け出すように広がると、消化するかのように結界へと侵食を始めた。
まずい、これは魔力をひたすらに注ぎ込まないとダメなやつだ……! わたくしが一気に魔力を膨れあがらせるのと同時に、その魔力をまるで真綿が水を吸い込むかのように一気に吸収し始める黒い腕。
ユルとクリスも必死にその腕に取り込まれないように魔力を結界へと注ぎ込んでいる……結界に張りついている腕の数はわたくしよりもはるかに少ないことから、ギリギリ耐え切れる可能性が残っている。
「……く、あああッ! これはき、きつい……ッ!」
「先ほどお前が生命力を魔力へと変換していることで思いついた……どこまでお前は耐えられる?」
星の大海原に立つ魔王トライトーンは口元を歪めて笑う……その心の動きに漆黒の腕が喜びを表すかのようにビクビクと蠢くと、その吸収のスピードをどんどん上げていく。
すでにわたくしの魔力は限界を超え始め、徐々に生命力を変換しているような状況なんだぞ?! まずいこのままだと確実にわたくしの命は消え失せ、明確に前世でも感じた「死」だけが待っているのが理解できた。
ゾッとするような未来を想像し、わたくしの心の中に燃え上がる怒りが声となって放たれる。
「ざけ……ふざけやが……あああああああッ!」
「……ぐううッ!」
魔王トライトーンの振るう戦斧……黄金の軌跡を宙に残しながら迫る一撃を、わたくしは手に持った魔剣不滅で受け止める。
思ったより軽い? そう思う間も無く魔王トライトーンはそのまま目も眩むような連続攻撃をわたくしへと叩きつけてきた。
戦斧は剣などに比べると非常に重量がある武器の一つだ……特に斧頭を大きく制作されているものはバランスが悪いものの、一級の戦士によって振るうと恐るべき威力を発揮する。
ギャガアアッ! という鈍い音を立てて双方の武器が衝突すると刃同士が擦れて火花を散らしていく……見たところ恐ろしくアンバランスな格好の武器にもかかわらず、魔王トライトーンは神剣を手にしていた時と変わらないほどの速度でそれを扱って見せている。
「クハハッ! 反撃しないのか!!」
「思ったより……ッ! 早いッ!」
「シャル!! 火炎炸裂ッ!」
わたくしが防戦一方になっているところへ、クリスを背に乗せたまま走るユルが援護のために火炎炸裂を撃ち放つ……だが魔王トライトーンはその魔法による一撃に注意を払うことなくわたくしへと武器を振い続ける。
炎が魔王トライトーンの上半身へと直撃し、ドガアアンッ! という轟音と共に爆発するが、その爆炎の中からまるで無傷の彼が体勢を整えようと後ろへステップしたわたくしとの距離を一気に詰めようと飛び出してきた。
ユルの魔法でも無傷なのか?! 魔法に対する耐性は訓戒者のレベルなど遥かに凌駕しているのだろう……だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
わたくしは思い切って前に出る……ここで下がったところで退路があるわけじゃない、むしろ攻めに転じなければ確実に押し切られる。
「クハハハッ! 前に出るか!」
「ぶった斬ってやるッ!」
神速で振り抜かれたわたくしの斬撃を魔王トライトーンは戦斧を使って受け止める……ギャイイインッ! という甲高い音が周囲に木霊する。
そのままわたくしは連続で斬撃を放っていく……隙を与えるわけにはいかない、わたくしの斬撃は上下左右、そして袈裟懸けと常人には判別できないほどの速度で放たれているにもかかわらず、魔王トライトーンはそのすべての斬撃を器用に、そして丁寧に防御していく。
この戦闘の達人っぷりはあの打ち砕く者を彷彿とさせる巧みさを感じる……アイツは不意打ちなども得意だったが、その戦闘術は洗練され超一流の戦士に匹敵する技術を持っていた。
「クハハハッ!」
「はあああッ!」
剣風とも表現すれば良いだろうか? わたくしと魔王トライトーンはお互い全力の斬撃を放っているが、双方が完璧に受け止めているが、それは恰も武器による結界がせめぎ合うかのような光景だったに違いない。
だが魔王トライトーンの無尽蔵とも言える生命力……混沌神の寵愛を受けた究極の存在としての恩寵のようなものだろうが、呼吸すら行わずに全力の斬撃が可能なそれと違い、一応わたくしは人間としての生命活動にかなり左右される。
肺は生命活動を維持するために呼吸が必要だし、全身を駆け巡る血流を司る心臓は破裂しそうなほどに脈打っている。
ほんの一瞬だけ息継ぎをした隙を魔王トライトーンの一撃は見逃さなかった……ザンッ! という嫌な音と共にわたくしの腹部が一気に引き裂かれる。
「な、あ……ッ!」
「シャルッ!」
「クハハッ! ほんの一瞬だが動きが鈍ったぞ?!」
わたくしの腹部からドパッ、という音を立てて真っ赤な血液が大量にこぼれ落ちる……腹膜を切り裂かれたことで、一部の内臓が外へとこぼれ落ち地面へと落下しようとしている。
形容しようのない激痛……わたくしは歯を食いしばると一気に修復をかけていくが、先ほどまでと違い恐ろしくその速度が鈍化している。
当たり前だ、魔力を使いまくっているのだから……人から見たら無尽蔵としか言いようのない莫大な魔力でも、休息し回復をするか外から取り入れなければ一時的に枯渇する。
だが今引き下がるわけにはいかない……わたくしは大きく息を吸い込むのと同時に、一気に致命傷クラスの傷を修復していく。
「……あああッ!」
「……ほお……魔力を振り絞る? いや違うな」
「……さすが魔王、こっちの手札を理解する速度が早いわね……」
わたくしが少し表情を歪め修復の終わった腹部を手で押さえていると、魔王が攻撃の手を休めて距離を取り先ほどまでの勝ち誇った顔から一転してかなり真剣な面持ちでこちらをじっと見つめた。
魔力……この不可思議な力はレーヴェンティオラ、マルヴァース共に人間や魔物がもともと体内に持っている力である。
腕力の増強や、防御結界などに展開するという行為……実はこの魔力を変換することで、代替させていることに他ならない。
この代替という行為は逆パターンも行える……今わたくしは不足する魔力を補うために、自らの生命力を変換したということに魔王トライトーンは気がついたのだ。
一瞬で気がつくもんかね……今までも結構足りなくなりそうなら少量だけ変換してたんだけど、その動きに気がついたのは彼が初めてだ。
普段はこんなことやらない……生命力を変換するということは自らの命を危険に晒す行為だからだ。
「……手札? ふむ……定命の者が命を燃やして魔力を生み出す……ということは寿命を削っているのと変わらないのではないか?」
「……な……シャル、そんな危険なことを……!」
「一時的よ? 生命力はイコール寿命じゃない」
「……詭弁だな、だがお前は本当に興味深い……」
魔王トライトーンの言葉にクリスが驚いているが、大丈夫生命力の変換は一時的なものであり、自らの命を危険に晒してまで代替するリスクは理解しているつもりだ。
だが……思ったよりも傷が深かったのと、魔力の減衰が激しかったのか、わたくしの膝がカクカクと笑うとがくりと膝が崩れる。
慌てて足に力を込めて倒れることだけは拒否するが、それを見た魔王トライトーンは口元を歪めて笑う……言葉以上にわたくしが肉体、生命力を酷使していることを悟ったのだ。
こんな時に……肉体はあまりいうことを聞きそうにないな、これは……わたくしがこの世界に来て何度か命に届きそうな危険はあったが、今回は連戦すぎて正直ギリギリまでいろいろなものを絞り出さないといけないかもしれない。
「だけどこの程度の危機……前にも超えてきている……」
「クハハッ! シャルロッタ・インテリペリ……レーヴェンティオラを救ったその力を見せてみろッ!」
「……?! ユル……クリスと一緒に防御結界を!」
魔王トライトーンの魔力が膨れ上がる……まずい、なんらかの大魔法を放つつもりだと察知したわたくしはユルへと指示を送る。
その言葉でユルは意図を察知したのかクリスを乗せたまま全力の魔法結界を構築していく……ユルはともかく、クリスは魔法の才能についてはまだ発展途上だ。
普通の人間から考えたらよほど器用に魔法を操って見せるが、それと命をかけた戦闘で有効な魔法を扱えるのかというのはまるで別の話だ。
わたくしも一気に魔力を集中させていく……おそらくこれほどの魔力を放っているということは混沌魔法、まだわたくしが見たことのない恐るべきものが放たれるだろう。
こちらも魔法の準備を始めたのを見て魔王トライトーンは凶暴な笑みを浮かべると、わたくしの魔法が放たれるよりも早く、魔王は魔法を完成させる。
「混沌魔法……六合なる徴候ッ!」
「しま……ッ!」
咄嗟に集中した魔力を一気に防御結界へと展開し直す……それと同時に魔王トライトーンを中心に、周囲の空間が漆黒の闇へと染め上げられる。
六合なる徴候の名にふさわしく、その漆黒の闇の中に美しく星や星雲が瞬く仮想の空間が生み出された。
これは……宇宙?! わたくしや防御結界を展開しているユル、そしてクリスはその美しさと、壮大さを見てあっけに取られ言葉を失う。
美しく輝く星たちの中心、そこにいる魔王トライトーンの足元から幾つもの黒く細い腕が伸びていく……それは有機的かつしなやかで扇情的とも言える動きを見せながらゆっくりとわたくしや、ユル達へと伸びていく。
取り囲むように数十本の黒い腕が結界の淵まで伸びると、まるで蛇が獲物を捕らえるかのような速度で一気に結界へと取り憑いた。
「ここは仮想の虚空……世界を隔てる星が浮かぶ漆黒の大海原を再現している」
「……宇宙……ッ!」
「博識だな? 世界によってはそう呼ぶものもいる……そしてその大海原は混沌の領域だ」
魔王トライトーンの言葉と同時に、その漆黒の腕はそれまでの太さよりも数倍に膨張し、まるで血が流れ出したかのように赤い血管の筋を浮かび上がらせて結界を締め上げていく。
だが、わたくしの知識にある宇宙にはこんな腕なんかいない……結界へと取り憑いた漆黒の腕はまるで溶け出すように広がると、消化するかのように結界へと侵食を始めた。
まずい、これは魔力をひたすらに注ぎ込まないとダメなやつだ……! わたくしが一気に魔力を膨れあがらせるのと同時に、その魔力をまるで真綿が水を吸い込むかのように一気に吸収し始める黒い腕。
ユルとクリスも必死にその腕に取り込まれないように魔力を結界へと注ぎ込んでいる……結界に張りついている腕の数はわたくしよりもはるかに少ないことから、ギリギリ耐え切れる可能性が残っている。
「……く、あああッ! これはき、きつい……ッ!」
「先ほどお前が生命力を魔力へと変換していることで思いついた……どこまでお前は耐えられる?」
星の大海原に立つ魔王トライトーンは口元を歪めて笑う……その心の動きに漆黒の腕が喜びを表すかのようにビクビクと蠢くと、その吸収のスピードをどんどん上げていく。
すでにわたくしの魔力は限界を超え始め、徐々に生命力を変換しているような状況なんだぞ?! まずいこのままだと確実にわたくしの命は消え失せ、明確に前世でも感じた「死」だけが待っているのが理解できた。
ゾッとするような未来を想像し、わたくしの心の中に燃え上がる怒りが声となって放たれる。
「ざけ……ふざけやが……あああああああッ!」
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