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第三四五話 シャルロッタ 一六歳 闇征く者 〇五
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「……さあ、殺し合おうぜ混沌の眷属サマよ……俺がお前をぶっ殺して魔王そのものも滅ぼしてやる」
俺はそう言って笑うと、全身に纏う魔力のレベルを一段階上げる……よくアスリートがギアを上げるなんて表現を使ったりするが、これはそれに近い。
それはすでにこの世界における人間が内包している魔力量を大幅に超えており、その余波でオーヴァチュア城の壁には大きく亀裂が走り、今にもこの周囲は崩壊しそうなほどに震えているのがわかる。
レーヴェンティオラ、マルヴァース両方の世界において人間はその身に備えている魔力の送料がそれほど多くない、とされている。
例外的な存在として学園で会ったプリムローズ・ホワイトスネイクのように血統として代々莫大な魔力を受け継いでいるケースがあるが、それは本当に珍しいらしく、この世界に住む大半の人が大きな魔力を有するというのは非常に難しいとされている。
先天的に魔力を多く備える種族も存在している……エルフとかフェアリーみたいな種族はそもそも持っている魔力の量が人間とは段違いに大きいはずだ。
「……恐ろしいまでの莫大な魔力……人間の枠組みを超えているな……本当に人間なのか?」
「人間様だよ……見た目もこんなに可愛らしいだろぉ? あ?」
「……俺に人間の美醜などわかるか」
闇征く者は開いた嘴を再び手で閉じたあと、肉体を修復したのか何度か軽く首をゴキゴキと鳴らしながら呟く。
俺は彼に向かって中指をおっ立てると、口元を歪め舌を出して笑う……それを見た闇征く者は見た目とのギャップが激しすぎることに彼も流石に困惑してきたようで、赤い瞳を細めて困惑したような空気を出していた。
今世では俺をここに転生させたクソ女神のせいでこんなに可愛い美少女になってしまっているが、本質的には俺は男性としての意識もきちんと持っている。
普段はそれまでの生活様式から意識して女性として振る舞っているが、それは刷り込まれた反射的な行動のようなものでしかないので、本音を言えば窮屈な枷を外したかのように清々しい気分だ。
いや、もう一六年以上もそうやって暮らしているとどちらが本性なのかもうわからないってのが正直なところではあるが……だが今はこの状況がとても気持ち良い。
「……わかんねーかぁ……おっし、わからしてやるわ」
「……ッ!?」
一瞬で距離を詰めた俺の刺突が偶然なのか、見えていたのかわからないが顔を逸らした闇征く者の仮面から数ミリのところを撃ち抜く。
ほんの少し遅れてゴアアアアッ! という空間を撃ち抜く音と共に彼の背後にあった調度品が粉々に砕け散る。
そのまま膝を叩き込もうとするが、それには反応したのか闇征く者は手を使ってその一撃を受け流すと、反動を利用して体を回転させながら大きく後ろへと跳んで距離をとった。
格闘戦技術はどこで学んでるんだろうなあ……どーも戦闘術を理解して動いているようにしか思えないんだが……俺がぼりぼりと頭を掻いて視線を逸らすと、隙だと思ったのか訓戒者の手から漆黒の魔力が幾重にも打ち出される。
「……こいつは散々見せられたぜ? 無詠唱ってのは初めてだがよ」
放たれた魔法漆黒の弾丸がまるで空中を泳ぐように様々な軌道で迫る中、俺は虫でも叩き落とすかのように拳を使ってあらゆる方向から迫る漆黒の魔力を跳ね飛ばしていく。
ギアを上げることによって俺が一度に使用する魔力の桁が大きく上がっているからできる行動ではあるが、そもそも人間の魔力が一定の限界を持っているのには理由がある。
人間の体ってのは巨大な魔力に耐えるほど強くない……魔力は万能の力のように思われているが、あまりに巨大すぎる魔力というのは肉体そのものに強い影響、はっきり言えば破壊してしまうことがある。
莫大な魔力を持った人間が突然変異的に誕生すると、その肉体は大抵魔力の圧に耐えきれなくなってしまい、衰弱して結果的に死んでしまうことがある。
最悪のパターンは風船みたいに膨らんで破裂したりだ……だからまあ、人間として普通に暮らしているとこれだけの魔力量には肉体が確実に耐えきれなくなる。
「……く……この化け物が!」
「見た目がそのまんま化け物に言われたくねえよ、タコ」
そのまま俺は再び距離を詰めると闇征く者に向かって恐ろしい速度の連打を叩き込む……しかしその動きをある程度予測できているようで、彼はギリギリの速度ではあるがなんとか防御を繰り返す。
だが……俺の斬撃や蹴りの速度がさらに高速化していったことで、次第に捌ききれなくなってきたのか、体の端々に攻撃が当たり始める。
だが致命傷にはならないように肉体そのものを捩ったり、魔剣を使って受け流しているところを見るとこいつは戦闘術を喰らったか、何かの経験があるということだろう。
「はっはーッ! そろそろきついんじゃねえの?!」
「……ぐ……さらに速度を上げる気か……」
凄まじい速度の斬撃を魔剣の刀身を使って受け流すたびに、俺と闇征く者の間に恐ろしい数の火花が散っていく。
すでに斬撃は音の壁を越え始めており、刀身が振り抜かれるよりもはるかに遅く、風を切り裂く音が響いている……音の壁を突破ってやつだ。
だがそんな防御一辺倒の状況の中でも次第に慣れが出てくるのだろう、闇征く者は一瞬の切れ目を狙って俺の腹部へと前蹴りを叩き込む。
ドゴッ! という鈍い音を立てて俺の体が大きく跳ね飛ばされるが、その打撃自体は魔力による防御結界が完全に吸収し、俺自身の肉体にはまるで傷ひとつつかない。
「魔力による防御結界の厚さも変わるのか?」
「ちょっと前にぶち抜くやつがいたんでな、強化してんだわ」
「ぐ……あッ!」
彼の言葉に呼応するように相手の間合いに潜り込んだ俺の放った左拳が、闇征く者の胸へを叩き込まれる。
ゴガアッ! という音と共に彼の上半身の一部が文字通り吹き飛ぶが、ドス黒い血液を撒き散らしながらも絶命などせず、彼は大きく後ろへ飛んで距離を離すと、残った手で仮面の嘴を開けると同時にそこから黒い電流のようなものを吐き出した。
暗黒の稲妻は凄まじい音を立てながら俺に迫る……前に暴力の悪魔が使った白い稲妻の別バージョンか何かか?
だが速度は凄まじいが、肉体の修復に一部魔力を回しているのか威力はそれほどでもない……まあ人間に当たったら瞬時に消し飛ぶくらいの破壊力はあるだろうが。
俺はその攻撃を避けることもせず、防御結界によって相殺すると剣を構え直した。
「……ああ? こんなヘナチョコ入れたって効……があ?」
そこまで言葉を発した俺の鼻や耳、そして瞳や口元からドロリとした赤黒い血液が一気に流れ出す……それと同時に全身に凄まじい痛みが走ると、俺は思わず左手で口元を押さえて二、三歩蹈鞴を踏んで後退してしまう。
ギアを上げることで凄まじい魔力を一気に解放した俺の戦闘能力が格段に上がっているが、そもそもの肉体はそれほど強くないのを忘れていた。
当たり前だが、戦いに次ぐ戦いで極限以上に鍛えられた前世の勇者ライン時代はこの程度の魔力負荷などまるで気にするものではなかったが、転生後に女性の体であることを意識して、無理な訓練などはほとんどしていなかった弊害がここにきて足を引っ張っている。
軽すぎる体重、女性として素晴らしく魅力的なプロポーション、細い手足……前世と同じ訓練なんかしてしまったら、これらは維持できなかったため、俺は結果的に魔力で無理やりな強化をするという裏技を使っていた。
「……肉体が脆いのか……? 再生能力が強くても、肉体そのものは……」
「……馬鹿野郎、この程度ハンデだボケがああっ!」
顔中血塗れになりながら俺は一気に前に出る……痛みを無理やりに魔力による強制的な修復で抑え込み、引き千切れそうな手足を繋ぎ止め、俺は闇征く者へと切り掛かる。
先ほどと同じような構図……凄まじい速度で放たれる斬撃と打撃を、両者が防御し、受け流し……打撃を叩きつけて対消滅させていく。
だが……次第に俺の視界が真っ赤に染まっていく……喉の奥から込み上げる鉄臭い何かを一度吐き出すと、俺は回し蹴りを闇征く者へと叩き込む。
ズドン! という轟音をあげて叩き込まれた渾身の蹴りだが、肉体を修復しおえた闇征く者はその攻撃を受け止めたままこちらをじっと見つめていた。
「……クハ……人間の限界を超えた反動……お前は強いが、やはり人間としての頸木を抜けなければならぬな?」
「何を……かはっ! こなくそっ!」
俺の細い足首を闇征く者は片手で握ると、本来曲がってはいけない方向へとへし折って見せる……バキバキッ! という骨の砕ける嫌な音を立てて捻じ曲がる脚……だがその程度で引き下がるような俺ではない。
へし折れた脚をそのまま捩じ切れんばかりに砕きながら、相手の顔面へと大きく振り上げた踵を叩き込む……ドゴオアァアッ! という音をあげて闇征く者の顔面、いや仮面ごと相手の顔へとめり込み、そして相手の肉体の一部をひき千切るように振り抜いて見せた。
流石にその反撃は予想外だったのだろう、大きく破壊された仮面と顔面を抑え、魔剣を取り落とした闇征く者は苦しむような素振りを見せながら後退していく。
「ぐああああッ! 俺の顔を……ッ!」
「……ざけんじゃねえぞ、この仮面野郎が……ああっ!」
そのままあらぬ方向へと幾重にも捻じ曲がった脚を無理やり修復していく……すでに人間が許容できるような激痛を超えてしまっており、この段階になると肉体が生命を守るために痛覚を感じなくさせる、というのを実感しており、痛みはほとんど感じない。
俺が肉体を修復し終え、ドロリと流れ出す血を片手で軽く拭っていると、闇征く者は顔を押さえたまま赤い瞳をギラギラと輝かせると、憎悪に塗れた言葉を発した。
「……この狂人が……お前は危険すぎる、この世界にはやはりいてはいけない……強き魂よ、お前は必ずここで滅ぼして見せるぞ……!」
俺はそう言って笑うと、全身に纏う魔力のレベルを一段階上げる……よくアスリートがギアを上げるなんて表現を使ったりするが、これはそれに近い。
それはすでにこの世界における人間が内包している魔力量を大幅に超えており、その余波でオーヴァチュア城の壁には大きく亀裂が走り、今にもこの周囲は崩壊しそうなほどに震えているのがわかる。
レーヴェンティオラ、マルヴァース両方の世界において人間はその身に備えている魔力の送料がそれほど多くない、とされている。
例外的な存在として学園で会ったプリムローズ・ホワイトスネイクのように血統として代々莫大な魔力を受け継いでいるケースがあるが、それは本当に珍しいらしく、この世界に住む大半の人が大きな魔力を有するというのは非常に難しいとされている。
先天的に魔力を多く備える種族も存在している……エルフとかフェアリーみたいな種族はそもそも持っている魔力の量が人間とは段違いに大きいはずだ。
「……恐ろしいまでの莫大な魔力……人間の枠組みを超えているな……本当に人間なのか?」
「人間様だよ……見た目もこんなに可愛らしいだろぉ? あ?」
「……俺に人間の美醜などわかるか」
闇征く者は開いた嘴を再び手で閉じたあと、肉体を修復したのか何度か軽く首をゴキゴキと鳴らしながら呟く。
俺は彼に向かって中指をおっ立てると、口元を歪め舌を出して笑う……それを見た闇征く者は見た目とのギャップが激しすぎることに彼も流石に困惑してきたようで、赤い瞳を細めて困惑したような空気を出していた。
今世では俺をここに転生させたクソ女神のせいでこんなに可愛い美少女になってしまっているが、本質的には俺は男性としての意識もきちんと持っている。
普段はそれまでの生活様式から意識して女性として振る舞っているが、それは刷り込まれた反射的な行動のようなものでしかないので、本音を言えば窮屈な枷を外したかのように清々しい気分だ。
いや、もう一六年以上もそうやって暮らしているとどちらが本性なのかもうわからないってのが正直なところではあるが……だが今はこの状況がとても気持ち良い。
「……わかんねーかぁ……おっし、わからしてやるわ」
「……ッ!?」
一瞬で距離を詰めた俺の刺突が偶然なのか、見えていたのかわからないが顔を逸らした闇征く者の仮面から数ミリのところを撃ち抜く。
ほんの少し遅れてゴアアアアッ! という空間を撃ち抜く音と共に彼の背後にあった調度品が粉々に砕け散る。
そのまま膝を叩き込もうとするが、それには反応したのか闇征く者は手を使ってその一撃を受け流すと、反動を利用して体を回転させながら大きく後ろへと跳んで距離をとった。
格闘戦技術はどこで学んでるんだろうなあ……どーも戦闘術を理解して動いているようにしか思えないんだが……俺がぼりぼりと頭を掻いて視線を逸らすと、隙だと思ったのか訓戒者の手から漆黒の魔力が幾重にも打ち出される。
「……こいつは散々見せられたぜ? 無詠唱ってのは初めてだがよ」
放たれた魔法漆黒の弾丸がまるで空中を泳ぐように様々な軌道で迫る中、俺は虫でも叩き落とすかのように拳を使ってあらゆる方向から迫る漆黒の魔力を跳ね飛ばしていく。
ギアを上げることによって俺が一度に使用する魔力の桁が大きく上がっているからできる行動ではあるが、そもそも人間の魔力が一定の限界を持っているのには理由がある。
人間の体ってのは巨大な魔力に耐えるほど強くない……魔力は万能の力のように思われているが、あまりに巨大すぎる魔力というのは肉体そのものに強い影響、はっきり言えば破壊してしまうことがある。
莫大な魔力を持った人間が突然変異的に誕生すると、その肉体は大抵魔力の圧に耐えきれなくなってしまい、衰弱して結果的に死んでしまうことがある。
最悪のパターンは風船みたいに膨らんで破裂したりだ……だからまあ、人間として普通に暮らしているとこれだけの魔力量には肉体が確実に耐えきれなくなる。
「……く……この化け物が!」
「見た目がそのまんま化け物に言われたくねえよ、タコ」
そのまま俺は再び距離を詰めると闇征く者に向かって恐ろしい速度の連打を叩き込む……しかしその動きをある程度予測できているようで、彼はギリギリの速度ではあるがなんとか防御を繰り返す。
だが……俺の斬撃や蹴りの速度がさらに高速化していったことで、次第に捌ききれなくなってきたのか、体の端々に攻撃が当たり始める。
だが致命傷にはならないように肉体そのものを捩ったり、魔剣を使って受け流しているところを見るとこいつは戦闘術を喰らったか、何かの経験があるということだろう。
「はっはーッ! そろそろきついんじゃねえの?!」
「……ぐ……さらに速度を上げる気か……」
凄まじい速度の斬撃を魔剣の刀身を使って受け流すたびに、俺と闇征く者の間に恐ろしい数の火花が散っていく。
すでに斬撃は音の壁を越え始めており、刀身が振り抜かれるよりもはるかに遅く、風を切り裂く音が響いている……音の壁を突破ってやつだ。
だがそんな防御一辺倒の状況の中でも次第に慣れが出てくるのだろう、闇征く者は一瞬の切れ目を狙って俺の腹部へと前蹴りを叩き込む。
ドゴッ! という鈍い音を立てて俺の体が大きく跳ね飛ばされるが、その打撃自体は魔力による防御結界が完全に吸収し、俺自身の肉体にはまるで傷ひとつつかない。
「魔力による防御結界の厚さも変わるのか?」
「ちょっと前にぶち抜くやつがいたんでな、強化してんだわ」
「ぐ……あッ!」
彼の言葉に呼応するように相手の間合いに潜り込んだ俺の放った左拳が、闇征く者の胸へを叩き込まれる。
ゴガアッ! という音と共に彼の上半身の一部が文字通り吹き飛ぶが、ドス黒い血液を撒き散らしながらも絶命などせず、彼は大きく後ろへ飛んで距離を離すと、残った手で仮面の嘴を開けると同時にそこから黒い電流のようなものを吐き出した。
暗黒の稲妻は凄まじい音を立てながら俺に迫る……前に暴力の悪魔が使った白い稲妻の別バージョンか何かか?
だが速度は凄まじいが、肉体の修復に一部魔力を回しているのか威力はそれほどでもない……まあ人間に当たったら瞬時に消し飛ぶくらいの破壊力はあるだろうが。
俺はその攻撃を避けることもせず、防御結界によって相殺すると剣を構え直した。
「……ああ? こんなヘナチョコ入れたって効……があ?」
そこまで言葉を発した俺の鼻や耳、そして瞳や口元からドロリとした赤黒い血液が一気に流れ出す……それと同時に全身に凄まじい痛みが走ると、俺は思わず左手で口元を押さえて二、三歩蹈鞴を踏んで後退してしまう。
ギアを上げることで凄まじい魔力を一気に解放した俺の戦闘能力が格段に上がっているが、そもそもの肉体はそれほど強くないのを忘れていた。
当たり前だが、戦いに次ぐ戦いで極限以上に鍛えられた前世の勇者ライン時代はこの程度の魔力負荷などまるで気にするものではなかったが、転生後に女性の体であることを意識して、無理な訓練などはほとんどしていなかった弊害がここにきて足を引っ張っている。
軽すぎる体重、女性として素晴らしく魅力的なプロポーション、細い手足……前世と同じ訓練なんかしてしまったら、これらは維持できなかったため、俺は結果的に魔力で無理やりな強化をするという裏技を使っていた。
「……肉体が脆いのか……? 再生能力が強くても、肉体そのものは……」
「……馬鹿野郎、この程度ハンデだボケがああっ!」
顔中血塗れになりながら俺は一気に前に出る……痛みを無理やりに魔力による強制的な修復で抑え込み、引き千切れそうな手足を繋ぎ止め、俺は闇征く者へと切り掛かる。
先ほどと同じような構図……凄まじい速度で放たれる斬撃と打撃を、両者が防御し、受け流し……打撃を叩きつけて対消滅させていく。
だが……次第に俺の視界が真っ赤に染まっていく……喉の奥から込み上げる鉄臭い何かを一度吐き出すと、俺は回し蹴りを闇征く者へと叩き込む。
ズドン! という轟音をあげて叩き込まれた渾身の蹴りだが、肉体を修復しおえた闇征く者はその攻撃を受け止めたままこちらをじっと見つめていた。
「……クハ……人間の限界を超えた反動……お前は強いが、やはり人間としての頸木を抜けなければならぬな?」
「何を……かはっ! こなくそっ!」
俺の細い足首を闇征く者は片手で握ると、本来曲がってはいけない方向へとへし折って見せる……バキバキッ! という骨の砕ける嫌な音を立てて捻じ曲がる脚……だがその程度で引き下がるような俺ではない。
へし折れた脚をそのまま捩じ切れんばかりに砕きながら、相手の顔面へと大きく振り上げた踵を叩き込む……ドゴオアァアッ! という音をあげて闇征く者の顔面、いや仮面ごと相手の顔へとめり込み、そして相手の肉体の一部をひき千切るように振り抜いて見せた。
流石にその反撃は予想外だったのだろう、大きく破壊された仮面と顔面を抑え、魔剣を取り落とした闇征く者は苦しむような素振りを見せながら後退していく。
「ぐああああッ! 俺の顔を……ッ!」
「……ざけんじゃねえぞ、この仮面野郎が……ああっ!」
そのままあらぬ方向へと幾重にも捻じ曲がった脚を無理やり修復していく……すでに人間が許容できるような激痛を超えてしまっており、この段階になると肉体が生命を守るために痛覚を感じなくさせる、というのを実感しており、痛みはほとんど感じない。
俺が肉体を修復し終え、ドロリと流れ出す血を片手で軽く拭っていると、闇征く者は顔を押さえたまま赤い瞳をギラギラと輝かせると、憎悪に塗れた言葉を発した。
「……この狂人が……お前は危険すぎる、この世界にはやはりいてはいけない……強き魂よ、お前は必ずここで滅ぼして見せるぞ……!」
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