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(幕間) 赤竜の王国 〇五
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——戦場に起きた混乱、突然の悪魔の暴走、そしてリーヒによる殲滅……混沌と化した状況を横目にホロバイネン軍は包囲を完成させつつあった。
「……陛下ッ! 後方に敵軍……! 味方ではありません!」
後方に展開させていた予備部隊……軽装歩兵部隊を指揮していた隊長からの報告を受けて、トニー・シュラプネル・マカパイン三世は思わず輿の上から背後へと顔を向けた。
土埃が舞っている……国王軍の両翼には騎兵部隊が配置されており、そちらに展開されていたホロバイネン軍の騎兵部隊と交戦中のはずだった。
戦場の外から別動隊が背後に回った……? いや斥候の報告からそういった部隊を組織するほどホロバイネン軍には余裕がなかったはず。
「……両翼はどうなっている?」
「お味方との連絡は取れませぬ……戦闘中故に状況が読めません」
「……ではなぜ背後に敵と思しきものがいる」
国王のその問いには誰も答えることができない……賢しい者であれば後方に見える部隊が、自軍の騎兵部隊を打ち破って後方に回り込んだホロバイネン軍の両翼だと気がついているかもしれない。
だがそれを国王へと上申できるほどの胆力を併せ持った将軍は、実はマカパイン三世の周囲には誰もいなかった……先代のバニー・マカパイン老王であれば、長年の信頼関係を結んだ古兵が多く、戦場を俯瞰して状況を判断できる将軍も存在していた。
それ故にイングウェイ王国と長年戦いを繰り広げ、一進一退を繰り返すことが出来たのだが、マカパイン三世の即位にあたって、側近の将軍達は閑職へと配置転換され三世の周囲は一変している。
「……お主ら、それでも余が信任した将軍か?! 状況を報告しろッ!」
「……恐れながら……今我々は敵に包囲されつつあります……」
「……なぜ早く言わぬッ!」
「陛下! 今は争っている場合ではありません!!」
マカパイン三世はいうが速いか腰に下げていた曲刀を引き抜くと、発言した将軍を切り付けようと振りかぶる。
それを見た将軍の一人が慌ててマカパイン三世の背後から抱きつくと、彼に向かって怒鳴りつけたことでマカパイン三世は怒りの表情を浮かべたまま、興奮を収めようと大きく深呼吸を繰り返した。
前王バニー・マカパイン老王は深謀遠慮を極めた達人とも言える人間で、謀略などを駆使した戦いを好み、イングウェイ王国インテリペリ辺境伯軍との戦いにおいて、辺境伯軍を何度も苦しめた老練の王であった。
対照的にトニー・シュラプネル・マカパイン三世は即断即決の人であり、前王よりも政治改革や決断の速度は上がっており、それを好ましいと思う者も多かったが、その反面彼はかなり短気な性格をしており結果を早く求めるという悪癖を有している。
「……どうすれば良いのだ、案を出せ!」
「……この状況では……」
「……役に立たぬ奴らだな、お主らッ!」
さらに最悪なことに、今この場にいる将軍達は不測の事態に備えられるほど経験を積んだものがいない……特に将軍格を刷新したことは、国王の独断で行われたものであり、反対する者も多かったが国内の内政改革で手腕を発揮していたマカパイン三世の決定に逆らおうとするものはそう多くなかった。
老齢を理由に閑職に回した将軍達であれば、この状況を打開するための策を提言できるものがいたかもしれないが、そう言った人物は王国の地方拠点や、辺境へと回されてしまっている。
一人でも熟練の指揮官が残っていれば、状況の変化に応じて即時撤退や後退を進言できたかもしれないが……だがそれだけの経験を持つ人物はすでにここには残っていない。
「……恐れながら……退却を……」
「ならぬ! ここで余が引けばホロバイネンは嬉々として王都へと進むであろう!」
「ですが……すでにここは……」
「……王都に戻ったら貴様らの責任を問うぞ……ッ! 退却せよ!」
マカパイン三世は流石に顔色を失った部下達の表情から、すでに現状打開策を持ったものがここにいない、ということに気がついたのか怒気をはらんだ声で退却を命じる。
その言葉に急かされるように将軍達は部下へと退却準備を命じるが……もはや包囲は完成しつつあり、国王軍の兵士たちは混乱をきたし始めた。
そこへ……ゴオオッ! という風を切る音と共に一瞬陽の光が失われると、上空に巨大なレッドドラゴンの姿が現れる。
「……ド、ドラゴンだと?!」
「……クハハッ! どこへ行こうというのだマカパイン三世……!」
「う、撃ち落とせッ!」
突然現れたレッドドラゴンの巨躯に恐れ慄きながら国王軍の兵士たちは弓に矢をつがえて、上空に向けて必死に撃ち放ち始める……だが、ドラゴンが羽ばたく度にその矢は勢いを失って押し戻され、地面へと落下して突き刺さっていく。
巨大な赤い鱗、そして口元から吹き出す炎……伝説にも登場する魔獣の王たるドラゴンの姿に兵士たちの心が一瞬にして折れ、彼らは恐慌状態となって我先にと戦場から逃げ出すために武器を放り出して走り出した。
将軍達が必死に止めようとするが、その制止すら効果を持たず悲鳴と共にその場を駆け出す兵士を見て、レッドドラゴンは興味深げにその黄金の瞳を輝かせると、輿の上から降りて兵士とともに駆け出そうとした国王の姿を見つけると、彼に向かって語りかけた。
「どこへ行こうというのだ、マカパイン三世……話はまだ終わっておらんぞ」
「く、ひい……余はトニー・シュラプネル・マカパイン三世なるぞ!? 下賤の魔獣などに声をかけられる道理はないわ!」
「あー、そうじゃの……だがお主がいるとティーチが王座につけんでな……」
「き、貴様……! 竜殺しとどういう関係だ!? 竜殺しはなぜお前を殺さぬ!」
マカパイン三世は腰を抜かして地面にへたり込みながらも必死に叫ぶ……その姿が少し面白かったのか、レッドドラゴンは口元を歪めて笑うとゆっくりと地面へと降り立ち動けなくなった国王へと鋭い爪を向けてから軽く左右に振った。
その行動が何を意味しているのか……マカパイン三世は混乱する思考の中で必死に意味を考え始めるが、恐怖と焦りからどうしてもうまく答えを導き出すことができない。
汗をダラダラと流しながら、目を泳がせる国王を見てレッドドラゴンは少し呆れたようなため息をつくと、彼に向かって話しかけた。
「鈍いやつじゃの……我の名はリヒコドラク、レッドドラゴンの中でも悠久の時を行きたトゥルードラゴンの一体じゃ」
「リヒコドラク……? リーヒ……?!」
「そうそう、うまくできたのぅ……ティーチの軍師リーヒ・コルドラクとも呼ばれておるな、クハハッ!」
リヒコドラクは胸を張るような仕草をしたのちに、ジイっとマカパイン三世を睨みつけるが、国王はあの美しい美女であったリーヒ・コルドラクと目の前の巨大なドラゴンの姿がうまくリンクできずにいた。
ティーチ・ホロバイネンはイングウェイ王国辺境伯領への強行偵察任務において、ドラゴンと接敵し魔獣を倒して名を上げたことで「竜殺し」の異名を得ることになった。
証拠に竜の爪を持ち帰っており、その爪に秘められた魔力の大きさや圧倒的な硬度により本物だと認定され、彼の名声は一気に高まりを見せたのだ。
「どういうことだ……!」
「どうこうもないわ、我とティーチは手を結んだ、それだけのことよ……それにお主よりもあやつの方が余程良い王になると思ったでな」
「バカな……あいつは平民だぞ!? 高貴なる青い血を持つ余にひれ伏すだけの男だ!!」
「青い血ねえ……お主の中に青い血が流れているのであれば、それを見せてもらうとしようか」
「やめろッ! この魔獣め……女神はお主の悪行を見ているぞ! 余は王国の主人……貴い存在である……よを離せっ!」
「愚かじゃのぉ……永遠に続く国や体制などありはしない、我は長い時の中でいくつもの国が滅びるのを見てきた……そして権力が打倒される時にはごくごく平凡で何の取り柄もないものが英雄になったりするものよ、今回はお主とこの国が標的となっただけじゃ」
リヒコドラクは薄く笑うと腰を抜かして喚き立てるマカパイン三世をその巨大な手で軽く握って持ち上げる……元々人間など一握りで簡単に潰せるだけの握力をドラゴンは有しており、必死にもがこうが何をしようがマカパイン三世にはこの拘束を解く術がないのだ。
顔の近くに手に持ったマカパイン三世を近づけた後、牙を剥き出しにしてリヒドラクは凶暴な笑みを浮かべると、周囲で恐怖から身動きできなくなっていた国王軍の残党に向かって吼えるように叫んだ。
「さあ、マカパイン三世はとらえたぞ……死にたくなければホロバイネンに許しを乞い、生命を助けてくれと願うのだな……武器を捨てて降伏せよッ!」
かつて長きにわたり大陸の一部を支配した大きな国がありました。
王国は隣国との抗争を繰り返し、王様の圧政により国土は疲弊し臣民は苦しみ、この生活を救ってほしいと願うようになりました。
『これではいけない、僕は君たちを救うために立ちあがろう』
竜殺しと呼ばれる若者が王国の民のために立ち上がると、勇気ある行動に心打たれた王国の民は圧政を行う王様との戦いに協力を始めました。
だが王様の力は強く、竜殺しと国民達だけではとてもではないですが、王様に立ち向かうことができません。
困った竜殺しはかつて自らと戦った赤い竜へと会いに行きました。
赤い竜はかつての宿敵にもう一度痛い目に遭わされるのかと驚きましたが、竜殺しは頭を下げると竜へとお願いをしました。
『昔のことは忘れて、君の力を貸してほしい』
赤い竜は真摯に頭を下げる竜殺しの心意気に打たれ、竜殺しを背に乗せて王国の首都へと飛び立ちます。
邪悪な貴族が王様に悪魔を使うように唆します……王様は何も考えずに悪魔を呼び出しますが、そのために味方だった兵士は次々と暴れる悪魔によって死んでしまいました。
それを見た竜殺しは赤い竜の背から叫びます。
『王様は悪魔の手先だ! みんな力を貸してくれ!』
王国の民は竜殺しの声に導かれるように、武器を取り立ち上がると王様と邪悪な貴族を倒すために戦いに赴きます。
赤い竜は暴れる悪魔を打ち滅ぼすと、その大きな爪で国王の頭から王冠を剥ぎ取ると竜殺しの頭へとそっと載せました。
竜殺しへと国民は拍手を贈ると、竜殺しと彼に付き従った赤い竜を讃え彼らにこの国を任せることになったのです。
こうして赤い竜は竜殺しと共に大きな王国を作り上げることになりました、その国の名前は……。
「……陛下ッ! 後方に敵軍……! 味方ではありません!」
後方に展開させていた予備部隊……軽装歩兵部隊を指揮していた隊長からの報告を受けて、トニー・シュラプネル・マカパイン三世は思わず輿の上から背後へと顔を向けた。
土埃が舞っている……国王軍の両翼には騎兵部隊が配置されており、そちらに展開されていたホロバイネン軍の騎兵部隊と交戦中のはずだった。
戦場の外から別動隊が背後に回った……? いや斥候の報告からそういった部隊を組織するほどホロバイネン軍には余裕がなかったはず。
「……両翼はどうなっている?」
「お味方との連絡は取れませぬ……戦闘中故に状況が読めません」
「……ではなぜ背後に敵と思しきものがいる」
国王のその問いには誰も答えることができない……賢しい者であれば後方に見える部隊が、自軍の騎兵部隊を打ち破って後方に回り込んだホロバイネン軍の両翼だと気がついているかもしれない。
だがそれを国王へと上申できるほどの胆力を併せ持った将軍は、実はマカパイン三世の周囲には誰もいなかった……先代のバニー・マカパイン老王であれば、長年の信頼関係を結んだ古兵が多く、戦場を俯瞰して状況を判断できる将軍も存在していた。
それ故にイングウェイ王国と長年戦いを繰り広げ、一進一退を繰り返すことが出来たのだが、マカパイン三世の即位にあたって、側近の将軍達は閑職へと配置転換され三世の周囲は一変している。
「……お主ら、それでも余が信任した将軍か?! 状況を報告しろッ!」
「……恐れながら……今我々は敵に包囲されつつあります……」
「……なぜ早く言わぬッ!」
「陛下! 今は争っている場合ではありません!!」
マカパイン三世はいうが速いか腰に下げていた曲刀を引き抜くと、発言した将軍を切り付けようと振りかぶる。
それを見た将軍の一人が慌ててマカパイン三世の背後から抱きつくと、彼に向かって怒鳴りつけたことでマカパイン三世は怒りの表情を浮かべたまま、興奮を収めようと大きく深呼吸を繰り返した。
前王バニー・マカパイン老王は深謀遠慮を極めた達人とも言える人間で、謀略などを駆使した戦いを好み、イングウェイ王国インテリペリ辺境伯軍との戦いにおいて、辺境伯軍を何度も苦しめた老練の王であった。
対照的にトニー・シュラプネル・マカパイン三世は即断即決の人であり、前王よりも政治改革や決断の速度は上がっており、それを好ましいと思う者も多かったが、その反面彼はかなり短気な性格をしており結果を早く求めるという悪癖を有している。
「……どうすれば良いのだ、案を出せ!」
「……この状況では……」
「……役に立たぬ奴らだな、お主らッ!」
さらに最悪なことに、今この場にいる将軍達は不測の事態に備えられるほど経験を積んだものがいない……特に将軍格を刷新したことは、国王の独断で行われたものであり、反対する者も多かったが国内の内政改革で手腕を発揮していたマカパイン三世の決定に逆らおうとするものはそう多くなかった。
老齢を理由に閑職に回した将軍達であれば、この状況を打開するための策を提言できるものがいたかもしれないが、そう言った人物は王国の地方拠点や、辺境へと回されてしまっている。
一人でも熟練の指揮官が残っていれば、状況の変化に応じて即時撤退や後退を進言できたかもしれないが……だがそれだけの経験を持つ人物はすでにここには残っていない。
「……恐れながら……退却を……」
「ならぬ! ここで余が引けばホロバイネンは嬉々として王都へと進むであろう!」
「ですが……すでにここは……」
「……王都に戻ったら貴様らの責任を問うぞ……ッ! 退却せよ!」
マカパイン三世は流石に顔色を失った部下達の表情から、すでに現状打開策を持ったものがここにいない、ということに気がついたのか怒気をはらんだ声で退却を命じる。
その言葉に急かされるように将軍達は部下へと退却準備を命じるが……もはや包囲は完成しつつあり、国王軍の兵士たちは混乱をきたし始めた。
そこへ……ゴオオッ! という風を切る音と共に一瞬陽の光が失われると、上空に巨大なレッドドラゴンの姿が現れる。
「……ド、ドラゴンだと?!」
「……クハハッ! どこへ行こうというのだマカパイン三世……!」
「う、撃ち落とせッ!」
突然現れたレッドドラゴンの巨躯に恐れ慄きながら国王軍の兵士たちは弓に矢をつがえて、上空に向けて必死に撃ち放ち始める……だが、ドラゴンが羽ばたく度にその矢は勢いを失って押し戻され、地面へと落下して突き刺さっていく。
巨大な赤い鱗、そして口元から吹き出す炎……伝説にも登場する魔獣の王たるドラゴンの姿に兵士たちの心が一瞬にして折れ、彼らは恐慌状態となって我先にと戦場から逃げ出すために武器を放り出して走り出した。
将軍達が必死に止めようとするが、その制止すら効果を持たず悲鳴と共にその場を駆け出す兵士を見て、レッドドラゴンは興味深げにその黄金の瞳を輝かせると、輿の上から降りて兵士とともに駆け出そうとした国王の姿を見つけると、彼に向かって語りかけた。
「どこへ行こうというのだ、マカパイン三世……話はまだ終わっておらんぞ」
「く、ひい……余はトニー・シュラプネル・マカパイン三世なるぞ!? 下賤の魔獣などに声をかけられる道理はないわ!」
「あー、そうじゃの……だがお主がいるとティーチが王座につけんでな……」
「き、貴様……! 竜殺しとどういう関係だ!? 竜殺しはなぜお前を殺さぬ!」
マカパイン三世は腰を抜かして地面にへたり込みながらも必死に叫ぶ……その姿が少し面白かったのか、レッドドラゴンは口元を歪めて笑うとゆっくりと地面へと降り立ち動けなくなった国王へと鋭い爪を向けてから軽く左右に振った。
その行動が何を意味しているのか……マカパイン三世は混乱する思考の中で必死に意味を考え始めるが、恐怖と焦りからどうしてもうまく答えを導き出すことができない。
汗をダラダラと流しながら、目を泳がせる国王を見てレッドドラゴンは少し呆れたようなため息をつくと、彼に向かって話しかけた。
「鈍いやつじゃの……我の名はリヒコドラク、レッドドラゴンの中でも悠久の時を行きたトゥルードラゴンの一体じゃ」
「リヒコドラク……? リーヒ……?!」
「そうそう、うまくできたのぅ……ティーチの軍師リーヒ・コルドラクとも呼ばれておるな、クハハッ!」
リヒコドラクは胸を張るような仕草をしたのちに、ジイっとマカパイン三世を睨みつけるが、国王はあの美しい美女であったリーヒ・コルドラクと目の前の巨大なドラゴンの姿がうまくリンクできずにいた。
ティーチ・ホロバイネンはイングウェイ王国辺境伯領への強行偵察任務において、ドラゴンと接敵し魔獣を倒して名を上げたことで「竜殺し」の異名を得ることになった。
証拠に竜の爪を持ち帰っており、その爪に秘められた魔力の大きさや圧倒的な硬度により本物だと認定され、彼の名声は一気に高まりを見せたのだ。
「どういうことだ……!」
「どうこうもないわ、我とティーチは手を結んだ、それだけのことよ……それにお主よりもあやつの方が余程良い王になると思ったでな」
「バカな……あいつは平民だぞ!? 高貴なる青い血を持つ余にひれ伏すだけの男だ!!」
「青い血ねえ……お主の中に青い血が流れているのであれば、それを見せてもらうとしようか」
「やめろッ! この魔獣め……女神はお主の悪行を見ているぞ! 余は王国の主人……貴い存在である……よを離せっ!」
「愚かじゃのぉ……永遠に続く国や体制などありはしない、我は長い時の中でいくつもの国が滅びるのを見てきた……そして権力が打倒される時にはごくごく平凡で何の取り柄もないものが英雄になったりするものよ、今回はお主とこの国が標的となっただけじゃ」
リヒコドラクは薄く笑うと腰を抜かして喚き立てるマカパイン三世をその巨大な手で軽く握って持ち上げる……元々人間など一握りで簡単に潰せるだけの握力をドラゴンは有しており、必死にもがこうが何をしようがマカパイン三世にはこの拘束を解く術がないのだ。
顔の近くに手に持ったマカパイン三世を近づけた後、牙を剥き出しにしてリヒドラクは凶暴な笑みを浮かべると、周囲で恐怖から身動きできなくなっていた国王軍の残党に向かって吼えるように叫んだ。
「さあ、マカパイン三世はとらえたぞ……死にたくなければホロバイネンに許しを乞い、生命を助けてくれと願うのだな……武器を捨てて降伏せよッ!」
かつて長きにわたり大陸の一部を支配した大きな国がありました。
王国は隣国との抗争を繰り返し、王様の圧政により国土は疲弊し臣民は苦しみ、この生活を救ってほしいと願うようになりました。
『これではいけない、僕は君たちを救うために立ちあがろう』
竜殺しと呼ばれる若者が王国の民のために立ち上がると、勇気ある行動に心打たれた王国の民は圧政を行う王様との戦いに協力を始めました。
だが王様の力は強く、竜殺しと国民達だけではとてもではないですが、王様に立ち向かうことができません。
困った竜殺しはかつて自らと戦った赤い竜へと会いに行きました。
赤い竜はかつての宿敵にもう一度痛い目に遭わされるのかと驚きましたが、竜殺しは頭を下げると竜へとお願いをしました。
『昔のことは忘れて、君の力を貸してほしい』
赤い竜は真摯に頭を下げる竜殺しの心意気に打たれ、竜殺しを背に乗せて王国の首都へと飛び立ちます。
邪悪な貴族が王様に悪魔を使うように唆します……王様は何も考えずに悪魔を呼び出しますが、そのために味方だった兵士は次々と暴れる悪魔によって死んでしまいました。
それを見た竜殺しは赤い竜の背から叫びます。
『王様は悪魔の手先だ! みんな力を貸してくれ!』
王国の民は竜殺しの声に導かれるように、武器を取り立ち上がると王様と邪悪な貴族を倒すために戦いに赴きます。
赤い竜は暴れる悪魔を打ち滅ぼすと、その大きな爪で国王の頭から王冠を剥ぎ取ると竜殺しの頭へとそっと載せました。
竜殺しへと国民は拍手を贈ると、竜殺しと彼に付き従った赤い竜を讃え彼らにこの国を任せることになったのです。
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