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第三〇五話 シャルロッタ 一六歳 王都潜入 〇五
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「……結構歩いていますけど……到着しないですね」
「放射水路はまっすぐ伸びているわけではないので……大きく迂回する水路だったようです」
確かにわたくし達が歩いていた水路は左右に曲がりくねるような構造になっており、作りの悪さから時折腐った水溜りなどが点在しているような状態であった。
奇妙な匂いの原因はこれかな? と思うような謎の骨とか、ひっくり返って乾燥した昆虫の死骸とかまあ色々転がっている。
うーん、放射水路の大半があまり使用されていなくて荒れ放題というのが誇張ではないのだな、と思わせられる光景である。
それ以上に先ほどの生霊が口にしていたように、聖女がここを通すなと命じたという言葉……それがずっと引っかかっている。
「……先ほどの聖女が命じたという話ですけど本当でしょうかね……」
「新しい聖女が生まれた、ということですか……?」
「その場合は聖教による認定と、発表があるはずです」
この国における聖女認定の儀式は聖教における最高指導者である大司祭によって行われる……一応ソフィーヤ様はちゃんとこの手順に則って認定を受けており、認定までには様々な試験や証明を求められるとかで案外面倒なものなのだ、というのを聞いたことがある。
初代聖女であるエレクトラ・キッスの残した手記からその手順が定められたとか聞いたけど、ともかく認定をされていないのに聖女を名乗るというのは案外勇気がいるものなのだ。
聖教の神官であるエミリオさんはそう言った話を伝え聞いていないということなので、おそらく聖女を名乗る何か、もしくは周りが持ち上げているだけなのだろうとは思うけど。
「貧民街の聖女か……」
「過去に似たようなケースがあったそうですよ、例えば……」
エミリオさんが過去にあった聖女を僭称する事件について語り出す……とかく聖女というのは神格化されやすく、名誉や権威を欲する者にとっては貴族を名乗るより簡単に手に入るかもしれないという幻想を感じるのだとか。
とある貴族令嬢が聖女を名乗り、その地方において無許可での布教活動を行なった例……神の声を聞いたと嘯く少女が大規模な農民反乱を巻き起こした事件など。
イングウェイ王国一〇〇〇年の歴史の中にはそう言った数々の事件が起きており、聖女がなかなか認定されにくいのもそう言った過去の戒めが働いているのだという。
そう考えるときちんとした手順で認定を受けたソフィーヤ様はすごかったのだろう……最終的には命を落としてしまったが、最後の瞬間まで彼女は誇り高き令嬢であったことは間違いない。
「ともかく女神に仕える身として流石に僭称は看過できないですな……」
「王都に入ったら貧民街へと赴いてみましょうか」
「そうですね……誤りを正すのも神に仕えるものの使命と考えておりますゆえ」
そんなことを話しながら歩いて行くと、次第に水路に軽く澱んだ水が多く貯まる場所へと辿り着いた……まとわりつくようなじっとりとした湿気が不快感を感じさせる。
手で軽く汗を拭ってから水路を進んでいくが、水路の奥へと進むと次第に床に貯まる澱んだ水が量を増していき床一面が腐ったような、油の浮いた水で覆われて行くのに時間はそれほどかからなかった。
リリーナさんが軽く足を踏み入れたところですぐに不快そうな表情を浮かべると、手信号で何か合図を出すとそれに反応してエルネットさんが腰に下げた剣の柄へとそっと手を添える。
「……結構深い場所がありそう、何かが潜んでていてもおかしくない」
「この場所で出てくるならスライムあたりか?」
「汚水の中にいるやつを、あまり想像したくないわね……」
スライム……ロールプレイングゲームなどでは最弱と言われる魔物ではあるけど、実際のスライムは不定形で蛸のように体色を自由に変化させるかなり厄介な怪物に分類される。
湿気の多い場所に生息していて動物の死骸や昆虫などを捕食しているものが大半だが、雑食性で人間にも普通に襲いかかるという点で厄介な存在だ。
消化器官が全身であるという点から、捕食した生物を分泌する酸で生きながら溶かしていくという性質を持っていて、人間の顔とかに張り付いたスライムが皮膚を焼き焦がすなんていう事故は結構多い。
この世界では魔法で治療したりポーションで皮膚を再生できるとはいえ、窒息しながら肉を消化されるというのは凄まじい苦痛だろうしな。
「……お待ちを、我が前に出ましょう」
「頼むわ」
わたくしの隣に座っていたユルが立ち上がるとリリーナさんの前へと移動して行くが、彼もわたくしの影響を受けてかなりの綺麗好きなので澱んだ水に足を踏み入れる時にはかなり躊躇している様子がみて取れる。
かく言うわたくしも正直いえばこの澱んだ水の中にお気に入りのブーツで入りたくねえなあ……と言う気分ではいるのだけど、ここを抜けないとどうにもならないからな。
全員で少しふうっ、と諦めにも近いため息をほぼ同時につくとわたくしや「赤竜の息吹」のメンバーはゆっくりと澱んだ水の中へと足を踏み入れていく。
「……う、臭い……」
「これ病気にならないかな……」
「昔あったよな、遺跡の中に溜まってた水に落ちたリリーナが感染症にかかったやつ」
「今それを思い出すなよ、バカか……」
エルネットさん達が不快さを表情に出しながら話しているが、そういや昔地下水路に落ちた時は比較的綺麗な場所だったため、わたくしはそこまで被害に遭わなかったんだよね。
とはいえお気に入りの服に変な匂いがついて、魔法で浄化してなんとか対処した記憶が……とそこまで考えてわたくしはこの場所を浄化して仕舞えばなんとかなるんじゃないかと思い立つ。
「浄化したら匂い消えますかね?」
「消えるけど、そこに怪物がいたら……」
「……ちょっ……まっ!」
「……浄化」
「きゅぎいいいっ!」
デヴィットさんがわたくしを止めようとするものの、時すでに遅し……わたくしを中心に広がった光が地下水道いっぱいに広がると同時に、突然ユルの踏み入れていた水溜りの中から悲鳴と共に巨大な不定形の物体が飛び出し、まだ浄化が行われていない澱んだ水を巻き上げていくとともに、水路いっぱいに巻き上がった水は雨のようにわたくし達へと降りかかった。
澱んだ水をたっぷりと全身に浴びたわたくし達は呆然とした表情で水溜りの中から飛び出した生物を見るが……それはスライムのように見えるが、全然違う生物であることにそこで気がついた。
「偽物!?」
「バカな、ここは地下水路第一層だぞ?!」
水に見える半透明の部分が石のような物体へと有機的に変化すると、そこに獰猛な牙を持った口がパックリと広がる……かと思えば別の部分には枯れた草のようにしか見えない部分が地面に同化しながらゆっくりと何かの骨のようなものへと変化している。
それはまるでその光景へと擬態するかのように目の前で目まぐるしく姿を変えていく……だが、中央にギラリと黄金の光をはなつ瞳のようなものが浮かぶと、全身にいくつもの口をパックリと開けてわたくし達を威嚇するように吠え声を上げた。
「ギョワアアアアッ!」
「破滅の炎ッ!」
デヴィットさんの手から稲妻状の炎が解き放たれる……炎は偽物と呼ばれる怪物の表層へとぶつかると小爆発を起こして辺りに炎を撒き散らす。
それと同時に剣を引き抜いたエルネットさんが腰だめに構えた剣を怪物へと突き刺そうとするが、そこは肉体の一部に見える何もない空間だったようで、彼はバランスを崩して水溜りへと膝をつく。
それをみた偽物はいくつも生えた口をまるで触手のように伸ばして彼へと噛みつこうとするが、その口を目掛けて放たれたリリーナさんの矢が突き刺さると、悲鳴をあげて後退していく。
「風景と半分同化しているぞ、剣を突き刺すんじゃなくて振り払え!」
「うげ……ペッ……口に汚水が……わかった!」
「女神よ、英雄に力を!」
エミリオさんの言葉と同時にエルネットさんの剣が神聖な魔力に包まれて淡く光り輝く……再びエルネットさんへと襲い掛かろうとした偽物の口を振り払うように剣を振るうと、それが表層に当たって肉体を切り裂いたのか、七色に光る体液を撒き散らしながら怪物が悲鳴をあげる。
傷をつけたことで、それまで風景と半分同化していたような偽物の本当の肉体が姿を現していく……恐ろしく大きい、水路の高さいっぱいに広がる七色に明滅する血管が浮かびあがっていく。
「で、でか……」
「こんな大きさのが第一層に潜んでいるだと!?」
「火球ッ!」
ユルの放った火球が偽物の肉体に衝突して爆音を轟かせる……威力はそれほどでもないが、連鎖する爆発苦痛を感じたのか怪物は悲鳴をあげながら再び粘膜状に広がる体を大きく広げた。
そこへリリーナさんが放った矢……先端に小瓶がついており、それを目印にデヴィットさんからの火線が交差するように爆発を起こすと、キラキラと煌めく粉末がそのまに舞い踊る。
魔力を妨害する粉末が偽物の肉体を白く染め上げる……この怪物の肉体は魔力を循環させているため、魔力を阻害されると風景に溶け込むことが難しいのかもしれない。
そこへエルネットさんが一気に駆け込むと、中央でブルブルと震える一つしかない黄金の瞳に向かって白く輝く剣を突き立てた。
「うおおおおっ!」
「ギアアアアアアアアッ!」
「う……がはあっ!」
剣を突き立てられた偽物は悲鳴と共にその白く染まった体をめちゃくちゃに振り回し、その肉体を叩きつけられたエルネットさんは大きく跳ね飛ばされる。
大きさからしても質量が凄まじいのだろう……身長も高いエルネットさんだったが、数メートル飛ばされると地面に叩きつけられ、苦しそうに喘いだ。
それをみたリリーナさんが慌てて彼の元へと走っていく……だが、わたくし達がみている目の前で、突然偽物はその肉体から水分が抜けたかのように白くひび割れ、文字通り崩れ落ちていく。
それをみた全員がほっと息を吐くと共に、地面に叩きつけられて苦しそうに咳き込むエルネットさんの無事を確かめるために彼の元へと駆け寄る。
エルネットさんは少し苦しそうな咳を何度か繰り返した後、苦笑いを浮かべてわたくし達へと話しかけてきた。
「……これほどの大物が潜んでいるとは……ゴホッ……ちょっと休んでいいか?」
「放射水路はまっすぐ伸びているわけではないので……大きく迂回する水路だったようです」
確かにわたくし達が歩いていた水路は左右に曲がりくねるような構造になっており、作りの悪さから時折腐った水溜りなどが点在しているような状態であった。
奇妙な匂いの原因はこれかな? と思うような謎の骨とか、ひっくり返って乾燥した昆虫の死骸とかまあ色々転がっている。
うーん、放射水路の大半があまり使用されていなくて荒れ放題というのが誇張ではないのだな、と思わせられる光景である。
それ以上に先ほどの生霊が口にしていたように、聖女がここを通すなと命じたという言葉……それがずっと引っかかっている。
「……先ほどの聖女が命じたという話ですけど本当でしょうかね……」
「新しい聖女が生まれた、ということですか……?」
「その場合は聖教による認定と、発表があるはずです」
この国における聖女認定の儀式は聖教における最高指導者である大司祭によって行われる……一応ソフィーヤ様はちゃんとこの手順に則って認定を受けており、認定までには様々な試験や証明を求められるとかで案外面倒なものなのだ、というのを聞いたことがある。
初代聖女であるエレクトラ・キッスの残した手記からその手順が定められたとか聞いたけど、ともかく認定をされていないのに聖女を名乗るというのは案外勇気がいるものなのだ。
聖教の神官であるエミリオさんはそう言った話を伝え聞いていないということなので、おそらく聖女を名乗る何か、もしくは周りが持ち上げているだけなのだろうとは思うけど。
「貧民街の聖女か……」
「過去に似たようなケースがあったそうですよ、例えば……」
エミリオさんが過去にあった聖女を僭称する事件について語り出す……とかく聖女というのは神格化されやすく、名誉や権威を欲する者にとっては貴族を名乗るより簡単に手に入るかもしれないという幻想を感じるのだとか。
とある貴族令嬢が聖女を名乗り、その地方において無許可での布教活動を行なった例……神の声を聞いたと嘯く少女が大規模な農民反乱を巻き起こした事件など。
イングウェイ王国一〇〇〇年の歴史の中にはそう言った数々の事件が起きており、聖女がなかなか認定されにくいのもそう言った過去の戒めが働いているのだという。
そう考えるときちんとした手順で認定を受けたソフィーヤ様はすごかったのだろう……最終的には命を落としてしまったが、最後の瞬間まで彼女は誇り高き令嬢であったことは間違いない。
「ともかく女神に仕える身として流石に僭称は看過できないですな……」
「王都に入ったら貧民街へと赴いてみましょうか」
「そうですね……誤りを正すのも神に仕えるものの使命と考えておりますゆえ」
そんなことを話しながら歩いて行くと、次第に水路に軽く澱んだ水が多く貯まる場所へと辿り着いた……まとわりつくようなじっとりとした湿気が不快感を感じさせる。
手で軽く汗を拭ってから水路を進んでいくが、水路の奥へと進むと次第に床に貯まる澱んだ水が量を増していき床一面が腐ったような、油の浮いた水で覆われて行くのに時間はそれほどかからなかった。
リリーナさんが軽く足を踏み入れたところですぐに不快そうな表情を浮かべると、手信号で何か合図を出すとそれに反応してエルネットさんが腰に下げた剣の柄へとそっと手を添える。
「……結構深い場所がありそう、何かが潜んでていてもおかしくない」
「この場所で出てくるならスライムあたりか?」
「汚水の中にいるやつを、あまり想像したくないわね……」
スライム……ロールプレイングゲームなどでは最弱と言われる魔物ではあるけど、実際のスライムは不定形で蛸のように体色を自由に変化させるかなり厄介な怪物に分類される。
湿気の多い場所に生息していて動物の死骸や昆虫などを捕食しているものが大半だが、雑食性で人間にも普通に襲いかかるという点で厄介な存在だ。
消化器官が全身であるという点から、捕食した生物を分泌する酸で生きながら溶かしていくという性質を持っていて、人間の顔とかに張り付いたスライムが皮膚を焼き焦がすなんていう事故は結構多い。
この世界では魔法で治療したりポーションで皮膚を再生できるとはいえ、窒息しながら肉を消化されるというのは凄まじい苦痛だろうしな。
「……お待ちを、我が前に出ましょう」
「頼むわ」
わたくしの隣に座っていたユルが立ち上がるとリリーナさんの前へと移動して行くが、彼もわたくしの影響を受けてかなりの綺麗好きなので澱んだ水に足を踏み入れる時にはかなり躊躇している様子がみて取れる。
かく言うわたくしも正直いえばこの澱んだ水の中にお気に入りのブーツで入りたくねえなあ……と言う気分ではいるのだけど、ここを抜けないとどうにもならないからな。
全員で少しふうっ、と諦めにも近いため息をほぼ同時につくとわたくしや「赤竜の息吹」のメンバーはゆっくりと澱んだ水の中へと足を踏み入れていく。
「……う、臭い……」
「これ病気にならないかな……」
「昔あったよな、遺跡の中に溜まってた水に落ちたリリーナが感染症にかかったやつ」
「今それを思い出すなよ、バカか……」
エルネットさん達が不快さを表情に出しながら話しているが、そういや昔地下水路に落ちた時は比較的綺麗な場所だったため、わたくしはそこまで被害に遭わなかったんだよね。
とはいえお気に入りの服に変な匂いがついて、魔法で浄化してなんとか対処した記憶が……とそこまで考えてわたくしはこの場所を浄化して仕舞えばなんとかなるんじゃないかと思い立つ。
「浄化したら匂い消えますかね?」
「消えるけど、そこに怪物がいたら……」
「……ちょっ……まっ!」
「……浄化」
「きゅぎいいいっ!」
デヴィットさんがわたくしを止めようとするものの、時すでに遅し……わたくしを中心に広がった光が地下水道いっぱいに広がると同時に、突然ユルの踏み入れていた水溜りの中から悲鳴と共に巨大な不定形の物体が飛び出し、まだ浄化が行われていない澱んだ水を巻き上げていくとともに、水路いっぱいに巻き上がった水は雨のようにわたくし達へと降りかかった。
澱んだ水をたっぷりと全身に浴びたわたくし達は呆然とした表情で水溜りの中から飛び出した生物を見るが……それはスライムのように見えるが、全然違う生物であることにそこで気がついた。
「偽物!?」
「バカな、ここは地下水路第一層だぞ?!」
水に見える半透明の部分が石のような物体へと有機的に変化すると、そこに獰猛な牙を持った口がパックリと広がる……かと思えば別の部分には枯れた草のようにしか見えない部分が地面に同化しながらゆっくりと何かの骨のようなものへと変化している。
それはまるでその光景へと擬態するかのように目の前で目まぐるしく姿を変えていく……だが、中央にギラリと黄金の光をはなつ瞳のようなものが浮かぶと、全身にいくつもの口をパックリと開けてわたくし達を威嚇するように吠え声を上げた。
「ギョワアアアアッ!」
「破滅の炎ッ!」
デヴィットさんの手から稲妻状の炎が解き放たれる……炎は偽物と呼ばれる怪物の表層へとぶつかると小爆発を起こして辺りに炎を撒き散らす。
それと同時に剣を引き抜いたエルネットさんが腰だめに構えた剣を怪物へと突き刺そうとするが、そこは肉体の一部に見える何もない空間だったようで、彼はバランスを崩して水溜りへと膝をつく。
それをみた偽物はいくつも生えた口をまるで触手のように伸ばして彼へと噛みつこうとするが、その口を目掛けて放たれたリリーナさんの矢が突き刺さると、悲鳴をあげて後退していく。
「風景と半分同化しているぞ、剣を突き刺すんじゃなくて振り払え!」
「うげ……ペッ……口に汚水が……わかった!」
「女神よ、英雄に力を!」
エミリオさんの言葉と同時にエルネットさんの剣が神聖な魔力に包まれて淡く光り輝く……再びエルネットさんへと襲い掛かろうとした偽物の口を振り払うように剣を振るうと、それが表層に当たって肉体を切り裂いたのか、七色に光る体液を撒き散らしながら怪物が悲鳴をあげる。
傷をつけたことで、それまで風景と半分同化していたような偽物の本当の肉体が姿を現していく……恐ろしく大きい、水路の高さいっぱいに広がる七色に明滅する血管が浮かびあがっていく。
「で、でか……」
「こんな大きさのが第一層に潜んでいるだと!?」
「火球ッ!」
ユルの放った火球が偽物の肉体に衝突して爆音を轟かせる……威力はそれほどでもないが、連鎖する爆発苦痛を感じたのか怪物は悲鳴をあげながら再び粘膜状に広がる体を大きく広げた。
そこへリリーナさんが放った矢……先端に小瓶がついており、それを目印にデヴィットさんからの火線が交差するように爆発を起こすと、キラキラと煌めく粉末がそのまに舞い踊る。
魔力を妨害する粉末が偽物の肉体を白く染め上げる……この怪物の肉体は魔力を循環させているため、魔力を阻害されると風景に溶け込むことが難しいのかもしれない。
そこへエルネットさんが一気に駆け込むと、中央でブルブルと震える一つしかない黄金の瞳に向かって白く輝く剣を突き立てた。
「うおおおおっ!」
「ギアアアアアアアアッ!」
「う……がはあっ!」
剣を突き立てられた偽物は悲鳴と共にその白く染まった体をめちゃくちゃに振り回し、その肉体を叩きつけられたエルネットさんは大きく跳ね飛ばされる。
大きさからしても質量が凄まじいのだろう……身長も高いエルネットさんだったが、数メートル飛ばされると地面に叩きつけられ、苦しそうに喘いだ。
それをみたリリーナさんが慌てて彼の元へと走っていく……だが、わたくし達がみている目の前で、突然偽物はその肉体から水分が抜けたかのように白くひび割れ、文字通り崩れ落ちていく。
それをみた全員がほっと息を吐くと共に、地面に叩きつけられて苦しそうに咳き込むエルネットさんの無事を確かめるために彼の元へと駆け寄る。
エルネットさんは少し苦しそうな咳を何度か繰り返した後、苦笑いを浮かべてわたくし達へと話しかけてきた。
「……これほどの大物が潜んでいるとは……ゴホッ……ちょっと休んでいいか?」
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