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(幕間) 隷属 〇五
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——賭場から少し離れた入江が見える小高い丘に一人の少女が腰を下ろしていた。
「……あーあ、めちゃくちゃ燃えてるじゃない、死人が出てないといいけど」
わたくしが見ている先に先ほどまでいた賭場が周辺を巻き込んで炎をあげているのが見える……いや、一逃げ遅れた人がいないかどうかチェックしてから出てきたので、多分大丈夫。
ドンッ! という重低音と共にまた大きく炎が上がるけど……何が燃えてるんだろ、油か何かだろうか? 喧騒も一際大きく港町プロディジーは大騒ぎになっている。
港町なので、火災に巻き込まれたくないのか慌てて出港する船なんかで港は混雑しているし、憲兵隊だけでなく漁師たちも消火に回っているようだ。
この世界における火事ではシンプルに水をかけたりするのが一般的ではあるが、あそこまで燃えちゃうと消すのも時間がかかるだろうなあ。
どうするか……賭場が燃える分には再建自体盗賊組合が頑張ればいいだけなんでどうでもいい話なんだけど……延焼が広がりすぎると街全体がまずいことになりそうだ。
なんであんなに燃えたのかは分からないけど、もしかしたら賭場の地下とかになんらかの薬品、もしくは油脂類に類する何かがしまわれていたとか?
うーん……考えても仕方ないんだけど、それにしたってアーテルが暴れた程度であそこまで爆炎になるとは思えないんだよなあ。
「しゃーない……天候を変えるか……降雨」
わたくしが魔力を集中させていくに従って、突然空に黒雲が広がっていく……この世界ではあまり使用された記録がないが、一応天候を変える魔法の類はいくつか存在している。
ゴロゴロゴロ、という音と共にそれまで穏やかな陽気が漂っていた周囲の空気が一気に冷え込んでいく……今回使用するのは局所的に影響を与えるもので、魔法の格としてはそれほど高くないがそれでも今轟々と燃え盛っている火の手を弱めるくらいの効果は出るのではないかと思う。
頬にポツリと水滴が当たると同時に、サアアアッという軽い音と共にプロディジー周辺に雨が降り注いでいく……その勢いはそれほど強くはないが、賭場周辺に延焼を始めていた火の勢いが瞬く間に小さくなり、喧騒が次第に歓声へと変わっていく。
この調子ならすぐに消し止められるだろう……うーん、良いことをした後はほんの少しだけ気分がいいな、発端がわたくしかもしれないけどちゃんとフォローができるのだから問題ない。
「……んで? もう出れるかしら」
「はい……天候を変えたのですな」
声と共に木陰からぬるりと黒い巨体が姿を表す……わたくしが契約する忠実な僕であり、最も信頼する幻獣ガルム族のユルだ。
今の大きさは熊くらい? それなりに大きいけどフツーにドラゴンとかが出る世界なので、そこまで
そして彼に続くようにもう一体のガルムが姿を表す……アーテルと名付けられたユルよりもほんの少し細いガルムが姿を現した。
首には隷属の首輪が装着されているが、先日わたくしが素手でぶっ壊したために魔力がこもっておらず、騒ぎで完全に崩壊を始めており、ずるりとアーテルの首から落ちるとサラサラとした砂のように崩壊していく。
本当はレース中に崩壊する予定だったんだよな……ただ拘束するための魔力は昨晩破壊してしまったので、それを待たずして効果が完全に無効化されたのだろう。
「ほ、本当に外に……」
「約束は守るのが貴族なので……身体におかしなところはない?」
「……ああ……問題ない……ありません」
アーテルは少し呆然とした表情だったもののわたくしの問いに答えると、改めてこちらを見て言葉遣いを直した。
ユルはその隣でフン、と鼻を鳴らして満足そうに何度か頷いているけどなんでこいつがこんな得意げな顔をしているのかよくわからないけど。
アーテルがわたくしの近くまで寄ってくると、地面に伏せて素直に頭を下げる……これはユルもよくやるけど服従の意思を表しているものらしい。
わたくしがそっとアーテルの頭を撫でると気持ちよさそうな表情を浮かべて鼻を鳴らすが、この辺りは犬っぽいな。
毛皮はちょっと薄汚れているし栄養状態も良くないのかユルと比べるとちょっと細い気がするけど、食事などを変えれば正常な姿を取り戻せるだろう。
「ところでアーテルは人間につけられた名前だっけ、それで呼び続けていいのかしら」
「いえ、この場所から連れ出していただいた貴女様には我の真の名前を伝えねばと思いました……」
「そう? では真の名前を教えてもらえる?」
「我が祖霊より受け取りし名前はニイド……」
へー、アーテルって名前よりも遥かに強そうな名前だな……そんなことを考えながらアーテル改めニイドの耳の辺りを撫で回すと、ニイドは少し恥ずかしそうな表情になりながらも尻尾を左右に振って軽く火花を散らしている。
降雨の効果が失われ、次第に元の天候へと戻っていくがふと視線を向けるとプロディジーに発生した火事はあっという間に沈静化し、黒い煙が立ち上るだけになっている。
ま、あっちも大丈夫か……わたくしは軽くニイドの肩あたりを叩くと、ゆっくりと立ち上がって軽く足についた草を払う。
ここに残っていると盗賊組合の連中が来てしまいそうだし、今は仮面もつけてないから正体がバレちゃうしな。
「それでこれからどうするの?」
「そうですな……幻獣界へと戻ろうかと、我はすでに一〇年以上この世界を旅しまして、そろそろ潮時かなと」
「そっか……よければ契約をって思ったけど」
「貴方様にはすでに素晴らしい同族がおります……我はお役に立てますまい」
「そーだな、我がシャルロッタ様をお守りするからお前はさっさと幻獣界に逃げかえるといい」
ユルがニイドに向かって吠えたてるが、それは犬同士が飼い主の膝を取り合っているような微笑ましさがあってわたくしはクスッと笑ってしまう。
前々世の祖母が飼っていたマルチーズ二頭がよく膝の取り合いで喧嘩になってて、それを止めようとして指を噛まれて散々な目に遭ったのを思い出した。
ちなみに契約はもう一頭増えたところで問題はない……というより他に契約している幻獣もいないし、別にガルムくらいだったら一〇頭くらい契約できそうなもんだ。
ニイドはユルの顔を見てハッ! とバカにしたように失笑するが、すぐにほんの少し寂しそうな顔になってからわたくしへと再び頭を下げた。
「……ですがこのご恩を忘れるのは我にとって恥辱……何かを命令いただければそれを叶えましょう」
「特にないのよねえ……」
「……強者たるシャルロッタ様であれば我などの力は微力でしょうが……」
「いや、ニイドが強いのは分かってるんだけど、使い所が……」
そうなんだよな……ガルムは人間より遥かに強いのに、使い所がめちゃくちゃ難しい存在なんだよ。
戦闘力は高いし隠密活動も可能、ついでに撫でると気持ちいいといいところだらけなんだけど、見た目が怖くて威圧感あるし、それに二頭も契約してしまうと目立つことこの上ない。
ついでに言うとニイドは盗賊組合に囚われていたこともあって、バレた時に彼らとの抗争になっちゃいそうなんだよなあ……。
ニイドの体を触っていてふとユルの体とちょっと違う点を見つけてしまい、わたくしは首を傾げてはて? と何度か違和感のある場所を弄る。
「ねえ……ニイドって」
「なんでしょうか?」
「……もしかして雌なの?」
「は、はい……人間でいうところの女性……ガルム族としては雌ですね」
わたくしの言葉にそれまでニイドに威嚇するようにメンチを切っていたユルがえ? という感じで固まる……ニイドはきょとんとした顔でわたくしを見ると、不思議そうに頷いた。
と言うのもガルムの体は狼や犬などと一緒で、複数の乳腺があって乳首が縦に並んでいるのだがややその膨らみが大きい気がしたからだ。
弄っていくとユルにはちゃんとついている(どことは言わないけど)ある器官がついていない……あらま、本当にメスだわ……わたくしは少し柔らかさを感じる膨らみを触りつつ、少し考える。
ユルはニイドにメンチを切るのを忘れて何度か彼女の耳や首筋の匂いを嗅いで、それまで全く気が付いていなかったことに驚いたのか急に威嚇をやめてしまった。
「……雌だって最初から言ってもらえれば……」
「……いやそれはおかしい……我が雌なのは最初からわかるであろう」
「そんなバカな、我だって幻獣界にいた時はちゃんと区別がついておりましたぞ?!」
「シャルロッタ様と契約して人間の女性に長く触れすぎて、同族の匂いを忘れたのでは?!」
ユルとニイドがギャンギャンと騒いでいるが、わたくしはその間も考え続けていた……うーん、ガルムに雌がいるのはまあ生命としての営みを考えたら確かにいるんだろうけど。
盗賊組合ももしかしたら、最初ニイドを捕まえた時はムーアウルフだと思ってたようなので、ある程度走らせて勝てなくなったら番を当てて繁殖を考えたのかもな。
野生のムーアウルフを捕まえるより繁殖した個体を調教する方が楽なのは確かだし……それにアーテルとして人気が出ればその子供は高値で売れるだろうし。
未だいがみ合う二人を見ていてわたくしは良案が思いついたことに気がついて、笑顔のまま軽く両手をパチンと叩いた。
「いいこと思いついた、ニイド……ユルのお嫁さんにならない?」
わたくしの言葉にぽかんと口を開けたユルとニイドはお互いを見合わせてから、再びわたくしの顔を見上げて絶句している。
そういやわたくしユルのお嫁さんを探さなきゃなと思ってたんだよな……ニイドもちゃんと磨けば美しい毛並みになるだろうし、ほんの少し細いけどぱっと見造形もしっかりしてる。
何より幻獣ガルムとしては別部族の個体で血の交わりもないだろう、それにちょっとお似合いの二人に見えるんだよね。
だが、ユルとニイドはわたくしの笑顔を見て、本気で良かれと思って行っているのだと気が付いたのだろう……ほぼ同時に肩を振るわせ、とてもじゃないけど我慢できないという風にそれはもう長年のパートナーでもこんなに美しく合わせられないだろうと思うくらいはっきりと、そして怒りを滲ませながら同時に叫んだ。
「こんなやつと番になんかなりませんよ!!!」
「こんな嫌なやつは隣にいりませんよ!!!」
「……あーあ、めちゃくちゃ燃えてるじゃない、死人が出てないといいけど」
わたくしが見ている先に先ほどまでいた賭場が周辺を巻き込んで炎をあげているのが見える……いや、一逃げ遅れた人がいないかどうかチェックしてから出てきたので、多分大丈夫。
ドンッ! という重低音と共にまた大きく炎が上がるけど……何が燃えてるんだろ、油か何かだろうか? 喧騒も一際大きく港町プロディジーは大騒ぎになっている。
港町なので、火災に巻き込まれたくないのか慌てて出港する船なんかで港は混雑しているし、憲兵隊だけでなく漁師たちも消火に回っているようだ。
この世界における火事ではシンプルに水をかけたりするのが一般的ではあるが、あそこまで燃えちゃうと消すのも時間がかかるだろうなあ。
どうするか……賭場が燃える分には再建自体盗賊組合が頑張ればいいだけなんでどうでもいい話なんだけど……延焼が広がりすぎると街全体がまずいことになりそうだ。
なんであんなに燃えたのかは分からないけど、もしかしたら賭場の地下とかになんらかの薬品、もしくは油脂類に類する何かがしまわれていたとか?
うーん……考えても仕方ないんだけど、それにしたってアーテルが暴れた程度であそこまで爆炎になるとは思えないんだよなあ。
「しゃーない……天候を変えるか……降雨」
わたくしが魔力を集中させていくに従って、突然空に黒雲が広がっていく……この世界ではあまり使用された記録がないが、一応天候を変える魔法の類はいくつか存在している。
ゴロゴロゴロ、という音と共にそれまで穏やかな陽気が漂っていた周囲の空気が一気に冷え込んでいく……今回使用するのは局所的に影響を与えるもので、魔法の格としてはそれほど高くないがそれでも今轟々と燃え盛っている火の手を弱めるくらいの効果は出るのではないかと思う。
頬にポツリと水滴が当たると同時に、サアアアッという軽い音と共にプロディジー周辺に雨が降り注いでいく……その勢いはそれほど強くはないが、賭場周辺に延焼を始めていた火の勢いが瞬く間に小さくなり、喧騒が次第に歓声へと変わっていく。
この調子ならすぐに消し止められるだろう……うーん、良いことをした後はほんの少しだけ気分がいいな、発端がわたくしかもしれないけどちゃんとフォローができるのだから問題ない。
「……んで? もう出れるかしら」
「はい……天候を変えたのですな」
声と共に木陰からぬるりと黒い巨体が姿を表す……わたくしが契約する忠実な僕であり、最も信頼する幻獣ガルム族のユルだ。
今の大きさは熊くらい? それなりに大きいけどフツーにドラゴンとかが出る世界なので、そこまで
そして彼に続くようにもう一体のガルムが姿を表す……アーテルと名付けられたユルよりもほんの少し細いガルムが姿を現した。
首には隷属の首輪が装着されているが、先日わたくしが素手でぶっ壊したために魔力がこもっておらず、騒ぎで完全に崩壊を始めており、ずるりとアーテルの首から落ちるとサラサラとした砂のように崩壊していく。
本当はレース中に崩壊する予定だったんだよな……ただ拘束するための魔力は昨晩破壊してしまったので、それを待たずして効果が完全に無効化されたのだろう。
「ほ、本当に外に……」
「約束は守るのが貴族なので……身体におかしなところはない?」
「……ああ……問題ない……ありません」
アーテルは少し呆然とした表情だったもののわたくしの問いに答えると、改めてこちらを見て言葉遣いを直した。
ユルはその隣でフン、と鼻を鳴らして満足そうに何度か頷いているけどなんでこいつがこんな得意げな顔をしているのかよくわからないけど。
アーテルがわたくしの近くまで寄ってくると、地面に伏せて素直に頭を下げる……これはユルもよくやるけど服従の意思を表しているものらしい。
わたくしがそっとアーテルの頭を撫でると気持ちよさそうな表情を浮かべて鼻を鳴らすが、この辺りは犬っぽいな。
毛皮はちょっと薄汚れているし栄養状態も良くないのかユルと比べるとちょっと細い気がするけど、食事などを変えれば正常な姿を取り戻せるだろう。
「ところでアーテルは人間につけられた名前だっけ、それで呼び続けていいのかしら」
「いえ、この場所から連れ出していただいた貴女様には我の真の名前を伝えねばと思いました……」
「そう? では真の名前を教えてもらえる?」
「我が祖霊より受け取りし名前はニイド……」
へー、アーテルって名前よりも遥かに強そうな名前だな……そんなことを考えながらアーテル改めニイドの耳の辺りを撫で回すと、ニイドは少し恥ずかしそうな表情になりながらも尻尾を左右に振って軽く火花を散らしている。
降雨の効果が失われ、次第に元の天候へと戻っていくがふと視線を向けるとプロディジーに発生した火事はあっという間に沈静化し、黒い煙が立ち上るだけになっている。
ま、あっちも大丈夫か……わたくしは軽くニイドの肩あたりを叩くと、ゆっくりと立ち上がって軽く足についた草を払う。
ここに残っていると盗賊組合の連中が来てしまいそうだし、今は仮面もつけてないから正体がバレちゃうしな。
「それでこれからどうするの?」
「そうですな……幻獣界へと戻ろうかと、我はすでに一〇年以上この世界を旅しまして、そろそろ潮時かなと」
「そっか……よければ契約をって思ったけど」
「貴方様にはすでに素晴らしい同族がおります……我はお役に立てますまい」
「そーだな、我がシャルロッタ様をお守りするからお前はさっさと幻獣界に逃げかえるといい」
ユルがニイドに向かって吠えたてるが、それは犬同士が飼い主の膝を取り合っているような微笑ましさがあってわたくしはクスッと笑ってしまう。
前々世の祖母が飼っていたマルチーズ二頭がよく膝の取り合いで喧嘩になってて、それを止めようとして指を噛まれて散々な目に遭ったのを思い出した。
ちなみに契約はもう一頭増えたところで問題はない……というより他に契約している幻獣もいないし、別にガルムくらいだったら一〇頭くらい契約できそうなもんだ。
ニイドはユルの顔を見てハッ! とバカにしたように失笑するが、すぐにほんの少し寂しそうな顔になってからわたくしへと再び頭を下げた。
「……ですがこのご恩を忘れるのは我にとって恥辱……何かを命令いただければそれを叶えましょう」
「特にないのよねえ……」
「……強者たるシャルロッタ様であれば我などの力は微力でしょうが……」
「いや、ニイドが強いのは分かってるんだけど、使い所が……」
そうなんだよな……ガルムは人間より遥かに強いのに、使い所がめちゃくちゃ難しい存在なんだよ。
戦闘力は高いし隠密活動も可能、ついでに撫でると気持ちいいといいところだらけなんだけど、見た目が怖くて威圧感あるし、それに二頭も契約してしまうと目立つことこの上ない。
ついでに言うとニイドは盗賊組合に囚われていたこともあって、バレた時に彼らとの抗争になっちゃいそうなんだよなあ……。
ニイドの体を触っていてふとユルの体とちょっと違う点を見つけてしまい、わたくしは首を傾げてはて? と何度か違和感のある場所を弄る。
「ねえ……ニイドって」
「なんでしょうか?」
「……もしかして雌なの?」
「は、はい……人間でいうところの女性……ガルム族としては雌ですね」
わたくしの言葉にそれまでニイドに威嚇するようにメンチを切っていたユルがえ? という感じで固まる……ニイドはきょとんとした顔でわたくしを見ると、不思議そうに頷いた。
と言うのもガルムの体は狼や犬などと一緒で、複数の乳腺があって乳首が縦に並んでいるのだがややその膨らみが大きい気がしたからだ。
弄っていくとユルにはちゃんとついている(どことは言わないけど)ある器官がついていない……あらま、本当にメスだわ……わたくしは少し柔らかさを感じる膨らみを触りつつ、少し考える。
ユルはニイドにメンチを切るのを忘れて何度か彼女の耳や首筋の匂いを嗅いで、それまで全く気が付いていなかったことに驚いたのか急に威嚇をやめてしまった。
「……雌だって最初から言ってもらえれば……」
「……いやそれはおかしい……我が雌なのは最初からわかるであろう」
「そんなバカな、我だって幻獣界にいた時はちゃんと区別がついておりましたぞ?!」
「シャルロッタ様と契約して人間の女性に長く触れすぎて、同族の匂いを忘れたのでは?!」
ユルとニイドがギャンギャンと騒いでいるが、わたくしはその間も考え続けていた……うーん、ガルムに雌がいるのはまあ生命としての営みを考えたら確かにいるんだろうけど。
盗賊組合ももしかしたら、最初ニイドを捕まえた時はムーアウルフだと思ってたようなので、ある程度走らせて勝てなくなったら番を当てて繁殖を考えたのかもな。
野生のムーアウルフを捕まえるより繁殖した個体を調教する方が楽なのは確かだし……それにアーテルとして人気が出ればその子供は高値で売れるだろうし。
未だいがみ合う二人を見ていてわたくしは良案が思いついたことに気がついて、笑顔のまま軽く両手をパチンと叩いた。
「いいこと思いついた、ニイド……ユルのお嫁さんにならない?」
わたくしの言葉にぽかんと口を開けたユルとニイドはお互いを見合わせてから、再びわたくしの顔を見上げて絶句している。
そういやわたくしユルのお嫁さんを探さなきゃなと思ってたんだよな……ニイドもちゃんと磨けば美しい毛並みになるだろうし、ほんの少し細いけどぱっと見造形もしっかりしてる。
何より幻獣ガルムとしては別部族の個体で血の交わりもないだろう、それにちょっとお似合いの二人に見えるんだよね。
だが、ユルとニイドはわたくしの笑顔を見て、本気で良かれと思って行っているのだと気が付いたのだろう……ほぼ同時に肩を振るわせ、とてもじゃないけど我慢できないという風にそれはもう長年のパートナーでもこんなに美しく合わせられないだろうと思うくらいはっきりと、そして怒りを滲ませながら同時に叫んだ。
「こんなやつと番になんかなりませんよ!!!」
「こんな嫌なやつは隣にいりませんよ!!!」
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※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
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