314 / 405
第二六九話 シャルロッタ 一六歳 竜人 〇九
しおりを挟む
「……惜しいな、今ここで大軍さえ指揮していればマカパインの大英雄となれたであろうに」
撤退していくマカパイン王国軍を見つめながら異形の姿をした怪物が呟く。
複数ある黄金の瞳をギョロギョロと動かしながら少しだけ落胆の色を見せる使役する者は、遠目の魔法を使用しながら軍勢の先頭に立つ人物を見つめていた。
ティーチ・ホロバイネンは士気の落ちたマカパイン王国軍を統率しつつ、インテリペリ辺境伯軍の警戒網を避けつつ素早く移動しているのがわかる。
その手際の良さ、動きの良さはシェリニアン将軍が指揮していた時とはまるで別の集団に生まれ変わったかのように生き生きとしている。
注意深く、そして一人の脱落者も許さないほどの細やかな指揮……竜殺しという異名だけが先行しているが、軍を率いた時の彼はそれまでの印象とは違って雄弁であり自信に満ち溢れている。
「人は成長する……成長を促すのが本来は敵である辺境の翡翠姫とは皮肉なものだ、マカパインに人材はいないということだな」
数年前まで一斥候だったとは思えないほどの統率能力……もし彼が大軍を率いてイングウェイ王国へと攻め入ってたとしたらこの国の軍勢はどれだけ持ち堪えることができただろうか?
インテリペリ辺境伯家も本気で戦いを挑んできたティーチ相手には苦戦を余儀なくされるであろう……そんな光景が脳裏に浮かぶ。
だが……使役する者の小さすぎる口元が歪むと、その長く細い腕の先にある手の中に不気味な脈動する球体が生み出される。
「恨みなど我らには感じもしないが、ここで始末しておいた方が後々のためであるな」
「あー、そうか恨みはないとな? そんなもんお前らが感じるわけはなかろ」
いきなり背後から声をかけられた使役する者はクフッ! と低い笑いを漏らしながらゆっくりと振り向いた。
そこには赤い髪の女性……先ほどまでシャルロッタ・インテリペリと死闘を繰り広げていた真の竜の化身たる美女リーヒ・コルドラクが笑みを浮かべて立っていた。
姿が見えないと思っていたが、まさかここに……と少し驚きつつも使役する者は彼女へと向き直る。
見た目は絶世の美女……赤髪に爬虫類のような金色の瞳が異形とも言えるが、男性から見ればそのグラマラスなスタイルと勝気な印象のあるその姿はとても魅力的に映るだろう。
「……本当に異形じゃな、混沌の連中はどうも酷い外見が多いのぉ?」
「ワシから見ればお前の方が醜い、価値観の相違というやつだ」
「そうかぁ? 普通の美的感覚なら我の方が美しいと感じるのじゃが……ま、良いわ」
クハッ、と失笑を漏らすとリーヒは軽く両拳を合わせるが、ドゴン! というとてもではないが外見から想像の出来ないほど硬質で重量感のある音が響く。
その音だけでも目の前の赤髪の美女が普通ではないことがわかる……使役する者は白いローブの裾から細すぎる腕を突き出す。
元々二メートルを超える長身だが、体は異常なほど細身でありとてもではないが格闘戦が得意なタイプには見えない。
だが、その姿からは想像もできないほどの圧力……下手に手を出すことを躊躇うほどの異様な雰囲気を醸し出している。
「じゃがな……ドラゴンには引くという選択肢はないッ! 先手必勝じゃ!」
「……ふん」
リーヒは凄まじい速度で地面を蹴り飛ばすと使役する者へと迫る……拳はすでに竜の爪を生やした巨大なものへと変化しており、その一撃が炸裂すれば生物の肉体など一撃で粉砕されてしまうだろう。
だが……その拳の一撃が炸裂する瞬間使役する者の体が一瞬で凄まじい数の羽虫へと分裂し攻撃が空を切る。
耳障りな羽音を立てながら夥しい量の羽虫がゆっくりと別の場所へと移動していくのを見て、軽い舌打ちをしながらリーヒは口から爆炎を噴射した。
炎が迫る瞬間羽虫は凄まじい勢いで渦を巻くと一瞬で使役する者の姿へと戻り、軽く腕を振ると炎は何か見えない壁にぶつかったかのよう上空へと巻き上げられる。
「ああ? なんじゃそりゃ」
「羽虫は嫌いか? だがワシは愛しておるよ……我が神の眷属故にな」
「はっ……糞にたかる蝿じゃろそりゃ」
リーヒは再び地面を蹴って稲妻のように進路を細かく変化しながら使役する者に肉薄する……その速度は目で追うには早すぎる。
だが、使役する者はその拳が命中する寸前に羽虫へと姿を変え悠々と回避を続けていく……爆炎と耳障りな羽音が辺りに響く。
その三叉の頭部に複数あるギョロギョロと動く瞳はまるで回転するかのように高速で動き、とても目で追いきれないリーヒの姿を捉え、ある程度の余裕を持って回避に専念しているのがわかる。
彼の目にはリーヒの動きにほんの少しだが遅れのようなものが発生しているのが見えていた……それは少し前までシャルロッタ・インテリペリとの死闘によって負傷したことにも影響していたのだろう。
「……クハハッ! 随分と苦しそうだな?」
「何を……」
「痛みに耐えながら戦うのも苦しかろうよ、どれ……」
羽虫へと変化した使役する者が別の場所へと高速で移動すると、白いローブの裾から細すぎる腕を突き出すと眼前で奇妙な印を結ぶ。
痛む腹部を押さえながら地面へと着地したリーヒが振り向くと同時に、彼の体から恐ろしい量の魔力が放出されるのを見て、ギョッとした表情を浮かべた。
混沌神の寵愛を受ける訓戒者……その実力は見た目よりも遥かに高いのだと理解した瞬間、周囲に夥しい量の蝗が出現する。
だが出現したのは普通の蝗ではない……明らかに毒々しい色を纏っており、打ち鳴らされる顎には不気味な光がある。
これはまずい……逃げるか防ぐか決めねば……リーヒの思考が攻撃から転じた一瞬の間を見逃さず使役する者は魔法を解放した。
「……混沌魔法暴食の蝗ッ!」
「うぉっ!!」
一瞬でリーヒの全身に凄まじい速度で毒々しい色の蝗がくらいつく……混沌魔法暴食の蝗は地獄を飛翔し生きとし生けるものを全て食い荒らす悪魔のような昆虫の一種貪食蝗を現世に呼び出し、対象を食い荒らす恐ろしい魔法の一つである。
貪食蝗は生命と見ればそれがなんであろうと肌を食い破り、肉を割き内臓を食い荒らし……骨すらも砕いて全てを無に返す。
現世に呼び出された貪食蝗は生命を食い尽くすと、自ら自己崩壊するため魔法の効果が切れる時には生命の痕跡は全て失われるのだ。
「クハハッ! 真の竜とはいえこれは避けれまい?」
「……ウハッ! この程度か訓戒者」
「な、何……?」
よく見れば貪食蝗が耳障りな羽音をあげながら群がっている場所には、人型のオブジェにも見える何かが立っている。
普通数秒も持たずに生命は崩壊するはず……だが、貪食蝗は肉体を噛みきれないかのようにガチガチとその顎を鳴らしている。
その隙間から爬虫類のような黄金の瞳が覗く……そして次の瞬間、その人型の何かが爆炎に包まれると共に、貪食蝗が炎に焼き尽くされて炭化していく。
使役する者が唖然とした表情を浮かべて爆炎の中から歩み出る一人の女性……リーヒ・コルドラクの姿を見つめる。
「危ない危ない……シャルロッタとの戦いをやってなかったらここで死んでおったな」
「……何をした? どうしてお前は喰われていない」
「ん? 何……あやつと同じことをしてみたまでよ、便利じゃのぉ?」
ニヤリと笑うとリーヒは少し前まで戦っていたシャルロッタ・インテリペリは自らの肉体を守るために、魔力を使った結界を展開していた。
真の竜たる自らが肉体を守るために魔力を使う、という考え方は彼女自身にはこれまで存在していなかった。
当たり前だが竜鱗はこの世では最も硬質な装甲に比類する……ドラゴンたる自らが魔力を使って防御を行うなど誇りを捨てているようなものだ。
だが……あの女はそれは無意味だと教えてくれた……勝つために何をするのか、リーヒは死闘の中で学ぶことができていたのだ。
「魔力による防御結界……ふん、辺境の翡翠姫と同じものか」
「これは予想以上に疲れるのぉ……あやつは本当にバケモンじゃな……ったく」
「ここで押し切っても良いが……ま、ここまでだろうな、生かしてやろうレッドドラゴンよ」
「あ、ま……まてっ! ゲホゲホッ……」
使役する者は再び自らの体を羽虫へと変化させると、素早く空へと舞い上がる。
それに反応して爆炎を吹き出そうとしたリーヒだが、相当な無理が祟ったのだろう、軽く咳き込むと膝を落としてしまう。
暴食の蝗を魔力による防御結界で防御したとはいえ、つい先ほどまでさらに強い人物と死闘を繰り広げていたばかりなのだ。
すでに限界も限界……少しでも休息を取らないとまともに動けるはずもない。
耳障りな羽音が遠ざかるのを聞きつつ、軽くため息をついたリーヒは遠くを行軍しているマカパイン王国の軍勢を見ながら呟いた。
「……危なかったな、あれほどの強者どこに隠れておったんじゃ……おっと」
彼女はいきなり拳を横に突き出すが、そこには先ほどの混沌魔法で召喚された貪食蝗が一匹だけ残っており、リーヒの隙を狙って襲い掛かろうとしていた。
グシャリという鈍い音をたてて貪食蝗を一撃で粉砕するとリーヒは、地面に仰向けで倒れ込む。
ひどく眠い……魔力を使いすぎたし、何より体が恐ろしく疲れていて休息を取らねば、と彼女はなんとか睡魔に耐えつつ視界に広がる青空を見つめていた。
先ほどと同じような空だが、少しだけ違うものが見えている気がする……ティーチを守れたことに安堵しつつ次第に暗闇の中へと落ちていった。
「……次は我が勝つぞシャルロッタよ……」
撤退していくマカパイン王国軍を見つめながら異形の姿をした怪物が呟く。
複数ある黄金の瞳をギョロギョロと動かしながら少しだけ落胆の色を見せる使役する者は、遠目の魔法を使用しながら軍勢の先頭に立つ人物を見つめていた。
ティーチ・ホロバイネンは士気の落ちたマカパイン王国軍を統率しつつ、インテリペリ辺境伯軍の警戒網を避けつつ素早く移動しているのがわかる。
その手際の良さ、動きの良さはシェリニアン将軍が指揮していた時とはまるで別の集団に生まれ変わったかのように生き生きとしている。
注意深く、そして一人の脱落者も許さないほどの細やかな指揮……竜殺しという異名だけが先行しているが、軍を率いた時の彼はそれまでの印象とは違って雄弁であり自信に満ち溢れている。
「人は成長する……成長を促すのが本来は敵である辺境の翡翠姫とは皮肉なものだ、マカパインに人材はいないということだな」
数年前まで一斥候だったとは思えないほどの統率能力……もし彼が大軍を率いてイングウェイ王国へと攻め入ってたとしたらこの国の軍勢はどれだけ持ち堪えることができただろうか?
インテリペリ辺境伯家も本気で戦いを挑んできたティーチ相手には苦戦を余儀なくされるであろう……そんな光景が脳裏に浮かぶ。
だが……使役する者の小さすぎる口元が歪むと、その長く細い腕の先にある手の中に不気味な脈動する球体が生み出される。
「恨みなど我らには感じもしないが、ここで始末しておいた方が後々のためであるな」
「あー、そうか恨みはないとな? そんなもんお前らが感じるわけはなかろ」
いきなり背後から声をかけられた使役する者はクフッ! と低い笑いを漏らしながらゆっくりと振り向いた。
そこには赤い髪の女性……先ほどまでシャルロッタ・インテリペリと死闘を繰り広げていた真の竜の化身たる美女リーヒ・コルドラクが笑みを浮かべて立っていた。
姿が見えないと思っていたが、まさかここに……と少し驚きつつも使役する者は彼女へと向き直る。
見た目は絶世の美女……赤髪に爬虫類のような金色の瞳が異形とも言えるが、男性から見ればそのグラマラスなスタイルと勝気な印象のあるその姿はとても魅力的に映るだろう。
「……本当に異形じゃな、混沌の連中はどうも酷い外見が多いのぉ?」
「ワシから見ればお前の方が醜い、価値観の相違というやつだ」
「そうかぁ? 普通の美的感覚なら我の方が美しいと感じるのじゃが……ま、良いわ」
クハッ、と失笑を漏らすとリーヒは軽く両拳を合わせるが、ドゴン! というとてもではないが外見から想像の出来ないほど硬質で重量感のある音が響く。
その音だけでも目の前の赤髪の美女が普通ではないことがわかる……使役する者は白いローブの裾から細すぎる腕を突き出す。
元々二メートルを超える長身だが、体は異常なほど細身でありとてもではないが格闘戦が得意なタイプには見えない。
だが、その姿からは想像もできないほどの圧力……下手に手を出すことを躊躇うほどの異様な雰囲気を醸し出している。
「じゃがな……ドラゴンには引くという選択肢はないッ! 先手必勝じゃ!」
「……ふん」
リーヒは凄まじい速度で地面を蹴り飛ばすと使役する者へと迫る……拳はすでに竜の爪を生やした巨大なものへと変化しており、その一撃が炸裂すれば生物の肉体など一撃で粉砕されてしまうだろう。
だが……その拳の一撃が炸裂する瞬間使役する者の体が一瞬で凄まじい数の羽虫へと分裂し攻撃が空を切る。
耳障りな羽音を立てながら夥しい量の羽虫がゆっくりと別の場所へと移動していくのを見て、軽い舌打ちをしながらリーヒは口から爆炎を噴射した。
炎が迫る瞬間羽虫は凄まじい勢いで渦を巻くと一瞬で使役する者の姿へと戻り、軽く腕を振ると炎は何か見えない壁にぶつかったかのよう上空へと巻き上げられる。
「ああ? なんじゃそりゃ」
「羽虫は嫌いか? だがワシは愛しておるよ……我が神の眷属故にな」
「はっ……糞にたかる蝿じゃろそりゃ」
リーヒは再び地面を蹴って稲妻のように進路を細かく変化しながら使役する者に肉薄する……その速度は目で追うには早すぎる。
だが、使役する者はその拳が命中する寸前に羽虫へと姿を変え悠々と回避を続けていく……爆炎と耳障りな羽音が辺りに響く。
その三叉の頭部に複数あるギョロギョロと動く瞳はまるで回転するかのように高速で動き、とても目で追いきれないリーヒの姿を捉え、ある程度の余裕を持って回避に専念しているのがわかる。
彼の目にはリーヒの動きにほんの少しだが遅れのようなものが発生しているのが見えていた……それは少し前までシャルロッタ・インテリペリとの死闘によって負傷したことにも影響していたのだろう。
「……クハハッ! 随分と苦しそうだな?」
「何を……」
「痛みに耐えながら戦うのも苦しかろうよ、どれ……」
羽虫へと変化した使役する者が別の場所へと高速で移動すると、白いローブの裾から細すぎる腕を突き出すと眼前で奇妙な印を結ぶ。
痛む腹部を押さえながら地面へと着地したリーヒが振り向くと同時に、彼の体から恐ろしい量の魔力が放出されるのを見て、ギョッとした表情を浮かべた。
混沌神の寵愛を受ける訓戒者……その実力は見た目よりも遥かに高いのだと理解した瞬間、周囲に夥しい量の蝗が出現する。
だが出現したのは普通の蝗ではない……明らかに毒々しい色を纏っており、打ち鳴らされる顎には不気味な光がある。
これはまずい……逃げるか防ぐか決めねば……リーヒの思考が攻撃から転じた一瞬の間を見逃さず使役する者は魔法を解放した。
「……混沌魔法暴食の蝗ッ!」
「うぉっ!!」
一瞬でリーヒの全身に凄まじい速度で毒々しい色の蝗がくらいつく……混沌魔法暴食の蝗は地獄を飛翔し生きとし生けるものを全て食い荒らす悪魔のような昆虫の一種貪食蝗を現世に呼び出し、対象を食い荒らす恐ろしい魔法の一つである。
貪食蝗は生命と見ればそれがなんであろうと肌を食い破り、肉を割き内臓を食い荒らし……骨すらも砕いて全てを無に返す。
現世に呼び出された貪食蝗は生命を食い尽くすと、自ら自己崩壊するため魔法の効果が切れる時には生命の痕跡は全て失われるのだ。
「クハハッ! 真の竜とはいえこれは避けれまい?」
「……ウハッ! この程度か訓戒者」
「な、何……?」
よく見れば貪食蝗が耳障りな羽音をあげながら群がっている場所には、人型のオブジェにも見える何かが立っている。
普通数秒も持たずに生命は崩壊するはず……だが、貪食蝗は肉体を噛みきれないかのようにガチガチとその顎を鳴らしている。
その隙間から爬虫類のような黄金の瞳が覗く……そして次の瞬間、その人型の何かが爆炎に包まれると共に、貪食蝗が炎に焼き尽くされて炭化していく。
使役する者が唖然とした表情を浮かべて爆炎の中から歩み出る一人の女性……リーヒ・コルドラクの姿を見つめる。
「危ない危ない……シャルロッタとの戦いをやってなかったらここで死んでおったな」
「……何をした? どうしてお前は喰われていない」
「ん? 何……あやつと同じことをしてみたまでよ、便利じゃのぉ?」
ニヤリと笑うとリーヒは少し前まで戦っていたシャルロッタ・インテリペリは自らの肉体を守るために、魔力を使った結界を展開していた。
真の竜たる自らが肉体を守るために魔力を使う、という考え方は彼女自身にはこれまで存在していなかった。
当たり前だが竜鱗はこの世では最も硬質な装甲に比類する……ドラゴンたる自らが魔力を使って防御を行うなど誇りを捨てているようなものだ。
だが……あの女はそれは無意味だと教えてくれた……勝つために何をするのか、リーヒは死闘の中で学ぶことができていたのだ。
「魔力による防御結界……ふん、辺境の翡翠姫と同じものか」
「これは予想以上に疲れるのぉ……あやつは本当にバケモンじゃな……ったく」
「ここで押し切っても良いが……ま、ここまでだろうな、生かしてやろうレッドドラゴンよ」
「あ、ま……まてっ! ゲホゲホッ……」
使役する者は再び自らの体を羽虫へと変化させると、素早く空へと舞い上がる。
それに反応して爆炎を吹き出そうとしたリーヒだが、相当な無理が祟ったのだろう、軽く咳き込むと膝を落としてしまう。
暴食の蝗を魔力による防御結界で防御したとはいえ、つい先ほどまでさらに強い人物と死闘を繰り広げていたばかりなのだ。
すでに限界も限界……少しでも休息を取らないとまともに動けるはずもない。
耳障りな羽音が遠ざかるのを聞きつつ、軽くため息をついたリーヒは遠くを行軍しているマカパイン王国の軍勢を見ながら呟いた。
「……危なかったな、あれほどの強者どこに隠れておったんじゃ……おっと」
彼女はいきなり拳を横に突き出すが、そこには先ほどの混沌魔法で召喚された貪食蝗が一匹だけ残っており、リーヒの隙を狙って襲い掛かろうとしていた。
グシャリという鈍い音をたてて貪食蝗を一撃で粉砕するとリーヒは、地面に仰向けで倒れ込む。
ひどく眠い……魔力を使いすぎたし、何より体が恐ろしく疲れていて休息を取らねば、と彼女はなんとか睡魔に耐えつつ視界に広がる青空を見つめていた。
先ほどと同じような空だが、少しだけ違うものが見えている気がする……ティーチを守れたことに安堵しつつ次第に暗闇の中へと落ちていった。
「……次は我が勝つぞシャルロッタよ……」
41
お気に入りに追加
829
あなたにおすすめの小説
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
突然シーカーになったので冒険します〜駆け出し探索者の成長物語〜
平山和人
ファンタジー
スマートフォンやSNSが当たり前の現代社会に、ある日突然「ダンジョン」と呼ばれる異空間が出現してから30年が経過していた。
26歳のコンビニアルバイト、新城直人はある朝、目の前に「ステータス画面」が浮かび上がる。直人は、ダンジョンを攻略できる特殊能力者「探索者(シーカー)」に覚醒したのだ。
最寄り駅前に出現している小規模ダンジョンまで、愛用の自転車で向かう大地。初心者向けとは言え、実際の戦闘は命懸け。スマホアプリで探索者仲間とダンジョン情報を共有しながら、慎重に探索を進めていく。
レベルアップを重ね、新しいスキルを習得し、倒したモンスターから得た魔石を換金することで、少しずつではあるが確実に成長していく。やがて大地は、探索者として独り立ちしていくための第一歩を踏み出すのだった。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる