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第二三六話 シャルロッタ 一六歳 内戦 〇六
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——第一王子派と第二王子派の戦闘が開始されてから一時間ほどが経過していた。
イングウェイ王国第一王子派諸侯軍の攻撃は、スティールハート侯爵軍先鋒部隊の正面突撃から開始された。
彼らは軽装歩兵を中心とした編成となっており、取り回しの良い小剣と丸盾に革鎧を着用したものが多い。
彼らの中に混じる弓兵の数は少なく、配置もまばらだ……第二王子派の部隊では弓兵をまとまって運用しており、集中攻撃できるように編成されているが、スティールハート侯爵軍先鋒ではそういった区分けがなく弓が使えるものは短弓を携えているだけで、効果的な運用など考慮されていなかった。
そんな彼らの戦術は極めて単純なものであった……つまり、全力での突撃、それ以外に取れる戦術など存在していなかったのだ。
「……戦況はどうだ?」
「第二軍による正面攻撃が行われていますが、数回の突撃も効果がなく現在再編成が行われている模様です」
「……烏合の衆ですわねぇ……」
「そうですな……作戦なのだとは思いますが……」
ラリー・モーターヘッドと並んで戦況を観察するソフィーヤ・ハルフォードの目から見てもスティールハート侯爵軍が悪戯に損害を増やす突撃のみを行なっていることに少々困惑気味である。
この醜態には理由がある……元々スティールハート侯爵軍の大半の兵士は荒くれ者や犯罪者などを無理やりに構成した謂わば懲罰軍のような編成となっており、軽装歩兵の大半は使い捨てに近い運用がなされている。
その証に突撃に加わっていない本隊……数千人の装備が整った兵士たちは突撃には加わらず、歩兵の突撃を見つめているだけになっている。
ただこれには利点もあり、使い捨ての兵士たちの波状攻撃で敵軍を疲弊させたところへと本体による攻撃を加えることで安全に敵を倒す……そんな戦術が浸透しているのかもしれない。
それを見ていたラリーは今であれば本隊を迂回させるなどして側面攻撃ができるはずなのに……とディマリオ・スティールハートの無気力な攻撃指揮に歯痒い思いを感じていた。
「とはいえ数の差があるにもかかわらず、本隊は何をやっているんだ?」
「……動き出すみたいですわ」
ソフィーヤの言葉にラリーがスティールハート軍本体を見ると、長弓を携えた弓兵部隊に号令がかかり、彼らが一斉に合図とともに凄まじい数の矢を撃ち放った。
だが……本来援護射撃と思われたその攻撃は、敵陣地前面に展開していた味方の兵士へと突き立てられ、悲鳴と怒号そして驚きの声が戦場に響き渡る。
さらに二射目が放たれるとその恐怖から逃れるように軽装歩兵は死に物狂いの突撃をし、第二王子派の陣地に向かって猛然と突進を開始した。
体に矢が刺さり、血を流しながら必死に前に進む兵士たちを見て、スティールハート本隊付近に布陣している弓兵隊からはドッと笑い声が上がる。
「……あらひどい……」
「……だが戦況が動くやもしれませぬな」
怒号とともに第二王子派の陣地へと殺到したスティールハート軍だったが、予想していたのかそうではないのか強固な防御と的確な反撃によりその突撃を受け止めると、次第にスティールハート軍の勢いが弱まってくる。
第二王子派の軍勢は魔法使いも集団で運用をしているのか、陣地のあちこちからまとまった数の火球や稲妻、そして氷の槍がスティールハート軍へと突き刺さり、爆発を巻き起こしている。
ソフィーヤは軽くため息をつくと、ラリーの肩をそっと叩いた後その場を離れる……この戦い方では怪我人が多すぎる、スティールハートは聖女を有する第三軍へと重傷者を送り込んでくるに違いない。
「私は負傷者の手当ての準備を始めますわ」
「すまない、お願いする」
「……お任せを」
ソフィーヤがにっこりと笑顔を浮かべてその場を離れた後、ラリーは戦況を見つめながら頭を抱えたくなる衝動を必死に抑えていた。
確かにスティールハート軍は行軍中から素行も悪く、問題行動ばかりだったが……とはいえ数は数であり、第二王子派の兵力に限りがある以上、ある程度攻撃を仕掛けて削ってもらわなければいけない。
こちらには聖女がおり、負傷者の治療はある程度許容できる……だが、その数が多ければ聖女とて人間であり、疲弊してしまったらどうにもならないかもしれないのだ。
「おい、ディマリオに伝令を出せ! 負傷者を増やしすぎるな、以上だ」
「はっ!」
ラリーの言葉を受けた下士官が一度胸に手を当てるとすぐにその場を走って去っていく……モーターヘッド軍は騎兵と重装歩兵を中心とした構成だが、ここぞという場面でしか投入できない。
いや正確にはモーターヘッド公爵家当主より不必要な損害を出すな、という命令を受けている。
当たり前の話だがこの内戦が終わった後、第一王子派の中で主導権争いが始まることは明白でその際に自軍の兵力を好んで減らしたいなどと考える貴族は誰一人いなかったのだ。
元々数を減らしても良い使い捨ての兵士を抱えるスティールハート軍と違い、モーターヘッド軍は訓練された精鋭部隊である。
一兵すら惜しい……そう考えてしまってもおかしくはなかった。
「……我が軍の兵士に待機をさせよ、スティールハートがいつ崩れてもおかしくはない、戦線を支える準備をするのだ」
「「「おうっ!」」」
モーターヘッド軍下士官達が一斉に動き出す……だがラリー・モーターヘッドは戦場をじっと見つめながらも不安を隠しきれずに何度も口元を指で拭っていた。
神聖騎士団は目の前の光景を見てもじっと動こうとしない……元々数に限りがある彼らが投入されるのは最後の場面と決めていた。
聖女を抱えるハルフォード公爵家への借りを作るためだ……モーターヘッド家とハルフォード家はライバルではあるが、決して悪感情のようなものは抱えていない。
それ故この戦闘では最後に彼らへと花を持たせるつもりで考えていたのだが……それすらも危ういかもな、とラリーは何度か頭を振ると脇に置いていた兜へと手を伸ばすと側仕えの兵士へと号令をかけた。
「俺も出るぞ! 指揮権は副官に預ける……総崩れにならんように戦線を支えねばなるまいっ!」
「……ひどい状況ですわね」
わたくしは次々と救護施設内へと運び込まれる負傷者へと魔法による治療を施しているエミリオさんや、ミルアさん達を見つめがなら呟く。
移動式救護施設……まあいわゆる野戦病院ってやつなんだが、この世界ではこの野戦病院の概念は魔法を使った大掛かりな治療を行う神官と治療師がいる場所になる。
戦争や抗争の際に臨時で招集され、施設はその場に天幕を張って設営されるケースが多い……ちなみに他国では専用に部隊編成をしているケースなどもあるらしいが、イングウェイ王国ではそういったことは行われていない。
この際だから専門的な部隊を構成しても……という話もありそうなものだが、王国にいる神官は軍属となることに抵抗があるものが多いらしく、結果的に発足までは至らなかったようだ。
「ミルアさん、そちらお願いします!」
「お任せを……もう大丈夫ですよ、癒しの奇跡よ……!」
流石に冒険者としても腕の立つエミリオさんやミルアさん、それ以外にもなぜか冒険者が参加して治療を進めてくれている。
この戦いは辺境伯領の存亡の危機である……とばかりにそれまで知り合った仲間達が危険を承知で戦場に赴き、助力をしてくれているのはありがたい。
とはいえ先ほどからずっと戦況を見ているに、こちらにもあまり余裕は存在していない……敵軍の攻撃が単純な突撃から始まり、そして味方への誤射のようにすら見えたあの一斉射撃の後、半分死にかけた兵士による突撃が開始され、年若い兵士の中には恐慌状態を起こして下げざるを得なかったものすら存在していた。
そりゃそうだろう……頭から血を流して何叫んでるのかわからない敵兵士が武器を振り回しながら突進してきたらそりゃ怖いわ。
「その人、重傷です……はい、これで問題ないですが意識が戻るまでそっとしておいてください」
「ありがとうございます!」
視界に入った兵士の容体がかなり悪かったため、横槍を入れる形で修復を行なうと治療に当たっていた治療院の女性がわたくしに感謝を述べるが……わたくしはにっこりと微笑むと次の重傷者を探して第二の戦場とも言える野戦病院の中をフラフラと歩き回る。
怪我をした兵士の中にはわたくしの姿を見て、頬を赤らめながら胸に手を当てて忠誠を示すポーズを見せてくれるものもいるが、そんな彼らに優しく微笑んで手を振り返してあげると、大喜びしながら歓声を上げる。
こちらの士気は高い……とはいえ目に見えてスティールハート軍の無謀な突撃により負傷者が増加してきている……動けるようになった兵士はすぐに配置へと戻っていっているようだが、絶対的な数の不足は否めない。
「……ユル、いるでしょ」
「……お呼びで?」
野戦病院を出ながら歩き続けるわたくしの背後の陰からずるり、とその巨体を表した幻獣ガルムのユル……漆黒の黒い毛皮は艶かしい輝きを放っており、さらには戦場の熱気や殺気に絆されているのか彼の尻尾の先に灯る炎は、軽く弾けるような光を放っている。
元々戦争にはあまり加担するつもりはなかった……わたくしが出て行ったら確実に訓戒者による介入を招くからだ。
そうなった時にこの数の味方を保護しながら戦えるほどわたくしは器用ではないし、またその保証ができないと考えていたからなのだけど。
「……クリスを守るためよ、戦場に介入しなさい」
「よろしいので? 介入を避けていましたよね?」
ユルは口元を少し歪めながらわたくしへと問いかける……ああ、確かに昨晩わたくしは彼に向かってそう言った。
訓戒者による介入を避けるためわたくしとユルは積極的に戦場には介入しない、介入することでより強力な存在を招き入れることを避けたい。
だけど……今クリスは前線で兵士とともに剣を振るっている……お兄様達も、見知った貴族達、騎士達……リディルやシドニーですら前線で必死に戦っているのだ。
彼らにもしものことがあったら……と考えてしまうのはわたくしが人である証拠なのだろう、そのままユルを睨みつけるように視線を向けるとわたくしは彼に向かって言い放った。
「……行け、そして戦いなさい、これは契約者たるわたくしシャルロッタ・インテリペリの命令である!」
イングウェイ王国第一王子派諸侯軍の攻撃は、スティールハート侯爵軍先鋒部隊の正面突撃から開始された。
彼らは軽装歩兵を中心とした編成となっており、取り回しの良い小剣と丸盾に革鎧を着用したものが多い。
彼らの中に混じる弓兵の数は少なく、配置もまばらだ……第二王子派の部隊では弓兵をまとまって運用しており、集中攻撃できるように編成されているが、スティールハート侯爵軍先鋒ではそういった区分けがなく弓が使えるものは短弓を携えているだけで、効果的な運用など考慮されていなかった。
そんな彼らの戦術は極めて単純なものであった……つまり、全力での突撃、それ以外に取れる戦術など存在していなかったのだ。
「……戦況はどうだ?」
「第二軍による正面攻撃が行われていますが、数回の突撃も効果がなく現在再編成が行われている模様です」
「……烏合の衆ですわねぇ……」
「そうですな……作戦なのだとは思いますが……」
ラリー・モーターヘッドと並んで戦況を観察するソフィーヤ・ハルフォードの目から見てもスティールハート侯爵軍が悪戯に損害を増やす突撃のみを行なっていることに少々困惑気味である。
この醜態には理由がある……元々スティールハート侯爵軍の大半の兵士は荒くれ者や犯罪者などを無理やりに構成した謂わば懲罰軍のような編成となっており、軽装歩兵の大半は使い捨てに近い運用がなされている。
その証に突撃に加わっていない本隊……数千人の装備が整った兵士たちは突撃には加わらず、歩兵の突撃を見つめているだけになっている。
ただこれには利点もあり、使い捨ての兵士たちの波状攻撃で敵軍を疲弊させたところへと本体による攻撃を加えることで安全に敵を倒す……そんな戦術が浸透しているのかもしれない。
それを見ていたラリーは今であれば本隊を迂回させるなどして側面攻撃ができるはずなのに……とディマリオ・スティールハートの無気力な攻撃指揮に歯痒い思いを感じていた。
「とはいえ数の差があるにもかかわらず、本隊は何をやっているんだ?」
「……動き出すみたいですわ」
ソフィーヤの言葉にラリーがスティールハート軍本体を見ると、長弓を携えた弓兵部隊に号令がかかり、彼らが一斉に合図とともに凄まじい数の矢を撃ち放った。
だが……本来援護射撃と思われたその攻撃は、敵陣地前面に展開していた味方の兵士へと突き立てられ、悲鳴と怒号そして驚きの声が戦場に響き渡る。
さらに二射目が放たれるとその恐怖から逃れるように軽装歩兵は死に物狂いの突撃をし、第二王子派の陣地に向かって猛然と突進を開始した。
体に矢が刺さり、血を流しながら必死に前に進む兵士たちを見て、スティールハート本隊付近に布陣している弓兵隊からはドッと笑い声が上がる。
「……あらひどい……」
「……だが戦況が動くやもしれませぬな」
怒号とともに第二王子派の陣地へと殺到したスティールハート軍だったが、予想していたのかそうではないのか強固な防御と的確な反撃によりその突撃を受け止めると、次第にスティールハート軍の勢いが弱まってくる。
第二王子派の軍勢は魔法使いも集団で運用をしているのか、陣地のあちこちからまとまった数の火球や稲妻、そして氷の槍がスティールハート軍へと突き刺さり、爆発を巻き起こしている。
ソフィーヤは軽くため息をつくと、ラリーの肩をそっと叩いた後その場を離れる……この戦い方では怪我人が多すぎる、スティールハートは聖女を有する第三軍へと重傷者を送り込んでくるに違いない。
「私は負傷者の手当ての準備を始めますわ」
「すまない、お願いする」
「……お任せを」
ソフィーヤがにっこりと笑顔を浮かべてその場を離れた後、ラリーは戦況を見つめながら頭を抱えたくなる衝動を必死に抑えていた。
確かにスティールハート軍は行軍中から素行も悪く、問題行動ばかりだったが……とはいえ数は数であり、第二王子派の兵力に限りがある以上、ある程度攻撃を仕掛けて削ってもらわなければいけない。
こちらには聖女がおり、負傷者の治療はある程度許容できる……だが、その数が多ければ聖女とて人間であり、疲弊してしまったらどうにもならないかもしれないのだ。
「おい、ディマリオに伝令を出せ! 負傷者を増やしすぎるな、以上だ」
「はっ!」
ラリーの言葉を受けた下士官が一度胸に手を当てるとすぐにその場を走って去っていく……モーターヘッド軍は騎兵と重装歩兵を中心とした構成だが、ここぞという場面でしか投入できない。
いや正確にはモーターヘッド公爵家当主より不必要な損害を出すな、という命令を受けている。
当たり前の話だがこの内戦が終わった後、第一王子派の中で主導権争いが始まることは明白でその際に自軍の兵力を好んで減らしたいなどと考える貴族は誰一人いなかったのだ。
元々数を減らしても良い使い捨ての兵士を抱えるスティールハート軍と違い、モーターヘッド軍は訓練された精鋭部隊である。
一兵すら惜しい……そう考えてしまってもおかしくはなかった。
「……我が軍の兵士に待機をさせよ、スティールハートがいつ崩れてもおかしくはない、戦線を支える準備をするのだ」
「「「おうっ!」」」
モーターヘッド軍下士官達が一斉に動き出す……だがラリー・モーターヘッドは戦場をじっと見つめながらも不安を隠しきれずに何度も口元を指で拭っていた。
神聖騎士団は目の前の光景を見てもじっと動こうとしない……元々数に限りがある彼らが投入されるのは最後の場面と決めていた。
聖女を抱えるハルフォード公爵家への借りを作るためだ……モーターヘッド家とハルフォード家はライバルではあるが、決して悪感情のようなものは抱えていない。
それ故この戦闘では最後に彼らへと花を持たせるつもりで考えていたのだが……それすらも危ういかもな、とラリーは何度か頭を振ると脇に置いていた兜へと手を伸ばすと側仕えの兵士へと号令をかけた。
「俺も出るぞ! 指揮権は副官に預ける……総崩れにならんように戦線を支えねばなるまいっ!」
「……ひどい状況ですわね」
わたくしは次々と救護施設内へと運び込まれる負傷者へと魔法による治療を施しているエミリオさんや、ミルアさん達を見つめがなら呟く。
移動式救護施設……まあいわゆる野戦病院ってやつなんだが、この世界ではこの野戦病院の概念は魔法を使った大掛かりな治療を行う神官と治療師がいる場所になる。
戦争や抗争の際に臨時で招集され、施設はその場に天幕を張って設営されるケースが多い……ちなみに他国では専用に部隊編成をしているケースなどもあるらしいが、イングウェイ王国ではそういったことは行われていない。
この際だから専門的な部隊を構成しても……という話もありそうなものだが、王国にいる神官は軍属となることに抵抗があるものが多いらしく、結果的に発足までは至らなかったようだ。
「ミルアさん、そちらお願いします!」
「お任せを……もう大丈夫ですよ、癒しの奇跡よ……!」
流石に冒険者としても腕の立つエミリオさんやミルアさん、それ以外にもなぜか冒険者が参加して治療を進めてくれている。
この戦いは辺境伯領の存亡の危機である……とばかりにそれまで知り合った仲間達が危険を承知で戦場に赴き、助力をしてくれているのはありがたい。
とはいえ先ほどからずっと戦況を見ているに、こちらにもあまり余裕は存在していない……敵軍の攻撃が単純な突撃から始まり、そして味方への誤射のようにすら見えたあの一斉射撃の後、半分死にかけた兵士による突撃が開始され、年若い兵士の中には恐慌状態を起こして下げざるを得なかったものすら存在していた。
そりゃそうだろう……頭から血を流して何叫んでるのかわからない敵兵士が武器を振り回しながら突進してきたらそりゃ怖いわ。
「その人、重傷です……はい、これで問題ないですが意識が戻るまでそっとしておいてください」
「ありがとうございます!」
視界に入った兵士の容体がかなり悪かったため、横槍を入れる形で修復を行なうと治療に当たっていた治療院の女性がわたくしに感謝を述べるが……わたくしはにっこりと微笑むと次の重傷者を探して第二の戦場とも言える野戦病院の中をフラフラと歩き回る。
怪我をした兵士の中にはわたくしの姿を見て、頬を赤らめながら胸に手を当てて忠誠を示すポーズを見せてくれるものもいるが、そんな彼らに優しく微笑んで手を振り返してあげると、大喜びしながら歓声を上げる。
こちらの士気は高い……とはいえ目に見えてスティールハート軍の無謀な突撃により負傷者が増加してきている……動けるようになった兵士はすぐに配置へと戻っていっているようだが、絶対的な数の不足は否めない。
「……ユル、いるでしょ」
「……お呼びで?」
野戦病院を出ながら歩き続けるわたくしの背後の陰からずるり、とその巨体を表した幻獣ガルムのユル……漆黒の黒い毛皮は艶かしい輝きを放っており、さらには戦場の熱気や殺気に絆されているのか彼の尻尾の先に灯る炎は、軽く弾けるような光を放っている。
元々戦争にはあまり加担するつもりはなかった……わたくしが出て行ったら確実に訓戒者による介入を招くからだ。
そうなった時にこの数の味方を保護しながら戦えるほどわたくしは器用ではないし、またその保証ができないと考えていたからなのだけど。
「……クリスを守るためよ、戦場に介入しなさい」
「よろしいので? 介入を避けていましたよね?」
ユルは口元を少し歪めながらわたくしへと問いかける……ああ、確かに昨晩わたくしは彼に向かってそう言った。
訓戒者による介入を避けるためわたくしとユルは積極的に戦場には介入しない、介入することでより強力な存在を招き入れることを避けたい。
だけど……今クリスは前線で兵士とともに剣を振るっている……お兄様達も、見知った貴族達、騎士達……リディルやシドニーですら前線で必死に戦っているのだ。
彼らにもしものことがあったら……と考えてしまうのはわたくしが人である証拠なのだろう、そのままユルを睨みつけるように視線を向けるとわたくしは彼に向かって言い放った。
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