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第二二九話 シャルロッタ 一六歳 煉獄 一九
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「全く……悪魔を即席で改造するなんて酷いわねえ……訴えられちゃうわよ?」
「噂の辺境の翡翠姫はお優しいことだな、クハハハッ!」
わたくし達の目の前で疫病の悪魔の体が醜く膨れ上がっていく……まるで風船だな、ったく。
この変化は以前レーヴェンティオラでも見た事がある、本来は混沌の種子と呼ばれる特殊な植物の種子を使って強制的に進化させるものなんだけど、さすがだな。
悪魔だけじゃないんだけど生物は魔術的な改造を施す事でより強力な存在へと強制的に進化することもできる、まあこれが可能なのは悪魔だと第三階位までなんだけど。
それ以上の悪魔を改造するのはあまり意味がない、というかレアリティ的にも勿体無いってのが通例だったと思うし、そもそも第二階位以上の悪魔の戦闘能力は常軌を逸するものだ。
以前闘争の悪魔に進化したのがいるけど、あれだって普通の人間から比べれば隔絶した戦闘能力を持つことになるし、わたくしが信頼する「赤竜の息吹」の面々でも圧倒されてたからな。
そんなことを考えていると、ぶくぶくと膨れ上がっていくブラドクススの残骸を見ながら使役する者は歪んだ笑みを浮かべて咲う。
「この疫病の悪魔は第四階位、改造を施すことでより強力な存在へと進化できる……吸収しても良いがな」
「はっ……で、そのエセ進化でわたくしに勝てるとでも?」
「思わんなあ? だが時間を稼ぐ手助けにはなるな」
使役する者はどんどん膨れ上がっていく残骸の影に隠れるように姿を消していく……膨れ上がる肉塊と、それ以上に強大になっていく魔力にわたくし以外の全員が縮み上がっている気がする。
大した事ないんだけどなー、この程度なら……マルヴァースへと戻ってきたわたくしの中に秘められた魔力は異常なレベルに達しており、勇者ライン時代の時よりも密度が上がっている気がする。
目の前の訓戒者は確かに過去戦った連中よりも一癖ありそうな気がするけど、今のわたくしなら倒せるレベルだと判断している。
「……わたくしに敵わないからゴミを再利用した挙句、寄越して逃げ出すの? 随分と弱虫じゃない」
「言っていろ、その時が訪れればちゃんと貴様と戦ってやる」
使役する者は歪んだ笑顔で笑うと、どんどん膨れ上がる悪魔の向こうへと姿を消していく……追いかけるのは難しいか。
混沌の生物や眷属が相手から逃げ出すことについては折り紙つきだし、追跡を簡単に振り切るという意味では眷属全体で年季も入ってるしな。
昔の記憶だけど、混沌の眷属が潜む谷を攻略した際に、しらみつぶしに眷属を狩っていったはずなのに半月もすると元の数に戻っていた、といったことがあって最初は別の場所から来たのかと考えていたけど実際にはどういうわけだか逃げ出した個体が繁殖して戻っていたなんてこともあったな。
膨れ上がる球体と化した悪魔はその姿を大きく変化させ、眼から真っ赤な血液を流しながらのたうち回る怪物へと変化していく。
この形態には覚えがある……堕落の落胤と呼ばれる混沌の落し子、破壊衝動に身を委ねるだけの知恵なき怪物である。
「哀れね……」
「キョアアアアアアアッ」
この状態となった生物には知能というものが欠落するため、人間から堕落すると動くものを破壊し続けるだけの魔獣以下の存在でしかない。
だが……悪魔から変化した場合の実例はなかったな……とわたくしが目の前の巨大な球体を見ていると、体の大きさからすると小さすぎる顔にあたる部分に見えるブラドクススの目がわたくしをジロリと睨みつけた。
ふむ、どーやら敵意はちゃんと保っているのか、わたくしはその視線を真っ向から受け止める……こーいうの基本的に目を逸らせたら負けなんよね。
「あ? なにガン飛ばしてんだよてめー」
「グヒヒ……殺してやる、殺してやるぅ……」
「驚いた……言葉に反応して言葉を発してやがりますわね」
言葉遣いは知的ではないけど少なくともわたくしの言葉に反応してるってことは、第四階位の悪魔は一応変化に耐えられるってことか。
しかし、このまま堕落の落胤を放置することはできない。
このままにしておくとメネタトンを完膚なきまでに破壊し、さらには周辺地域を完全破壊するまで止まらず、生命活動を終えるまでひたすらに虐殺を破壊を繰り返す面倒な怪物になるからだ。
インテリペリ辺境伯家の者として寄子貴族の街が破壊されてしまうことを見過ごすわけにはいかないし、そもそもソイルワーク男爵には内戦で我が家の味方をしてくれなきゃ困る。
男爵が保有している戦力は大したことはないけど、辺境伯家の寄子貴族が一致団結しているという姿勢はきちんと見せるべきだ。
恩を売ってちゃんと見返りをもらう……まあ、わたくしもかくまってもらったけどそこはノーカンで。
「んでは……お仕置きの時間よ? 」
「おおおお仕置きききききだとととととと……? ここここちららららららの台イイイイイ詞ッ!」
ブラドクススは醜く膨れ上がった肉体を揺らしながらどす黒く邪悪な魔力を集中させると、その両手に漆黒の光を纏わせていく。
黒い光は球体と化すと、膨れ上がっていき複数の矢のように大空へと舞い上がり、一見無防備な姿を晒しているわたくしへと迫る……だが、その魔力の密度はそれほど高くない。
元が第四階位だとはいえ、普通の人間であれば接触した瞬間に肉体が粉砕されるような威力の攻撃にわたくしの防御結界は一切びくともしない。
轟音を上げながら衝突する黒い魔力に動じることはなく、わたくしは一歩、また一歩と怪物との距離を詰めていく。
「な、なんんんんで死ななななななないいいいいいいいい……!」
「威力が弱すぎるの、これじゃわたくしの命には届かない……」
「そんなななななななわわわわけががががががが……にんげええええええんんんんにはたえられなななななななないいいい攻撃いいいいいいいィ!!!」
わたくしは飛来する黒い魔力を片手で跳ね除けながらゆっくりと歩いて怪物との距離を詰めていく。
防御結界もこれまで以上に密度が上がっている……どうやら煉獄を脱出した魂はなんらかの影響を受けてそれまで以上の魔力を出力できるのか、そんな感じになるらしい。
——我が白刃、切り裂けぬものなし
わたくしは虚空より魔剣不滅を引き抜くと片手で構えを取り、その美しい刀身へと魔力を込めて剣戦闘術を発動させる。
込められた魔力は炎と化し、白銀の炎と化して刀身を覆い尽くすと渦を巻く巨大な炎となって周囲を明るく照らしていく。
その聖なる炎は混沌の眷属に凄まじい効果をもたらし、空間を焼き尽くす必殺の剣技である。
「剣戦闘術第二の秘剣……聖炎乃太刀ッ!」
「グヒイイイイッ!」
振り下ろした剣から白銀の炎が周囲へと猛烈な勢いで広がっていく。
その炎は以前同じ第四階位の悪魔であったサルヨバドスを焼き尽くした時よりも輝きを増し、業火となって周囲を覆いつくした。
堕落の落胤の全身が白銀の炎に包まれると悲鳴とともに、数秒でその形を維持できなくなり崩れ落ちていきあっという間に絶命していく。
ついでにわたくしの後ろのほうにいたユルとともに戦っていたどこかで見たことのある戦士風の男性と司祭の恰好をした女性も炎に包まれた。
まあ、この剣戦闘術は威力も高いけど効果範囲広いしなあ……。
「うわあああああっ!」
「きゃああああっ!」
「シャ、シャル!? 二人が炎に!」
「……何言ってんの、この剣戦闘術は普通の人間には効果ないわよ」
「「……へ?」」
キョトンとした表情で自らを包む白銀の炎を見て、二人は顔を見合わせる。
多分本当に熱くなかったから驚いたんだろうな……この剣戦闘術は邪悪な存在にしか効果がなく、こうやって炎に包まれても肉体は損傷しないし、むしろきらきら光っていてきれいなはずだ。
司祭風の女性は手を覆いつくす炎に神聖な魔力が込められていることに気が付いたのか、まるで尊いものでも見るかのような目でそれをじっと見ている。
戦士風の男性は熱くないことを理解すると、まるで信じられないものを見るかのような表情を浮かべているが……そのうち司祭風の女性がふらふらとわたくしのそばへと歩み寄ってきた。
「あなた様は……シャルロッタ様はまさか女神さまの使徒でございますか……?」
「イイエ、マルデカンケイナイモノデス」
しまった、あのクソ女神のことを考えたら思わず棒読み風になってしまった……いやでも実際わたくしと女神さまはあまり仲がいいわけでもないしな。
だがそんな想いなどは関係ないとばかりに女性は恭しくわたくしの手を取ると、手の甲にそっと口づけしてきた。
うわ! よく見たらこの人すっげースタイルいいじゃん……でもこの曲線どこかで見た気がするけど、どこだったっけな。
わたくしがその女性のラインに目を奪われる中、彼女はまるで神を見たかのような恍惚とした表情で、涙をこぼしながらわたくしへと話しかけてきた。
「使徒様……私たちを守るために遣わされたのですね……神の奇跡に感謝を、そしてシャルロッタ様に拝謁できたことを心より感謝いたします」
「噂の辺境の翡翠姫はお優しいことだな、クハハハッ!」
わたくし達の目の前で疫病の悪魔の体が醜く膨れ上がっていく……まるで風船だな、ったく。
この変化は以前レーヴェンティオラでも見た事がある、本来は混沌の種子と呼ばれる特殊な植物の種子を使って強制的に進化させるものなんだけど、さすがだな。
悪魔だけじゃないんだけど生物は魔術的な改造を施す事でより強力な存在へと強制的に進化することもできる、まあこれが可能なのは悪魔だと第三階位までなんだけど。
それ以上の悪魔を改造するのはあまり意味がない、というかレアリティ的にも勿体無いってのが通例だったと思うし、そもそも第二階位以上の悪魔の戦闘能力は常軌を逸するものだ。
以前闘争の悪魔に進化したのがいるけど、あれだって普通の人間から比べれば隔絶した戦闘能力を持つことになるし、わたくしが信頼する「赤竜の息吹」の面々でも圧倒されてたからな。
そんなことを考えていると、ぶくぶくと膨れ上がっていくブラドクススの残骸を見ながら使役する者は歪んだ笑みを浮かべて咲う。
「この疫病の悪魔は第四階位、改造を施すことでより強力な存在へと進化できる……吸収しても良いがな」
「はっ……で、そのエセ進化でわたくしに勝てるとでも?」
「思わんなあ? だが時間を稼ぐ手助けにはなるな」
使役する者はどんどん膨れ上がっていく残骸の影に隠れるように姿を消していく……膨れ上がる肉塊と、それ以上に強大になっていく魔力にわたくし以外の全員が縮み上がっている気がする。
大した事ないんだけどなー、この程度なら……マルヴァースへと戻ってきたわたくしの中に秘められた魔力は異常なレベルに達しており、勇者ライン時代の時よりも密度が上がっている気がする。
目の前の訓戒者は確かに過去戦った連中よりも一癖ありそうな気がするけど、今のわたくしなら倒せるレベルだと判断している。
「……わたくしに敵わないからゴミを再利用した挙句、寄越して逃げ出すの? 随分と弱虫じゃない」
「言っていろ、その時が訪れればちゃんと貴様と戦ってやる」
使役する者は歪んだ笑顔で笑うと、どんどん膨れ上がる悪魔の向こうへと姿を消していく……追いかけるのは難しいか。
混沌の生物や眷属が相手から逃げ出すことについては折り紙つきだし、追跡を簡単に振り切るという意味では眷属全体で年季も入ってるしな。
昔の記憶だけど、混沌の眷属が潜む谷を攻略した際に、しらみつぶしに眷属を狩っていったはずなのに半月もすると元の数に戻っていた、といったことがあって最初は別の場所から来たのかと考えていたけど実際にはどういうわけだか逃げ出した個体が繁殖して戻っていたなんてこともあったな。
膨れ上がる球体と化した悪魔はその姿を大きく変化させ、眼から真っ赤な血液を流しながらのたうち回る怪物へと変化していく。
この形態には覚えがある……堕落の落胤と呼ばれる混沌の落し子、破壊衝動に身を委ねるだけの知恵なき怪物である。
「哀れね……」
「キョアアアアアアアッ」
この状態となった生物には知能というものが欠落するため、人間から堕落すると動くものを破壊し続けるだけの魔獣以下の存在でしかない。
だが……悪魔から変化した場合の実例はなかったな……とわたくしが目の前の巨大な球体を見ていると、体の大きさからすると小さすぎる顔にあたる部分に見えるブラドクススの目がわたくしをジロリと睨みつけた。
ふむ、どーやら敵意はちゃんと保っているのか、わたくしはその視線を真っ向から受け止める……こーいうの基本的に目を逸らせたら負けなんよね。
「あ? なにガン飛ばしてんだよてめー」
「グヒヒ……殺してやる、殺してやるぅ……」
「驚いた……言葉に反応して言葉を発してやがりますわね」
言葉遣いは知的ではないけど少なくともわたくしの言葉に反応してるってことは、第四階位の悪魔は一応変化に耐えられるってことか。
しかし、このまま堕落の落胤を放置することはできない。
このままにしておくとメネタトンを完膚なきまでに破壊し、さらには周辺地域を完全破壊するまで止まらず、生命活動を終えるまでひたすらに虐殺を破壊を繰り返す面倒な怪物になるからだ。
インテリペリ辺境伯家の者として寄子貴族の街が破壊されてしまうことを見過ごすわけにはいかないし、そもそもソイルワーク男爵には内戦で我が家の味方をしてくれなきゃ困る。
男爵が保有している戦力は大したことはないけど、辺境伯家の寄子貴族が一致団結しているという姿勢はきちんと見せるべきだ。
恩を売ってちゃんと見返りをもらう……まあ、わたくしもかくまってもらったけどそこはノーカンで。
「んでは……お仕置きの時間よ? 」
「おおおお仕置きききききだとととととと……? ここここちららららららの台イイイイイ詞ッ!」
ブラドクススは醜く膨れ上がった肉体を揺らしながらどす黒く邪悪な魔力を集中させると、その両手に漆黒の光を纏わせていく。
黒い光は球体と化すと、膨れ上がっていき複数の矢のように大空へと舞い上がり、一見無防備な姿を晒しているわたくしへと迫る……だが、その魔力の密度はそれほど高くない。
元が第四階位だとはいえ、普通の人間であれば接触した瞬間に肉体が粉砕されるような威力の攻撃にわたくしの防御結界は一切びくともしない。
轟音を上げながら衝突する黒い魔力に動じることはなく、わたくしは一歩、また一歩と怪物との距離を詰めていく。
「な、なんんんんで死ななななななないいいいいいいいい……!」
「威力が弱すぎるの、これじゃわたくしの命には届かない……」
「そんなななななななわわわわけががががががが……にんげええええええんんんんにはたえられなななななななないいいい攻撃いいいいいいいィ!!!」
わたくしは飛来する黒い魔力を片手で跳ね除けながらゆっくりと歩いて怪物との距離を詰めていく。
防御結界もこれまで以上に密度が上がっている……どうやら煉獄を脱出した魂はなんらかの影響を受けてそれまで以上の魔力を出力できるのか、そんな感じになるらしい。
——我が白刃、切り裂けぬものなし
わたくしは虚空より魔剣不滅を引き抜くと片手で構えを取り、その美しい刀身へと魔力を込めて剣戦闘術を発動させる。
込められた魔力は炎と化し、白銀の炎と化して刀身を覆い尽くすと渦を巻く巨大な炎となって周囲を明るく照らしていく。
その聖なる炎は混沌の眷属に凄まじい効果をもたらし、空間を焼き尽くす必殺の剣技である。
「剣戦闘術第二の秘剣……聖炎乃太刀ッ!」
「グヒイイイイッ!」
振り下ろした剣から白銀の炎が周囲へと猛烈な勢いで広がっていく。
その炎は以前同じ第四階位の悪魔であったサルヨバドスを焼き尽くした時よりも輝きを増し、業火となって周囲を覆いつくした。
堕落の落胤の全身が白銀の炎に包まれると悲鳴とともに、数秒でその形を維持できなくなり崩れ落ちていきあっという間に絶命していく。
ついでにわたくしの後ろのほうにいたユルとともに戦っていたどこかで見たことのある戦士風の男性と司祭の恰好をした女性も炎に包まれた。
まあ、この剣戦闘術は威力も高いけど効果範囲広いしなあ……。
「うわあああああっ!」
「きゃああああっ!」
「シャ、シャル!? 二人が炎に!」
「……何言ってんの、この剣戦闘術は普通の人間には効果ないわよ」
「「……へ?」」
キョトンとした表情で自らを包む白銀の炎を見て、二人は顔を見合わせる。
多分本当に熱くなかったから驚いたんだろうな……この剣戦闘術は邪悪な存在にしか効果がなく、こうやって炎に包まれても肉体は損傷しないし、むしろきらきら光っていてきれいなはずだ。
司祭風の女性は手を覆いつくす炎に神聖な魔力が込められていることに気が付いたのか、まるで尊いものでも見るかのような目でそれをじっと見ている。
戦士風の男性は熱くないことを理解すると、まるで信じられないものを見るかのような表情を浮かべているが……そのうち司祭風の女性がふらふらとわたくしのそばへと歩み寄ってきた。
「あなた様は……シャルロッタ様はまさか女神さまの使徒でございますか……?」
「イイエ、マルデカンケイナイモノデス」
しまった、あのクソ女神のことを考えたら思わず棒読み風になってしまった……いやでも実際わたくしと女神さまはあまり仲がいいわけでもないしな。
だがそんな想いなどは関係ないとばかりに女性は恭しくわたくしの手を取ると、手の甲にそっと口づけしてきた。
うわ! よく見たらこの人すっげースタイルいいじゃん……でもこの曲線どこかで見た気がするけど、どこだったっけな。
わたくしがその女性のラインに目を奪われる中、彼女はまるで神を見たかのような恍惚とした表情で、涙をこぼしながらわたくしへと話しかけてきた。
「使徒様……私たちを守るために遣わされたのですね……神の奇跡に感謝を、そしてシャルロッタ様に拝謁できたことを心より感謝いたします」
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