わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚

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第二一九話 シャルロッタ 一六歳 煉獄 〇九

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「ギョエアアアアアッ!」

「男爵! コカトリスは凶暴で石化能力があるが、それ以外はさほど強力じゃない、とにかく攻撃に当たらないように動き続けるんだ」
 リオンはコカトリスの攻撃を避けながらビョーン・ソイルワーク男爵へと声をかける……元冒険者であるリオンの経験値は高く、これまでも守備隊の一部が助言を受けながら護衛任務などに従事したことがあると聞いている。
 コカトリスはその強靭な鋭い爪を持つ脚を振り上げ、リオンを踏み潰そうとするがその攻撃を軽く躱した彼は、手に持った偃月刀シャムシールを使って怪物の胴体を切り付ける。
 鋭い斬撃によりコカトリスの肉体が切り裂かれるが、少し踏み込みが甘いのかそれほど大きな裂傷となっていない……だが、その攻撃で怒り狂ったコカトリスは大きく翼を広げると、ターゲットを変えて男爵に向かって鋭い嘴を突いてくる。
「この攻撃は危ない!」

「わかっている!」
 鋭い嘴の一撃だったが、男爵はその攻撃をギリギリで避けると彼もまた剣を振るって怪物の体へと切り付ける……だが、思っていたよりもコカトリスの表皮が固く刃先が滑っていく。
 先ほどリオンは易々とこの外皮を切り裂いてのけたのか……と感嘆しつつも反撃を防ぐために大きく飛び退くと、それまで男爵のいた場所を蛇のような形をした尻尾がズシン! という重い音と共に叩きつけられた。
 破壊力は凄まじい、今の一撃で地面が陥没してしまっている……人間が食らえば一撃で即死することすらあるだろう、だが当たらなければどうということはない。
「おおおっ!」

「ギョアアアアアッ!」
 攻撃を避けられたコカトリスは怒りのままに何度も嘴による突きを繰り出すが、その攻撃は直線的で出所がわかりやすいものだ。
 凶暴さという点ではかなり危険な魔獣ではあるが、知能としてはそれほど高くなくその異様な声や畳み掛けてくるような攻撃、そして石化ブレスに注意して立ち回れば倒しやすい。
 冒険者組合アドベンチャーギルドが発行している図鑑にもそう書かれている通りの動きだな、と男爵は以前読んだことのある書物の内容が正しいことに感心しつつも、剣を振るっていく。
 剣が当たるたびにかなりの硬さを持つ外皮が次第に傷つき、血を流し始めると同時にコカトリスの動きが鈍くなっていく。
「行けるぞ!」

「今だ畳みかけろ!」
 コカトリスへと二人の戦士が切り掛かる……だがコカトリスも満身創痍ながら叫び声をあげながら反撃を試みる。
 石化ブレスを再びリオンへ向かって吐き出すとそれまで以上の勢いで、彼に向かって地面を石化させていく……パキパキという音を立てながら変色し、朽ち果てていくのを見て慌てて大きくリオンが飛び退く……あれに当たったらひとたまりもないだろう。
 ブレスを吐き終わったコカトリスには隙が生まれる……その隙を逃さず男爵は剣を怪物の肉体へと突き立てた。
「くたばれえっ!」

「ギャアアアッ!」
 男爵の剣はその硬い表皮を貫き肉体へとめり込んでいく……コカトリスの青色にも見える血液が吹き出すが、あまりの激臭に彼は大きく咳き込んだ。
 コカトリスが痛みで大きく暴れたたことで、男爵は剣を手放してしまいそのまま大きく空中に投げ出された……視界の外に怪物が怒りに満ちた目で彼をじっと睨みつけているのが見える。
 まるで永遠かと思えるくらいにゆっくりとした時間の流れの中、コカトリスは再び石化ブレスを吐き出すために大きく息を吸い込む。
 だが……その思い切り胸を張ったその瞬間にリオンの一撃が叩き込まれると、その一撃でコカトリスはビクビクッと体を震わせてゆっくりと地面へと倒れ伏す。
「……素晴らしい太刀筋だったな、さすが元冒険者」

「いや、もう引退してから長いですからね……さすがに厳しいですよ」

「そうか? 今でも現役で通用しそうなものだが」

「自分が見た理想の剣には程遠いですね」

「そうか……」
 男爵はリオンの言葉に頷くものの、彼の実力は相当に高く最終的な等級が銀級冒険者であったことが信じられないくらいである。
 銀級冒険者は非常に数が多くその実力も非常に幅が広いと言われているが……リオンの剣技は十分の銀級上位に匹敵するものと感じられた。
 ホッとする間もなく、怒りに満ちた咆哮と共にオーガがその太い腕に無骨な棍棒を振り翳しつつこちらへと迫ってくるのが見える。
 男爵とリオンは顔を見合わせて黙って頷くと、迫ってくるオーガへと切り掛かっていく……今はこの凄まじい波状攻撃をどうにかして乗り切る。
「いくぞっ! この街を守り切るんだ!」



「……ねー、まーだー? 全然変わり映えしない風景で飽きてきましたわよ」

「ちっ……飽きっぽい女だな……全く、我慢ということを知らんのか?」
 前を歩くシェルヴェンに向かって問いかけるも、彼は舌打ちと共に憎々しげな視線を向けてくるが……しょうがないじゃん。
 人間であるわたくしからすると、この異様な世界をずっと見せられているのはしんどいし、正直という違和感が拭いきれないのだ。
 なんというか出来の悪い絵画の中を歩かされているような、そんな気持ち悪さがずっと付き纏っている……その気持ち悪さはわたくしの感覚をずっとおかしくしている気がする。
「そういやアンタいつからここいるのよ?」

「……ずっとだ」

「へー……その門番ウォッチャーってやつは永遠にここを守るもんなの?」

「外に出る、という感覚がわからん。お前は自分の世界の外を想像できるか?」
 シェルヴェンの答えにわたくしはグッと言葉に詰まる……そりゃそうだ、私だって自分がいるマルヴァースや以前いたレーヴェンティオラ以外の世界なんか想像がつかなかった。
 二つの世界は風俗や様式がかなり似通っていたからあんまり違和感を持たなかったけど、日本からレーヴェンティオラへ転生した時はかなり違和感を感じたものだ。
 それと似てるというか同じってことか、まあなんとなくだけど理由というか感覚は理解できる。
「ま、そういうもんかもね……」

「そもそもお前のような人間がこの煉獄プルガトリウムへ堕ちてくるのは珍しい、虫を殺そうが動物を殺そうが、同族殺しをしたところでここへは来ないはずだからな」

「どういうやつが堕ちてくるのよ」

「数億の同族を皆殺しにしたり、お前のように神を殺したもの、定められた摂理を破る行為などが該当する」
 うーん、まあ神殺しってのはそのくらいの罪になるのか……とはいえ、あのまま放置していればかなりの数の犠牲が出たはずだし、そこまで悪いことをしたとは思えない。
 そもそも暴風の邪神ウェンディゴは邪神なんだから、倒したっていいじゃねえか! という個人的にはものすごい不満があるわけだけど。
 そんなことを考えながら歩いていると、いきなりシェルヴェンが立ち止まったことでわたくしは思い切り彼の体にぶつかってしまう。
「わぷ……! な、何……?」

「ついたぞもう一人の門番ウォッチャーの元へ」
 シェルヴェンが微妙に緊張気味の顔で話すのを見て、私は眉を顰めるが……彼の前には大きな広場が広がっており、そこは人だけではないが様々な動物の頭蓋骨が小さな塔のように積み重ねられた悪趣味な光景が見える。
 異様な匂いが立ち込め、まるで命がないその頭蓋骨が歌うように呻き声を上げている……そのリズムや音程は讃美歌のようにすら聞こえてくるのだ。
 趣味が悪いな……あの頭蓋骨には命などなく、ただ単に演出されているかのように動いているだけにも見える。
「……珍しいこともあるものだ」

 地獄の底から響くような声があたりに響き渡る……その声は人間であるわたくしの奥底から恐怖心を湧き立たせるような、本能的な恐怖を感じさせるものだ。
 つまり……ここにいる門番ウォッチャーとやらは確実に強者であるということだろう……その証拠にわたくしの背中の毛が逆立ったまま治る気配を見せない。
 だが人間としての本能はどうあれわたくし自身の闘争本能には火がついている……身体は硬く、そして細かく震えているにもかかわらず芯の部分が熱を帯びている気もするのだ。
「おい……なぜ笑う」

「は……? ああ……気にしないで」
 口元をそっと撫でると確かにわたくしは今笑っている気がする……指で軽く抑えてその笑みがわからないように覆い隠す。
 シェルヴェンは不審げな顔をしてわたくしを見ていたが、それ以上はツッコミを入れずにすぐに広場の中心へと視線を戻す……ずしん、という重量のあるものが動いた音がするとともにその怪物が姿を現した。
 なんという醜悪さか……死んでから何ヶ月も放置されたように萎れた肌、象のような鼻を持ったその頭は山羊か何かのような顔にすら見える不気味さがある。
 身体は大きく四メートルを超えているだろうか? 人間のように二足歩行ができるような体型をしているが、滑り気のある軟体動物のような胴体から伸びる脚は甲虫のようにすら見える独特の形状を持っている。
 さらにその胴体からは複数の器官が伸びており、それは体を支えるために地面へと接触していて、この奇怪な怪物が直立しているのを支えている。
 さらにその腕は細く、だがまるで甲殻類のような鋏状の爪が手の代わりに生えていた。
「……人間の女? なんだこの煉獄プルガトリウムに似つかわしくない生き物は……」

「大罪を犯したそうだ、贖罪のために火口へ案内している」

「大罪……ふむ……シャルロッタ・インテリペリ……グハハッ! 神殺し!」
 怪物は鼻の下に見える牙だらけの口を大きく開いて笑い出す……異様な声だ、人間の魂を直接揺さぶり恐怖心を感じさせる。
 だが……わたくしはシェルヴェンの前へと歩み出ると胸を張って怪物へと指を突きつけると、その様子に笑うことをやめて興味深そうにその濁った白い瞳でわたくしを見つめる。
 悪臭がする気がする、まるで死体が腐って放置されたかのような耐え難い悪臭だ……ほんの少しだけ眉を顰めたわたくしだったが、そのまま一度息を大きく吐くと怪物に向かって話しかけた。

「……そうわたくしはシャルロッタ・インテリペリ、この煉獄プルガトリウムから出るために火口の位置を教えなさい、怪物!」
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