わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚

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第一七六話 シャルロッタ 一六歳 侵攻作戦 〇六

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「……それではインテリペリ辺境伯家と契約を結ぶと?」

「はい、本来の契約はここへとたどり着くことでしたが……」
 エルネット・ファイアーハウスと「赤竜の息吹」のメンバーはウォルフガング・インテリペリと相対してソファに座って今後の身の振り方を相談していた。
 その中で「赤竜の息吹」がインテリペリ辺境伯家との直接契約を結ぶことを自ら申し出たため、ウォルフガングはほんの少し意外なものを見ているような顔をしている。
 だが目の前に座っている彼らは決して冗談などを言っている顔ではない……本当にそうしたいと思っているのだと改めて認識させられる。
「たしかに我が家が王都で君たちに依頼をしたのは、シャルを無事にここまで送り届けてほしいという依頼だったが……」

「報酬はもう十二分に頂いております、ですがこれは旅の中で仲間とも相談して決めた事です」
 冒険者とは独立独歩、権力者とは相容れない存在……確かに一部の者は貴族と契約して独占的に領地内での活動を行うものもいるが、それでも大半の冒険者は権力との癒着にあまりいい顔をしない。
 彼らがこなす依頼の中には反体制的な内容が含まれることもあり、結果的に権力者との距離は離れるケースが多い。
 まあ、
 貴族から見れば大半の冒険者はチンピラとあまり変わらない者が多すぎるという事実もあるのだが……。
「シャルも君たちのことを気に入っているので、契約ができるのであればそのまま続けたいが……その冒険者組合アドベンチャーギルドは大丈夫なのか?」

「こちらを……」
 エルネットは懐から一通の書状を取り出す……ウォルフガングは丁寧に巻かれた書状に刻印されている紋章を見て、ああ……と納得した。
 セパルトゥラ公爵家の紋章が刻印された書状を開封し、中へとざっと目を通す……書状にはギルドマスター公認でインテリペリ辺境伯家と「赤竜の息吹」が独占的な契約を結ぶことを許可するといった内容が書かれている。
 内容に目を通したウォルフガングは思わず苦笑しつつも、書状をエルネットへと戻す。
「しっかりしているな……アイリーン殿は」

「まだ目を通していないのですが、何が書かれておりましたか?」

「君らと契約をするときに冒険者組合アドベンチャーギルドにも契約金の一部を支払うことと、活動期間に応じて組合へと金銭を支払うように、ということだ」
 アイリーン独断では冒険者組合の中立性を疑われる可能性があるため、金銭による貸与という形で中立性を保つことにしたのだろう。
 しかも支払いについては活動終了後、双方の議論をもって金額を決定するとなっているが、具体的な金銭の額については明記されていない。
 だが、現在は内戦勃発前夜……インテリペリ辺境伯家が内戦で敗北すれば、支払いなどの細かい条項は炎の中へと消え去るだろうし、勝てば大きな見返りがある……と組合内を説得したのかもな、とウォルフガングは軽くため息をつく。
「承知した、「赤竜の息吹」と我がインテリペリ辺境伯家は契約を結ぼう」

「……ありがとうございます!」

「エルネット卿だけでなく君たち全員に役職を付与することにする、これは名目上なので領地などは与えられんが、少なくとも待遇が変わるはずだ」
 エルネット達はお互い無言だが、笑顔で頷きあうと改めてウォルフガングへと頭を下げて一礼する。
 インテリペリ辺境伯家との契約期間が伸びていることは冒険者組合に所属する冒険者たちから「あいつら爵位でも貰うんじゃないか?」と揶揄されているらしいとはうわさで聞いている。
 だが、本来エルネットは騎士になりたかったという過去を持っていることもあって、一度は挫折した道へともう一度戻ってこれたという喜びを感じている。
「エルネット卿……臨時だが騎士として独立部隊を率いる気はあるか?」

「え? 自分がですか?」

「……過去の経歴を調べさせてもらった、君は我が領で騎士見習い候補になっていたことがあるそうだね、その後何らかの理由で辞退もしくは叙勲されなかったと」

「……はい、辞退はしておりませんが当時の監督官より不適格といわれまして……」
 その時の記憶は強く残っている……「君は騎士にはなれない」とだけ伝えられて、そのまま辺境伯家の訓練場から追い出されたという記憶がある。
 くやしさとみじめさ……記憶が強い感情を呼び起こす……思い出すだけで腕が震え、表情を曇らせたエルネットの腕へそっとリリーナが手を添える。
 エルネットはそれに気が付くと、大丈夫とばかりに優しく彼女へと微笑むとまっすぐにウォルフガングを見つめた。
 その目を見てウォルフガングは黙ってうなずくと、いきなり彼らに向かって頭を下げる。

「そうか、当時の監督官の不備をお詫びする……今更と言われればそうかもしれないが、君ほどの人材を簡単に放逐したことは我が家の恥でもある」
 ウォルフガングはインテリペリ辺境伯家の次期当主で、現在は当主代理でもある……辺境伯という爵位は、貴族の中でも侯爵と同等の権威を持つ爵位だ。
 その次期当主が素直に頭を下げたことで、エルネットは何をさせてしまっているか気が付いて慌てたように彼へと声をかけた。
「い、いえ! 当時は自分も若く、未熟でしたので……」

「未来の有能な人材をみすみす失うようなことだ、それは辺境伯家としても看過できない問題なのだ……しかも当時の監督官を調査したところ汚職の疑いが出てね」

「汚職ですか?」

「エルネット卿を失格にして、次点の候補者を昇格させているのだが……金銭の授受の疑いがあってね……情けない話だ」
 当時の監督官は、騎士見習い候補の親から金銭を受け取り合格させるためにランダムで選択した一定数の候補者を不合格扱いにしていたことが最近になってわかった。
 この時に被害を被ったのがエルネットを含めた数人の候補者だったのだが……すでにかなり昔のことになっているため、当時監督官を勤めていた男は取り調べの上罰金刑が下されている。
 不正に金銭を使って合格した者はその後の状況などを追加調査し、配置転換などの沙汰が下るそうだが……不合格となったものの足取りは追えず、結果的に保障は行き届くことはないのだという。
「冒険者として戻ってきたものは君だけだ……たらればになってしまうが、不合格になった者にも領内で活躍する人材がいたのかもしれん」

「……そうですか……」

「もはや過ぎてしまったことはどうしようもないが、せめてもの償いだと思ってもらっても構わない」
 ウォルフガングは改めて一度頭を下げると、ソファから立ち上がりエルネットへと歩み寄ると、彼の肩を軽く叩く。
 エルネットはすぐにソファから立ち上がると彼へと頭を下げた後、仲間と共に部屋を退室していった。
 ウォルフガングはその姿を見ながら笑顔を浮かべると、誰もいなくなった執務室で深くため息をつく。
「……我が領内の綱紀粛正も必要だな……まさかこんな長期間、人材の確保に影響する不正があったとは……父上も激怒するだろう」



「……お父様!」
 わたくしはお父様……クレメント・インテリペリ辺境伯が寝かされている寝台の傍で、クリスと共に彼の顔を覗き込んでいる。
 お父様が目を覚ましたのはつい先ほど……領内の治療院から毎日人が派遣されてきて、様子を確認したり治癒魔法などを試したりしていたが、なかなか効果が出ていなかった。
 だが、定期的な連絡のために蒼き森より一人のエルフが派遣されてきたことで流れが変わった……。
 寝台に眠るお父様を見ながら、満足そうに微笑んでいるのは蒼き森のエルフの一人であるパトリニアだ。
「いやぁ、自分に解析できる毒物でよかったですわ」

「ありがとうございます……わたくしお父様がこのまま亡くなってしまったらと……」

「いえいえ、ただ肉体の衰弱が激しいので当分は静養しないとだめですよ」
 パトリニアはエルフ達の中でも特に毒物に詳しい学者で、今回使用された毒物がダークエルフがよく使う神経毒であったことが幸いし、彼女が即興で解毒薬を作成しお父様へと投薬されたことで、ついに意識が戻ったのだ。
 お父様はわけがわからないと言いたげな表情……やつれてしまっていて、正直昔の面影は全然ないのだけど、それでも目に涙をいっぱいにためて自分を見ている娘の顔で、何が起きているのか理解したのだろう。
「……そうか、毒か……」

「ええ……貴方、長い間寝ておられましたわ」
 お母さま……ラーナ・ロブ・インテリペリ辺境伯夫人が部屋へと入ってきたことで、その場にいた家族以外の全員が直立不動の体勢をとる。
 エルフであるパトリニアは優雅に頭を下げるのみだが……お母さまは少し急ぎ気味にお父様のもとへと歩み寄ってから優しく微笑むと、そっと額を撫でる。
 お母さまの顔を見たお父様は、心配そうに自分を見つめる家族の顔を一度見まわしてから軽くせき込んでから話始める。
「……ああ、家に戻ってこれたのだな私は……ラーナ、ただいま」

「おかえりなさい貴方……皆が心配していたのですよ」

「年甲斐にもなく無茶をした……思ったよりも体は動かないものだな」
 お父様は寝台の上で身を起こすと、全身にうまく力が入らないようでよたよたと体勢を崩すが、お母さまが優しく彼の身体を支えると「ありがとう」と伝える。
 ウォルフ兄さま、ウゴリーノ兄さま、ベイセル兄さま……そしてわたくしを見回すと、一度クリスに向かって頭を下げたあと、ため息をついて話始める。
「……ここに全員そろっているということは……戦いが始まるのだな?」

「ええ、アンダース殿下と大半の貴族はクリストフェル殿下を弑逆しようと軍を動かしております、ハーティも攻撃を受けました」

「レイジー男爵は大丈夫なのか?」
 お父様の言葉に、ウォルフ兄さまは隣にいたウゴリーノ兄さまと顔を合わせると少し困ったような表情で一度わたくしを見る。
 その視線の動きにお父様が少し疑問を感じたらしく訝しがるような表情を浮かべるが、ウォルフお兄さまはもう一度わたくしの顔をじっと見たあと、観念したかのようにお父様へと話しかけた。

「……ハーティは無事です、話すと長いのですが……防衛を成功させ、魔獣による危機を退けたのは、その……シャルロッタなのです」
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