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第一三〇話 シャルロッタ 一五歳 蒼き森 一一
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——悪魔襲撃を受けた蒼き森……数日が経過してからわたくしはエルフ達の前へと姿を現すことになった。
「我ら蒼き森のエルフ一同……シャルロッタ様に忠誠を誓います」
「……は……い? チューセー? 何を……」
おかしい、何がおかしいって何故わたくしが彼らの指導者である広葉樹の盾が本来座るべき椅子に座っていて、彼女はわたくしのそばに控えていることだけじゃない。
目の前には先日の悪魔による襲撃を生き延びたエルフ達がずらっと居並んで、わたくしに向かって膝をついているのだから。
困惑するわたくしを尻目にエルネットさん達「赤竜の息吹」もちゃっかり彼らの中に混じって膝をついているし、マーサもそれに混じってて、ついでに言うならユルはわたくしの足元で気だるそうに伏せているのだ。
「シャルロッタ様はあの悪逆な悪魔をあっという間に倒された……エルフは恩義を忘れません、今後貴女様の命令とあれば我らは命をかけてお守りする次第です」
「……広葉樹の盾様?」
「一〇〇〇年前に私はアンスラックス様の側におりました、彼と同じ強き魂……そして貴女は女神の使徒でございますね? ずっと支えるお方を探していたのです」
めっちゃキラキラした目でわたくしを見つめる彼女の視線に耐えきれそうにない……なんだこのむず痒い感覚は。
ちなみに跪いて椅子に座るわたくしを見つめるエルフ達の視線は大半が広葉樹の盾と同じような尊敬の目、一部は恐怖と不安……そして一部は反感だ。
そりゃそうだ、大事な時に寝ていて最後の最後に突然出てきて全部薙ぎ倒して行ったんだから……そんなことができるなら最初からやってくれ、という気持ちになるのもわからんではない。
まあでもわたくし別に好きで寝てたわけじゃ無いんだしさ、そんな目で見られたって困るんだが……それでも憎まなきゃやってられねえと言う人が出てくるのはもう仕方がないだろう。
めんどくさいなー、もう全部投げ出して逃げちゃいたいなあ……エルフ達からのさまざまな視線にそんな気持ちが首を擡げてくる。
『貴族として生まれたお前は、常に貴族たらんと行動する義務がある……シャルロッタ、お前がそう望まなくてもだ……地位と血統は常にお前を……』
いきなりお父様の顔を思い出した……小さな頃貴族としての教育を受けていた時、貴族としての振る舞いについて少し悩んだことがあった。
そりゃわたくしは前世までフツーの人として育ってたのだし、勇者と言っても野生児に毛が生えたようなものだったから貴族としての心構え、なんて言われてもピンと来なかったのだ。
どうしてそうしなければいけないのか? とか悩んでしまって、何が正しいのか分からなかった時期があったのだけど……その時お父様はその大きな手でそっとわたくしの頭を撫でてからそう話していた。
その続きってなんて話してたんだっけな……記憶力はいい方なんだけど全然思い出せないや。
しかしまあ、一〇〇〇年間自主独立を決め込んできてイングウェイ王国とも距離を置き続けてきたエルフが味方になると言うのであれば、それはそれでクリスのためになると思う。
これ自体は喜ぶべきことなのだけど……実際エルフは襲撃で一〇〇人程度の犠牲を出したとはいえ、この森だけでなく周辺の小さな集落を合わせれば一〇〇〇人を超える兵士を動員できる。
しかもエルフは超優秀な狩人でもあり、神技級の弓術を得意とする種族でもある……勢力が弱小なクリスにとっては強力な援軍になり得る。
うん、まあ出たとこ勝負だな、わたくしは椅子から立ち上がるとまずはエルフ達に向かってカーテシーを披露する。
「わたくしシャルロッタ・インテリペリ……インテリペリ辺境伯家の長女ですわ」
いきなり椅子から立ち上がって喋り始めたわたくしが何をするのか、予想がつかなかったようでエルフ達はこちらへと視線を集中させる。
貴族令嬢として生まれて、幼い頃からずっと貴族……特にどこまでお父様が予測していたのかわからないが、演劇や帝王学のようなものなども習っていたため、それなりに声も通るし自分に興味を集中させることもできるようになっている。
十分に視線が集中したところでわたくしは目線を少し遠くに置いて、膝をついている全員を見渡すように視線を動かす。
「わたくしはイングウェイ王国第二王子であるクリストフェル殿下の婚約者として様々なことを学びました……皆様は一〇〇〇年の間王国とは独立独歩の歩調で歩んできたことも知っております」
『おお……我らの歴史を……』
『王子の婚約者なのか……』
目線を遠くに置き、誰かを見ているようで見ていない……全員を見渡して『全員を見ている』と錯覚させるテクニック、これは確か転生前の世界でも似たような演説の技術として用いられていたはずだけど、あれは誰が使ったんだっけな。
エルフ達が一〇〇〇年もの間、森の中で独自の生活を育んでいたのは事実だし、おそらく彼らもそれは誇りに思っていると思う……敢えて独立していた彼らを仲間へと引き入れるのだから、プライドを壊すような真似はしたくはない。
「でも敢えてわたくしは皆様の助力を得たいと思います、今王国は第一王子アンダース殿下と第二王子クリストフェル殿下の王位をめぐる争いが起きようとしています」
『……森にいる間にそんなことが……』
『でも俺たちは王国とは距離を置いているんだぜ……』
『争いなら勝手にやっててほしいよな……』
まあ、そうだろう……わたくしも日本人であった頃、ニュースで流れる戦争の話を聞くたびにどこか遠い場所で起きている「自分には関係のない出来事」だと傍観し続けていた。
しかし転生してから死というものが身近にある世界で生き続けたことで、傍観しているといつか理不尽に平和が踏み躙られてしまうことも知ることになった。
だからわたくしは勇者ラインであった時より戦いを拒まなくなった……力で反撃しなければ話すら聞いてもらえないと知ってしまった。
「先日この美しい森へと襲撃をしてきた悪魔はわたくしと仲間、そして勇者を知るエルフの長を狙って送り込まれました……わたくしだけならいざ知らず皆様を巻き込むことは到底許し難い蛮行です」
わたくしは次に何を喋るのか、エルフ達は静かに言葉を待っている。
よかった、先ほどの内容だと『ならお前がでてけ』って言われかねないものだったからな……でも、エルフの長広葉樹の盾の名前も拝借して誤魔化しているけど。
そんなわたくしにキラキラとした目で、なぜかサムズアップをしている広葉樹の盾が視界の端に見えるけど……それはまあ無視しておこう。
「わたくしは皆様に助力を得たい……クリストフェル殿下はわたくしにとって大事な方です、彼を助けるためにエルフの知恵を勇気をわたくしに貸してください」
そのままわたくしは空間を割いて魔剣不滅を引く抜くと天に向かって……いやここは室内なんで空なんか見えないんだけど、それでもこれはポーズだと言い聞かせて掲げる。
不滅はスコット・アンスラックスが最も愛した魔剣であり、永遠不滅の特性を持っている……どうやらエルフの中にこの不滅を見たことがあった人がいたらしく、『あれは……勇者様の聖剣!』と呟いたのが聞こえた。
広葉樹の盾なんかもう泣き出しそうなくらいの表情でじっと剣を見つめているが……ん? 聖剣? どういうことだ? スコットさんからは魔剣って言われてた気がするんだけど。
「わたくしはこの世界にいた勇者スコット・アンスラックスその人よりこの剣を受け継ぎました……わたくしはこの剣に誓い殿下をお助けし、再び平和を取り戻します……エルフの民よ、わたくしに力を!」
『『『『『『う……おおおっ! シャルロッタ様に忠誠をッ!』』』』』』
どおっ! とエルフ達が立ち上がると大きく歓声を上げた……不満があった層も、勇者アンスラックスが使っていた剣をわたくしが引き継いでいるという事実に大きく揺さぶられたのだろう。
ひとまずはこれで仕事は終わりかな……わたくしはにっこりと微笑むと、空間へと剣をしまいこみ再度優雅なカーテシーを披露してみせる。
それに合わせてエルフ達が再び大きな歓声を上げるのを見て、ユルが一声大きく吠える……幻獣ガルムであることはエルフ達もわかっていたのか、歓声が一際大きくなった。
わたくしは椅子に座り直すと、少し大きな仕事をやり遂げた喜びで胸が高鳴る……エルフを味方につけることは歴代のイングウェイ国王はできなかったのだから。
「……クリスがエルフを味方につけたって理解したら少しは彼への見方もかわるでしょ……」
「ふむ……意図せず虎の尾を踏んだということかな……クフフッ!」
送り出したはずの悪魔達が消滅したことを知った闇征く者は、書類を確認する手を休めると引き攣った笑い声をあげる。
シャルロッタ・インテリペリが休息のために眠りについていたのは理解していた、動けないうちに彼女の仲間を減らしておければ重畳と考えていたが、彼女の回復が予想よりも早かった。
これは混沌である……あくまでも予想のつかない揺れ動く未来、結果がわからないからこそ尊いものなのだが……やはり第三階位程度ではどうにもならんな、と深くため息をついた。
「ご心労ですかな?」
三叉の頭を持つ訓戒者である使役する者が音もなく現れる……クフフッ! と笑い声を上げた闇征く者を見て、興味深そうに黄金の瞳があちこちへと視線を動かす。
これは彼が何かを考えている時の仕草なのだが、相変わらず奇妙な化け物だ……と闇征く者は仮面の下の口元を歪ませてディムトゥリアが最も愛する眷属に話しかけた。
「シャルロッタ・インテリペリがエルフを味方につけた、第二王子に味方ができた……というところだろうか」
「ふむ……するとアンスラックス以降で初めて王族がエルフの助力を得ることになりますな」
「そうだ、エルフは重要な時に出てきて援護をする役回りだろうが……戦争となれば本当に厄介な連中だ、そこで……忠誠を誓っているシャルロッタを倒さねばならん」
闇征く者はお手上げ、と言わんばかりに両手を広げる……直接的に狙うにしても、こちらは数が少ない……冒険者の戦闘能力も格段に向上しているのだろう、こちらも数を揃える必要があるのだと、認識している。
使役する者が何かを思いついたように一度芝居掛かった仕草で手を叩くと、小さな口を歪めて笑う。
「聖女の取り巻き令嬢に面白いものがいましてな……死霊術師としての適性が本当に高く、あれは逸材だと思うのです……それを使うのはいかがでしょうか?」
「我ら蒼き森のエルフ一同……シャルロッタ様に忠誠を誓います」
「……は……い? チューセー? 何を……」
おかしい、何がおかしいって何故わたくしが彼らの指導者である広葉樹の盾が本来座るべき椅子に座っていて、彼女はわたくしのそばに控えていることだけじゃない。
目の前には先日の悪魔による襲撃を生き延びたエルフ達がずらっと居並んで、わたくしに向かって膝をついているのだから。
困惑するわたくしを尻目にエルネットさん達「赤竜の息吹」もちゃっかり彼らの中に混じって膝をついているし、マーサもそれに混じってて、ついでに言うならユルはわたくしの足元で気だるそうに伏せているのだ。
「シャルロッタ様はあの悪逆な悪魔をあっという間に倒された……エルフは恩義を忘れません、今後貴女様の命令とあれば我らは命をかけてお守りする次第です」
「……広葉樹の盾様?」
「一〇〇〇年前に私はアンスラックス様の側におりました、彼と同じ強き魂……そして貴女は女神の使徒でございますね? ずっと支えるお方を探していたのです」
めっちゃキラキラした目でわたくしを見つめる彼女の視線に耐えきれそうにない……なんだこのむず痒い感覚は。
ちなみに跪いて椅子に座るわたくしを見つめるエルフ達の視線は大半が広葉樹の盾と同じような尊敬の目、一部は恐怖と不安……そして一部は反感だ。
そりゃそうだ、大事な時に寝ていて最後の最後に突然出てきて全部薙ぎ倒して行ったんだから……そんなことができるなら最初からやってくれ、という気持ちになるのもわからんではない。
まあでもわたくし別に好きで寝てたわけじゃ無いんだしさ、そんな目で見られたって困るんだが……それでも憎まなきゃやってられねえと言う人が出てくるのはもう仕方がないだろう。
めんどくさいなー、もう全部投げ出して逃げちゃいたいなあ……エルフ達からのさまざまな視線にそんな気持ちが首を擡げてくる。
『貴族として生まれたお前は、常に貴族たらんと行動する義務がある……シャルロッタ、お前がそう望まなくてもだ……地位と血統は常にお前を……』
いきなりお父様の顔を思い出した……小さな頃貴族としての教育を受けていた時、貴族としての振る舞いについて少し悩んだことがあった。
そりゃわたくしは前世までフツーの人として育ってたのだし、勇者と言っても野生児に毛が生えたようなものだったから貴族としての心構え、なんて言われてもピンと来なかったのだ。
どうしてそうしなければいけないのか? とか悩んでしまって、何が正しいのか分からなかった時期があったのだけど……その時お父様はその大きな手でそっとわたくしの頭を撫でてからそう話していた。
その続きってなんて話してたんだっけな……記憶力はいい方なんだけど全然思い出せないや。
しかしまあ、一〇〇〇年間自主独立を決め込んできてイングウェイ王国とも距離を置き続けてきたエルフが味方になると言うのであれば、それはそれでクリスのためになると思う。
これ自体は喜ぶべきことなのだけど……実際エルフは襲撃で一〇〇人程度の犠牲を出したとはいえ、この森だけでなく周辺の小さな集落を合わせれば一〇〇〇人を超える兵士を動員できる。
しかもエルフは超優秀な狩人でもあり、神技級の弓術を得意とする種族でもある……勢力が弱小なクリスにとっては強力な援軍になり得る。
うん、まあ出たとこ勝負だな、わたくしは椅子から立ち上がるとまずはエルフ達に向かってカーテシーを披露する。
「わたくしシャルロッタ・インテリペリ……インテリペリ辺境伯家の長女ですわ」
いきなり椅子から立ち上がって喋り始めたわたくしが何をするのか、予想がつかなかったようでエルフ達はこちらへと視線を集中させる。
貴族令嬢として生まれて、幼い頃からずっと貴族……特にどこまでお父様が予測していたのかわからないが、演劇や帝王学のようなものなども習っていたため、それなりに声も通るし自分に興味を集中させることもできるようになっている。
十分に視線が集中したところでわたくしは目線を少し遠くに置いて、膝をついている全員を見渡すように視線を動かす。
「わたくしはイングウェイ王国第二王子であるクリストフェル殿下の婚約者として様々なことを学びました……皆様は一〇〇〇年の間王国とは独立独歩の歩調で歩んできたことも知っております」
『おお……我らの歴史を……』
『王子の婚約者なのか……』
目線を遠くに置き、誰かを見ているようで見ていない……全員を見渡して『全員を見ている』と錯覚させるテクニック、これは確か転生前の世界でも似たような演説の技術として用いられていたはずだけど、あれは誰が使ったんだっけな。
エルフ達が一〇〇〇年もの間、森の中で独自の生活を育んでいたのは事実だし、おそらく彼らもそれは誇りに思っていると思う……敢えて独立していた彼らを仲間へと引き入れるのだから、プライドを壊すような真似はしたくはない。
「でも敢えてわたくしは皆様の助力を得たいと思います、今王国は第一王子アンダース殿下と第二王子クリストフェル殿下の王位をめぐる争いが起きようとしています」
『……森にいる間にそんなことが……』
『でも俺たちは王国とは距離を置いているんだぜ……』
『争いなら勝手にやっててほしいよな……』
まあ、そうだろう……わたくしも日本人であった頃、ニュースで流れる戦争の話を聞くたびにどこか遠い場所で起きている「自分には関係のない出来事」だと傍観し続けていた。
しかし転生してから死というものが身近にある世界で生き続けたことで、傍観しているといつか理不尽に平和が踏み躙られてしまうことも知ることになった。
だからわたくしは勇者ラインであった時より戦いを拒まなくなった……力で反撃しなければ話すら聞いてもらえないと知ってしまった。
「先日この美しい森へと襲撃をしてきた悪魔はわたくしと仲間、そして勇者を知るエルフの長を狙って送り込まれました……わたくしだけならいざ知らず皆様を巻き込むことは到底許し難い蛮行です」
わたくしは次に何を喋るのか、エルフ達は静かに言葉を待っている。
よかった、先ほどの内容だと『ならお前がでてけ』って言われかねないものだったからな……でも、エルフの長広葉樹の盾の名前も拝借して誤魔化しているけど。
そんなわたくしにキラキラとした目で、なぜかサムズアップをしている広葉樹の盾が視界の端に見えるけど……それはまあ無視しておこう。
「わたくしは皆様に助力を得たい……クリストフェル殿下はわたくしにとって大事な方です、彼を助けるためにエルフの知恵を勇気をわたくしに貸してください」
そのままわたくしは空間を割いて魔剣不滅を引く抜くと天に向かって……いやここは室内なんで空なんか見えないんだけど、それでもこれはポーズだと言い聞かせて掲げる。
不滅はスコット・アンスラックスが最も愛した魔剣であり、永遠不滅の特性を持っている……どうやらエルフの中にこの不滅を見たことがあった人がいたらしく、『あれは……勇者様の聖剣!』と呟いたのが聞こえた。
広葉樹の盾なんかもう泣き出しそうなくらいの表情でじっと剣を見つめているが……ん? 聖剣? どういうことだ? スコットさんからは魔剣って言われてた気がするんだけど。
「わたくしはこの世界にいた勇者スコット・アンスラックスその人よりこの剣を受け継ぎました……わたくしはこの剣に誓い殿下をお助けし、再び平和を取り戻します……エルフの民よ、わたくしに力を!」
『『『『『『う……おおおっ! シャルロッタ様に忠誠をッ!』』』』』』
どおっ! とエルフ達が立ち上がると大きく歓声を上げた……不満があった層も、勇者アンスラックスが使っていた剣をわたくしが引き継いでいるという事実に大きく揺さぶられたのだろう。
ひとまずはこれで仕事は終わりかな……わたくしはにっこりと微笑むと、空間へと剣をしまいこみ再度優雅なカーテシーを披露してみせる。
それに合わせてエルフ達が再び大きな歓声を上げるのを見て、ユルが一声大きく吠える……幻獣ガルムであることはエルフ達もわかっていたのか、歓声が一際大きくなった。
わたくしは椅子に座り直すと、少し大きな仕事をやり遂げた喜びで胸が高鳴る……エルフを味方につけることは歴代のイングウェイ国王はできなかったのだから。
「……クリスがエルフを味方につけたって理解したら少しは彼への見方もかわるでしょ……」
「ふむ……意図せず虎の尾を踏んだということかな……クフフッ!」
送り出したはずの悪魔達が消滅したことを知った闇征く者は、書類を確認する手を休めると引き攣った笑い声をあげる。
シャルロッタ・インテリペリが休息のために眠りについていたのは理解していた、動けないうちに彼女の仲間を減らしておければ重畳と考えていたが、彼女の回復が予想よりも早かった。
これは混沌である……あくまでも予想のつかない揺れ動く未来、結果がわからないからこそ尊いものなのだが……やはり第三階位程度ではどうにもならんな、と深くため息をついた。
「ご心労ですかな?」
三叉の頭を持つ訓戒者である使役する者が音もなく現れる……クフフッ! と笑い声を上げた闇征く者を見て、興味深そうに黄金の瞳があちこちへと視線を動かす。
これは彼が何かを考えている時の仕草なのだが、相変わらず奇妙な化け物だ……と闇征く者は仮面の下の口元を歪ませてディムトゥリアが最も愛する眷属に話しかけた。
「シャルロッタ・インテリペリがエルフを味方につけた、第二王子に味方ができた……というところだろうか」
「ふむ……するとアンスラックス以降で初めて王族がエルフの助力を得ることになりますな」
「そうだ、エルフは重要な時に出てきて援護をする役回りだろうが……戦争となれば本当に厄介な連中だ、そこで……忠誠を誓っているシャルロッタを倒さねばならん」
闇征く者はお手上げ、と言わんばかりに両手を広げる……直接的に狙うにしても、こちらは数が少ない……冒険者の戦闘能力も格段に向上しているのだろう、こちらも数を揃える必要があるのだと、認識している。
使役する者が何かを思いついたように一度芝居掛かった仕草で手を叩くと、小さな口を歪めて笑う。
「聖女の取り巻き令嬢に面白いものがいましてな……死霊術師としての適性が本当に高く、あれは逸材だと思うのです……それを使うのはいかがでしょうか?」
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