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第九二話 シャルロッタ 一五歳 王都脱出 〇二
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「おい、貴族様よぉ……俺たちに施しをくださいよ……そのエロい体でなあ?」
「あのねえ……王都でこんな目に遭うとは思いませんでしたわ……」
イヤらしい目つきでわたくしの体をじっとりじっくりねっとり眺める男性達……まさか王都でこんなことになるとは、という気分にさせられる。
まあ、カフェからの帰りに裏通を抜けたら早いだろうなあと考えて普段は絶対に通らない通りへと足を踏み入れたわたくしが悪いと言えば悪いのだけど。
今この路地にはわたくしとその男性七人が対峙している状況だが、周りの密集した住宅には人がいないようで、その点だけは自由に動けそうでほっと胸を撫で下ろす。
ふうっと軽くため息をついてから、わたくしは手に持った日傘を閉じ……その傘を相手に向けて話しかける。
「あのー……わたくしが誰だかわかっています?」
「……余裕あるじゃねえか、俺たちみたいなのがお前の名前なんか知るかボケ」
「はあ、そうですか……」
貴族専用エリアから外れた瞬間にこれかよ、という気もしなくもないけど現実はこんなものだろうが……それにしたって、とわたくしは周りを囲んでいる男達を観察する。
服装はバラバラであまり清潔そうなものを着用しておらず、肌にも汚れが多く付着していて、ぱっと見はこの辺りに住んでいる裏稼業崩れのような連中であることがわかる。
その後ろに控えているボスっぽい男……そいつだけは妙に違和感を感じる外見だ。
ドス黒い外套に身を包んでおり、顔は認識阻害でもかかっているのかわたくしの目から見てもうまく認識できない。
そして異様すぎるのはその存在感というか……明らかに人間には見えない何かを纏っているが、この存在感というか放つ魔力には覚えがありすぎてわたくしはちょっとだけ呆れのような感情が浮かぶ。
「そちらの方には少し聞きたいことがございますわね、ということで王国民を無下に傷つける気はないの、引き下がりません?」
「……やりたまえ」
ボスっぽい男の言葉と同時に暴漢たちが一斉に飛びかかってくる。
……ったく回りくどいことをしやがって、とわたくしは内心イラっとしつつも傘をくるりと回してカツン! と軽く地面を叩くように宙に放ると、傘は地面に跳ね返って大きく空中へと回転しながら舞っていく。
その動きに男たちの視線が一気に集中した次の瞬間、わたくしは一気に飛びかかろうとしている暴漢との距離を詰める……視線を戻した瞬間に先頭にいた暴漢の顔面にわたくしの右拳が叩きつけられる。
ドゴン! という音を立てて男が吹き飛ぶと同時に、わたくしは体を回転させて右、左と回し蹴りを別々の男へと叩き込む……これで三人。
「え? へえ……っ?」
「な、ば……バカな……」
「はい、これでおしまい」
鞠のように弾む暴漢たちを見て一瞬怯んだ四人目の腹部に左拳、五人目には回転しながらの裏拳……そして最後の一名には回転しながら落ちてきた傘をキャッチするとそのまま後頭部に叩きつける。
バゴン! という少し鈍い音を立てた暴漢が地面へと叩きつけられて気絶し、わたくしはほんの少し歪んでしまった傘を眺めながらやれやれと肩をすくめる。
これちょっといい値段するんだけどねえ……さて最後の一人がまだ残っているわね、とそちらへと視線を向けると、ボスっぽい男はニヤリと笑って手を叩いて拍手を始める。
「クフフッ……さすが規格外の戦闘能力……人間にしておくにはもったいない存在じゃのう」
「お芝居は宜しいですわ、こういうお遊びを楽しむ神様だとは思っていませんでした」
「……そんなにわかりやすかったか? わらわとしては入念に準備をしたつもりなのだが……あ、そうかお主でもダメなのだったな」
まるで多重音声のような声を響かせると、男の外見がぐにゃりと歪み再び元に戻るようにゆらめく。
認識阻害というかこの存在の場合はその本性を表すとわたくしであっても正気を保てるかわからないので、慌てて手でそれ以上止めてくれとジェスチャーで伝える。
それに反応して再び男性の姿を取り直すと口元に笑みを浮かべたまま、優雅な礼を見せて彼女はわたくしを見つめる。
「夢見る淑女……わたくしに御用であれば夢で呼んでくだされば良いのに」
「夢で呼ぶというのはそれなりに時間がかかるであろ? 面倒だがこういうやり方の方がわらわが何故来たのか理解しやすい」
微睡む混沌神夢見る淑女……以前インテリペリ辺境伯領に彼女の眷属であるナイトパピヨンが出現した事件があった。
この神様は混沌神ではあるが世界になんらかの影響を与えようと思って活動はしていない、むしろ「眠いからほっとけ」と言わんばかりに我関せずの態度を取り続ける奇妙な神格である。
で、この神様の眷属が領内に出現したことで彼女の見る夢と現実の間が壊れ、そのままだと大災害が起きる可能性があったためわたくしはこの神様の元へと向かい交渉を行なった。
「まあ、そうなんですけど……この連中に襲わせる意味はあります?」
「お主の力量を確認しているだけだ……わらわの尖兵としての資質も常日頃確認する必要があるでな」
「かなりお久しぶりな気がしますが……御身が態々来られるというのは何かあったのですか?」
この神格はわたくしを気に入ったようでお互いに盟約を結んでいる……眷属を引き上げさせる代わりに彼女の命令を聞くという約束だ。
回数制限などが設定されていないのがめちゃくちゃ怖いといえば怖いのだけど、その時以来全く何もしてこなかったのですっかり忘れてしまっていたが。
夢見る淑女の依代はくすくす笑うとわたくしの考えを読んだように喋り始める。
「わらわもこのような事態になるまで何もする気はなかったが……お主厄介なものに狙われておるぞ」
「……訓戒者ですか?」
「もう遭遇したであろ? あれでお主の能力が混沌四神に認識された……眷属の動きが活発化しておる、これから先混沌の眷属はお主を殺すために手段を選ばぬであろう」
「……とはいえ彼らの目的がわかりませんわ、なぜ混沌四神はわたくしを?」
「お主が神々の定めた盟約を破った存在だからだ、お主は異世界それも極上の強き魂……勇者である故」
クスクスと依代は歪んだ笑みを浮かべるが、それでいうと混沌の神である彼女はどうなのだろうか?
混沌の神は四神と呼ばれるワーボス、ディムトゥリア、ターベンディッシュ、ノルザルツが有名でそれ以外にも大量の神が存在している。
夢見る淑女も混沌に属する神でありその神格は四神に勝るとも劣るものではなく、本質的にはとんでもなく邪悪な存在とも言える。
彼女に悪気がないのがまた厄介なのだが……そんな考えを読んだのか、依代はわたくしへと語りかける。
「邪悪の定義がお主とわらわ達ではかなり異なる、わらわは微睡むだけ……四神との戦いにはわらわは干渉しない、だがお主に警告だけは伝えておく」
「夢見る淑女……」
「だが尖兵たるお主を無下にはしない、もしお主がわらわの庇護を得たいと望むのであれば夢にて呼ぶが良い」
急に彼女? いや依代の男の顔がゆらめきそしてガクガクとまるでマリオネットの糸が切れたかのように奇妙な動きを見せながら地面へと倒れる。
彼女がわたくしへと警告を行なったということは、訓戒者と混沌四神は次からわたくしを標的に何かを仕掛けてくるということなのだろう。
少し歪んでしまった日傘を広げるとわたくしはその場を離れることにする……依代の男もそのうち気がつくだろうけど、誰に操られていたかすら認識できていないに違いない。
微睡む混沌神夢見る淑女の手にかかればそれが夢だったと思わせることも簡単だろうし、彼女がわたくしを尖兵として扱う以上本来の目的以外で足止めを食ったり排除されることは本意ではないと思うのだ。
しかし……本来目覚めることなく夢を見続けるはずの彼女がこうしてわざわざやってくるということは本当に異常事態が起きているのだろうな。
わたくしは路地裏から表通りへと抜けるとため息をひとつついてから自宅としている屋敷へとのんびり歩き始める。
「参りましたわねえ……足止めを食ってしまいましたわ……」
「……それで? 新しい訓戒者殿はなぜ私の前へと姿を現した?」
栗色の髪の毛を短く刈り上げた仕立ての良い衣服を着用している男がテーブルの向かいに腰を下ろしている一人の女性へと声をかける。
女性……最近王国で流行りの豪華な飾りがふんだんに付けられたドレスを身に纏っているが、はち切れそうなグラマラスで肉感的な肉体と不気味なほどに赤く輝く目だけが爛々と輝いており美しいがどことなく不気味さを感じされる人物は口元にそっと桜桃の実を運ぶと、紫色の舌を使って弄ぶように転がす。
その仕草は非常に艶かしく思わず男は喉をゴクリと鳴らしてしまうが、そんな様子を見ながらクスクス女性は笑う。
「査問は失敗だったみたいですわね? 次はどうされるのかしら」
「ぐ……場が混乱したのだ、もう一度開催することも考えているが……」
先日シャルロッタ・インテリペリを魔性の者として糾弾するための査問会が開かれた、その場では彼女が契約している幻獣ガルムの姿が公の場に晒されたのだが、査問自体は混乱を極め結果的に次回以降の開催は未定となってしまっている。
ガルムによる告発……「混沌と契約している貴族がいるのでは?」という言葉にそれ以上査問を続けるような状況ではなくなってしまったからだ。
それとサウンドガーデン公爵領における悪魔事件、これによりガルムの告発に一定の説得力が生まれてしまった。
悪魔は自然に呼び出せるものではない……契約もしくは召喚をしたものがイングウェイ王国に潜伏している可能性があるからだ。
「……無理でしょうねえ、ウフフ……今頃は暴力の悪魔を呼び出した犯人探しに必死、というところかしら?」
「……お前らであろう? タイミングの良すぎることだ……」
「査問会を勝手に開いた貴方達のミスよ? 私たちは盟約を破ったものを確認したかっただけ、そしてそれは達成されたの」
「な……それは本当か?! だ、誰なのだ!?」
女性の言葉に大きく目を見開いて驚く男……神々の盟約を破りし強い魂、混沌四神の神託で伝えられる求めるものが判明したのであれば、それを捉えて供物として捧げる。
男は思わず椅子から乗り出すが、扇を広げて口元を隠した女性はクスクスと笑って座るようにジェスチャーで伝える。
それを見て渋々椅子へと再び腰を下ろした男は、少しイライラしたかのように貧乏ゆすりを繰り返すがそれを見た女性が歪んだ笑みを浮かべる。
「……辺境の翡翠姫を自らの手で排除しなさい、これが私たち訓戒者の総意よ」
「あのねえ……王都でこんな目に遭うとは思いませんでしたわ……」
イヤらしい目つきでわたくしの体をじっとりじっくりねっとり眺める男性達……まさか王都でこんなことになるとは、という気分にさせられる。
まあ、カフェからの帰りに裏通を抜けたら早いだろうなあと考えて普段は絶対に通らない通りへと足を踏み入れたわたくしが悪いと言えば悪いのだけど。
今この路地にはわたくしとその男性七人が対峙している状況だが、周りの密集した住宅には人がいないようで、その点だけは自由に動けそうでほっと胸を撫で下ろす。
ふうっと軽くため息をついてから、わたくしは手に持った日傘を閉じ……その傘を相手に向けて話しかける。
「あのー……わたくしが誰だかわかっています?」
「……余裕あるじゃねえか、俺たちみたいなのがお前の名前なんか知るかボケ」
「はあ、そうですか……」
貴族専用エリアから外れた瞬間にこれかよ、という気もしなくもないけど現実はこんなものだろうが……それにしたって、とわたくしは周りを囲んでいる男達を観察する。
服装はバラバラであまり清潔そうなものを着用しておらず、肌にも汚れが多く付着していて、ぱっと見はこの辺りに住んでいる裏稼業崩れのような連中であることがわかる。
その後ろに控えているボスっぽい男……そいつだけは妙に違和感を感じる外見だ。
ドス黒い外套に身を包んでおり、顔は認識阻害でもかかっているのかわたくしの目から見てもうまく認識できない。
そして異様すぎるのはその存在感というか……明らかに人間には見えない何かを纏っているが、この存在感というか放つ魔力には覚えがありすぎてわたくしはちょっとだけ呆れのような感情が浮かぶ。
「そちらの方には少し聞きたいことがございますわね、ということで王国民を無下に傷つける気はないの、引き下がりません?」
「……やりたまえ」
ボスっぽい男の言葉と同時に暴漢たちが一斉に飛びかかってくる。
……ったく回りくどいことをしやがって、とわたくしは内心イラっとしつつも傘をくるりと回してカツン! と軽く地面を叩くように宙に放ると、傘は地面に跳ね返って大きく空中へと回転しながら舞っていく。
その動きに男たちの視線が一気に集中した次の瞬間、わたくしは一気に飛びかかろうとしている暴漢との距離を詰める……視線を戻した瞬間に先頭にいた暴漢の顔面にわたくしの右拳が叩きつけられる。
ドゴン! という音を立てて男が吹き飛ぶと同時に、わたくしは体を回転させて右、左と回し蹴りを別々の男へと叩き込む……これで三人。
「え? へえ……っ?」
「な、ば……バカな……」
「はい、これでおしまい」
鞠のように弾む暴漢たちを見て一瞬怯んだ四人目の腹部に左拳、五人目には回転しながらの裏拳……そして最後の一名には回転しながら落ちてきた傘をキャッチするとそのまま後頭部に叩きつける。
バゴン! という少し鈍い音を立てた暴漢が地面へと叩きつけられて気絶し、わたくしはほんの少し歪んでしまった傘を眺めながらやれやれと肩をすくめる。
これちょっといい値段するんだけどねえ……さて最後の一人がまだ残っているわね、とそちらへと視線を向けると、ボスっぽい男はニヤリと笑って手を叩いて拍手を始める。
「クフフッ……さすが規格外の戦闘能力……人間にしておくにはもったいない存在じゃのう」
「お芝居は宜しいですわ、こういうお遊びを楽しむ神様だとは思っていませんでした」
「……そんなにわかりやすかったか? わらわとしては入念に準備をしたつもりなのだが……あ、そうかお主でもダメなのだったな」
まるで多重音声のような声を響かせると、男の外見がぐにゃりと歪み再び元に戻るようにゆらめく。
認識阻害というかこの存在の場合はその本性を表すとわたくしであっても正気を保てるかわからないので、慌てて手でそれ以上止めてくれとジェスチャーで伝える。
それに反応して再び男性の姿を取り直すと口元に笑みを浮かべたまま、優雅な礼を見せて彼女はわたくしを見つめる。
「夢見る淑女……わたくしに御用であれば夢で呼んでくだされば良いのに」
「夢で呼ぶというのはそれなりに時間がかかるであろ? 面倒だがこういうやり方の方がわらわが何故来たのか理解しやすい」
微睡む混沌神夢見る淑女……以前インテリペリ辺境伯領に彼女の眷属であるナイトパピヨンが出現した事件があった。
この神様は混沌神ではあるが世界になんらかの影響を与えようと思って活動はしていない、むしろ「眠いからほっとけ」と言わんばかりに我関せずの態度を取り続ける奇妙な神格である。
で、この神様の眷属が領内に出現したことで彼女の見る夢と現実の間が壊れ、そのままだと大災害が起きる可能性があったためわたくしはこの神様の元へと向かい交渉を行なった。
「まあ、そうなんですけど……この連中に襲わせる意味はあります?」
「お主の力量を確認しているだけだ……わらわの尖兵としての資質も常日頃確認する必要があるでな」
「かなりお久しぶりな気がしますが……御身が態々来られるというのは何かあったのですか?」
この神格はわたくしを気に入ったようでお互いに盟約を結んでいる……眷属を引き上げさせる代わりに彼女の命令を聞くという約束だ。
回数制限などが設定されていないのがめちゃくちゃ怖いといえば怖いのだけど、その時以来全く何もしてこなかったのですっかり忘れてしまっていたが。
夢見る淑女の依代はくすくす笑うとわたくしの考えを読んだように喋り始める。
「わらわもこのような事態になるまで何もする気はなかったが……お主厄介なものに狙われておるぞ」
「……訓戒者ですか?」
「もう遭遇したであろ? あれでお主の能力が混沌四神に認識された……眷属の動きが活発化しておる、これから先混沌の眷属はお主を殺すために手段を選ばぬであろう」
「……とはいえ彼らの目的がわかりませんわ、なぜ混沌四神はわたくしを?」
「お主が神々の定めた盟約を破った存在だからだ、お主は異世界それも極上の強き魂……勇者である故」
クスクスと依代は歪んだ笑みを浮かべるが、それでいうと混沌の神である彼女はどうなのだろうか?
混沌の神は四神と呼ばれるワーボス、ディムトゥリア、ターベンディッシュ、ノルザルツが有名でそれ以外にも大量の神が存在している。
夢見る淑女も混沌に属する神でありその神格は四神に勝るとも劣るものではなく、本質的にはとんでもなく邪悪な存在とも言える。
彼女に悪気がないのがまた厄介なのだが……そんな考えを読んだのか、依代はわたくしへと語りかける。
「邪悪の定義がお主とわらわ達ではかなり異なる、わらわは微睡むだけ……四神との戦いにはわらわは干渉しない、だがお主に警告だけは伝えておく」
「夢見る淑女……」
「だが尖兵たるお主を無下にはしない、もしお主がわらわの庇護を得たいと望むのであれば夢にて呼ぶが良い」
急に彼女? いや依代の男の顔がゆらめきそしてガクガクとまるでマリオネットの糸が切れたかのように奇妙な動きを見せながら地面へと倒れる。
彼女がわたくしへと警告を行なったということは、訓戒者と混沌四神は次からわたくしを標的に何かを仕掛けてくるということなのだろう。
少し歪んでしまった日傘を広げるとわたくしはその場を離れることにする……依代の男もそのうち気がつくだろうけど、誰に操られていたかすら認識できていないに違いない。
微睡む混沌神夢見る淑女の手にかかればそれが夢だったと思わせることも簡単だろうし、彼女がわたくしを尖兵として扱う以上本来の目的以外で足止めを食ったり排除されることは本意ではないと思うのだ。
しかし……本来目覚めることなく夢を見続けるはずの彼女がこうしてわざわざやってくるということは本当に異常事態が起きているのだろうな。
わたくしは路地裏から表通りへと抜けるとため息をひとつついてから自宅としている屋敷へとのんびり歩き始める。
「参りましたわねえ……足止めを食ってしまいましたわ……」
「……それで? 新しい訓戒者殿はなぜ私の前へと姿を現した?」
栗色の髪の毛を短く刈り上げた仕立ての良い衣服を着用している男がテーブルの向かいに腰を下ろしている一人の女性へと声をかける。
女性……最近王国で流行りの豪華な飾りがふんだんに付けられたドレスを身に纏っているが、はち切れそうなグラマラスで肉感的な肉体と不気味なほどに赤く輝く目だけが爛々と輝いており美しいがどことなく不気味さを感じされる人物は口元にそっと桜桃の実を運ぶと、紫色の舌を使って弄ぶように転がす。
その仕草は非常に艶かしく思わず男は喉をゴクリと鳴らしてしまうが、そんな様子を見ながらクスクス女性は笑う。
「査問は失敗だったみたいですわね? 次はどうされるのかしら」
「ぐ……場が混乱したのだ、もう一度開催することも考えているが……」
先日シャルロッタ・インテリペリを魔性の者として糾弾するための査問会が開かれた、その場では彼女が契約している幻獣ガルムの姿が公の場に晒されたのだが、査問自体は混乱を極め結果的に次回以降の開催は未定となってしまっている。
ガルムによる告発……「混沌と契約している貴族がいるのでは?」という言葉にそれ以上査問を続けるような状況ではなくなってしまったからだ。
それとサウンドガーデン公爵領における悪魔事件、これによりガルムの告発に一定の説得力が生まれてしまった。
悪魔は自然に呼び出せるものではない……契約もしくは召喚をしたものがイングウェイ王国に潜伏している可能性があるからだ。
「……無理でしょうねえ、ウフフ……今頃は暴力の悪魔を呼び出した犯人探しに必死、というところかしら?」
「……お前らであろう? タイミングの良すぎることだ……」
「査問会を勝手に開いた貴方達のミスよ? 私たちは盟約を破ったものを確認したかっただけ、そしてそれは達成されたの」
「な……それは本当か?! だ、誰なのだ!?」
女性の言葉に大きく目を見開いて驚く男……神々の盟約を破りし強い魂、混沌四神の神託で伝えられる求めるものが判明したのであれば、それを捉えて供物として捧げる。
男は思わず椅子から乗り出すが、扇を広げて口元を隠した女性はクスクスと笑って座るようにジェスチャーで伝える。
それを見て渋々椅子へと再び腰を下ろした男は、少しイライラしたかのように貧乏ゆすりを繰り返すがそれを見た女性が歪んだ笑みを浮かべる。
「……辺境の翡翠姫を自らの手で排除しなさい、これが私たち訓戒者の総意よ」
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◇
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よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
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