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第六九話 シャルロッタ 一五歳 肉欲の悪魔 〇九
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「聞きました? プリムローズ嬢……学園を追放になるんですって」
「何でも悪魔と契約したとか……先日の事件の黒幕とも言われていますわ」
「魔法使いの家系……ホワイトスネイク侯爵家も落ちたもんだよなあ……」
口さがない学生たち……あの日ホールにいた学生以外で事件に巻き込まれず難を逃れた者たちが噂し合うのは、ホワイトスネイク侯爵令嬢、プリムローズが起こした学園の占拠事件のことだ。
事件は速やかにクリストフェルを初めとした一部の学生と、駆けつけた衛兵隊によって鎮圧され学園は一応平穏を取り戻した。
事件から一週間ほどが経過した現在、破壊された校舎は修復途中、被害にあった学生は治療中だが一応これに便乗した小さな事件なども起きずに日常が次第に戻りつつある。
変わったことといえば……一部の学生が心的外傷を抱えて自主退学したことと、プリムローズの取り巻きが一斉に彼女から離れてしまったことだ。
まあプリムローズは現在学園には来ていないため有る事無い事言われてしまっている状況ではあるが、その中で彼女を支持するなどと言ってしまったら何をされるかわかったものではない、と言うのが本音なのだろう。
ホワイトスネイク侯爵家の影響力は地に堕ちた……当主デイヴィット・ホワイトスネイクは宮廷魔導師長と魔法師団団長を兼務していたのだが、役職を辞し領地へと一時的に帰還することになった。
隣国への影響力を加味するとイングウェイ王国最強の魔法使いであるデイヴィットがいなくなることは国防に影響が出るとして慰留されていたようだが、結果的に彼が押し切った形になった。
まあ残ったとしても娘が起こした事件によって彼の宮廷内での影響力はガタ落ちになっているし、針の筵のような状況に残ることは難しいと考えたのだろうな。
「貴族様って大変ですよね……」
「そうね……わたくしの家も同じことが起きたら、なくなってしまいますわね」
わたくしの前に座るターヤが昼食のパンを口に入れながら寂しそうな顔で話すが、それに対してわたくしも相槌を打ってから、本当にそうだよなあ……と内心深くため息をつく。
今わたくしと彼女がいるのは学園内でも少し外れた場所……昼食を静かな場所で取りたい時に使っている東屋で、ここには貴族も学生もほとんど立ち寄らないため内緒話をする時には非常に好都合な場所だ。
ターヤにとっては初めてお茶会に誘ってくれたプリムローズのことはちょっと変な人だけど嫌いじゃなかった、と話していた。むしろもっと話したいと思ってたそうで、今回学園追放となる彼女のことをとても残念がっていた。
ホワイトスネイク侯爵家は中立貴族へと戻り、王子同士の派閥には参加しないことを表明したのだけど、割と他の貴族からは「むしろ参加されたら困る」みたいな反応だったとか……今現在彼らに頼られてもどうしようもないと言う本音が透けて出ていたな。
「シャルのお家は大丈夫じゃない? だって殿下の婚約者なんだし」
「むがっ……ゲホッ……ゲホッ」
「シャル?! どうしたの? 顔が真っ赤だよ?!」
「だ、大丈……」
いきなり殿下の婚約者というワードをぶち込まれたことで、わたくしはそれまで食べていた食事を喉に詰まらせる……あの時クリスに迫られ、詰問された後、優しく抱きしめられた記憶が一気に蘇ったのだ。
胸をドンドン、と叩いて何度か呼吸を回復させるとわたくしは火照る頬に手を当てて何とか平静を保とうと深呼吸をする……だがそんなわたくしの行動を見てターヤが何か思いついたのか笑顔で微笑んだ。
「そっか……殿下とちょっといいことあったんだね?」
「え? い、いや……何もない……って……」
どうした、なぜ口籠ってしまうわたくし……あの時のクリスの真剣な眼差し、そして優しくわたくしを包み込むような抱擁……心臓がどくどくと脈打つ。
暖かったんだ、本当にクリスの抱擁は優しくてわたくしにとって暖かくて……全部わかっているから何も言わなくていい、と言わんばかりの全てを包み込むような優しさを感じて、必死に取り繕った自分の行動に胸が締め付けられるような思いと、彼に対して身を委ねたいと思うようなそんな気持ちになった。
「愛されてるね、わたくしも彼氏欲しいなあ~」
「え? いや、そ、そそそそんな……わたくしとクリスそんな関係じゃないし……」
「でも名前で呼び合ってて、お互いのこと好きなんでしょ?」
「好きとか、そんな……嫌いじゃないけど……」
どんどん熱くなる頬を氷魔法で凍らしてしまいたい……それくらい恥ずかしい気分になってわたくしはこの場から逃げ出したくなる。
「ターヤは友達だよ? 何でも言ってくださいね、わたくしが貴族だからって気にしないで」とか最初に言ってしまった自分を呪いたくなる好奇心旺盛な彼女がわたくしの内面をほじくり出そうとしている感じがして逃げ出したくなる。
先日からクリスの顔を思い浮かべるたびに胸が締め付けられそうな気分になって冷静ではいられない……黙ってしまったわたくしを見て、ターヤは少し思うところがあったのかにっこり笑う。
「いいなあ……私も好きだって言える王子様に出会えたらねえ……」
「少し良いかしら?」
二人で話をしているところへ、聞き覚えのある声で話しかけられてわたくしとターヤは同時に声の方を見るが、そこには少し疲れた顔をした縦巻きロール……プリムローズ・ホワイトスネイク侯爵令嬢の姿があった。
以前お茶会で見た時よりも遥かに疲弊しており、顔色は良くないし髪も艶がなくなっている……ちなみに悪魔との契約でこうなったというよりは精神的な疲労なども強いのだろう、彼女は辺りを気にするような仕草を見せながらも、オドオドとした表情で再びわたくしを見る。
そんな彼女を見てターヤが気を利かせたのか、黙って立ち上がるとわたくしに軽く手を振ってから小走りにどこかへと走っていった。
「プリムローズ様、お身体は大丈夫ですか?」
「……ええ、体に異常はないってお医者様にも言われているわ」
「そうですか、それはよかったです。狭い場所ですが……そちらにお掛けください」
プリムローズは黙って頭を下げると、それまでターヤが座っていた場所に腰掛ける。
わたくしはすでに昼食を食べ終わっていたので、邸宅から持ち込んでいたランチセットから魔導ポットと紅茶セットを取り出し、黙ったまま二人分の紅茶を淹れる。
人にやらせるってのも多いのだけど、インテリペリ辺境伯家では自分でちゃんと出来るようになろう、が合言葉のようなものなので兄達も一応家事はある程度できるようになっている。
「……わたくしが淹れた紅茶でお口に合うかどうかわかりませんが……」
「……器用なのね、いただくわ」
プリムローズは目の前に置かれたカップに注がれた液体……一応王国内でもそれなりに高級店から仕入れている茶葉で淹れた紅茶を見て寂しそうに微笑むとそっと口に運んでからポツリと「……美味しい」と軽く驚いていた。わたくしはそんな彼女の表情を見てにっこりと微笑むと目の前のカップから紅茶を軽く啜る。
わたくしとプリムローズは数分の間、黙ったまま紅茶の味を楽しんでいたが、不意にプリムローズがわたくしに向かって話しかけてきた。
「やはり貴女は……本当に綺麗ね、嫉妬しか感じないわ……殿下が夢中になるのもわかる」
「……クリス……いや殿下とはお話をされましたか?」
「ええ……私は学園を追放される身だけど、殿下からは静養して体を休めてからまた話をしようと告げられたわ」
悲しそうな表情のままプリムローズはカップの中身を見つめたまま、何度かため息をついて再びわたくしの顔をじっと見つめてくるが、すでに以前会った時のように自信に満ち溢れた令嬢の表情ではない、傷つき絶望し……そして疲れ切った顔だ。
わたくしは黙って彼女の目を見つめ返す……以前ならこうした場合彼女は激昂するか、何かしらの嫌味などを言ってきただろうが……今回はプリムローズの矜持や自信は崩壊している。少し怯えたような表情になると黙って下を向いてしまった。
「プリムローズ様、わたくしは貴女のこと嫌いではありませんよ」
「あれだけした私を嫌いじゃない? 冗談も大概にしなさいよ……」
「令嬢として、自信に満ち溢れた貴女は魅力的でした……だからそんな顔しないでください」
彼女は少し顔色を変えて何度か口をパクパクしながら、わたくしに向かって罵倒しようとしたようだったが急に苦笑すると目からポロポロと涙を流し始めた。
ライバルだと思っていた相手から慰めの言葉をかけられるとは思っていなかったのだろう、肩を震わせながら必死に涙を堪えようとしてそれでも溢れ出る涙を抑えられない。
「貴女に何がわかる……クリスを取られて、悪魔に騙されて……私はもう令嬢失格なのよ!?」
「もしわたくしが貴女と婚約者の座を変わる用意があると言ったら、元のプリムローズ様に戻れますか?」
「何を……何を言っているの?」
「殿下と約束しています、わたくしよりふさわしい人間が現れた場合婚約者を辞退できると……でも今の貴女では渡せません」
あっけに取られた顔でプリムローズはわたくしの顔をじっと見つめている……まさかクリスとの婚約を自分から破棄するような人間がいるとは思っても見なかったのだろう。
実際内々ではあるがわたくしは今回の事件も考えて婚約者の座を他に渡せないか、と打診しているし……多分プリムローズは何か目標があったり、ライバルになる人がいた方が輝くと思うんだよなあ。
数分口の中で何事かをブツブツと呟いていたプリムローズだったが、そっと目元を拭った後にわたくしに向かって言い放った。
「やってやるわ……アンタなんかにクリスは渡せない、だから……いつか婚約者の座を奪い取って見せる、覚悟なさい!」
「何でも悪魔と契約したとか……先日の事件の黒幕とも言われていますわ」
「魔法使いの家系……ホワイトスネイク侯爵家も落ちたもんだよなあ……」
口さがない学生たち……あの日ホールにいた学生以外で事件に巻き込まれず難を逃れた者たちが噂し合うのは、ホワイトスネイク侯爵令嬢、プリムローズが起こした学園の占拠事件のことだ。
事件は速やかにクリストフェルを初めとした一部の学生と、駆けつけた衛兵隊によって鎮圧され学園は一応平穏を取り戻した。
事件から一週間ほどが経過した現在、破壊された校舎は修復途中、被害にあった学生は治療中だが一応これに便乗した小さな事件なども起きずに日常が次第に戻りつつある。
変わったことといえば……一部の学生が心的外傷を抱えて自主退学したことと、プリムローズの取り巻きが一斉に彼女から離れてしまったことだ。
まあプリムローズは現在学園には来ていないため有る事無い事言われてしまっている状況ではあるが、その中で彼女を支持するなどと言ってしまったら何をされるかわかったものではない、と言うのが本音なのだろう。
ホワイトスネイク侯爵家の影響力は地に堕ちた……当主デイヴィット・ホワイトスネイクは宮廷魔導師長と魔法師団団長を兼務していたのだが、役職を辞し領地へと一時的に帰還することになった。
隣国への影響力を加味するとイングウェイ王国最強の魔法使いであるデイヴィットがいなくなることは国防に影響が出るとして慰留されていたようだが、結果的に彼が押し切った形になった。
まあ残ったとしても娘が起こした事件によって彼の宮廷内での影響力はガタ落ちになっているし、針の筵のような状況に残ることは難しいと考えたのだろうな。
「貴族様って大変ですよね……」
「そうね……わたくしの家も同じことが起きたら、なくなってしまいますわね」
わたくしの前に座るターヤが昼食のパンを口に入れながら寂しそうな顔で話すが、それに対してわたくしも相槌を打ってから、本当にそうだよなあ……と内心深くため息をつく。
今わたくしと彼女がいるのは学園内でも少し外れた場所……昼食を静かな場所で取りたい時に使っている東屋で、ここには貴族も学生もほとんど立ち寄らないため内緒話をする時には非常に好都合な場所だ。
ターヤにとっては初めてお茶会に誘ってくれたプリムローズのことはちょっと変な人だけど嫌いじゃなかった、と話していた。むしろもっと話したいと思ってたそうで、今回学園追放となる彼女のことをとても残念がっていた。
ホワイトスネイク侯爵家は中立貴族へと戻り、王子同士の派閥には参加しないことを表明したのだけど、割と他の貴族からは「むしろ参加されたら困る」みたいな反応だったとか……今現在彼らに頼られてもどうしようもないと言う本音が透けて出ていたな。
「シャルのお家は大丈夫じゃない? だって殿下の婚約者なんだし」
「むがっ……ゲホッ……ゲホッ」
「シャル?! どうしたの? 顔が真っ赤だよ?!」
「だ、大丈……」
いきなり殿下の婚約者というワードをぶち込まれたことで、わたくしはそれまで食べていた食事を喉に詰まらせる……あの時クリスに迫られ、詰問された後、優しく抱きしめられた記憶が一気に蘇ったのだ。
胸をドンドン、と叩いて何度か呼吸を回復させるとわたくしは火照る頬に手を当てて何とか平静を保とうと深呼吸をする……だがそんなわたくしの行動を見てターヤが何か思いついたのか笑顔で微笑んだ。
「そっか……殿下とちょっといいことあったんだね?」
「え? い、いや……何もない……って……」
どうした、なぜ口籠ってしまうわたくし……あの時のクリスの真剣な眼差し、そして優しくわたくしを包み込むような抱擁……心臓がどくどくと脈打つ。
暖かったんだ、本当にクリスの抱擁は優しくてわたくしにとって暖かくて……全部わかっているから何も言わなくていい、と言わんばかりの全てを包み込むような優しさを感じて、必死に取り繕った自分の行動に胸が締め付けられるような思いと、彼に対して身を委ねたいと思うようなそんな気持ちになった。
「愛されてるね、わたくしも彼氏欲しいなあ~」
「え? いや、そ、そそそそんな……わたくしとクリスそんな関係じゃないし……」
「でも名前で呼び合ってて、お互いのこと好きなんでしょ?」
「好きとか、そんな……嫌いじゃないけど……」
どんどん熱くなる頬を氷魔法で凍らしてしまいたい……それくらい恥ずかしい気分になってわたくしはこの場から逃げ出したくなる。
「ターヤは友達だよ? 何でも言ってくださいね、わたくしが貴族だからって気にしないで」とか最初に言ってしまった自分を呪いたくなる好奇心旺盛な彼女がわたくしの内面をほじくり出そうとしている感じがして逃げ出したくなる。
先日からクリスの顔を思い浮かべるたびに胸が締め付けられそうな気分になって冷静ではいられない……黙ってしまったわたくしを見て、ターヤは少し思うところがあったのかにっこり笑う。
「いいなあ……私も好きだって言える王子様に出会えたらねえ……」
「少し良いかしら?」
二人で話をしているところへ、聞き覚えのある声で話しかけられてわたくしとターヤは同時に声の方を見るが、そこには少し疲れた顔をした縦巻きロール……プリムローズ・ホワイトスネイク侯爵令嬢の姿があった。
以前お茶会で見た時よりも遥かに疲弊しており、顔色は良くないし髪も艶がなくなっている……ちなみに悪魔との契約でこうなったというよりは精神的な疲労なども強いのだろう、彼女は辺りを気にするような仕草を見せながらも、オドオドとした表情で再びわたくしを見る。
そんな彼女を見てターヤが気を利かせたのか、黙って立ち上がるとわたくしに軽く手を振ってから小走りにどこかへと走っていった。
「プリムローズ様、お身体は大丈夫ですか?」
「……ええ、体に異常はないってお医者様にも言われているわ」
「そうですか、それはよかったです。狭い場所ですが……そちらにお掛けください」
プリムローズは黙って頭を下げると、それまでターヤが座っていた場所に腰掛ける。
わたくしはすでに昼食を食べ終わっていたので、邸宅から持ち込んでいたランチセットから魔導ポットと紅茶セットを取り出し、黙ったまま二人分の紅茶を淹れる。
人にやらせるってのも多いのだけど、インテリペリ辺境伯家では自分でちゃんと出来るようになろう、が合言葉のようなものなので兄達も一応家事はある程度できるようになっている。
「……わたくしが淹れた紅茶でお口に合うかどうかわかりませんが……」
「……器用なのね、いただくわ」
プリムローズは目の前に置かれたカップに注がれた液体……一応王国内でもそれなりに高級店から仕入れている茶葉で淹れた紅茶を見て寂しそうに微笑むとそっと口に運んでからポツリと「……美味しい」と軽く驚いていた。わたくしはそんな彼女の表情を見てにっこりと微笑むと目の前のカップから紅茶を軽く啜る。
わたくしとプリムローズは数分の間、黙ったまま紅茶の味を楽しんでいたが、不意にプリムローズがわたくしに向かって話しかけてきた。
「やはり貴女は……本当に綺麗ね、嫉妬しか感じないわ……殿下が夢中になるのもわかる」
「……クリス……いや殿下とはお話をされましたか?」
「ええ……私は学園を追放される身だけど、殿下からは静養して体を休めてからまた話をしようと告げられたわ」
悲しそうな表情のままプリムローズはカップの中身を見つめたまま、何度かため息をついて再びわたくしの顔をじっと見つめてくるが、すでに以前会った時のように自信に満ち溢れた令嬢の表情ではない、傷つき絶望し……そして疲れ切った顔だ。
わたくしは黙って彼女の目を見つめ返す……以前ならこうした場合彼女は激昂するか、何かしらの嫌味などを言ってきただろうが……今回はプリムローズの矜持や自信は崩壊している。少し怯えたような表情になると黙って下を向いてしまった。
「プリムローズ様、わたくしは貴女のこと嫌いではありませんよ」
「あれだけした私を嫌いじゃない? 冗談も大概にしなさいよ……」
「令嬢として、自信に満ち溢れた貴女は魅力的でした……だからそんな顔しないでください」
彼女は少し顔色を変えて何度か口をパクパクしながら、わたくしに向かって罵倒しようとしたようだったが急に苦笑すると目からポロポロと涙を流し始めた。
ライバルだと思っていた相手から慰めの言葉をかけられるとは思っていなかったのだろう、肩を震わせながら必死に涙を堪えようとしてそれでも溢れ出る涙を抑えられない。
「貴女に何がわかる……クリスを取られて、悪魔に騙されて……私はもう令嬢失格なのよ!?」
「もしわたくしが貴女と婚約者の座を変わる用意があると言ったら、元のプリムローズ様に戻れますか?」
「何を……何を言っているの?」
「殿下と約束しています、わたくしよりふさわしい人間が現れた場合婚約者を辞退できると……でも今の貴女では渡せません」
あっけに取られた顔でプリムローズはわたくしの顔をじっと見つめている……まさかクリスとの婚約を自分から破棄するような人間がいるとは思っても見なかったのだろう。
実際内々ではあるがわたくしは今回の事件も考えて婚約者の座を他に渡せないか、と打診しているし……多分プリムローズは何か目標があったり、ライバルになる人がいた方が輝くと思うんだよなあ。
数分口の中で何事かをブツブツと呟いていたプリムローズだったが、そっと目元を拭った後にわたくしに向かって言い放った。
「やってやるわ……アンタなんかにクリスは渡せない、だから……いつか婚約者の座を奪い取って見せる、覚悟なさい!」
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※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
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※表紙はAIイラストを使用。
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