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9 コスモ・ラダー社設立
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「それで?」
「単刀直入に言います。俺に惑星開発のノウハウを教えてください。いま、メタル・ラダー社が開発している仕事を手伝わせてください。ラジンのような貴重な鉱物を開発する惑星でなくてもいい。タダでとは言いません。金はありませんが、たとえば荷を運んだり、警備をしたり…、俺たちにできる形で、借りはかえさせていただきます」
「キミには、コスモ・サンダー総督としての仕事があるだろう?」
「ここ数カ月で組織を整えました。俺がいなくても動く組織になっています。それに、各艦隊を動かすのは司令官の役目で、俺は指示するだけです。それよりも俺には、新しいコスモ・サンダーの道を付けることの方がはるかに大切です」
「ふむ」
ケイジ・ラダーはしばらく考えてから口を開いた。
「それなら、やはりラジン鉱脈の開発を任せよう。メタル・ラダー社だけでやるには荷が重いと思っていた。もう、ずいぶん前に発見した鉱脈をそのままにしているのは、それなりの理由があったんだ。
ラジンが見つかったとわかれば、それこそ違法企業や海賊たちが群がってくるからね。前に打診したとき、キミはできないとはいわなかった。できるのだろう?」
「はい…。しかし、メタル・ラダー社のこれからを左右する重要な開発で、俺たちみたいな無法者が大きな顔をしてもいいのですか、社の方々が納得しないのでは?」
「わたしは社長なんだ。誰にも文句は言わせない。それに、たとえラジンの開発がポシャッても、うちの社はびくともしない。
だが、…そうだな、一つだけ聞いておこう。キミはコスモ・サンダーの名を前面に出して新規事業を始めるつもりかい?」
レイモンドは首を振る。
「コスモ・サンダーも俺も、前面に出るつもりはありません。それでも、コスモ・サンダーの構成員が出入りしているのは、わかるでしょう」
「よし、それならメタル・ラダー社の子会社を作って、阿刀野レイを社長に任命しよう。そして、うちの社のものとコスモ・サンダーの構成員を社員にすればいい」
「阿刀野レイの名を出すのは、まずくありませんか…」
「宇宙船の爆発に巻き込まれて死んだとされているけれど、誰も事実は知らない。阿刀野レイは超一流のクーリエだった。もしかしたら生きているかもしれないと思っている取引先だって多いだろう。しばらく休養していたと言って、いま、キミが表舞台に登場しても不思議に思わないよ。それに、阿刀野レイなら…」
「俺は総督宣言をしたときに、面が割れました。メタル・ラダー社の社員や宇宙軍の中に、俺の映像を見たものがいるかもしれない。ゴールドバーグが阿刀野レイだということは、すぐにばれますよ」
「どう思う、ジャック?」
「そうですねえ…。コスモ・サンダーの制服でも着ない限り、誰も阿刀野レイが海賊団の総督だとは思わないだろうな。あんた、阿刀野レイのときは、いまみたいなハデななりしかしなかっただろう…」
「ということだ。わたしも、あの映像を手に入れたが、今ここにいるキミとは別人に見える」
「……」
「ということで、惑星開発を積極的に推し進めるために、メタル・ラダー社は子会社コスモ・ラダー社を設立する。うちからも技術者や経営のわかるものを派遣するが、キミがCEOに納まって、好きなように組織をつくればいい」
「社長。そんなに軽々しく子会社を作るなどと言って…、知りませんよ」とジャック。
いつもは手堅い商売をしているケイジ・ラダーである。ジャックには途方もない話に思えたのだが…。
レイモンドもその通りだと思う。好意にしても、度が過ぎている。
「ミスター・ラダー。俺はあなたが罠をかけるなどと思いませんが、深読みしてしまうくらい、うますぎる申し出ですね」
「そうかい? わたしがどれほどキミを欲しがっていたか忘れたのかい?」
「あっ…、いえ。でも、今の俺はクーリエの阿刀野レイではなく、これでもコスモ・サンダーの総督ですよ」
「わかっている。キミの部下たちは全員、文句を言わずにキミの命令に従うんだろう」
ケイジ・ラダーはイタズラっぽく言うと、目をくりんと回した。
「それは、そうですが…。アーシャのようなものもいます」
「あれはキミの命を守るためだ。キミほど社長にふさわしい男はいない。しばらくはトップダウンで組織を運営すればいい。軌道に乗ってきたら、任せられるところは任せて…。
まあ、会社経営のことなんかは後回しだ。わたしはキミの能力と運にメタル・ラダー社の将来を賭けるよ」
「あ、ありがとうございます。そこまでいってもらえるなんて…」
レイモンドが深々と頭を下げる。
「メタル・ラダー社の将来と、コスモ・サンダーの未来がかかっているとなると、本腰を入れて取り組まなくちゃ。荷が重いですね…」
「はは…、わたしがうまくキミを使おうとしているのがわかるかな。わたしは損な取引はしない。キミには、文句を言わずに働く優秀な部下がいる。宇宙に関してはどの企業よりも詳しいだろう。輸送や警備にかけても一流のはずだ。それに、わたしはキミの営業力も買っているよ。クーリエの時に、いいクライアントをたくさん持っていた。キミなら、出資者を集めることも、新規事業を始めることも容易いだろう。わたしを頼ってきてくれたことを感謝したいくらいだ」
部屋の隅で聞いていたアレクセイは、2人のやりとりを唖然として聞いていた。
まだ、展開についていけない。だが、コスモ・サンダーが新しい一歩を踏み出そうとしている。それも、自分が考えもしなかったような方向に進もうとしている。いや、レイモンドが強引に舵を切ったというのが正しい。
レイモンドと一緒なら、世間から後ろ指をさされ、恐れられる海賊として生きるのも悪くはないと思っていたアレクセイである。宇宙軍を裏切ったとき、もう二度とまっとうな生き方はできないと覚悟した。
それなのに。
海賊の総督に納まったはずの男が、海賊行為をしたくないから、させたくないから、新しい事業を興すという。
この人には、どれほどの力があるのだろうか。自分は、その一端しか知らなかったのだとアレクセイは思った。
「単刀直入に言います。俺に惑星開発のノウハウを教えてください。いま、メタル・ラダー社が開発している仕事を手伝わせてください。ラジンのような貴重な鉱物を開発する惑星でなくてもいい。タダでとは言いません。金はありませんが、たとえば荷を運んだり、警備をしたり…、俺たちにできる形で、借りはかえさせていただきます」
「キミには、コスモ・サンダー総督としての仕事があるだろう?」
「ここ数カ月で組織を整えました。俺がいなくても動く組織になっています。それに、各艦隊を動かすのは司令官の役目で、俺は指示するだけです。それよりも俺には、新しいコスモ・サンダーの道を付けることの方がはるかに大切です」
「ふむ」
ケイジ・ラダーはしばらく考えてから口を開いた。
「それなら、やはりラジン鉱脈の開発を任せよう。メタル・ラダー社だけでやるには荷が重いと思っていた。もう、ずいぶん前に発見した鉱脈をそのままにしているのは、それなりの理由があったんだ。
ラジンが見つかったとわかれば、それこそ違法企業や海賊たちが群がってくるからね。前に打診したとき、キミはできないとはいわなかった。できるのだろう?」
「はい…。しかし、メタル・ラダー社のこれからを左右する重要な開発で、俺たちみたいな無法者が大きな顔をしてもいいのですか、社の方々が納得しないのでは?」
「わたしは社長なんだ。誰にも文句は言わせない。それに、たとえラジンの開発がポシャッても、うちの社はびくともしない。
だが、…そうだな、一つだけ聞いておこう。キミはコスモ・サンダーの名を前面に出して新規事業を始めるつもりかい?」
レイモンドは首を振る。
「コスモ・サンダーも俺も、前面に出るつもりはありません。それでも、コスモ・サンダーの構成員が出入りしているのは、わかるでしょう」
「よし、それならメタル・ラダー社の子会社を作って、阿刀野レイを社長に任命しよう。そして、うちの社のものとコスモ・サンダーの構成員を社員にすればいい」
「阿刀野レイの名を出すのは、まずくありませんか…」
「宇宙船の爆発に巻き込まれて死んだとされているけれど、誰も事実は知らない。阿刀野レイは超一流のクーリエだった。もしかしたら生きているかもしれないと思っている取引先だって多いだろう。しばらく休養していたと言って、いま、キミが表舞台に登場しても不思議に思わないよ。それに、阿刀野レイなら…」
「俺は総督宣言をしたときに、面が割れました。メタル・ラダー社の社員や宇宙軍の中に、俺の映像を見たものがいるかもしれない。ゴールドバーグが阿刀野レイだということは、すぐにばれますよ」
「どう思う、ジャック?」
「そうですねえ…。コスモ・サンダーの制服でも着ない限り、誰も阿刀野レイが海賊団の総督だとは思わないだろうな。あんた、阿刀野レイのときは、いまみたいなハデななりしかしなかっただろう…」
「ということだ。わたしも、あの映像を手に入れたが、今ここにいるキミとは別人に見える」
「……」
「ということで、惑星開発を積極的に推し進めるために、メタル・ラダー社は子会社コスモ・ラダー社を設立する。うちからも技術者や経営のわかるものを派遣するが、キミがCEOに納まって、好きなように組織をつくればいい」
「社長。そんなに軽々しく子会社を作るなどと言って…、知りませんよ」とジャック。
いつもは手堅い商売をしているケイジ・ラダーである。ジャックには途方もない話に思えたのだが…。
レイモンドもその通りだと思う。好意にしても、度が過ぎている。
「ミスター・ラダー。俺はあなたが罠をかけるなどと思いませんが、深読みしてしまうくらい、うますぎる申し出ですね」
「そうかい? わたしがどれほどキミを欲しがっていたか忘れたのかい?」
「あっ…、いえ。でも、今の俺はクーリエの阿刀野レイではなく、これでもコスモ・サンダーの総督ですよ」
「わかっている。キミの部下たちは全員、文句を言わずにキミの命令に従うんだろう」
ケイジ・ラダーはイタズラっぽく言うと、目をくりんと回した。
「それは、そうですが…。アーシャのようなものもいます」
「あれはキミの命を守るためだ。キミほど社長にふさわしい男はいない。しばらくはトップダウンで組織を運営すればいい。軌道に乗ってきたら、任せられるところは任せて…。
まあ、会社経営のことなんかは後回しだ。わたしはキミの能力と運にメタル・ラダー社の将来を賭けるよ」
「あ、ありがとうございます。そこまでいってもらえるなんて…」
レイモンドが深々と頭を下げる。
「メタル・ラダー社の将来と、コスモ・サンダーの未来がかかっているとなると、本腰を入れて取り組まなくちゃ。荷が重いですね…」
「はは…、わたしがうまくキミを使おうとしているのがわかるかな。わたしは損な取引はしない。キミには、文句を言わずに働く優秀な部下がいる。宇宙に関してはどの企業よりも詳しいだろう。輸送や警備にかけても一流のはずだ。それに、わたしはキミの営業力も買っているよ。クーリエの時に、いいクライアントをたくさん持っていた。キミなら、出資者を集めることも、新規事業を始めることも容易いだろう。わたしを頼ってきてくれたことを感謝したいくらいだ」
部屋の隅で聞いていたアレクセイは、2人のやりとりを唖然として聞いていた。
まだ、展開についていけない。だが、コスモ・サンダーが新しい一歩を踏み出そうとしている。それも、自分が考えもしなかったような方向に進もうとしている。いや、レイモンドが強引に舵を切ったというのが正しい。
レイモンドと一緒なら、世間から後ろ指をさされ、恐れられる海賊として生きるのも悪くはないと思っていたアレクセイである。宇宙軍を裏切ったとき、もう二度とまっとうな生き方はできないと覚悟した。
それなのに。
海賊の総督に納まったはずの男が、海賊行為をしたくないから、させたくないから、新しい事業を興すという。
この人には、どれほどの力があるのだろうか。自分は、その一端しか知らなかったのだとアレクセイは思った。
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