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無能と呼ばれる女勇者だけの勇者パーティー(パーティーじゃない)

決着、気配の正体

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 どのぐらいの時間が経ったのか、もう分からなくなっていた。
 それほどの長期戦だった。
 しかし、相変わらず俺もネグレリアも、相手を挑発したり罵り合ったりしている。

 「どうした? へばって来たんじゃねえか?」
 「それはこっちのセリフよ! アンタこそ、もう限界なんじゃない?」
 「まだまだ余裕に決まってんだろ? いつまでもやってられるぜ?」

 もちろんブラフだ。
 余裕なわけがない。
 魔王軍の幹部という強敵と長い間戦っているんだから、当たり前だが。

 「んもう! 本当に……アンタ可愛くないわね! ちっとも隙見せないじゃない! アンタの体力なんなのよ! 本当に人間!?」
 「元の世界じゃ、とにかくスタミナが必要だと教えられたからな! そこら辺の女神の加護頼みの奴らとは一味違うぜ?」
 「化け物ね……こんなにも長い間動けるなんて……今までアタシが出会ってきた人間は、一体なんだったのかしら……」
 
 ……高校の時の監督には感謝だな。
 元の世界の時は、バカみたいに走らせて、とにかくスタミナを付けろ! と連呼するだけとか、いつの時代の野球部の監督だよ……と思っていてすいませんでした。

 お陰で、今では異世界の魔王軍幹部であるネグレリアに、化け物と呼ばれるくらいの人間に成長しました。
 ……まあ、ほとんど女神の加護での身体強化と麗翠れみの強化魔法のお陰なんだけどね。
 
 だが、俺も動きにキレがなくなってきた。
 こんなにも長時間、女神の剣イーリス・ブレイドと女神の加護を使い続けたのは、初めてなので身体が少し痛くなってきている。
 しかし、ネグレリアも戦い始めた時より動きが鈍くなっている。

 このままいけば多分イケる。

 不安要素があるとすれば……一瞬だけ感じた女神の加護持ちの気配だな。
 そいつが味方なら良いが……。
 まあ……味方では無いんだろうな。

 近くにいて、俺とネグレリアの戦いを見ているのに、加勢に加わって来ない辺り。

 「あら……アンタに手こずっている場合じゃ無さそうね! アンタよりもヤバそうなのがいるわ!」
 「!?」

 突然、ネグレリアはそう言うと、急に攻めてきた。
 この長い時間の戦いの間、隙を伺うばかりで、俺の攻撃をいなし続け、ほとんど攻めずにいたはずのネグレリアが、一気にくる。

 一瞬、驚いて隙が出来てしまう。
 クソッ……使うしかねえ!
 ここで、俺が持つ全ての女神の加護を!

 「貰ったわ! 終わりよ!」
 「当たれえええええ!!!!!」

 ザシュ。

 ミシッ……バキッ……ピキッ……グシャ。

 肉が斬れた音の後、何かが壊れたような音がして、最後に骨が折れた音がした。

 「……う、ウブッ……ゲフッ……ガハッ……ゴホッ……」
 「あは~! 喰らっちゃったわねえ! 思いっきり! でも、褒めてあげるわ! アタシの利き腕を斬って、血を流させたことは!」

 肉が斬れた音は、ネグレリアの右腕の肉が斬れた音。
 何か壊れたような音は、俺の防具が壊れた音。
 そして、骨が折れた音は、俺の肋骨が折れた音だった。
 一気に身体の中から血が喉まで上がってきて、思わず血を吐いてしまった。

 ああ……クソ。
 隠していた切り札女神の加護の剣術能力の一つ、互いの斬撃を相殺し、わずかに押し切ることで微妙に相手の斬撃をずらす合撃《がっしうち》を使ったが……無理だったか。

 でも、全部の女神の加護を使ったお陰で、死なずに死んだ。
 まあ……重傷なんですけどね。

 「……やっと……お前の……身体に……剣を……当てられたぜ」
 「そうね。でも、アンタはもう負けよ!」
 「……いいや、負けたのは……お前……だ」
 「死になさい!」

 ネグレリアは勝ったと言わんばかりに、俺に強烈な一撃を喰らわせようとする。
 当然だ。
 ネグレリアの攻撃が鎧に当たっていたとはいえ、俺の着ていた鎧では防ぎきれず壊され、肋骨も完璧に折られて立てない。
 対してネグレリアは、腕を少し斬られた程度。

 どう考えても、大きなダメージを負ったのは俺。
 負けそうなのは、俺。
 止めを刺す権利があるのは、ネグレリア。
 誰が見てもそうだろう。
 
 だが……その一撃が俺に届くことはなかった。

 「な……何……を……し、したの……? アン……タ……?」

 ネグレリアは突然動けなくなり、魔王の剣ベリアル・ブレイドを地面に落とし、そのまま地面へと倒れる。

 「大丈夫!? じん!」
 「離れ……た……とこ……ろ……で、見て……ろ……って、言った……ろ……」
 「黙って見てられるわけないじゃん! ネグレリアに攻撃を当てるために死ぬ覚悟で向かったのが、分かっちゃったんだもん! 死んだら……死んだら……治せないんだよ!」
 「い……痛……い。は、早く……か、回……復」
 「リカバリー……フルスロットル!」

 どうやら麗翠は俺がダメージ覚悟で、ネグレリアに攻撃を当てようとしていることを察して、俺の近くに来たみたいだ。
 ……本当に離れた所で見てたのか? 遠目でそんなことが分かるか?
 まあ……回復魔法は、凄く助かるけど。

 「……もう、大丈夫だ麗翠」
 「ちょっ! まだ回復しきれてないって!」
 「良いから……早くしないと女神の紫イーリス・パープルの麻痺毒効果が切れる」

 回復魔法をかけている麗翠を静止して立ち上がり、倒れて動けなくなっているネグレリアの近くへ行く。
 
 「ア……アン……タ……何……を……」

 俺が近付いてきたことに気付いたネグレリアは、自分に何をしたんだと聞いてくる。
 なので、止めを刺しつつ教える。

 「女神の剣の三本同時起動って言ってたろ? 女神の紫で使える専用魔法は、致死に至る毒魔法だけじゃないぜ? 麻痺に特化した毒魔法もあるんだよ! そしてそれは剣に付与出来……る!」
 「ア……ア……ア……」

 ネグレリア・ワームを通して、俺の戦い方や使える魔法はほぼほぼバレていた。
 ネグレリアにこんなにも苦戦した理由の一つだろう。
 対策を打たれていたというのは。

 だが逆にそれは、ネグレリア・ワームの前で使っていない魔法は、対策していないと俺に教えているようなもんだった。
 
 ネグレリアの敗因はそこだろう。

 「……色々、お前に聞きたいことはあったが……そんな余裕は無さそうなんでな」
 「…………」

 ネグレリアの持つ情報は欲しかったが……再度やったら勝てる気が全くしないと判断した俺は、ネグレリアをバラバラに切り刻んで、殺した。
 これで終わり……では無さそうだな。

 この、人を見下したような拍手……。

 「ずっと俺達の近くにいたのは……お前か、神堂しんどう
 「いやーやっぱやるなあ……上様。さて、取引しようぜ?」

 神堂は、取引しようぜと言っているものの……既に、自らの持つ魔王の剣を抜いていた。
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