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無能と呼ばれる女勇者だけの勇者パーティー(パーティーじゃない)

五十嵐 里香

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 「落ち着いたか?」
 「うん……ごめんね。急に泣き出して……本当に……ごめん……ちゃんと……話すから」

 目を腫らしながら何度も何度も俺に謝る麗翠れみ
 悪いのはデリカシーのない俺なんだから謝らなくて良いのに。

 ……というか、麗翠は結構、すぐに謝るクセがあったけど、ますます酷くなってないか?
 一回、本人に直接は言わなかったけど、麗蒼れあに麗翠の謝りグセについて相談したこともある。
 
 ちょっとしたミスをしただけで、後輩の前とかで泣きそうな顔をして謝ってくるから、俺が泣かしたみたいな感じになって困るって。
 
 麗蒼はお姉ちゃんにそんなクセ無いと思うけど? って言ってたけど……。
 間違いなく謝りグセは酷くなっているし、これは立派な悪癖だろ。
 人によるけど、謝りグセのある人間に対してイラつく人だっているはずだし。

 「本当にごめんね……」

 また謝ったよ。
 ここまで来ると謝りグセだけじゃなくて、精神的にも参ってそうだな。

 「何度も謝らなくていい。あんまり気にし過ぎるな。……というか、麗蒼も勇者だったんだな」
 「うん……私とは違って活躍しているみたいだけどね」

 ……これで七人の勇者が完全に判明したな。
 天ケ浦あまがうら岸田きしだ神堂しんどう麗翠れみ麗蒼れあ大関おおぜき、そしてあの役立たず。
 ……実質、今はまともな勇者は二人って事か。

 大関は殺されたし、ケントは既に無力で、岸田は力を悪用して好き勝手に、神堂は完全に天ケ浦狙い。
 そして、完全にメンタルがやられてしまったであろう麗翠。
 問題が無さそうなのが、天ケ浦と麗蒼ぐらいしかいない。

 ……マジで見る目ねえ……イーリス。

 「佐々木ささきさんと竹内たけうちくん。後は五十嵐いがらしさん。私と一緒のパーティーメンバーだった三人は、全員麗蒼の所へ行っちゃったんだ」
 「……ちょっと待て、五十嵐がいたのか?」
 
 佐々木と竹内。
 言い方は悪くなるが、この二人は凡人だ。
 勉強も運動も、良い方でも悪い方でも目立っているところを見たことない。
 良く言えば、バランスが取れている。
 性格面でも、岸田きしだ達みたいなクズってわけでも無いし、神堂しんどうみたいな自己中野郎というわけでもない。

 ……問題なのは五十嵐だ。

 「五十嵐って五十嵐いがらし里香りかだろ?」
 「う……うん。……ど、どうしたの……? 急にそんな顔して……? わ、私何か気に触ること言った?」
 「……五十嵐は麗蒼の所には行ってねえぞ。恐らく、岸田きしだ達と一緒に行動しているはずだ」
 「え……? だ、だって、一番最初に麗蒼の所へ行くって手紙を残していなくなったのに……」

 情報が揃っている今だから分かる。

 ボルチオール王国とセトロベイーナ王国にはいなかった。
 元々アルラギア帝国の勇者パーティーだったわけでもない。
 神堂の三人とも捕まえて牢にぶち込んだという発言からして、神堂と同じパーティーだったわけでもない。
 天ケ浦と一緒のパーティーだったら、ラルジュード帝国に仕えていたことになるから、敵対しているアルラギア帝国に受け入れて貰えなかっただろうから、これもあり得ない。 
 
 そうなると五十嵐が裏切ったのは、麗翠か麗蒼の二人に絞られる。
 ちなみに園部そのべも同じだ。

 ……で、ここに麗翠の情報を当てはめると。

 五十嵐は麗翠を、園部は麗蒼を裏切って、岸田のパーティーメンバーとなったということが分かる。

 だが、麗翠は困惑している。
 麗蒼の元へ行くと伝えられていたからだろう。
 だが、納得させるだけの材料はある。
 
 「五十嵐ってもしかして、弓矢使いアーチャーだったろ?」
 「え……な、何で知ってるの?」
 「セトロベイーナ王国って分かるだろ? アルレイユ公国ここの西側の隣国だ。そこで、五十嵐に殺されかけた。セトロベイーナ軍の兵士達も急所を矢で射抜かれて殺されていたから、五十嵐の女神の加護の効果だろ?」
 「うん。五十嵐さんの加護は、どんな所から矢を放っても、急所に矢を当てられる能力だよ」

 うへえ……何だよそのチート加護。
 しかも、イーリス特製の弓なんだろ? どうせ五十嵐が持っている弓は。
 そこに、岸田か園部かは分からんが魔法付与で威力アップ。
 そりゃこの世界の人間が勝てるわけねえ。

 「そんなことよりも、何でじんが五十嵐さんに殺されそうになったの? 大丈夫? 怪我とかしてない?」
 「俺は大丈夫だが……この世界の人間は、五十嵐にかなり殺されていると思うぞ? アルラギア帝国って知ってるか? そこの勇者パーティーとして、岸田達と一緒に他国を侵略しまくっているみたいだからな」
 「アルラギア……帝国……」
 「……ん? どうした?」

 アルラギア帝国の名前を出した途端に、一気に麗翠の表情が曇る。

 「ねえ……仁? どうして私がこの国で、こんな扱いを受けているのに、逃げようとしないのか分かる?」
 「……急にどうした?」

 そんな事を言われても分かる訳がない。
 まあ……確かに疑問ではあったが。
 逃げようとすれば、こんな国から逃げるのなんて難しくないはず。
 ……というかさ。

 この国の勇者を引き抜いてセトロベイーナ王国を守って貰おうと思っていたのに、メンタルが崩壊した麗翠で大丈夫かな? 
 ……いや、大丈夫じゃないな、これ。
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