48 / 129
ぽっちゃり女勇者と後三人誰だよ…の勇者パーティー(壊滅状態)
必ずフィスフェレムを討伐しろ
しおりを挟む
誰もいない宮殿内。
当然俺は大関がどこにいるか分からないので、女王様の後ろをついて行くしかない。
女神の藍を手に入れる為にも。
……それにしても、本当に誰もいねえな。
ボルチオール王国の城とは違い過ぎて、本当に国のトップが住んでいるのか疑いたくなる。
敷かれている絨毯や天井にあるシャンデリアは高級品なのは見りゃ分かる。
……が、誰もいねえ。
そこそこ宮殿内を歩いているのに誰もいないんだよ。
それがこの違和感の正体なんだ。
「ここです、勇者オーゼキのいる場所は」
階段を降りて、長い廊下を歩き続け、案内されたのは宮殿の最深奥の部屋。
あー……何で女王様の護衛が数人しかいなかったのか分かったわ。
「凄い厳重警備ですね」
「勇者オーゼキが何者かに殺されるような事があれば、セトロベイーナは終わりですから」
本当に終わりなんだろうな。
大関が殺されれば。
その証拠に部屋の前には、女王様を護衛していた騎士達よりも屈強で、全然強そうに見える護衛の騎士や兵士が数十人もいた。
「入りますよ、皆さん」
部屋の一番近くにいた護衛騎士の手により、扉が開かれる。
まず、目に入って来たのは部屋の床に座り込んで疲弊しているメイド達や執事達だった。
……宮殿内を案内する人間がいないと思ったらこの部屋に大量にいたのかよ。
「本当に……お疲れ様」
「じょ、女王様……ああっ、お見苦しい姿をお見せして……」
「良いのよ、そのまま休んでいて」
立ち上がろうとするメイドや執事達に女王様が労いの言葉を掛けているのを横目に、俺はセトロベイーナ軍の魔法使い達を始めとした様々な人間が大関が眠っているベッドを囲んでいるのを見ていた。
そういえば、国境の関所で兵士が言っていたな。
大関を必死に延命させているって。
メイドだろうが執事だろうが関係なく、回復魔法や治癒魔法を使える人間は、この部屋に集中させていたから、メイドも執事も客人を案内する人間もいなかったのか。
「……大関」
必死に延命されている、元クラスメイトの名を誰にも気付かれない様に呟いた。
いや、自然と口にしていたと言ったほうが正しいのかもしれない。
嘘だろ?
女神の加護があるはずだろ?
しかも、大関は勇者として六番目とはいえ一応女神の剣を持っている。
その大関が、ズタズタになっていた。
顔は、殴られたのかは分からないが、酷く腫れ上がっていて、腕や足は包帯でぐるぐる巻きの状態と見るに堪えない姿だ。
こんなの元の世界で恐らく生きているであろう、大関の両親になんか見せたら卒倒もんだろ。
「……勇者オーゼキを連れ帰った騎士の話によると、フィスフェレムによって操られた、騎士サトー、剣士イトーの二人に攻撃されて、勇者オーゼキは未だに目覚める事が出来ない程のダメージを負ってしまったのです。フィスフェレムに大勢の人間の命を奪われるくらいなら、自分が犠牲になると言って、全く抵抗しなかったそうです。……結局、勇者オーゼキを救う為に、多くのセトロベイーナ軍の人間が命を落としたと報告を受けましたが」
今の大関の姿を見て、言葉を失った俺にどうしてこうなったか、女王様が説明してくれた。
騎士サトーも剣士イトーも俺の元クラスメイトの人間だから、女神の加護を持っている。
だから、大関をボコボコに出来たのか。
……抵抗しなかった理由も大関らしいな。
「恐らく、勇者オーゼキは目覚めても、もう一生戦う事は出来ないでしょう。いや、わたくしが勇者オーゼキを戦わせたくないのです。あまりに可哀想過ぎて……。だから勇者様……ジン様に女神の藍を託したい」
「分かりました、必ずフィスフェレムを倒しますよ。女神の黒……」
俺は女神の黒を引き抜いて、切先を大関へ向ける。
だが、それを見た護衛の騎士や兵士が部屋に入って来ようとする。
それを女王様が制してくれたので、俺が護衛達にボコボコにされるという事は避けられたが、邪魔が入ったし、やり直すか。
改めて女神の黒の切先を大関に向ける。
「女神の黒。大関から、女神の藍を奪え。女神の加護はいらない。女神の藍だけ奪え」
「……どう、ですか? ジン様?」
「……成功です。約束通り、リベッネと二人でフィスフェレムの討伐をしましょう」
女王様の心配は杞憂だった。
何事も無く、俺は大関から女神の藍を奪う事に成功した。
これで魔王軍の討伐がしやすくなった上に、俺は更に強くなった。
喜ばしい事だ。
だが、少し悲しくもあった。
……やはり、現実は残酷だ。
俺が奪う事に成功したという事は、今の大関は、俺よりも実力が下で、勇者としても不適格だという事の証明だから。
大関はセトロベイーナの人間の為にフィスフェレムに勇敢に挑み、セトロベイーナの人間の命を守る為に抵抗せず自分の身を犠牲にしてここまでボロボロになったのに。
その末路が、これか。
「……馬車借りれます?」
「え? も、もちろんです! それくらいのサポートはします!」
「それでは、すぐにリベッネの元へ戻りますか」
「あ、ジン様! 待って下さい!」
逃げる様に、俺は大関が延命措置を受けていた部屋から出た。
大関はどうせすぐ死ぬからいずれ女神の藍は手に入るとか考えていた俺はあの場に長くいるべきじゃない。
そう思ったから。
申し訳無いと思うなら、フィスフェレムを討伐しろ。
必ず、フィスフェレムを。
俺は、大関の持っていた女神の剣を奪ったのだから。
当然俺は大関がどこにいるか分からないので、女王様の後ろをついて行くしかない。
女神の藍を手に入れる為にも。
……それにしても、本当に誰もいねえな。
ボルチオール王国の城とは違い過ぎて、本当に国のトップが住んでいるのか疑いたくなる。
敷かれている絨毯や天井にあるシャンデリアは高級品なのは見りゃ分かる。
……が、誰もいねえ。
そこそこ宮殿内を歩いているのに誰もいないんだよ。
それがこの違和感の正体なんだ。
「ここです、勇者オーゼキのいる場所は」
階段を降りて、長い廊下を歩き続け、案内されたのは宮殿の最深奥の部屋。
あー……何で女王様の護衛が数人しかいなかったのか分かったわ。
「凄い厳重警備ですね」
「勇者オーゼキが何者かに殺されるような事があれば、セトロベイーナは終わりですから」
本当に終わりなんだろうな。
大関が殺されれば。
その証拠に部屋の前には、女王様を護衛していた騎士達よりも屈強で、全然強そうに見える護衛の騎士や兵士が数十人もいた。
「入りますよ、皆さん」
部屋の一番近くにいた護衛騎士の手により、扉が開かれる。
まず、目に入って来たのは部屋の床に座り込んで疲弊しているメイド達や執事達だった。
……宮殿内を案内する人間がいないと思ったらこの部屋に大量にいたのかよ。
「本当に……お疲れ様」
「じょ、女王様……ああっ、お見苦しい姿をお見せして……」
「良いのよ、そのまま休んでいて」
立ち上がろうとするメイドや執事達に女王様が労いの言葉を掛けているのを横目に、俺はセトロベイーナ軍の魔法使い達を始めとした様々な人間が大関が眠っているベッドを囲んでいるのを見ていた。
そういえば、国境の関所で兵士が言っていたな。
大関を必死に延命させているって。
メイドだろうが執事だろうが関係なく、回復魔法や治癒魔法を使える人間は、この部屋に集中させていたから、メイドも執事も客人を案内する人間もいなかったのか。
「……大関」
必死に延命されている、元クラスメイトの名を誰にも気付かれない様に呟いた。
いや、自然と口にしていたと言ったほうが正しいのかもしれない。
嘘だろ?
女神の加護があるはずだろ?
しかも、大関は勇者として六番目とはいえ一応女神の剣を持っている。
その大関が、ズタズタになっていた。
顔は、殴られたのかは分からないが、酷く腫れ上がっていて、腕や足は包帯でぐるぐる巻きの状態と見るに堪えない姿だ。
こんなの元の世界で恐らく生きているであろう、大関の両親になんか見せたら卒倒もんだろ。
「……勇者オーゼキを連れ帰った騎士の話によると、フィスフェレムによって操られた、騎士サトー、剣士イトーの二人に攻撃されて、勇者オーゼキは未だに目覚める事が出来ない程のダメージを負ってしまったのです。フィスフェレムに大勢の人間の命を奪われるくらいなら、自分が犠牲になると言って、全く抵抗しなかったそうです。……結局、勇者オーゼキを救う為に、多くのセトロベイーナ軍の人間が命を落としたと報告を受けましたが」
今の大関の姿を見て、言葉を失った俺にどうしてこうなったか、女王様が説明してくれた。
騎士サトーも剣士イトーも俺の元クラスメイトの人間だから、女神の加護を持っている。
だから、大関をボコボコに出来たのか。
……抵抗しなかった理由も大関らしいな。
「恐らく、勇者オーゼキは目覚めても、もう一生戦う事は出来ないでしょう。いや、わたくしが勇者オーゼキを戦わせたくないのです。あまりに可哀想過ぎて……。だから勇者様……ジン様に女神の藍を託したい」
「分かりました、必ずフィスフェレムを倒しますよ。女神の黒……」
俺は女神の黒を引き抜いて、切先を大関へ向ける。
だが、それを見た護衛の騎士や兵士が部屋に入って来ようとする。
それを女王様が制してくれたので、俺が護衛達にボコボコにされるという事は避けられたが、邪魔が入ったし、やり直すか。
改めて女神の黒の切先を大関に向ける。
「女神の黒。大関から、女神の藍を奪え。女神の加護はいらない。女神の藍だけ奪え」
「……どう、ですか? ジン様?」
「……成功です。約束通り、リベッネと二人でフィスフェレムの討伐をしましょう」
女王様の心配は杞憂だった。
何事も無く、俺は大関から女神の藍を奪う事に成功した。
これで魔王軍の討伐がしやすくなった上に、俺は更に強くなった。
喜ばしい事だ。
だが、少し悲しくもあった。
……やはり、現実は残酷だ。
俺が奪う事に成功したという事は、今の大関は、俺よりも実力が下で、勇者としても不適格だという事の証明だから。
大関はセトロベイーナの人間の為にフィスフェレムに勇敢に挑み、セトロベイーナの人間の命を守る為に抵抗せず自分の身を犠牲にしてここまでボロボロになったのに。
その末路が、これか。
「……馬車借りれます?」
「え? も、もちろんです! それくらいのサポートはします!」
「それでは、すぐにリベッネの元へ戻りますか」
「あ、ジン様! 待って下さい!」
逃げる様に、俺は大関が延命措置を受けていた部屋から出た。
大関はどうせすぐ死ぬからいずれ女神の藍は手に入るとか考えていた俺はあの場に長くいるべきじゃない。
そう思ったから。
申し訳無いと思うなら、フィスフェレムを討伐しろ。
必ず、フィスフェレムを。
俺は、大関の持っていた女神の剣を奪ったのだから。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる