女神殺しのレフトオーバーズ~虹の女神《バカ》に召喚された七組の勇者パーティー〜

石藤 真悟

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ぽっちゃり女勇者と後三人誰だよ…の勇者パーティー(壊滅状態)

笑っちまうよ

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 洞窟内を数キロほど歩いた。
 すると、ようやくメリサさんの魔法による光以外の光が目に入る。
  サンドラさんは二日酔いの影響もあってか、すっかり疲れ果てていた。

「つ、疲れた。体調の悪い人間にこんなに歩かせるなんて」
 「私もジンさんも疲れてませんよ?  しっかりしてくださいサンドラさん。ほら、もうすぐ出口です」

  確かにメリサさんの言う通り、俺は疲れていなかった。
  だが、数キロという決して短くない距離の間に全く何も起こらなかったため、正直飽きは来ていたので出口が見えて嬉しい。

  いや、本当に何も起こんないの。
  途中、洞窟内に分かれ道があって左側の道がヴェルディアの城に続く道で、右側がセトロベイーナ方面って事をメリサさんに教えて貰った事ぐらい。

  これも女神の加護、忌避の力の影響か?
  正直、ここの洞窟がヴェルディアの城に続くのは知っていたから、ヴェルディアの部下や使役する魔物とかと洞窟内で戦うのも覚悟してたのに、サタン一匹すら出てこなかった。

  ケントとサラからは忌避の力を奪っていない。
  だけど、魔王軍幹部の城の付近まで来ているのに、魔物が一匹すら出ないなんて、俺に忌避の力が与えられたとしか思えない。
 
  確定したな。
  俺と一緒に召喚された勇者パーティー二十八人、あーケント達を抜いたら二十四人か。

  二十四人の中で女神の加護を持った人間、つまりイーリスに召喚された俺の元クラスメイトが最低一人は死んでいる。

  王様に感謝かもな。 
  ボルチオール王国にずっと居ても、俺に忌避の力が与えられたのかどうかは確信を持てなかった。

  女神の黒イーリス・ブラックを見たウェブナックがヴェルディアに報告した為、警戒しているので襲って来ない可能性も考えられたが、自分達のテリトリー付近に来られているのに攻撃しないというのはおかしい。

  間違いなく、俺は元クラスメイトの死により、イーリスが言っていた通りに忌避の力を与えられた。
  この情報に俺は笑いが止まらなかった。

  二年前、クラスの連中の大半は俺の事を見捨てやがった。
  それだけじゃない。
  バカにもしてきた。

  今思い出しても憎いし、腹立つ。

  だから、元クラスメイトが死ねば死ぬほど俺が強くなるというのが、嬉しくてしょうがないんだ。
  まさに、一石二鳥だし。

  良かった。
  イーリスの事だから、殺された恨みで女神の加護を持った人間が死んだら、その人間が持っていた女神の加護を全て俺に与えるって約束を反故にしてそうだったし。

  そうか、これで。
  容赦なく、嫌いな連中を見殺しに出来る。
  現時点では俺より実力が上の奴が持つ女神の加護と女神の剣イーリス・ブレイドもいずれ奪えるようになる。

  そして、魔王を討伐する力を得て。
  魔王を討伐して。
  必ず、元の世界へと俺は帰るんだ。

 「やったー!  ようやく洞窟終わり!  おっ、ジンくんも笑顔だね!」
 「ええ、そろそろ日の光を浴びたかったですからね」

  危ない危ない。
  意外と見てないようで、サンドラさんって見てるんだよな。
  気を付けないと。

  うまく誤魔化せたようで、サンドラさんの話し掛ける相手はメリサさんへ変わる。

 「……で、ここどこ?」
 「まだボルチオールですよ。この先にボルチオールとセトロベイーナの国境付近にある村があって、少し行った先に関所があります。そこから先がセトロベイーナになります」
 「それじゃ、村で宿を探そうか。流石に野宿は嫌」

  あくまでも目的は女王のいるセトロベイーナの王都。
  もう少しで夕方だから、無理に進まず村で一泊してからの方が良い。
  俺もメリサさんもサンドラさんの意見に賛成だった。

 「村まで後少しですから、頑張りましょう。二人とも」



  ◇



 「いないね……民家はあるけど人が全くいない。それどころか人の気配が無いよ」
 「誰かいましたか?」
 「いや、ダメです。こっちもいません」

  メリサさんの案内で目的の村まで歩いて来たのは良いのだが、人が全くいない。
  それどころか気配すらしない。

  三人で手分けして数十分ほどくまなく村中を探したのだが、あるのは民家ばかりで人の姿は全くないし、家の中にいるという様子もない。

 「宿もあったんだけどさ、閉まってたんだよね。窓も覗いて中の様子を見たけど、全く人がいないしさ」
 「仕方ありません。関所に行ってみましょう。あそこならセトロベイーナの兵士がいるはずです」
 「そうするしかないかー。……でも、何で誰もいないんだろう?」

  確かに不思議だ。
  そんなに大きくない村だが、この村にある民家の数からして人一人いないというのは流石におかしい。

  俺達三人は首を傾げながら、村を後にして関所へと向かう。
  関所はそんなに遠くないらしい。
  村から東に進んで一キロも無いとか。

 「ん?」
 「どうかした?  ジンくん?」
 「いや……一応ここの村って、ボルチオール王国内って事になるんですよね?  関所から先がセトロベイーナなんですから」
 「んー……どうなの?  メリサ?」

  いやいや、サンドラさん。
  関所から先がセトロベイーナってメリサさんも言っていたんだから、関所より西側にあるこの村はボルチオール王国内だろ。
  村人が一人残らずいなくなるって、結構ボルチオール王国にとっても大問題じゃないのか。

 「小さな村まで手が回らない。それが今のボルチオール王国の現状でしょうね」

  サンドラさんの問い掛けにメリサさんはそう呟いた。
  とても悲しげな目をしながら。

 「……だそうよ?  ジンくん。さ、関所へ行こう?」

  露骨にサンドラさんに話を打ち切られた。
  詳しく聞きたかったが、聞けなかった。
  これ以上は何も聞くな。
  サンドラさんの目は俺にそう訴えかけていたから。

  ……そういえば、メリサさんって田舎の村出身って言っていたよな?
  悲しそうにしていたのって、それと何か関係があるのか?

  いや、辞めとくか。
  俺とメリサさんはそこまで深い仲じゃない。
  変に人のプライベートを掘り下げるのも失礼だし。

  黙って俺は、関所へと歩くのだった。
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