上 下
9 / 129
幼馴染(男)と地味女子三人の勇者パーティー(役立たず)

やっぱ無駄だったわ

しおりを挟む
 街に助けを求める声はもう響いていない。
 サタン達が街からいなくなったからだ。

  だが、俺がやった事はやっぱり無駄だったみたいだな。
  目の前の光景を見ると、そう思ってしまう。

 「ママ!  ママーーーーー!!!!!」
 「あなたぁぁぁぁぁ!!!!!  どうしてぇぇぇぇぇ!!!!!」
 「嘘だ!  嘘だと言ってくれよ!」

  今俺は、街の中心部にある仮設の救護所に来ていた。

  サタン達をぶっ殺しまくっていた時に、怪我している美少女がいる事に気付いたので、当然助けようとしたのだ。

  だが、生憎回復魔法を使える訳ではない。

  すると美少女に、非常時は街の中心部に魔法使いによる仮設の救護所が出来るから、そこに連れて行って下さいと言われたので、サタン達を殺しまくりながら、こうして美少女をようやく応援に駆け付けた王都の魔法使い達によって作られた仮設の救護所まで送り届けたのである。

  少し苦労したが、美少女の笑顔とありがとうございます!  というお礼だけで疲れが吹っ飛んだね。

  それも、ほんの数秒間だったが。

  今は、救護所になんか来るんじゃなかったと後悔してる。

  母親がサタンに殺されたのであろう少年の泣き叫ぶ声。
  兵士である旦那さんの変わり果てた姿を見て発狂する若妻。
  恋人を救護所へと連れてきた、俺と同い年位の男が現実を受け入れられないのか、魔法使いに対して怒り狂っている姿。

  救護所は、助けを呼ぶ叫びではなく、悲しみや絶望の叫びで溢れていた。

  あーあ。
  本当、無駄だったな。
 
  俺はこの光景を再び見て、また再びため息を吐く。

  結局、多くの人々が死んだ。
  百人は下らないだろう。
  そして、更に多くの人々が怪我をして、街は全壊までとはいかないだろうが、半壊程度はしている。

  ああ……やっぱり。
  俺は勇者じゃねえな。
  この光景が俺に現実を突き付けてくる。

  あながち間違って無かったのかもな。
 女神イーリスあのバカが君は勇者じゃないよ?  って俺に笑いながら言ったのは。

  ……いや、イーリスの見る目が無かったのは確かだな。
  この光景を引き起こしたのは、イーリスが選んだ勇者パーティー役立たず達のせいなんだから。

  あー、この光景は本当に気分が悪い。
  ケント達が街に戻ってきたらボコボコにしてやらねえとな。

  少なくともそうでもしなきゃ、街の連中は納得しねえだろ。
  そんな事を思いながら、救護所を去ろうとしたその時だった。

 「居たぞ!  長髪で黒い剣を持つ男!  あの男だ!  あの男に間違いない!」

  突然俺は、兵士に囲まれる。

  あー長髪かあ、そりゃ長髪って言われても仕方無いよな。
  こっちの世界に来るまでは、入部予定だった大学の野球部の先輩が坊主にしてたから、俺も坊主だったのに、二年間髪切ってないからなあ……。

  って、そんな事を考えている場合じゃねえ。
 何で俺が兵士に囲まれるんだ?
  まさか、ケント達(勇者パーティー役立たず達)と一緒に異世界から来たお前にも責任があるとか言われるんじゃないだろうな?

 「うえっぷ……気持ち悪い……。あーごめんごめん。驚かせちゃって」
 「飲み過ぎですよ……サンドラさん」

  俺を囲んでいたはずの兵士達が突然跪いたと思ったら、サンドラさんとメリサさんが現れた。

 「どうしたんですか?  こんなに兵士を連れてきて?」
 「うっぷ……ごめん。ちょっと待ってて。一旦少し吐く……おえええええ」
 「サンドラさん!?  少しどころじゃないですよ!?」
 「えぇ……」

  俺は跪く兵士に囲まれながら、サンドラさんという美女がゲロを吐く姿を見せられる。

  まだ夕暮れで、完全に空は暗くなって無いんだぞ……。
  こんな時間に街でゲロを吐くなよ……。

  いや、夜でも街でゲロを吐くのは迷惑だし、良くない事だけど。

 「ふぅ……吐いたら少し楽になったな。ゴメンね、見苦しい姿を見せて」
 「本当ですよ……」
 「あ、いえ」

  メリサさんの言う通りだ。
  本当だよ。
  大分見苦しい姿だったよ。
  まあ、そんな事を素直に言えるわけないから誤魔化すけどさ。

 「悪いんだけど、ちょーっと私の家に来てくれないかな?」

  笑いながらサンドラさんは俺に頼むが、サンドラさんの目の奥は笑っていない。
  そして、俺を囲んでいた兵士達は武器を俺に向ける。

  魔法使いが三人、騎士が五人、弓兵が十人ってところか。
  サンドラさんの頼みを断るのなら、実力行使でお前を連れて行くと。

 「別にそんな事をしなくても、サンドラさんの頼みなら聞きますよ」
 「そう?  ありがとう」
 「ただ、不愉快ですね」
 「不愉快?」

  言おうかどうか迷ったが、言わせて貰おう。
  この街の……いや、この国の兵士がもっと強くなるためだ。

 「サタン程度に苦戦する連中十数人で俺を囲んだぐらいで、俺が言うことを聞くと思われている事がです」
 「流石、女神に選ばれた勇者達と一緒に異世界から来た男なだけはあるね、ジン君」

  サンドラさんは俺の言葉に不敵に笑い、武器を向けていた兵士達はざわつく。
 
  自分達が格下に見られている事に騒いでいるのか、俺が勇者パーティー役立たず達と一緒に異世界から来た男という事実のどちらに兵士が騒いでいるのかは分からないが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート

猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。 彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。 地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。 そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。 そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。 他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。 突然足元に魔法陣が現れる。 そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――― ※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...