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「——クロ」

南波斗が完全に眠りについたのを確認したルメアは、部下の一人である黒龍——クロの名前を呼んだ。
本名は全く違うのだが、本人も『クロ』と呼んで欲しいみたいだ。


「はっ」


そしてわずか三十秒弱で、クロがルメアの部屋にやってきた。
ルメアが名を呼べば、必ずやって来る。

「良かった。今大丈夫か?」
「はい」
「頼みがあるんだ。聞いてもらえるか?」
「何でも聞きますよ」
「助かる。——水とタオルを持って来てほしい」

南波斗用に、必要だろう。
さっきも、その二つを取りに行こうとしたのだ。

「了解しました」

クロはもう一度腰を深く折り、姿を消した。
ルメアの肩にもたれかかったまま寝てしまっている南波斗に触れる。

「ん……」
ピクッと反応した南波斗だが、起きる気配がない。

だから、そのまま南波斗の身体を動かしてベッドに寝かせる。
「……おやすみ。南波斗」
ちゅっ、と南波斗のデコにキスを落とす。

布団を掛けて、ずっと握られている手を離す。
ルメアはまた南波斗のすぐ傍に腰掛けた。

手が離れたはいいが、またすぐに服の裾をきゅっ、と握られた。
寂しがり屋な子供が親にずっと傍にいて欲しい時にする行動と、そっくりでルメアは思わずクスッと笑ってしまった。

きっと南波斗が起きていたら「なに笑ってんだよ」と怒られていただろう。 


「ルメア様。お待たせしました」

また音もなくクロが目の前に現れる。
普通にドアから入ってこれば、楽なんじゃないかとも思う。
だってわざわざ「瞬間移動テレポート」を使用しているみたいだから、その分の力が消費されるのに。

「早かったな。ありがとう」
「いえいえ。ルメア様の力になれたんなら、光栄ですよー」
「お前は変わらないな」
「嫌味ですかー?」
「違う。褒めているんだ」
「それは……ありがとうございます」
「素直に受け取れ」
「へーい」
相変わらず、何も変わっていないクロで安心した。
地上にいた時も、一度だけ会話した。

それ以来だったが、ルメアは安心した。


他の四龍たちも前と何も変わっていないといいのだが。
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