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「……好きだよ、ルメア」


耳元でルメアがビクン、と飛び跳ねる低音ボイスで「好き」と伝える。

「っ……も、いい…………っ、離せ、南波斗……」


「……あー……本当に、好き…………」


ぎゅーっ、とルメアの身体を強く抱き締める南波斗。
そしてため息混じりに、呟く。
「……ありがと、ルメア」
南波斗は、ルメアの身体を離してニッコリと微笑む。


「俺、今すごい幸せ」


南波斗の周りから、幸せオーラと花が飛び交っている気がする。

そこまで喜んでくれると、ルメアも嬉しくなる。

——人を好きになると、こんな気持ちになるのか……


ルメアは今まで、異性を好きになることがなかった。
そもそも『好き』と言う感情が分からなかった。


そして、南波斗と出会って、彼に『好き』と言われて。


——不思議なものだな……



今、こうやって自分の気持ちを理解したら簡単なものだった。


好きと分かれば、こうやってストレートに想いを伝えてくれるのは、ありがたい。


少し照れくさいが、嬉しいに越したことはない。


南波斗の顔を見れば分かる。


好きな人が、こんなにも幸せそうな顔をするのなら言ってよかった、と心の底から思える。


「俺も、幸せだよ……?」



正面を向かって告げると、すごく恥ずかしくなってくる。

でも、南波斗が喜んでくれるのであれば、これからはいくらでも伝えてやろうと思う。




いつの日にも、思ったように。



✩.*˚✩.*˚✩.*˚


「ルメア! こっち、こっち!」

南波斗が、後ろを歩いているルメアを呼び寄せる。
「体力バカが……っ!」

ルメアは着実に、竜王としての力を取り戻してはいる。
でも、まだまだ完璧ではない。

「ま、待ってくれ!」

腹の底から声を出す。

すると、何メートルも先にいた南波斗が足を止めて振り返った。


「そこで、少し待ってろ」


指を差して、南波斗に命令する。
南波斗は言われた通り、そこで立ち止まった。
「分かった!」


「竜王の俺を置いて先に行くとは……いい度胸だ!」


ここで、竜王の力を指し示す時だ。
そう思い、ルメアはその場で左腕を天に掲げた。


「竜王の力、今ここで見せてやる」


南波斗はその言葉に、腕を組んで待つことにした。
どんな技を使って、自分の元に来るのか、楽しみで仕方なかった。


「…………——」


ルメアは目を閉じて、呪文を唱える。



「——天満つる場所、我の声に反応せよ。さすれば道は開からん……」



天に突き出したルメアのてのひらから、薄いピンク色の光が灯し出す。

ルメアの足元には、魔法陣が凄まじいスピードで描かれていく。

そして、その魔法陣が描かれ終わると、ルメアは天に掲げた腕を下ろして、横に腕を振った。



「……術式〈瞬間持続移動サドネラ・スレード〉」



ゆっくりと目を開け、術の名前を口にする。
すると、ルメアの身体が、淡い光で包まれる。

パァンッ、と光が弾け飛んだ。


その光の強さに、遠くにいた南波斗にまで目の影響が出る。

「っく…………」

反射的に目を瞑る南波斗。


「……あれ?」


南波斗がゆっくりと目を開けると、そこにルメアの姿はなかった。

「……あ、もう術が発動したのか」

早すぎる、と南波斗は心の中でツッコむ。
術の名前を口にしても、五秒ほど経たないと完全には発動しない。

そのスピードは、鍛錬を組めば早くなるが、それ相応の努力が必要だ。

キョロキョロ南波斗は、ルメアの姿を探す。


「ルメアー?」


「こっちだよ、南波斗」

南波斗の背後から、ルメアの声が聞こえる。
振り向くと、すぐ後ろにルメアが立っていた。

「早いだろ?」
自慢げにルメアが、腰に手を当てて言う。
「うん、早い」

クスクス、と笑い合って、南波斗とルメアはまた歩き出す。

今から向かう場所は、南波斗の仕事場。




——ルメアと南波斗が初めて会った、あの森。








 

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