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16(一方その頃……)

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ルメアが天空から地上に落っこちて、早三ヶ月半。

あっという間に日が経ってしまっている。

時々ルメアは、天空との交信サトルトを試みるが、やはり繋がらない。

「……はぁ……」

南波斗との関係も、まだ良好だった。
徐々に『南波斗』という人間に慣れてきたところだった。


一ヶ月前のある日に、突然力が戻ってきたルメアは、執拗しつように南波斗からキスされていた。

キスをすれば、ルメアの力は戻ってくる、と本気で信じた南波斗である。
毎日毎日、五分間は必ずキスされる。


そんな日々を送っていた。


「ルメアー」
「……何か用か?」
「ちょいちょい」
ルメアにチョーカーをくれた時と似ている、と思いながらもルメアは南波斗に近付く。

「ん?」
「あの人、知り合い?」

南波斗は玄関にいて、ルメアを引き寄せる。
肩をぎゅっ、と抱きしめられ、南波斗と密着する。
「は?」
「ほら、あそこにいる人だよ」
指を差した先にいたのは、長身の男だった。


「知らん」


とにかく、全身が黒い服装で包まれていて、驚いた。
だが、ルメアの知り合いには、あんな奇抜すぎる奴はいない。

四龍がここにいるわけがないし。

そう考えて、ルメアは南波斗を引っ張って玄関から離れた。
「違うのか?」
「違うと言っているだろう……」
「だって、ずっとここらをウロウロしてんだぜ?」
「……分かった…………」

心配性なのか、南波斗はルメアの腕を掴んでくる。

——別に、害を加えないのならそのまま放置してもいい気がする。

ルメアは南波斗の腕を掴んで、しっかりと目を見る。


「俺が一喝してこよう」


竜王だと知れば、そいつも退散するだろう。
——いや、不思議がられるか……
心の中で、自分の言葉にツッこみを入れる。

おどおどしている南波斗を置いて、ルメアは素早く玄関のドアを開けた。



「そこの者! 人の家の前で何をしている!」



ドアの開く破裂音と、ルメアの透き通る声で、男はビクッと驚いた。


「用がないならさっさと立ち去れ!」


簡潔に言いたいことをまとめたルメアは、腰に手を当てて胸を張る。

「俺は、竜王だ! 俺の言う通りに…………」

竜王、とルメアが言うと、男の動きがピタリと止まった。
「……俺に何か用があるのか?」



「っ……様…………!」



遠く離れすぎて、上手く声が聞こえない。
ルメアは一歩前に出る。

「なんだ?」


「——様ぁっ!!」



——全く聞こえん……

男が何かを叫んでいるのは、見ていて分かるのだが、内容が理解できない。

口の動きを見れば、すぐに分かる。

「そちらへ向かう。そこで待っていろ!」

もどかしくなって、ルメアは歩き出す。

その時。


「っ……?」

後ろからルメアの腕を、南波斗が掴んだ。
「どうした?」
「……行くの、か……?」
「は?」
南波斗の言っていることが理解できないルメアは、首を傾げる。
「行かないと、何言ってるか分からないだろ?」

正論を言うと、南波斗はぐっ、と唇を噛み締めた。


「行かないで、って言ったら……?」



眉を下げて、声を震わせながら言われ、ルメアは目を見開いた。

「ど、どうしたんだ……お前……」
南波斗の様子がおかしい。
ただそれだけは確実だ。

「南波斗?」

呼びかけると、南波斗は急にルメアに抱きついた。

「行かないで……っ、お願いだから……!」

彼の必死の願いに、ルメアは困惑する。
チラッと後ろを見れば、まだ男は叫んでいる。
コイツを引き剥がして、男の元に行くことは可能だ。

だが、そんなことは出来ない。
ルメアには出来ない。

「一緒に行く?」
どうすればいいのか、全く分からない。
一応、そう聞いてみるが、南波斗は拒否した。
「……アイツの正体が気になるんだ」
「……っ」
「だから、行かせてくれ」

「…………いや、だ」

優しく言っても、南波斗は聞き入れてくれない。
ルメアは軽くため息を吐いて、南波斗を一回引き離した。

「ルメア……っ!」

「お前。何か知っているな?」

再び抱きつこうとしてきた南波斗を、片手で防御する。
図星を突かれたのか、南波斗は黙り込んだ。

「何を知っている。俺に教えてくれ」
「……っ、それは……」
「言えないことなのか?」
至って優しく質問しているのに、南波斗はどうしてかビクビクしている。

——俺が、怖いのか?

いや、あの南波斗によってそんなことは決してない。
出会った初日から、ルメアに「恐れを成さなかった」男だぞ。


「南波斗。ね、頼むよ……」


「っ……ほんとに、いいんだな?」
ようやく腹を括ったのか、南波斗はいつも通りに戻る。
——この方が、南波斗らしい

「ああ」

ルメアだって、覚悟くらい出来ている。
どんなことがあっても受け止める、という覚悟は出来ている。

その覚悟は、竜王になる前から持っているから。

「アイツさ……ずっと……」

重たい口を開くように、南波斗はゆっくり話し出す。

ルメアは聞き逃さないように、耳を澄ませた。


「ルメアのこと……」


やはり俺のことか、ルメアは自分の中で確信を持ち出す。

でも、男が誰なのか、検討がつかない。




「——『ルメア様』って、呼んでる」




南波斗の言葉は、ルメアの思考を停止させるのには、十分だった。

——は?

ルメアのことを『様』付きで呼ぶのは、限られた奴しかいない。
弟の〈ケルラ〉は、「ルメア」と呼ぶ。

女神は、当然呼び捨てだ。

そもそも、女神自信が降りてくるわけがない。


そうなると、残るのは……。



——神官たちか、四龍か……



この二択だった。









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