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第二十四話 馬車の中

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 ミコラの町へ向かう途中。
それも、まだマリが乗り物酔いでダウンしていない初めのころ。
二人は、アイル村の話をしていた。

「だから、あんな態度だったのか」
「エルフへの差別がなくなったのも、約百四十年前ですから。
そもそも、関わりたくないという方も結構多いんです」
少年は、久しく差別という言葉を聞いた。
聞くだけで、これほど不快に感じる言葉は、そうそうない、と唇を噛む。

「そういえば、サリネさんがエルフだったって、言いましたっけ?」
「えっ、そうなの! いや、でも、耳が......」
「エルフでない私たちの事をマフィーと言うのですが、
マフィーとエルフの子供の四人に一人は、耳の形が私たちと同じなんです」

 その時、サリネが自分たちに付いてきた理由を、少年はようやく理解する。
ゴブリンの殺し方が鮮やかだったのも納得した。
お金が足りないと言って、加勢してくれたのは、
ただ単にゴブリンの討伐をしたかっただけではなく、
二人に差別されないか、という不安でもあったようだ。

「そういえば、何で魔法使いって、マント着けてる人が居るんだ?」
少年は探している冒険者だけでなく、町でもたくさん見かけていた。

「マントですか? うーん......ただのファッションですかね?
まぁ、一目で魔法使いだって分かる利点もありますよ」
人差し指を立てて、そう答えを出す。
「ファッションか......」と彼は、頷いた。

 マリを改めて観察すると、それと言った装飾もない服装であった。
町の人たちとは違い、ファッション意識の低い衣装。

「私は、冒険の時は、冒険というけじめが出来ているので、
このシンプルで動きやすい服装が一番なんですよ」

 自慢げに、マリは言う。冒険者の意識は高いというわけだ。
だが、町道で見るオシャレした女性魔法使いよりも、マリの方が魅力がある。
なんて、女性を口説く男の人が言いそうな事を、彼は思った。

「じゃあ、コレを持ってる理由は?」
足元に置いてあったマリの杖を持ち上げた。

「まぁ、杖を使わずとも、魔法は使えるのですけど、
これの方が魔力を節約して使えるんです。
女性は、男性より魔力が平均的に少ないので、持ってる人が多いですよ」

 男性は魔力の節約よりも、
魔法と直接攻撃を上手く使った戦法を使うべきである。
関心を示しながら、先端で赤い光沢を出した、神秘的な玉を怪しげに見つめる。
反射して覗いて見える自分の顔をじっと見て数秒後、
ハッと気が付いたように、彼はマリを気遣った言葉を口にした。

「マリは、酔わないように、寝ていた方がいいぞ。
たぶん、まだ一時間はあるだろうし」
「すみません。じゃあ、お言葉に甘えて......」

 マリは靴を脱いで、横になる。
それも、少年の太ももの上に頭を乗っけた。
当然のようにするものだから、いつものようにツッコめなかった少年。

「先輩の枕、硬い......」
「まぁ、男子だからな」

(この世界なら、膝枕など普通なのかな。
じゃあ、俺が頼んだらマリは、やってくれるのか?
いやいや、何を考えているんだ俺は......)
外の景色を眺めながら、少年は妄想を振り払うように、首を振った。

「目をつぶってるだけなので、もっとお話しましょ」
「あぁ、そうだな」

 キルスの目には、いつもよりマリが女性的に映る。
思わず手が出て、顔に被さっていた髪を耳に引っかけるように、かき上げた。
すると、にんまりとしたマリの横顔が、露わとなる。

「先輩が思ってた異世界って、この世界と同じですか?」
「ほとんど、そうだな。でもスライムが、
めっちゃ強いっていう考え方もあったりするんだぞ」

「へぇー、スライムが最強......」と、寝言のように小さく呟く。
マリは、少年の居た世界の話をすると、いつも喜んだ様子を見せる。

「あと、異世界転生の仕方だよな。
神様が迎えてくれると思いきや、手紙だけしか無かったんだよ」
「転生!? って事は、先輩、一回死んだんですか?」

 彼は小さく頷き、話を続けた。
悲しそうな目に、マリは心配そうな顔を向ける。

「この前、車の話しただろ?
その中でも、少し大きめなトラックっていうのがあって、
それに轢かれそうだった女性を助けて、死んだんだよな」
「先輩、お人好しすぎますよ......」
「まぁ、体が無意識にな」

 あの日までは、人を助けようとして死んじゃうなんて、
よくある異世界転生モノだけの話だと思っていた彼。
だが、実際に直面すると、体が勝手に動いて、
自分の命など気にしないように、女性を強く飛ばしていた。

 記憶は曖昧であるものの、痛みが無かった事を思い出す。
頭をぶつけた時点で、意識がなくなっていたようだ。
名前を忘れてしまったのも、その時だろう、と今更ながら推察を行う。

「人に陥れられたりとか、スライム倒し続けたりとかしたら、
普通、無双できるのが定番なんだけどな......」

 今まで思っていたものの、口にしなかった愚痴を吐く。
彼の少年心満載の発言に、マリはクスッと笑った。
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