上 下
19 / 33

第十九話 ゴブリンの捕縛

しおりを挟む
 「何かあったら、煙で伝えるのでござる」

 サリネは、彼とマリに火打石を手渡した。
二人とも火属性魔法が使えるので、
実際には不要であるが、一応のため受け取っておく。
マリも渋々、手を差し出して、受け取った。

 今にも、細かく震えているマリを見て、彼は、軽くため息を吐いた。
「マリを一人にしたら、かわいそうだ」、そう理解した。

 「さすがに、一人は怖いよな」
マリは、少し涙目でコクッと頷く。

 「じゃあ、サリネに付いて行ってくれ。」

 経験者でもあるサリネに任せる方が、良策だと彼は考えた。
サリネは、「任せろ」といった顔で、胸を張る。
マリは、一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐにコクッと頷いた。

 「じゃあ、俺はこっちに行くから。」
二人に、俺の行き先を伝える。

 「了解でござる、リーダー。
夕方になったら、火を焚くから、注意して見てくれ。」
「先輩、気を付けてくださいね!」

 二人の言葉に、「あぁ」と軽く返事をして、
道しるべなく森の中へ、正しくは、生え並ぶ木の中へ入って行った。
そんな彼の背中を見届けて、マリとサリネも当てもなく、探索を始めた。

 それから一時間程度経ったころ、少年は、ようやくゴブリンを見つけた。
だが、初めてにしては、数が多すぎる。二十体は超えていたのだ。

 木の裏に隠れながら、彼は作戦を練る。
これほどの数を集団で来られては、一たまりも無い。
やはり、サリネ達を呼ぶか、と思い、マッチを一本取り出した。
その時、ある事に気が付く。

(煙、出したら、ゴブリンも来るじゃん!)

 この広い森の中で、仲間の位置を知らせる賢い方法ではあるが、
ゴブリンには、適用されない。
普通の魔物なら兎も角、ゴブリンは、ある程度の知的生命体だからだ。

 ゴブリン集団をストーカーのように、木から顔を少し出して、観察する。
ほとんどが、木でできた棍棒を持っていたが、
明らかに、人工物である剣を持ったゴブリンも居た。
彼の頭の中を、残酷な想像が過る。いやな冷や汗が流れだした。

───ゴン!

 突如として、響き渡る大きく、鈍い音。
彼としては、鼓膜に響いた音では無い事がすぐに分かった。
すぐに、辺りを見渡そうと、後ろを振り返ろうとするが、
スッと、何もない地面の上で足を滑らす。

 彼の体は、バランスを保てず、そのまま倒れる。
「は?」と、困惑した表情であったが、その目は少しずつ閉じていった。



 目を覚ますと、そこは、ベットの上......。
なんて、夢オチは無く、少年は岩壁に鎖で繋がれていた。
そこからは、暗い洞窟の中で、ゴブリン達が火を中心に集まっているのが見える。
彼が起きたことは、まだ露見されてはおらず、
状況を把握する時間を供給することができる事を少年は、悟った。

 途端に、彼の方に投げつけられた、野球ボール程度の大きさの石。
彼のは、反射で目は瞑り、痛みに備えたが、いくら待っても何も感じない。
不思議がりながら、彼の目を薄く開けられる。
その石は、彼の足元に、ゴロゴロっと転がっていた。

 速さ的にも、方向的にも、彼に当たるには十分であるはずが、
ケガをするどころか、当たってすらいない。
投げたゴブリンは、変なうめき声を上げて、二発目を投球してきた。

 次は、目を瞑る事なく、彼の目でしっかりと見た。
石が彼に近づくと、目の前程度の距離で、
透明に近い白色のバリヤが、石をはじいたいたのだ。

 おそらく、またスキルか行使魔法だろうと、苦笑しながら、
彼は、鎖に軟化魔法をかける。
ゴブリン達にバレないように、指でつまむと、簡単にグニャと曲がる。
タイミングを見計らって、彼は、音を響かせるように鎖を切断した。
本来の鉄が切れる音ではなく、ブチッ! といった音だ。

 ゴブリン達の全員が、彼を睨む。
元々、注目されいたため、振り返った者の方が少ない程ではあるが。
彼は余裕を見せるように、肩慣らしをすると、背中に激痛が走る。
手を伸ばして触るだけで、傷口が何か所も手に当たった。
引きずられてここに来たことを、容易に推測できた。

 「スライムより分かりやすいっつうの!」

 彼は手を前に伸ばして、火属性攻撃魔法を使った。
ゴブリン達は、延焼したように、一気に燃え始め、気味の悪いうめき声を上げる。
道ずれを考えたのか、彼に襲ってくる者も居たが、
硬化魔法で強化した石を拾い上げると、すぐさま彼は、投球した。
そいいつは、声を上げられる事もなく、後ろに倒れる。
その場に居たゴブリンは全滅して、燃え上がった火だけが残った。

 一旦、火を消そうと、水属性の魔法が放たれる。
中心とされていた炎だけを残し、彼は消火活動を行う。
洞窟内は、明るさを保ったまま、ゴブリンの死体が続々と並べられていった。

 だが、ここからが重要だった。
ある程度のグロ耐性は無いと、できない作業なのである。
彼は、サリネからもらった小刀を出して、ゴブリンの耳に刃を入れる。
ネチョネチョといいながら、耳は顔から引き裂かれていった。

 「マリは、絶対にできないわ......。」
ボソッと、独り言をつぶやく。

 一方その頃。
彼の予想どおりである出来事。
サリネが「簡単だぞ」と言って、マリに切りたての耳を見せる。
そして、マリが悲鳴を上げて、猫のように素早く逃げる。
......なんて事があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...