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第十一話 何もない夜

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「ちょっと、もう少しそっち寄ってくださいよ」
「いや、これ以上は、もう落ちるって」

 彼の体は、ベットの片隅。
彼が外側、マリが彼の背中を見るような向きで寝ている状態だ。

(俺は、女の子と同じベットで寝ている。
もちろん、一切触れていない。これから、という訳でもない。
焦らしている訳でもない。黙視している訳でもない。)

 自分自身に言い聞かせるような、
または、誰かに言い訳しているような状況説明が、彼の頭を流れる。
冷や汗を流して、いつもより早い回転をしていた。
マリは、相手の背中を監視しているような状況下にあるため、
女子としての不安感は、それほどない。だが、彼と同様、緊張状態にある。

「そ、その」
「な、何だ?」
「気まずいですね......」

 部屋の室温は、高めであるはずなのだが、
どこか吹き抜けるような冷たい風が流れるようであった。
現に、彼の場合は、体の一部に毛布がかかっていないので、
少し寒い状態にあるので、間違いではない。

「とりあえず、寝るか」
「そうですね......」

 その後も、何もないまま、二人は、明るい朝を迎えた。
先に、目を覚ましたのは、彼だ。寝返りをうって、マリの方を向いていた彼は、
マリが睡眠中であるのを確認して、音を立てないように起き上がる。

 気持ちよさそうに寝ているマリを見て、彼は頭を撫でてみる。
マリの髪は、洞窟を出た時の感触よりも、
透明感があり、サラサラとしている。
こちらの世界にもリンスのような物があったのだろう、と彼は考察した。

 カーテン越しの朝日を反射させた、光沢あるその髪を、
頭と一緒に、彼は優しくなで続ける。
やがて、マリの顔は、穏やかになっていった。

 (これは、しばらく起きそうにないな。)

 自己の欲求で撫でていたくせして、まったく、といったようにため息を吐く。
彼は、マリを置いたまま、外へ出かけることにした。
書置きを備え付けのペンで一筆した後、宿屋の延長を済ませて、
眩しい朝日が差し掛かる外へ、出かけて行った。



 マリの話によると、ここはミコラの町と言い、
王都からは、かなり遠い場所にある。
町では、商売繁盛しているが、特にめぼしい物はなかった彼は、
まっすぐギルドに向かった。

 客人はあまりおらず、酔いつぶれたおっさん達が、酒場にたまっているだけ。
酔いからして、昨日からの客であると考えられて、彼は苦笑する。
受付に軽いあいさつを済ませた後、張り出されたクエストの選考を始める。

「これ、良いんじゃないか?」

 まず手に取ったのは、森のネズミの討伐というもの。
報酬は十分な額であるが、冒険者ランクはD。
「まだ駆け出しなんだよなー」と、
諦めの意味をもった、ため息をつきながら、依頼書を元に戻した。

「受付できますよ」

 そんな中、聞こえるアナウンサーのようなきれいな声。
声の主は、ギルドの受付である女性。
客が訪れない時間ゆえか、カウンターを出て、彼に近づいて来る。

「昨日の討伐で、Dランクに上げておきました」
「ん? そんなに、すぐ上がるものなんですか?」
「はい。Eランクのほとんどは、登録するだけの人たちですから」

 詳細を尋ねると、冒険者は毎月、ランクに応じての収入があるという。
その代わりとして冒険者は、
モンスターの大量発生などが起きた場合、町を救わなければならない。
しかし、一人一人を調査する事は出来ず、
お金だけ貰っていこうとする輩がいたため、
Eランクをつくり、収入がゼロの枠を作ったらしい。

「じゃあ、これ受けていいですか?」
「はい。頑張ってください」

 「ランクDの俺なんかに......」と受付の優しさに感動するが、
受付の基本だ、と浮かれずに、自分の厳しい考えをもってしまう少年。
騙されないぞ、と言った顔で見返した彼に、受付はきょとんとした。

 人に騙された恨みはあまり無いにしろ、
反省というものが、いつの間に身に付いている。
それが、善と出るか、悪と出るかは、その人次第だ。
今回の彼は、後者として出てしまったであろう。

 ギルドを出て、とある森へ向かった。
彼とマリが居た、スライムだらけの洞窟を取り巻く森だ。

 クエストを今一度、確認をすると、
森で大量発生しているモナーキネズミの討伐、という依頼。
たった30匹で達成となる上、
討伐数に応じて追加報酬もあるので、申し分ない依頼だ、と彼は引き受けた。

「どう始末すれば良いかな」

 首をかしげながら歩いて、特徴を掴めていないネズミの
討伐方法を思案していた、その時だった。
ガサガサと草原の中から音がなる。彼は、目を凝らし、静かに耳を澄ませる。

「そこだ!」

 彼の掛け声とともに放たれる、電気属性の攻撃魔法。
電気を選択した理由は、
火と電気の二択で、火が消去法で消えたという単純な理由だ。

 魔法はヒットしたかと思い、息を殺していた彼は、軽い深呼吸をする。
だが、「チューチュー」と、他の草むらに移動している姿が現れた。

 その影をとらえて、魔法を行使するものの、攻撃が当たる事はない。
チューチューと鳴くネズミにいら立ちを覚え始めたその時......

「チューーーーーー!」

 とうとう、一発だけ命中した。
どこかの電気ネズミなら電気など、へっちゃらかもしれないが、
そのネズミは、痙攣を起こした状態で、その場に倒れる。

 その時、彼の後部からの、かすかな音も彼は、逃さずに攻撃する。
「チューーーーーー!」

 そして、二発目も当たった。
先ほどの魔法とは異なり、魔法陣がネズミに合わせた動きをしている。
対象が動いても、当てることが可能になった事に、彼は気が付いた。

「ステータス」

 不思議な事は、大体スキルのおかげである。という感覚が彼には付いていた。
そして、その時の都合上、良いものが身に付くという事も。

 今回、彼が修得したスキルは、【魔法陣対象移動】というもの。
素早い動きをする魔物に対して、最適なスキルとされているものだ。

 スライム掃除のせいか、単純作業の慣れは、早い彼であったため、
二時間程度で、数百匹のネズミを討伐した。
異臭がする大きな袋を、森のあちこちで引きずりながら、倒し続けた......
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