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テーマ1 氷姫
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陽春の侯。春眠暁を覚えずとか申しますが、というのは四月の挨拶だったと思う。俺は、1回も使ったことがない。
春休みが終わり、今日から高校2年生。
まだ肌寒い春の澄んだ青空を見て、登校中に思ったことがある。学校だるいは、皆も思ってるだろうから置いておくと。
「幼なじみっていいよな……」
それは自然と口から漏れていた。ちなみに、昨夜全てのエンドを開拓し終えたギャルゲーの感想である。
あくまで結論的感想であり、俺に長く語るだけの語彙力や文章力が無いわけではない。もしろ、ブログに連ねているレビューは長文である上に、その作品のファンたちに人気が高い。
とにかく、あのゲームのストーリーは幼なじみエンドが素晴らしかったのだ。
「やっぱり、幼なじみが1番だな……」
「わっ、私の前で、それ言う!? それに2回も!」
俺の右を歩いていた、幼なじみの静乃渚からツッコミを入れられた。
「ゲームの話だぞ? いやぁ、『ずっと前から好きでした』って、幼なじみが言うと格別だよな」
「ゲームの話なんだよね!? だよね!? 間違えて期待……じゃなくて誤解しちゃうよ!?」
「朝から、静乃はうるさい……」
左を歩く、俺の妹がぼそっと意見。
妹は、実咲麻衣といって、今日も仲良くお兄ちゃん(俺)と手を繋いで登校中。
妹は小学生ですか? いいえ、高校1年生になります。
「蓮くん! 妹ちゃん、最近反抗期だよ!」
多分、違う。どういうわけか静乃に冷たくなってきただけである。
「兄上。この女は、年中発情期です」
「……何を言ってるのかな?」
「わが家に泊まる日、必ず下着は……」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
静乃が慌てて、麻衣の口を塞ぎに行く。何やら、俺の妹に弱みを握られているらしい。
「何で知ってるのかなぁ!? というか、男の前でやめようよ、そんな話! というか、私の指はおいしくないから噛まないでっ!」
麻衣は、静乃に冷たいし、弱みを握っているけども、何だかんだ、指も噛んだで、仲が良さそうだ。頭の中で、綺麗事として片付けて、妹と幼なじみの友好関係には踏み込まないことにする。
これを、どこかの学者は現実逃避と名付けたらしい。
麻衣とは校門辺りで別れることになった。1年生の教室は南校舎にあり、俺と静乃は北校舎に用事があるからだ。
「静乃、兄上に変なこと……」
「しないよっ!?」
「兄上。それでは、行ってきます」
「おう。行ってらっしゃい」
麻衣は、俺の手を名残惜しそうに見たあと、放した手を小さく振って、去っていった。
後ろ姿は、小柄な体格から小学生とすら見えてしまうけれども、確かに高校の制服を身に纏っていた。
「友達たくさん作れよ、って俺は言えないからなあ……」
俺は、ぽつりと呟く。
「蓮くんには、私がいるからさ。ね?」
静乃は慰めてくれるが、今年こそは友達をたくさん……まずは10人を目標に作ろうと思う。
俺と静乃は、北校舎の1番西側の教室……俺たちが所属する、ラブコメ研究部の部室へと向かった。
そんな部活あってたまるか? 失礼な。内の高校では、10年の歴史があるし、顧問も就いてる。部員も6名……昨年度までは。
あれ? 現在員2名だけど、部活と言えるのだろうか?
そんな不安を抱えながら、現状部室のドアを開いた。
かつては普通に使われていた、この教室は後ろのロッカーに恋愛小説やラブコメ漫画がびっしり。黒板には、研究の成果てある、ラブコメ研究新聞が貼られ、教室の中央には、去年度3年生だった先輩とのお別れ会で使われた6つの机が、そのままの配置で……1人の美少女が座っていた。
「二人っきり……じゃない!? えっ!? なんで!?」
静乃が、その少女の存在に気づいて、言及する。
一瞬、彼女はこちらを視線を向けるが、すぐに自身のスマホと逸らした。入部希望では、なさそう。
理解が追い付かず、呆然と謎の美少女を見つめた。
艶のある黒髪が特徴で、顔は美しく整っているとしか言えない。体型は細身で、よく言えばモデル体型。はっきり言って……好みじゃない。
言えない。言えば。言って。と言いつつも、俺は、まだ何も言ってないけど……。
「えっと、静乃の知り合い?」
俺は、耳打ちをした。
「知り合いっていうか、有名人だよ! 氷姫って聞いたことない?」
「ない」
「えっと……同じ2年の舞姫雪っていう、お金持ちのお嬢様だよ」
「へぇー」
静乃は物知りだなぁ、なんて会話をしていると、ご本人から鋭い視線。
「じろじろ見ないでくれる?」
「あっ……ごめん」
彼女が、舞姫雪という名前でありながら、雪姫と呼ばれず、氷姫と呼ばれる理由を、その一言で理解した。
口で謝ったものの、本心は先程のセリフの「ごめん」を「(察し)」に変換してくれたら分かると思う。
それよりも、彼女が美人とか、氷姫とか、お嬢様だとかは、そこまで重要ではない。重要なのは、何故彼女がここに居るのか、ということだ。
態度からして可能性の低い、入部希望という予想しか、まだ立てられていないまま、立ちっぱなしだ。座ろう。
氷姫の正面の席に座ってみた。静乃は、俺の隣へ。
氷姫は、俺を前にしても、顔色ひとつ変えない。けっして、俺が超絶イケメンとか、偉大な人物ではないのだが、氷姫は一般的な反応をしていないのだ。
ここで、俺の自己紹介をしておくと、男子高校生(2年)。体格は大柄(ほとんど筋肉)。ツーブロック(校則違反)。目付きが悪く、右頬にナイフで切られたような傷痕(草)。ヤクザの息子として知られる(大草原)。
よって、怖がられる……。すなわち、友達ができない……。したがって、可哀想な俺……。
余計な私情が、結論に混じったが、つまり俺を前にした時の一般的反応は、十数秒間、身震いした後、「トイレに行こっかな」と大きめに独り言ちて、退室……。
氷姫の名の由来は、こういった冷静沈着な面も関係しているのだろう。
「あのぉ……舞姫さん?」
彼女は、俺の顔をチラッと見て、机にスマホを置いた。
「何かしら?」
「舞姫さんは、何故ここに?」
氷姫は、訝しげな表情を浮かべた。冷たい視線に、思わず身震い。
「何故も何も、あたしは2年E組になったの。そして、ここは校舎の2階の1番西側の教室。それ以外に理由はないわ」
「な、なるほど……」
たしかに、2年E組の教室は、校舎の2階の1番西側だ。……南校舎なら。
つまり、つまるところ、詰まらない笑い話だが、氷姫は教室を間違っちゃったみたい。
俺と静乃は、目を会わせると、あははと笑いあった。静乃は目が笑っていない。恐らく、俺も同様だろう。というよりも、笑えない。
俺は、深呼吸を一回。脳に、酸素を送ろう。
プライドの高そうな彼女を傷付けず、この場を気まずくさせないためには、どうすればいいか、ということに知恵を絞る。
そもそも、なんでこんな席の少ない部室を、学級の教室だと思うかな!?
「ちょっと、トイレに行こっかなぁ」
「わっ、私も!」
2人で冷や汗を流しながら、席を立つ。そして、退室。まさか、俺がされてきた反応を、自らするとは今まで考えもしなかった。
そうだよね。誰にでも、逃げたい時はあるよね。
廊下へ出た俺たちは、作戦会議。
「氷姫って、何? アホなの?」
「蓮くん、そんなはっきり! 私も思ったけど!」
「……というか、めっちゃ美人じゃん。まつげ長げぇ」
「え!? 蓮くん、ああいうのが!?」
「タイプじゃない。俺が好きなのは、静乃みたいな可愛い系の美少女だから。それに、ショートカットが1番だし」
「だ、だよね! ……えへへ」
静乃は茶色のショートボブの髪を、自慢気に指に絡めて、弄ぶ。サラサラとした髪に見とれていると……。
「触ってもいいよ」
静乃が、俺の手を取って、頭上に置いた。見た目通りの触感で、頭を撫でるようにすると、指先が心地よい。
たまに、麻衣にも髪を触らせてもらうことがあるが、細やかさでは静乃の方が上だ。
静乃は少し頬を赤く染めているが、満足気な表情。俺に触られても、全然嫌じゃないんだ……。
このままずっと、撫でていたい……。
「って! こんなこと、してる場合じゃなーい!」
改めて、作戦会議。
「私に1つ名案が……」
「絶対、妙案だ」
「いいから、耳を貸して」
俺が少し体勢低くして、静乃に耳を貸す。吐息混じりな小声が、耳に息を吹き掛けるようで……これ以上はプライバシーに関わるので、語らない。
「それは……いいんじゃない?」
「疑問系だけど!? ……私たちの演技力が試されるからね」
「よし、行ってみよう!」
俺たちは、再度部室へ入室。まるで、映画撮影のテイク2みたいに。
「いやぁ、今日は入学式だねぇ」
「そ、そうだね! ほら見てよ、蓮くん! 新1年生だよ!」
静乃が窓に向かって、指をさす。それには、氷姫も目を遣った。
「ほんとだぁ! ここは北校舎だから、南校舎が見えるね! 2年E組の教室は、あそこだ!」
「そ、そうだね! ……ところで、舞姫さんは入部希望なんだっけ?」
俺たちの演技は、幼稚園のお遊戯会……と比較するなんて失礼なレベルだった。
そういえば、小学校の学芸会で、俺は無口な護衛役を務めて、セリフはなかったんだ。静乃は、金持ちのペットの猫役だったはず。「にゃお」と「んにゃー」しか言わない役だったけれども、
可愛いという理由だけで、その年のMVPに選ばれ……なんてことは、どうでもいい。
問題は、氷姫が俺たちの大根即興演技をどう捉えて、どう行動するか、だ。俺たちのターンは終わりだ。
氷姫は、勢いよく立ち上がり……。
「そ、そうよ! いや、違う! 興味があったから立ち寄ってみただけ!」
「そうなんだ! 大歓迎! だけど、今朝は軽く清掃しに来ただけだから、放課後また来てね!」
「そ、そうするわ!」
氷姫は荷物をまとめて、退室。慌てて、スマホを落としたり等して、氷姫の名は、どこへやら……。
そうか……。氷姫なんて呼ばれている彼女だけど、俺たちと大体は同じ……。彼女だって、きっと……。
学芸会は、木の役だったんだろう……。
春休みが終わり、今日から高校2年生。
まだ肌寒い春の澄んだ青空を見て、登校中に思ったことがある。学校だるいは、皆も思ってるだろうから置いておくと。
「幼なじみっていいよな……」
それは自然と口から漏れていた。ちなみに、昨夜全てのエンドを開拓し終えたギャルゲーの感想である。
あくまで結論的感想であり、俺に長く語るだけの語彙力や文章力が無いわけではない。もしろ、ブログに連ねているレビューは長文である上に、その作品のファンたちに人気が高い。
とにかく、あのゲームのストーリーは幼なじみエンドが素晴らしかったのだ。
「やっぱり、幼なじみが1番だな……」
「わっ、私の前で、それ言う!? それに2回も!」
俺の右を歩いていた、幼なじみの静乃渚からツッコミを入れられた。
「ゲームの話だぞ? いやぁ、『ずっと前から好きでした』って、幼なじみが言うと格別だよな」
「ゲームの話なんだよね!? だよね!? 間違えて期待……じゃなくて誤解しちゃうよ!?」
「朝から、静乃はうるさい……」
左を歩く、俺の妹がぼそっと意見。
妹は、実咲麻衣といって、今日も仲良くお兄ちゃん(俺)と手を繋いで登校中。
妹は小学生ですか? いいえ、高校1年生になります。
「蓮くん! 妹ちゃん、最近反抗期だよ!」
多分、違う。どういうわけか静乃に冷たくなってきただけである。
「兄上。この女は、年中発情期です」
「……何を言ってるのかな?」
「わが家に泊まる日、必ず下着は……」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
静乃が慌てて、麻衣の口を塞ぎに行く。何やら、俺の妹に弱みを握られているらしい。
「何で知ってるのかなぁ!? というか、男の前でやめようよ、そんな話! というか、私の指はおいしくないから噛まないでっ!」
麻衣は、静乃に冷たいし、弱みを握っているけども、何だかんだ、指も噛んだで、仲が良さそうだ。頭の中で、綺麗事として片付けて、妹と幼なじみの友好関係には踏み込まないことにする。
これを、どこかの学者は現実逃避と名付けたらしい。
麻衣とは校門辺りで別れることになった。1年生の教室は南校舎にあり、俺と静乃は北校舎に用事があるからだ。
「静乃、兄上に変なこと……」
「しないよっ!?」
「兄上。それでは、行ってきます」
「おう。行ってらっしゃい」
麻衣は、俺の手を名残惜しそうに見たあと、放した手を小さく振って、去っていった。
後ろ姿は、小柄な体格から小学生とすら見えてしまうけれども、確かに高校の制服を身に纏っていた。
「友達たくさん作れよ、って俺は言えないからなあ……」
俺は、ぽつりと呟く。
「蓮くんには、私がいるからさ。ね?」
静乃は慰めてくれるが、今年こそは友達をたくさん……まずは10人を目標に作ろうと思う。
俺と静乃は、北校舎の1番西側の教室……俺たちが所属する、ラブコメ研究部の部室へと向かった。
そんな部活あってたまるか? 失礼な。内の高校では、10年の歴史があるし、顧問も就いてる。部員も6名……昨年度までは。
あれ? 現在員2名だけど、部活と言えるのだろうか?
そんな不安を抱えながら、現状部室のドアを開いた。
かつては普通に使われていた、この教室は後ろのロッカーに恋愛小説やラブコメ漫画がびっしり。黒板には、研究の成果てある、ラブコメ研究新聞が貼られ、教室の中央には、去年度3年生だった先輩とのお別れ会で使われた6つの机が、そのままの配置で……1人の美少女が座っていた。
「二人っきり……じゃない!? えっ!? なんで!?」
静乃が、その少女の存在に気づいて、言及する。
一瞬、彼女はこちらを視線を向けるが、すぐに自身のスマホと逸らした。入部希望では、なさそう。
理解が追い付かず、呆然と謎の美少女を見つめた。
艶のある黒髪が特徴で、顔は美しく整っているとしか言えない。体型は細身で、よく言えばモデル体型。はっきり言って……好みじゃない。
言えない。言えば。言って。と言いつつも、俺は、まだ何も言ってないけど……。
「えっと、静乃の知り合い?」
俺は、耳打ちをした。
「知り合いっていうか、有名人だよ! 氷姫って聞いたことない?」
「ない」
「えっと……同じ2年の舞姫雪っていう、お金持ちのお嬢様だよ」
「へぇー」
静乃は物知りだなぁ、なんて会話をしていると、ご本人から鋭い視線。
「じろじろ見ないでくれる?」
「あっ……ごめん」
彼女が、舞姫雪という名前でありながら、雪姫と呼ばれず、氷姫と呼ばれる理由を、その一言で理解した。
口で謝ったものの、本心は先程のセリフの「ごめん」を「(察し)」に変換してくれたら分かると思う。
それよりも、彼女が美人とか、氷姫とか、お嬢様だとかは、そこまで重要ではない。重要なのは、何故彼女がここに居るのか、ということだ。
態度からして可能性の低い、入部希望という予想しか、まだ立てられていないまま、立ちっぱなしだ。座ろう。
氷姫の正面の席に座ってみた。静乃は、俺の隣へ。
氷姫は、俺を前にしても、顔色ひとつ変えない。けっして、俺が超絶イケメンとか、偉大な人物ではないのだが、氷姫は一般的な反応をしていないのだ。
ここで、俺の自己紹介をしておくと、男子高校生(2年)。体格は大柄(ほとんど筋肉)。ツーブロック(校則違反)。目付きが悪く、右頬にナイフで切られたような傷痕(草)。ヤクザの息子として知られる(大草原)。
よって、怖がられる……。すなわち、友達ができない……。したがって、可哀想な俺……。
余計な私情が、結論に混じったが、つまり俺を前にした時の一般的反応は、十数秒間、身震いした後、「トイレに行こっかな」と大きめに独り言ちて、退室……。
氷姫の名の由来は、こういった冷静沈着な面も関係しているのだろう。
「あのぉ……舞姫さん?」
彼女は、俺の顔をチラッと見て、机にスマホを置いた。
「何かしら?」
「舞姫さんは、何故ここに?」
氷姫は、訝しげな表情を浮かべた。冷たい視線に、思わず身震い。
「何故も何も、あたしは2年E組になったの。そして、ここは校舎の2階の1番西側の教室。それ以外に理由はないわ」
「な、なるほど……」
たしかに、2年E組の教室は、校舎の2階の1番西側だ。……南校舎なら。
つまり、つまるところ、詰まらない笑い話だが、氷姫は教室を間違っちゃったみたい。
俺と静乃は、目を会わせると、あははと笑いあった。静乃は目が笑っていない。恐らく、俺も同様だろう。というよりも、笑えない。
俺は、深呼吸を一回。脳に、酸素を送ろう。
プライドの高そうな彼女を傷付けず、この場を気まずくさせないためには、どうすればいいか、ということに知恵を絞る。
そもそも、なんでこんな席の少ない部室を、学級の教室だと思うかな!?
「ちょっと、トイレに行こっかなぁ」
「わっ、私も!」
2人で冷や汗を流しながら、席を立つ。そして、退室。まさか、俺がされてきた反応を、自らするとは今まで考えもしなかった。
そうだよね。誰にでも、逃げたい時はあるよね。
廊下へ出た俺たちは、作戦会議。
「氷姫って、何? アホなの?」
「蓮くん、そんなはっきり! 私も思ったけど!」
「……というか、めっちゃ美人じゃん。まつげ長げぇ」
「え!? 蓮くん、ああいうのが!?」
「タイプじゃない。俺が好きなのは、静乃みたいな可愛い系の美少女だから。それに、ショートカットが1番だし」
「だ、だよね! ……えへへ」
静乃は茶色のショートボブの髪を、自慢気に指に絡めて、弄ぶ。サラサラとした髪に見とれていると……。
「触ってもいいよ」
静乃が、俺の手を取って、頭上に置いた。見た目通りの触感で、頭を撫でるようにすると、指先が心地よい。
たまに、麻衣にも髪を触らせてもらうことがあるが、細やかさでは静乃の方が上だ。
静乃は少し頬を赤く染めているが、満足気な表情。俺に触られても、全然嫌じゃないんだ……。
このままずっと、撫でていたい……。
「って! こんなこと、してる場合じゃなーい!」
改めて、作戦会議。
「私に1つ名案が……」
「絶対、妙案だ」
「いいから、耳を貸して」
俺が少し体勢低くして、静乃に耳を貸す。吐息混じりな小声が、耳に息を吹き掛けるようで……これ以上はプライバシーに関わるので、語らない。
「それは……いいんじゃない?」
「疑問系だけど!? ……私たちの演技力が試されるからね」
「よし、行ってみよう!」
俺たちは、再度部室へ入室。まるで、映画撮影のテイク2みたいに。
「いやぁ、今日は入学式だねぇ」
「そ、そうだね! ほら見てよ、蓮くん! 新1年生だよ!」
静乃が窓に向かって、指をさす。それには、氷姫も目を遣った。
「ほんとだぁ! ここは北校舎だから、南校舎が見えるね! 2年E組の教室は、あそこだ!」
「そ、そうだね! ……ところで、舞姫さんは入部希望なんだっけ?」
俺たちの演技は、幼稚園のお遊戯会……と比較するなんて失礼なレベルだった。
そういえば、小学校の学芸会で、俺は無口な護衛役を務めて、セリフはなかったんだ。静乃は、金持ちのペットの猫役だったはず。「にゃお」と「んにゃー」しか言わない役だったけれども、
可愛いという理由だけで、その年のMVPに選ばれ……なんてことは、どうでもいい。
問題は、氷姫が俺たちの大根即興演技をどう捉えて、どう行動するか、だ。俺たちのターンは終わりだ。
氷姫は、勢いよく立ち上がり……。
「そ、そうよ! いや、違う! 興味があったから立ち寄ってみただけ!」
「そうなんだ! 大歓迎! だけど、今朝は軽く清掃しに来ただけだから、放課後また来てね!」
「そ、そうするわ!」
氷姫は荷物をまとめて、退室。慌てて、スマホを落としたり等して、氷姫の名は、どこへやら……。
そうか……。氷姫なんて呼ばれている彼女だけど、俺たちと大体は同じ……。彼女だって、きっと……。
学芸会は、木の役だったんだろう……。
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